世界三大映画祭のすべての女優賞を獲得した、ジュリエット・ビノシュ。
演技派として知られていますが、『GODZILLA ゴジララ』(2014)では、原子力発電所の技師役を演じ、来年2017年に公開予定の『GHOST IN THE SHELL/ゴースト・イン・ザ・シェル』では、博士役を演じてもいます。
今回は、彼女の実力がたっぷりと味わえる映画、『アクトレス 〜女たちの舞台〜』をご紹介。
若手女優との演技の攻防戦や、SFチックな場面があったりと見せ場の多い映画ですよ!
CONTENTS
映画『アクトレス〜女たちの舞台〜』の作品情報
【公開】
2015年(スイス映画、ドイツ映画、フランス映画)
【脚本・監督】
オリヴィエ・アサイヤス
【キャスト】
ジュリエット・ビノシュ、クリステン・スチュワート、クロエ・グレース・モレッツ、ジョニー・フリン、ラース・アイディンガー、アンゲラ・ヴィンクラー、ハンス・ツィシュラー
【作品概要】
世界三大映画祭であるヴェネツィア、ベルリン、カンヌで女優賞を獲得した女優ジュリエット・ビノシュを中心に、クロエ・グレース・モレッツ、クリステン・スチュワートら、各世代の女優たちが、それぞれの葛藤を見事に演じた共演作品。
監督は、『夏時間の庭』などで評判のオリヴィエ・アサイヤス監督が担当。スイスの大自然を背景に女優の光と影をテーマにした作品です。
映画『アクトレス〜女たちの舞台〜』のあらすじとネタバレ
大女優マリア・エンダースは、有能な助手でマネージャーのバレンティンと共に、スイスのシルス行きの特急列車に乗車していた。
かつて、新人女優であったマリアをスターに育て上げた、長年の友である、劇作家ヴィルヘルム・メルヒォールの代理で、映画賞授与式に向かっているのです。
そんな矢先、助手バレンティンは、ヴィルヘルムが亡くなったというを電話を受けます。突然の訃報に驚くマリア…。
一方で、若手演出家クラウスから、ヴィルヘルムの書いた戯曲『マローヤのヘビ』を再演依頼が舞い込みます。
しかし、マリアが演じるのは、若い頃に配役されたシグリット役ではなく、そのシグリットを破滅に追いやる40才のヘレナ役を演じて欲しいと言うのです。
マリアには、かつて自身が演じて好評となった若いシグリット役への思い入れが強くある。
それにヘレナという役柄は、年齢の老いに破滅する役柄に抵抗を感じていました。
マリアは、プライベートでも離婚調停中であり、夫婦で買ったマンションの売買契約に悩むなど、女優としての旬の輝きに陰りを見せていたからです。
助手のバレンティンは、ヘレナ役を新しい解釈で演技をしてみることを提案しますが、マリアは受け付けません。
やがて、映画祭の行われる会場に到着すると、ヴィルヘルムに贈られる賞の授賞式には、過去に不倫関係にあった俳優のヘンリク・ヴォルトがいました。
マリアは、気まずさと苛立ちを覚え、助手バレンティンに当たりますが、祝賀会の席では同じテーブルに着くことになります。
盛大に終わった映画祭の宴の後に、助手バレンティンは友人と呑みに出かけてしまいます。
残されたマリアは、ヘンリクとタクシーで帰りますが、その際に宿泊するホテルの部屋に誘います。
部屋で連絡を待つマリアでしたが、結局はヘンリクは酔いつぶれたのでしょうか、姿を見せませんでした。
冷蔵庫の酒を呑むマリア…。ふと寂しくなったように彼女は、戯曲『マローヤのヘビ』のことを思い出してしまいます。
20年以上経った今、40才のヘレナ役を引き受けるべきなのか、女優として、一人の女として悩みます。
やがて、若いシグリット役には、ハリウッドのお騒がせ女優と呼ばれ、自由奔放さが魅力の19才の女優ジョアン・エリスに決定します。
マリアは、若いジョアンに良いイメージを持ってはいません。しかし、気にかかってしまう彼女は、密かにジョアンについてネットで検索をはじめます。
映画『アクトレス〜女たちに舞台〜』の感想と評価
何といって人間の内面性を描くことが得意である、オリヴィエ・アサイヤス監督の作品。深い人間洞察力と、秀逸な完成度を持っています。
それは、単に女優の栄光と衰退を描くのではなく、マリアの葛藤を通じて誰もに平等に訪れる“老いと人間の成熟”をテーマに、アサイヤス監督が描いています。
老いとは、全ての人間に与えられた課題だからです。
そこでテーマを色濃く出すために、女優という役柄の登場人物たちを語り部にしたのでしょう。
また、このことについて、多くの女性は共感ができるのではないでしょうか。
若い女性なら、誰しもが、“若さをある種の武器”に、男性たちを翻弄する側だったのに、いつしか男性たちから見向きもされず、今度は自分よりも若い女性に翻弄されるようになってしまう。
そんな様子が、旬を過ぎたと感じてしまうマリアには見られます。
言わずもがな、若い女性とは、若手女優ジョアンと有能な助手バテレンティン。
特にバレンティンに関しては、絶対的な信頼を置いていた身内スタッフなだけに、マリアにとっては、自己を投影する鏡のようであり、大きな不安や嫉妬で彼女を抑え込んでいたのではないでしょうか。
一方のマリアから離れてしまった男性は、パリに住む離婚調停中の夫(たぶん若い女性に走ったのでしょう)、授賞式で再開した元不倫相手の俳優ヘンリク・ヴォルト、飛躍過ぎかもしれませんが、劇作家ヴィルヘルム・メルヒォールもそう言えるのではないでしょうか。(たぶん、付き合っていたろうし?)
それでも、ラスト・シーンの舞台上にいるマリアの表情は、老いの不安や、若さからの翻弄に打ち勝ったな笑みが見られます。
そのことは、マリアが、若手演出家クラウスが発した言葉に、新しい気付きができる“アンテナ”を持ち得た表情から察することができます。
そこにあるマリアの心境は、老いは、時間と共に年齢や容姿に現れる。それでも、長年の時間は、自身の精神によって成熟を可能にすることもできる。と考えたのではないでしょうか。
まとめ
これまで書いてきたように、アサイヤス監督の見事な作品の構成力の高さから、誰しも、女優たちの共演に目を奪われます。
しかし、他にも、スイスの山岳地域を舞台にしたという見どころもあります。
山間の中に雲が流れ行き、短い時間で去ってしまう神秘的な自然現象“マローヤのヘビ”。
この自然現象は、その中では行き先すら見えず、迷い苦しみますが、遠くから眺めれば美しく、神秘的な一瞬の出来事に過ぎないものなのです。
このことに、“老いの不安と成熟”をマリアは悟ったのではないでしょうか。
多くの女性に、この映画は見ていただきたい、女優たちからの贈り物ではないかと思います。
映画のオマケ!類似の見られる映画たち
『アクトレス〜女たちの舞台〜』と同様なテーマを扱った作品を最後に紹介します!
女優の若さや老いを描いた名作映画中の名作です。
女優がテーマになった名作といえば、新人女優の野心と世代交代を描いた、1950年製作されたジョセフ・L・マンキーウィッツ監督の『イブの総て』があります。
また、往年の栄光に取り憑かれた大女優の悲劇を描いた、同年製作のビリー・ワイルダー監督の『サンセット大通り』を観ていただくと、一層映画を楽しめるかもしれません。