映画『やっぱり契約破棄していいですか!?』は、2019年8月30日より全国順次公開。
人生に絶望し、自死を考えていた小説家が、クビ寸前の暗殺者と出会った事で始まる騒動を描いたブラック・コメディ『やっぱり契約破棄していいですか!?』。
小説家ウィリアムを『ダンケルク』のアナイリン・バーナード。そして、殺し屋レスリーを『フル・モンティ』のトム・ウィルキンソンが演じています。
生きる事の大切さをユーモアたっぷりに描いた『やっぱり契約破棄していいですか!?』をご紹介します。
映画『やっぱり契約破棄していいですか!?』の作品情報
【日本公開】
2019年(イギリス映画)
【原題】
Dead in a Week: Or Your Money Back
【監督・脚本】
トム・エドモンズ
【キャスト】
トム・ウィルキンソン、アナイリン・バーナード、フレイア・メーバー、マリオン・ベイリー、クリストファー・エクルストン
【作品概要】
2003年の映画『コールド・マウンテン』などの企画や製作、配給に携わっていたトム・エドモンズの長編デビュー作。
自殺願望の強い小説家の青年が、暗殺者に自身の暗殺を依頼した事で、巻き起こる騒動を描いたコメディ。
主人公のウィリアムを、2017年のクリストファー・ノーラン監督作品『ダンケルク』へ出演しているアナイリン・バーナード、暗殺者のレスリーを、1997年の映画『フル・モンティ』や2011年の映画『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』などに出演しているトム・ウィルキンソンが演じています。
映画『やっぱり契約破棄していいですか!?』のあらすじとネタバレ
小説家志望の青年ウィリアムは、執筆した小説も酷評される毎日に希望が持てず、飛び降り自殺をする為、橋の上にいました。
そこへ通りかかった謎の男に、ウィリアムは自身の境遇を説明します。
謎の男は「死にたいならいつでも連絡しろ」と、ウィリアムに名刺を渡し、その場から立ち去ります。
ウィリアムは名刺を受け取りながらも、意を決して橋の下へ飛び降りますが、偶然通過した観光船に落ちてしまい、助かってしまいます。
これで、通算7度目の自殺失敗となったウィリアムは、橋の上で名刺を渡してきた男に連絡をします。
レスリーと名乗る男と、レストランで待ち合わせたウィリアム。
レスリーは、長年暗殺者として生きてきた男で、ウィリアムに「希望の死に方で、1週間以内に君を殺す」という契約を持ちかけます。
希望の死に方を選んでいたウィリアムは、当初は疾走するトラックから子供を助けた後に死ぬ「英雄死」を望んでいましたが、予算の都合で叶わず、契約した日から1週間以内に、レスリーに狙撃される死に方を選びます。
いつ、どこで狙撃されるかはレスリーのタイミングとなり、ウィリアムは指定できません。
ウィリアムとの契約を成立させたレスリーは、所属する英国暗殺者組合へと戻り、契約を取った事を報告します。
かつては凄腕の暗殺者だったレスリーですが、年齢により腕が落ちてしまい、現在は引退を先延ばしにしている状況でした。
レスリーの妻のペニーも、レスリーが暗殺者を引退して、一緒に世界一周旅行に出かける事を望んでいます。
それでも、暗殺者である事にこだわるレスリーにとって、ウィリアムとの契約は、ノルマ達成の為の大事な契約だったのです。
レスリーと契約を交わし、狙撃されるのを待っているだけの日々を送っていたウィリアム。
ですが、自身の7度に渡る自殺失敗の経験から執筆した書籍が、出版社の目に止まり、編集者のエリーと、エリーの上司ブライアンとランチミーティングをする事になりました。
突然の事に驚いたウィリアムは、外で待機していたレスリーを見つけ出し、狙撃の延期を要求しますが、その時にランチミーティングの場所と日時を伝えてしまいます。
ランチミーティング当日、エリーとブライアンに書籍の方向性を伝えるウィリアムでしたが、ブライアンは強引な男で、ウィリアムの希望を聞こうともしません。
うんざりした様子のウィリアムは、落としてしまったボールペンを拾おうとした瞬間、ブライアンが狙撃されます。
ウィリアムから、ランチミーティングの日時を聞いたレスリーは、建物の影から狙撃しましたが、腕が震えて狙いが定まらず、外してしまいました。
レストランは大混乱となりますが、ウィリアムとエリーは、テーブルの下に隠れて、狙撃から身を守ります。
次の日、突然ウィリアムの自宅を訪れてきたエリーは、書籍の出版に関して、今後のスケジュールを相談しようとします。
ですがウィリアムは、自殺の為に雇った暗殺者に狙われている事を打ち明け、書籍の出版は叶わない事を伝えます。
エリーは、ウィリアムがレスリーとの契約を破棄する事を提案し、ウィリアムはレスリーに電話をします。
ウィリアムの自宅から流れる、レスリーの着信音。
音のする部屋の扉をウィリアムが開けると、レスリーが窓から逃げようとしているところでした。
映画『やっぱり契約破棄していいですか!?』の感想と評価
自死の手助けを、暗殺者に頼んでしまった事から始まる、風変わりな物語を描いた本作。
ブラック・コメディではあるのですが「自殺」という重いテーマを扱っている為か、ドタバタした内容ではなく、知的で落ち着いた印象を受ける作品です。
脚本も担当した監督のトム・エドモンズは、実存哲学を読み漁り、苦しむ人を助ける協会にも相談しながら、自殺願望の強い主人公ウィリアムを作り上げました。
小説家志望ですが、実際はデビューもできておらず、何者にもなれていないウィリアムという人物像は、現代社会に多い若者の姿ではないでしょうか?
このウィリアムという現実的なキャラクターに、暗殺者のレスリーという、非現実的なキャラクターが絡んでくる展開が、本作の面白いところです。
「暗殺者は転職」と考えているレスリーですが、英国暗殺者組合から引退勧告を出されており、引退を逃れる為には、ノルマを達成させなければなりません。
何者にもなれておらず、人生に目的を見いだせないウィリアムに対して、暗殺者である事に存在意義を感じて、暗殺者でなくなる事に恐怖を抱いているレスリーは、対象的な存在と言えるでしょう。
ただ、ウィリアムはエリーと出会った事で、生きる目的を見つけ、レスリーと戦う事になります。
「自殺」を扱ったコメディと聞くと、不謹慎に感じる方もいるかもしれませんが、本作は暗殺者として、自分が生きている事を実感しているレスリーと、エリーと出会った事で、生きる喜びと理由を見つけたウィリアムの姿を通して、人が生きる事の力強さを描いてる、生命賛歌とも呼べる作品です。
エリーとベニーという2人の女性が、ウィリアムとレスリーの人生を変えるキッカケを作る辺りも、予測できない人生の面白さを描いており、「生きる事を諦めない大切さ」を訴えかけています。
まとめ
「自殺」をテーマに扱い、ただのコメディではなく、哲学的な作品にする辺りが、実にイギリスのコメディ作品っぽい本作。
とはいえ、本作はコメディ映画で、理屈抜きに楽しんだ方が良いです。
暗殺者として、人を殺めてきたレスリーの正当性など、気になる部分もあるかもしれませんが、コメディ映画は細かい事を気にしたらダメです。
個人的なオススメのシーンは、ウィリアムが自分の部屋に忍び込んでいたレスリーに気づき、英国的な礼儀正しい挨拶を交えた後、命を狙われて逃げるシーンと、レスリーに脅しをかけるハーヴェイが、マイケル・J・フォックスの映画の話を始めて、イマイチ噛み合わなくなるシーンです。
現実的な悩みを抱えているウィリアムが、英国暗殺組合という冗談みたいな組織で、ノルマが達成できず悩んでいる、愛妻家の暗殺者に狙われる非日常的な展開を、是非楽しんで下さい。