2018年はキング牧師没後50年。ドキュメンタリー映画『私はあなたのニグロではない』では、“自由と正義の国”を掲げるアメリカの“黒人差別と暗殺の歴史”が明らかにされています。
2017年初頭トランプ政権がスタートしたアメリカで、本作は異例のヒットを記録しました。
公民権運動家だった作家ジェームス・ボードウィンの未完の原稿『Remember this House』を基に映画化され、彼の盟友で若くして暗殺された公民権運動の指導者メドガー・エヴァース、マルコムX、キング牧師の生き様を追いかけます。
60年代の公民権運動から現在もなお続いている黒人差別の問題に至るまで、アメリカの黒人差別と暗殺の歴史に迫ります。
映画『私はあなたのニグロではない』の作品情報
【公開】
2018年 (アメリカ、フランス、ベルギー、スイス合作映画)
【原題】
I AM NOT YOUR NEGRO
【監督】
ラゥル・ペック
【キャスト】
ジェームズ・ボールドウィン、メドガー・エバース、マルコムX、マーティン・ルーサー・キング・Jr.、シドニー・ポワチエ、ボブ・ディラン
、マーロン・ブランド、ジョーン・クロフォード、ロバート・F・ケネディ、バラク・オバマ、サミュエル・L・ジャクソン(ナレーション)
【作品概要】
1957年、フランス・パリで執筆活動をしていたジェームス・ボールドウィンは、故郷アメリカへ戻る決意をします。パリ中で売られていた新聞の1人の少女の写真を見たことが、彼の人生を突き動かしました。
ドロシー・カウンツはアメリカ南部シャーロットの高校に黒人として初めて入学する少女でした。大勢の白人達に取り囲まれ、嘲笑されながら登校する15歳の少女に、ボードウィンは強い衝撃を受けます。その後人種差別の最も激しい地域アメリカ南部へ向かいます。
公民権運動の指導者そして盟友だったメドガー、マルコムX、キング牧師の出会いと別れが待っていました。彼は激動するアメリカ社会に向き合い、記録しながら各地で講演を続け、精力的に活動します。
書き始めた遺稿『Remember this House』、その30ページの本に心震え、映画化に挑んだのがハイチ出身のラウル・ペック監督。言葉で、メッセージでそして映像の中で、ボードウィンは自分自身の体験と鋭い洞察力で母国アメリカの人種差別の歴史とその正体に迫ります。
映画『私はあなたのニグロではない』のあらすじとネタバレ
―1979年6月作家ジェームス・ボードウィンはアメリカについてき書き始めた。題材は、友人であるメドガー・エヴァース、マーティン・ルーサー・キング。
30ページで止まった書籍の題名は『リメンバー・ディス・ハウス』。
1968年のテレビ番組『ディック・キャヴェット・ショー』の映像が流れ、司会のキャヴィットが質問します。
黒人の市長も生まれたし、スポーツ界や政界にも進出しているのに、なぜ黒人に希望がないのか。希望はない、一番の問題はこの国そのものだとボードウィンは答えます。
その後、現代の映像が流れます。不当な差別に抗議している黒人達を警察隊が抑え込んでいます。「BLACK LIVES MATTER」(黒人の命も大切だ。)のプラカードがズーム・アップされます。
ジェームス・ボールドウィンの語りが聴こえ、「私は後1ヶ月で55歳になる。旅に早く出なければいけないと思っていた。まさかとは思っていたが、これから何がどうなって行くのか」
キング牧師の映像が入り、「我々には、自由になる権利がある」と伝えています。
白人専用と書かれてあるバスの座席の映像が流れると、再びキング牧師の演説が聞こえ、「バスの前の方で白人の隣に座るのは、権利ではなく義務だからです」。
1956年のアラバマ州モンゴメリー、バス・ボイコット運動の映像が流れ、メドガー、マルコムX、キング牧師の映像に沿うようにボードウィンの語りが始まります。
メドガー、マルコムX、マーティンの3人は、それぞれ違っていました。
1955年、当時マーティンは26歳。国家の罪と嘘、希望の重みをその若さで背負っていました。これから3人の生き様を通じ、真の彼らを見せたい。彼らの苦難の旅を通じ、人々を導きたい。彼らが愛し、命を捧げた人々…。この作品はボードウィンの心からの迸る決意でした。
【果たすべき責任】
アメリカ軍の車に乗せられ登校する黒人の子供達の後、「黒人と同じ学校に行かない」「僕たちの学校に黒人を入れるな」と書かれたプラカードを持た白人少年。
そして、1957年アーカンソー州セントラル高校、1人の黒人少女が高校に初登校する際に、白人に唾を吐かれ、嘲笑されながらもシャーロットは歩きます。
誇りと緊張、苦痛の表情を浮かべています。
ボードウィンは語ります。憤慨し憎しみと同情にかられ、恥ずかしくもなった。その晴れた午後フランスをボードウィンは立ち上がります。責任を果たすべきだと決意した日でした。
映画『私はあなたのニグロではない』の感想と評価
ボードウィンの言葉が一句一句胸に突き刺さりました。
1つひとつの映像が、あまりにも衝撃的で受け止める間も無く、次の映像と語りが押し寄せてきます。
ボードウィンの著書『リメンバー・ディス・ハウス』のセンテンスが、映像を越えていきます。
ボードウィンがアメリカに戻ったのが1960年代、その時代の黒人差別の実態を訴えているのにも関わらず、今のアメリカの現状の映像にマッチしていく衝撃と恐怖が真に迫ってきます。
無邪気に映画『キングコング』を観て驚き、先住民を襲う白人を英雄として喝采を送ってきたことに打ち震えます。
マルコムXやキング牧師が射殺された事実を知っていても、その背景は、「NEGURO LIVES MATTERS(黒人の命も大切)」という現在の黒人問題と根底が同じであることです。
何も変わっていないこと…。何よりも自分の無知さに気付かされます。
まとめ
テレビ番組『ディック・キャヴィット・ショー』の討論で、心が奪われた場面があります。
同席した白人の大学教授が、尤もらしく語ります。「人間とは、誰もが孤独で1人で生きるものだ。宗教、肌の色、体型、才能など一人前になるために超える壁はいくつでもある」。
直前まで笑顔で話していたボードウィンは瞳に涙を浮かべてこう返します。「そういう問題ではない、黒人が一人前になろうとすると命が危険に晒されるのです。アメリカを去った理由は、たった1つ。アメリカで作家活動を続けていれば、殺される危険がつきまとう。パリでは怯える必要がない。被害妄想じゃない。警察も上司も、一般人の顔を見たら分かります」。
作中で語られるメドガー、マルコムX、キング牧師の死がそれを証明しています。
そこに本作の真実があり、「なぜ、ニガーが必要だったのか?それを問えば、未来があります」を思い出します。
一度立ち止まり、自分の心に問うことを教えてくれる映画です。