2019年北米公開のトム・ハンクス主演作『A Beautiful Day in the Neighborhood』
映画『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド (原題:A Beautiful Day in the Neighborhood)』は、1968年から放送開始された子供番組で絶大な人気を博した国民的司会者フレッド・ロジャースと取材に訪れた記者ロイド・ヴォーゲルの交流を描いた作品。
故ロジャース氏が残した哲学的思想や幼児教育は、国宝と称されるほど人々の実生活に良い影響をもたらしたと言われています。
主演はトム・ハンクス。本作は、現代の大人に贈られた物語。
CONTENTS
映画『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド (原題:A Beautiful Day in the Neighborhood)』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
A Beautiful Day in the Neighborhood
【監督】
マリエル・ヘラ―
【キャスト】
トム・ハンクス、マシュー・リス、スーザン・ケレチ・ワトソン、クリス・クーパー、エンリコ・コラントーニ、クリスティーン・ラーティ、メアリー・アン・プランケット
【作品概要】
コンビで脚本の執筆を手掛けるノア・ハープスターとマイカ・フィッツァーマン=ブルーは、それぞれが持つ娘の扱いに苦労しYoutubeで『ミスター・ロジャース・ネイバーフッド』を見せたことで状況が好転。
このことが切っ掛けとなり、フレッド・ロジャースについての脚本を執筆しました。監督を務めたのは、『ある女流作家の罪と罰』(2018年 日本劇場未公開) のマリエル・ヘラ―。
本作は、ロジャース司会の当該番組が実際に製作されたピッツバークのテレビ局WQEDで撮影。妻ジョアン・ロジャースや番組のプロデューサーを務めたマージ―・ウィットマーがカメオ出演。
映画『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』のあらすじ
子供番組の司会者フレッド・ロジャースは番組放送中、自分の友達としてロイド・ヴォーゲルを写真で紹介。
写真に写るロイドの鼻は怪我をしています。フレッドは、怪我を負わせた相手をロイドがなかなか許せずにいると話して聞かせます。
ロイドは雑誌社エスクァイアの社会記者。仲の悪い父親と姉の結婚式で再会し殴り合いになってしまいます。
そんなある日、上司から英雄と評される子供番組の司会者フレッド・ロジャースを取材し記事にするよう命じられます。
番組で人形を扱うフレッドを揶揄し興味が無いと言うロイドに対し、取材対象に嫌われる内容を記事にするロイドの悪いイメージを変える機会かもしれないと上司は諭します。
仕方なくロイドはアポを取り、ピッツバーグにある公共放送局WQEDのスタジオを訪問。
収録中のフレッドは、時間が押しているにも拘らずロイドを見て中断。「貴方に会えてとても嬉しいですよ」と温かく迎えます。
仕事内容を訊かれたフレッドは、幼い子供達に自分の感情をポジティブに対応できる方法を教えることだと答えます。
鼻の怪我を見たフレッドはロイドに何があったのか質問。ロイドは、父親と喧嘩して殴り合ったと返答。
ディレクターに促され収録再開。人形を使って歌いながら真剣にプログラムを収録するフレッドをロイドはじっと見つめます。
「♪僕は頭に来ているんだ。でもいつだって怒りをコントロールできる。ちゃんと止められるよ♪」
見学していたロイドはにわかに見たままを信じられず、帰宅後フレッドが過去に出演したインタビュー番組を見てみることに。
「私達は皆それぞれが特別な存在です」
「人は、ありのままを受け入れられなければ成長できないと思います」
翌朝、ロイドはフレッドから連絡を受けます。ニューヨークで撮影があるので前回の続きをしようという誘いの電話でした。
ロイドが会場に到着すると、フレッドの番組を支援する非営利団体代表ビル・アイスラーが対応。取材を受けるかどうか決める前にロイドの記事に目を通すようフレッドに勧めたと話します。
撮影終了後、会場の表に詰めかけた多くの親と幼い子供達1人1人にフレッドは丁寧に応対します。
ロイドは、フレッドの妻・ジョアンに「生きる聖人との結婚生活はどんな感じですか?」と質問。
ジョアンは、「生きる聖人」という呼称が好きではないと言い、フレッドは常に努力を惜しまないが完璧な人間ではないと微笑みます。自分の短気な所を上手く管理していると説明。
フレッドと一緒に数時間時間を過ごせることになったロイドは、離婚、死、戦争等の暗いトピックを子供向けの番組で取り上げていることに触れます。
地下鉄に乗っていた為、フレッドだと気が付いた乗客は、番組冒頭でフレッドが歌う曲を皆で歌い始めます。
きょろきょろ落ち着かないロイド。フレッドは手を叩いてにっこり。
ホテルの1室で落ち着くと、ロイドは、しょっちゅう多くの人から相談事を持ち掛けられて重荷にならないかと質問。
フレッドは、「思いやりのある言葉をありがとう」と先ず感謝を表し、痛みを抱えていない人など居ないと言い、水泳をしたりピアノの低音キーだけを弾いたりして気晴らしをしていると答えます。
フレッドは番組で使う人形を納めたケースを開けます。ロイドは、新品と取り換えたらどうかと提案。
フレッドは、どんなに古くなっても幼い子供にとっては友達だと返答し、ロイドが遊んだ人形は何だったのか尋ねます。
「ウサギ」
「ウサギの名前は?」
そう尋ねたフレッドは、番組で人気者の人形・ダニエルを使い、キャラクターの声色で「君のウサギに会いたいな」とロイドに話し掛けます。
「ただの古いウサギです。もうその話はしたくないので、貴方の重荷について訊いた質問に戻りましょう」とロイドは顔を引きつらせてフレッドを制止。
そして、ロイドは、フレッド・ロジャースを父親に持った子供は大変だろうと感想を述べます。
フレッドは、長男は最近まで自分が父親だと公言せず、次男は自分を試していたが今では成長し、2人の息子を誇りに思っていると答えます。
「ありがとう。確かに息子達にとっては辛かったかもしれない。その見解を述べてくれてありがとう」
フレッドは真摯に感謝を表しますが、ロイドは白けムードで大きくため息。
フレッドは、父親と仲直りできたのかと質問します。
ロイドは苛立ち、馬鹿げていると口にして取材を中断し辞去してしまいます。
映画『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』の感想と評価
本作は、取材目的で会った子供番組の人気司会者フレッド・ロジャースとの交流を通し、次第に自分と向き合う記者ロイド・ヴォーゲルの姿を描いています。
社会は分断され殺伐とした雰囲気が漂う現代のアメリカで、ロイドはシニカルな物の見方をしがちな市民を代表していると言われています。
「君のありのままが好き」「君はそのままでとても特別な存在」
この言葉は、幼い子供には心の安定や自尊心の育成が何より重要だと知っていたロジャースが常に言葉にしたメッセージです。
しかし、世の中は甘くないと知る大人はきっとロジャースにも隠された本性があるはずだと斜に構えがち。本作のロイドはその姿を投影するキャラクター。
ロイドのモデルは、実際にロジャースの取材をして深い友情を築いたジャーナリストのトム・ジュノー。
知り合った最初の年、数ヶ月の間にロジャースから70通のメールを貰ったと語っていますが、ロジャースは数百人の人と手紙のやり取りをしていました。
参考映像:『WON’T YOU BE MY NEIGHBOR?』予告編
また、『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』の前段になるのが2018年に公開されたドキュメンタリー『Won’t You Be My Neighbor』です。
世界的なチェリストであるヨーヨー・マのドキュメンタリーを撮っていた監督のモーガン・ネヴィルは、マから公人のたしなみをフレッド・ロジャースから学んだと聞き、実息ニコラス・マをプロデューサーに迎え同作を製作。
ロバード・ケネディー大統領の暗殺事件が起きた直後に多くのメディアが日々報道する中、ロジャースは番組の中で死について取り上げ子供達に説明。
そして、ベトナム戦争の戦費を確保する目的でニクソン大統領が公共放送の予算削減を決め、ロジャースは上院商業委員会で証言。ロジャースの主張を聞いた議長はその場で2千万ドルの予算を承認。
本作では、劇中この時の映像を短時間流し、ロジャースの軌跡を紹介しています。1分間の沈黙は、生前ロジャースがエミー賞特別功労賞を受賞した際 (1997年)、観衆に向かって実行したことでも有名。
フレッド・ロジャースを演じたトム・ハンクスは、本人そっくりに変身するのではなく、ゆっくり時間を掛けて相手の話に耳を傾ける姿や誰にでも温かく接するロジャースのエッセンスを見事に抽出し表現しています。
人格者と評されるハンクスを重ねて観る人も多くいますが、『フォレスト・ガンプ』を愛し40回観たフレッド・ロジャースもまた、トム・ハンクスのファンでした。
まとめ
誰からも愛される子供番組の司会者フレッド・ロジャースの人物取材を命じられたロイド・ヴォーゲルは、聖人化された国民的アイコンに懐疑的。
しかし、フレッドが努力家で寛容さに溢れた人だと気づいたロイドは次第に心を開き、フレッドの導きで自分の抱える問題と向き合うようになります。
幼い心を尊び慈しんだ名司会者を描く『ビューティフル・デイ・イン・ザ・ネイバーフッド』は、疲弊した大人の心も解きほぐす生前のフレッド・ロジャースを、実際のエピソードを交えて物語るハートフルストーリーです。