『シェルブールの雨傘』に続いてジャック・ドゥミが撮ったミュージカル映画『ロシュフォールの恋人たち』。カトリーヌ・ドヌーヴとその実姉フランソワーズ・ドルレアックが双子の姉妹を演じています。
以下、あらすじやネタバレが含まれる記事となりますので、まずは『ロシュフォールの恋人たち』映画作品情報をどうぞ!
映画『ロシュフォールの恋人たち』作品情報
【公開】
1967年(フランス)
【原題】
Les Demoiselles de Rochefort
【監督】
ジャック・ドゥミ
【キャスト】
カトリーヌ・ドヌーヴ、フランソワーズ・ドルレアック、ジーン・ケリー、ジョージ・チャキリス、ジャック・ペラン、ダニエル・ダリュー、ミシェル・ピコリ
【作品概要】
フランスの港町ロシュフォールを舞台に展開するダンスと歌と恋の物語。ジャック・ドゥミ監督と音楽家のミシェル・ルグランによる傑作ミュージカル映画。
映画『ロシュフォールの恋人たち』あらすじとネタバレ
祭りの二日前
フランス・西南部の港町ロシュフォール。年に一度の祭りを2日後に控え、それに参加しようというキャラバン隊が広場に到着しました。
彼らは何台かのバイク、馬二頭、ボートを積んだトラック数台といういでたちで、各地の祭りで曲芸を披露して回っているのです。
近くのアパートでは美人姉妹が子どもたちにバレエを教えていました。姉のソランジュと妹のデルフィーヌです。姉妹はともに身を焦がすような恋に憧れ、理想の男性を求めています。そして姉は作曲で、妹はダンスで身をたて、パリに出ていくことを夢みていました。
姉妹の母親イヴォンヌはカフェを営業し、女手一つで娘を育ててきました。広場にあるガラス張りのお洒落なカフェにキャラバン隊のリーダー、エチアンヌとビルも早速やって来ます。
そこに水兵のマクサンヌが入ってきました。彼はずっと理想の女性を探しているのですが、なかなかみつからないのだとか。理想の女性を絵に描いたこともあるそうです。
デルフィーヌは画廊を経営する恋人ギョームに会いに行きました。ギョームとちょっとした口論をしていると、壁に自分を描いたのかと思わせる絵が飾ってあるのに気付きます。
描いたのは水兵だ、軍隊のモデルでもしたのかね、というギヨームに対してそんなことはしていない、でもこれは私だわ、とデルフィーヌが言います。作者に会いたいというと、ギョームは「彼はもうここにいないよ、パリに行った」と言います。
家に帰ってきたデルフィーヌはギョームと別れたと報告します。そして自分の肖像画を描いた見知らぬ画家に思いをはせます。彼は私を愛している…。
入れ替わりにソランジュが外出し、楽器店にやってきました。オーナーのシモン・ダムとは顔見知りです。彼女は、今度パリに行くので、アメリカ人の作曲家、アンディに紹介してくれるよう頼みに来たのです。ダムは快諾してくれました。
ソランジュは作曲した変奏曲を披露し、月曜日にはパリに行くのだと話します。「寂しくなります」と言ったダムは、自分の過去を思い出してソランジュに打ち明けます。
それは10年前に別れたフィアンセの話でした。恋人はダムという名前を嫌がったといいます。一番幸せだった時、子どもができたと聞かされますが、結局彼女はダム夫人になるのを拒んだのだそうです。
彼女には既に双子の娘がいましたが、寄宿舎にはいっていて一度も会えずじまい。しばらくして外国人と結婚してメキシコに行ったと伝え聞きました。寂しくなって二人が出会ったこの街に戻ってきたというわけです。
ソランジュは小学生の弟、ブブを迎えに行きました。その時、ブブがだだをこねたせいで、鞄が落ち中身が散乱します。たまたま通りかかった一人の外国人の男性が拾うのを手伝ってくれました。
何の約束もなく、二人は別れますが、男性はソランジュに一目惚れしたらしく、ソランジユが忘れていった楽譜を手に取ると譜面を読み、歌って踊りだします。彼こそアンディでした。
広場では祭りの準備が着々と進んでいました。しかし、エチアンヌとビルの仕事のパートナーである女性たちが、水兵に恋をして仕事を放り投げて出ていってしまいます。
その頃カフェではマクサンヌが、除隊したらパリで個展を開くのだと話していました。「寂しくなるわ」とイヴォンヌは言い、昔の恋話を語り始めました。
「フィアンセの名前が変で、我慢ならなかったの。二人の間にブブが生まれだけれど、私には既に双子の娘がいて、娘たちも彼のことは知らないの。数年後に友人を介して大金持ちの男にプロポーズされたと伝えたけれど、それは嘘。今は後悔だけが残っている」と。
双子の家にエチアンヌとビルがやってきます。雇っていたダンサーがやめてしまったので、代わりに出演してほしいというのです。
二人は出演することにしました。そうすればパリに連れて行ってくれるらしいのです。「双子座の歌」を披露して四人は陽気に踊り歌います。
土曜日そして日曜日
土曜日の朝、マクサンヌは休暇の許可が出てナントへ家族に会いに出発。新聞には、恐ろしい殺人事件の記事が出ていました。
アンディがダムの楽器店にやって来て、二人は再会を喜びました。アンディは拾った楽譜を開いてピアノを弾き始めます。ダムは「どこかで聴いた曲だ、どこだったか」と考えます。
夜はイヴォンヌの祖父の友人、デュトルを囲んでのパーティーです。カフェの店員ジョセットは、マクサンヌがいないのを寂しがります。
日曜日。ついに祭りの当日。多くの人がステージで歌い、踊り、観客をわかしています。ソランジュとデルフィーヌも赤いドレスを身にまとい立派に舞台を務めました。
踊り終わったデルフィーヌのもとにギョームが尋ねてきますが、デルフィーヌは彼の申し出を断り、あの絵を描いた画家について尋ねます。ギョームは、二人を会わせたくない一心で終始嘘をついており、画家はドイツに行ってしまったとでたらめを言うのでした。
映画『ロシュフォールの恋人たち』の感想と評価
本作は、フランス・南西部の港町、ロシュフォールを舞台に、金曜日から月曜日の朝までを描いたミュージカル・コメディーです。
祭りが行われる場所(キャラバン隊が到着する場所)はロシュフォールの中心地、コルベール広場で、その前のアパルトメントの一室にカトリーヌ・ドヌーヴと実姉のフランソワーズ・ドルレアック扮する双子が住んでいるという設定です。
周囲の建物は撮影のために色鮮やかに絵の具で塗り替えられたそうです。双子が住んでいる部屋の美しいピンク色の窓枠や、さり気なくかけられた赤いベレー帽など粋な配色が施され、うっとりさせられます。
双子が理想の恋の相手を求めているように、水兵のマクサンヌも理想の女性を求め続けています。デルフィーヌとマクサンヌはメロドラマのごとく見事にすれ違い続けます。
他の登場人物も皆、心に想いを秘めていますが(殺人鬼でさえ!)、殆どの人々がそれはどこか遠くにあるものだと考えていて、パリに、あるいはどこか違うところに想いをはせています。
理想の恋人や恋を語ると、何度も誰かが「ロシュフォールにそんな人はいないわ」と応えています(実は非常に身近にいるのですが)。
街のいたるところを歩く水兵、祭りのためだけに街を訪れ、やがて去っていく人々。パリを目指す双子。移動する人たち。ここではないどこかへの想いが画面に満ち溢れます。それはジャック・ドゥミ監督作品の特徴の一つでもあります。
双子とエチアンヌとビルが四人で賑やかに歌って踊る場面では、他の登場人物の恋模様が次々と重ねられ、非常に見応えのある場面となっています。
それにしてもミシェル・ルグランの音楽の素晴らしいこと!! ジャック・ドゥミとミシェル・ルグランは監督の長編第一作『ローラ』からの付き合いです。最強コンビと呼んでもいいでしょう。
その二人のコンビにカトリーヌ・ドヌーヴが加わった映画は、本作以外に『シェルブールの雨傘』『ロバと王女』『モン・パリ』がありますので、機会があれば是非ご覧になってください。
まとめ
ジャック・ドゥミは、港町を愛したことで知られています。『ロシュフォールの恋人たち』の前作『シェルブールの雨傘』のシェルブールもフランス北西部の港町で、港の遠景から映画が始まります。
長編第一作の『ローラ』(‘60)はシェルブールとロシュフォールの中間ぐらいにあるナントという港町が舞台ですが、『ロシュフォールの恋人たち』ではマクサンヌの故郷として名前が出てきます。ナントはジャック・ドゥミの故郷でもあります。
港町なら水兵という具合に、『ロシュフォールの恋人たち』でも画面のいたるところに水兵が登場していますが、その代表としてマクサンヌが存在しています。
彼は理想の女性を探し続けるロマンチックな画家なのですが、その彼がジーン・ケリー扮するアンディと遭遇して音楽と絵画について語るシーンは、まさに『巴里のアメリカ人』(ヴィンセント・ミネリ監督)へのリスペクトといっていいでしょう。
アメリカの50年代ミュージカル映画への憧れとリスペクトがたっぷり注がれた本作は、映画史に残る傑作ミュージカル映画として、世界中の人々に愛され続けています。
ところで、双子の母とダム氏の恋の破局の原因に関してですが、「ダム」というのはフランス語で「婦人」という意味だそうです。「ミスター・ダム」は「ミスター・婦人」となり、「ダム夫人」というのは「婦人夫人」となってしまうというわけなのです。