1960年代のアメリカを舞台に実在した小切手偽造犯の大胆不敵な詐欺の手口を描き出す。
1980年に出版されたフランク・W・アバグネイル・Jr著の自伝小説『世界をだました男』を基にスティーヴン・スピルバーグが監督を務めました。
16歳から21歳までの間にパイロット、医師、検事補佐になりすました天才詐欺師のフランク役をレオナルド・ディカプリオ、彼を追うFBI捜査官カール役をトム・ハンクスが演じ、主人公の父親役をリストファー・ウォーケンが共演。
犯罪者でありながら、人間的魅力あるフランク・W・アバグネイル・Jrを疾走感あふれる追跡劇とともに描き出したストーリー展開の面白さ、物語の舞台となる60年代のアメリカ映画の雰囲気や劇中に散りばめられたヒット曲などの見どころを含め、ネタバレありでご紹介いたします。
CONTENTS
映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』の作品情報
【公開】
2003年(アメリカ映画)
【原題】
Catch Me If You Can
【監督】
スティーブン・スピルバーグ
【脚本】
ジェフ・ナサンソン
【キャスト】
レオナルド・ディカプリオ、トム・ハンクス、クリストファー・ウォーケン、マーティン・シーン、ナタリー・バイ、エイミー・アダム、ジェニファー・ガーナー、エリザベス・バンクス
【作品概要】
1980年に出版されたフランク・W・アバグネイル・Jr著の自伝小説『世界をだました男』を基に「ジュラシック・パーク」シリーズ、『ターミナル』(2004)、『ブリッジ・オブ・スパイ』(2015)、『レディ・プレイヤー1』(2018)など数多くの名作映画を生み出すスティーヴン・スピルバーグが監督を務めています。
天才詐欺師のフランク役をレオナルド・ディカプリオ、彼を追うFBI捜査官カール役をトム・ハンクスが演じ。主人公の父親役をリストファー・ウォーケンが共演。
レオナルド・ディカプリオは、第60回ゴールデングローブ賞にて最優秀主演男優賞を受賞。クリストファー・ウォーケンは、第75回アカデミー賞にて助演男優賞を受賞。音楽を担当したジョン・ウィリアムズは、同じく第75回アカデミー賞にて作曲賞を受賞しました。
映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』あらすじとネタバレ
これは真実に基づいた物語です。
“真実の告白”と題したテレビショーがはじまり、驚異的な頭脳の詐欺師として三人の男が紹介されます。皆口をそろえてフランク・W・アバグネイルと名乗る三人の男が登場。
1964年から1967年にかけて、私はパンナム航空のパイロットになりすまし、320万キロの空をただ乗り、それだけでなく大学病院の小児科主任医師を務め、更にルイジアナ州では検事補佐、逮捕時には犯罪史上最も若い大胆不敵な詐欺師と言われ、26カ国と米国全50州で小切手偽装で得た総額は400万ドル。それも19才の誕生日前にです。と語られ、登場した三人のうちの一人がこの詐欺師であると言うのです。
二番目の男が「最後にあなたを捕まえたのは誰でした」という問いにカール・ハンラティと答えました。
マルセイユ、1969年のクリスマス・イヴ。アメリカからきたFBIのカール・ハンラティが留置場にいるフランクにヨーロッパ人権法による犯罪人引き渡し条項を読み上げます。
フランクは体調の悪い振りをして、脱走を試みますが、逃げ切れることなく母国へ帰ることになりました。
ニューヨーク州ニュー・ロシェル、1963年。話は6年前に遡ります。ニュー・ロシェルのロータリー・クラブの名誉に浴した一握りのメンバーとして、フランク・W・ネバグネイルが称えられます。
それは、フランクの父親でした。市長から評された父は、「クリームの入ったバケツに2匹のネズミが落ちました、1匹はすぐにあきらめ溺れ死にました。しかし2匹目は、もがき続けているうちにクリームはバターになり、外に這い出しました。今この瞬間私はそのネズミになった気分です」とスピーチします。
家に戻った家族は、クリスマスツリーが飾った部屋でレコードの曲に合わせて、母と息子がダンスを踊っています。
父は何度も息子に話している母との出会いを話し出し、ワインを片手に持った母は、有頂天に踊りワインをこぼしますが、父はかまわずに踊ろうと誘い、若かりし頃のように踊る両親をフランクは微笑ましく見つめます。
父は大手の銀行から融資を受けるために銀行に向かいます。フランクをお抱え運転手役に仕立てるため、開店前の洋服店の扉を叩きました。
父は祖父の葬式で息子の為の黒いスーツを数時間貸してほしいとほらを吹いて頼みます。店の女性は、貸衣装屋じゃないと断りますが、父がネックレスと引き換えに言葉巧みに嘘をつき、スーツを貸してもらいます。
フランクが運転する車で銀行に向かった父は、また言葉巧みに窮地を乗り越えようとしますが、銀行側から国税局とトラブルを抱える方との融資はリスクになるときっぱり断られます。家族は愛車も家も売り払い、小さなアパートに越すことに。
フランクが16歳の誕生日にフランクの名義で小切手口座を開いてやったぞと父から小切手帳を渡されます。
引っ越し先の学校では、代理教師だというふりをしてフランス語のクラスを1週間教えていたことが判明し、両親が学校へ呼び出されます。
学校から帰ると父の友人だというロータリーのバーンズが母の部屋から出てきました。後にフランクが知らぬ間に両親が離婚するという話が進んでいて、仲介人から離婚後の養育権の項目にサインを求められます。
それもどっちの名字でもいいからとサインを強制されたフランクは、その場から逃げるように駅で小切手を切って切符を買い、列車に乗りました。
パリ、1969年。カールと安ホテルの部屋で母国へ戻るため飛行機が来るまでの時間を待っているフランクは、家出をしてから泊まった安ホテルのことを思い出していました。
ホテルで切った小切手が不渡りとなり追い出さたフランクは、小切手を偽造してあの手この手で換金しようと試みますが、失敗に終わります。
そんな時、街中でタクシーから降りてきたパイロットの紳士な姿に目を奪われます。これこそが求めていたものだと確信したフランクは、パイロットになりすます為に学校新聞の記者を装い、パンナム航空会社でパイロットについて聞き込みます。
次にフランクは、サンフランシスコ勤務の副操縦士と嘘をつき、うまくパイロットの制服を手に入れることに成功しました。
パイロット姿で街中を歩くフランクは、自信に満ち溢れ、父への手紙に“パパが失ったものを取り返してみせます”と綴ります。
高級ホテルでパイロットの給料小切手を300ドルまで切れると知ったフランクは、ホテルに滞在しながら、次々と給料小切手を偽造し、換金していきます。
空港でも換金可能だと知ったフランクが、空港のカウンターに行きますが、マイアミからデッドヘッド?と聞かれ、意味がわからずもチケットを受け取りました。
操縦席の補助席ではじめてフライトを体験したフランクは、それからデッドヘッドを利用してあちこちを飛び回ります。
映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』感想と評価
60年代を舞台に詐欺師を颯爽にかつ魅力的に描く
映画のオープニングから60年代の時代の雰囲気や作品世界観を醸し出しています。スタイリッシュでちょっとポップなグラフィックデザインとタイポグラフィが幾何学的要素を持った動きに仕上げられているオープニング。
このシルエットデザインは、消しゴムに手彫りしたハンコを作り、さらに紙に手書きのアニメーションを展開するという伝統的な手法をとっているのだとか。
そして、ジョン・ウィリアムズが手掛けたジャズ調のテーマ曲がオープニングから印象付けられます。
スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)の時にジョン・ウィリアムズがサメの恐怖をテーマ曲で表現したように、本作もまた、主人公・フランクとFBIのカールの追跡劇の緊迫感を助長するかのようなテーマ曲です。
中盤にフランクが泊るホテルのプールの場面では、軽快なラテンのリズム「イパネマの娘」が流れています。そこに追っ手のカールがフランクに近づいたことを重低音とともに、テーマ曲と重なっていき、急に緊迫感に包まれます。
そこで初めてカールと接触したフランクは、言葉巧みに秘密検察局になりすまします。頭の回転の速さと鋭い観察力を持ち合わせたフランクの卓上した話術だけで、するりとカールから逃れる爽快感はたまりません。
そんなフランク演じるレオナルド・ディカプリオの立ち振る舞いにも引き込まれます。次々にパイロット、医師、検事補佐と豪快になりすましていく姿に対比して、父との関係も描かれ、人間の脆さも浮き彫りにします。
また、フランクの父親を演じたリストファー・ウォーケンの男気ある存在感が物語に深みを持たせ、よりフランクのパーソナリティが親子関係の中で垣間見れるのです。
肩書や外見で判断される社会を逆手にとって、何者にもなりすましたフランクは、ただ外見だけを装ったのではなく、知的なユーモアとセンスの良さ。コミュニケーション能力と人間的魅力があったからこそ誰もを欺かせることができたのでしょう。
映画は世界を騙した天才詐欺師の人間的魅力をドラマチックに描き出します。
追跡劇だけでない“クリスマス”場面
冒頭から主人公がなぜ詐欺師となったのか、その真実が明かされてくというストーリーです。
父親の事業が失敗し生活が一転、困窮生活から両親の離婚、家出、生活のために働いた小切手偽造がきっかけとなり、社会的な肩書を偽装していく様が描かれ、FBIに追われる身となった追跡劇がはじまります。
終始テンポよく展開されるストーリーの中で“クリスマス”というシチュエーションが大事な意味合いを持たせて繰り返されます。
映画のはじめとなる1969年のクリスマス・イブは、フランスの留置場にいるフランクをカールが引き取る場面です。
次に時が遡り1963年のクリスマス・イブは、家族で過ごす幸福な時間として、映し出されます。しかし、不吉な未来がすでにはじまっていたことを暗示するようにカメラは絨毯についたワインの染みにクローズアップします。
追跡される身となったフランクは、クリスマス・イブにカールと電話で話すようになり、三度目のカールとのクリスマス・イブでのやりとりでは、フランス警察に身柄を拘束されます。
そして、映画の最後となるクリスマスには再婚した母親の元を訪ねる場面となります。
ナット・キング・コールの「ザ・クリスマス・ソング」が流れ、窓越しから母の姿を見つめるフランク。そして目の前に表れた小さな女の子との窓越しでのやりとりが印象的です。
まるで世界が違うかのような距離感を一枚の窓を通して物語っているかのようです。
“クリスマス”というシチュエーションは、時間経過を辿る道しるべとなり、主人公の人生を左右するキーポイントにもなっています。そして何より、フランクの心情を映し出すことでエモーショナルな気持ちをかきたてるのでしょう。
まとめ
本作は、原作のエッセンスを見事に抽出して、フランク・W・アバグネイル・Jrの人間的魅力を描いています。
痛快な追跡劇とともに60年代の雰囲気を存分に楽しめるファッション、音楽が各所に散りばめられて展開されるストーリーは、2時間を超える尺を忘れさせるほど夢中になることでしょう。
『007』のテーマ曲とともに、ジェームズ・ボンドになりきるレオナルド・ディカプリオという組み合わせも本作ならではの面白さです。それも、ダスティ・スプリングフィールドの「ザ・ルック・オブ・ラブ」の曲とともにボンドガールさながらの美女(ジェニファー・ガーナー)が現れる場面もご注目。
また、実在した天才詐欺師をエレガントに演じたレオナルド・ディカプリオと、まじめ一徹が故の可笑しさを含んだFBI調査官を演じたトム・ハンクスとのかけ引きから目が離せません。
そして自分の肩書というラベルを自由自在に張り替えて、違う人生をやり直してみたいという願望が誰しもあるように、その願望を主人公のフランクは類まれな向上心でただ掴み取ろうとしたのかもしれません。
それが偽物だとしても、本物になりすますことで社会から嘲笑されたものを取り返そうとするかのように。
そんなほろ苦い悲しみが含まれているからこそ、ユーモアに富んだ作品と言えるでしょう。