映画『メランコリック』は2019年8月3日(土)より、アップリンク渋谷ほか順次公開!
田中征爾監督が初めて手掛けた長編映画が、第31回東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門の監督賞を受賞し、大きな注目を集めました。
また日本国内だけでなく、ヨーロッパ最大のアジア映画祭である第21回ウディネファーイースト映画祭においても新人監督作品賞を受賞し、海外からも高く評価されている作品です。
その話題のサスペンス・コメディ『メランコリック』が、いよいよ劇場公開される事になりました。
映画『メランコリック』
【公開】
2019年8月3日(土)(日本映画)
【監督・脚本・編集】
田中征爾
【出演】
皆川暢二、磯崎義知、吉田芽吹、羽田真、矢田政伸、浜谷康幸、ステファニー・アリエン、蒲池貴範
【作品概要】
ひょんな出来事からニート暮らしを卒業し、家の近くにある銭湯“松の湯”で働き出した青年。彼は周囲のごく平凡に暮らす人々と共に、ささやかな幸せを求めていました。ところが彼がバイトを始めた銭湯は、何と深夜に風呂場で人を殺していたのです…。
想像もしなかった世界に足を踏み入れた事で、人生が大きく動き出す主人公。周囲の人々との人間模様はサスペンス、コメディ、ホラーそして恋愛要素を含み、映画は極上のエンターテイメントとして見事に完成しています。本作に出演の俳優・皆川暢二と磯崎義知、監督の田中征爾という同い年の3人で立ち上げた、映像製作ユニットOne Goose(ワングース)による、記念すべき映画製作第一弾の作品です。
映画『メランコリック』のあらすじ
名門大学卒業後、両親と共に実家に暮らし、うだつの上がらぬ生活を送っていた主人公・鍋岡和彦(皆川暢二)。ある夜たまたま訪れた近所の銭湯、“松の湯”で高校の同級生・副島百合(吉田芽吹)と再会します。
彼女にその銭湯でアルバイトする事を勧められた和彦。“松の湯”の主人・東(羽田真)の面接を受けた彼は、全く正反対の性格の男・松本晃(磯崎義知)と共に採用され、働き始めます。
“松の湯”でのんびりと働くことを望んでいた和彦。共に働き始めた松本もイイ奴だと知り、それなりに充実した日々を過ごし始めます。
ところがこの銭湯は閉店後の深夜、風呂場を「人を殺す場所」として貸し出していたのです。その事実を知ってしまい、“松の湯”の主人・東から、死体の始末を手伝うように迫られる和彦。
こうして“松の湯”の、裏の仕事を手伝う事になった和彦。この仕事に関わった事で、彼の平凡な生活を大きく変わっていきます。
やがて同僚の松本が、実は殺し屋であることが明らかになります。そして和彦は、更に危険な世界へと巻き込まれていくのですが…。
映画『メランコリック』の感想と評価
巧みなストーリー展開が生む奇妙な人間模様
平凡な主人公が危険な世界に迷い込み、それとの対決を余儀なくされてしまう、巻き込まれ型のストーリー。実にハードボイルド映画的な展開です。
ところが主人公は気のいいニート、そして舞台は銭湯。とぼけた設定の下で、独特の間合いで描かれた人間ドラマが、奇妙に味わいある世界を生み出しています。
本作のジャンルはコメディとして紹介されていますが、登場人物が面白い発言や行動を繰り返して笑わせる、いわゆる典型的なコメディ映画ではありません。
主人公が全く望まない形で、裏の仕事に関わる不条理な展開と、その体験を経て彼の心情の変化を、この映画は実に巧みに描いています。これが全編に、奇妙に笑える乾いた雰囲気を漂わせています。
登場人物たちの人間模様の変化を、劇中で見事に引き出した演技と演出は、間違いなく東京国際映画祭で監督賞を与えられるに値するものです。
この映画はドタバタ劇ではなく、優れたヒューマンドラマと評すべき作品です。
丁寧に描かれた日常の中の笑い
では何がこのユニークな作品を、コメディ映画たらしめたのでしょうか。実はこの映画の魅力は不条理な展開ではなく、極めて丁寧に描かれ積み重ねられた、日常の描写の中にこそあるのです。
例を挙げると、劇中で度々繰り返される主人公・和彦と両親の食事シーン。実際に口に物を入れ、食事をしつつ平凡な会話を交わすシーンが、何度も何度も繰り返されます。
こうして積み重ねられた日常が、「人を殺す場所である銭湯」から始まった非日常のドラマとぶつかった時、映画は不思議な笑いを観客に提供するのです。
映画の中に繰り返し登場する食事シーンは、明らかに劇中に日常感と生活感をもたらす目的で、実に丁寧な演出で描いています。
登場人物の前に料理を並べただけ、実際に食する事無く、会話を交わすだけ。シチュエーションを描いただけの食事シーンは、作品によってはこの様に、形式的に処理される事も少なくありません。
しかしこの作品は、食卓での人物の日常と生活感を、しっかり見せる事を意図して演出しています。この努力は映画の後半で実を結び、観客に大いに笑いを与えてくれるのです。
登場人物の日常を丁寧に描いた映画は、間違いなく上質の作品となる。『メランコリック』はそうした実例となる映画の一本であると、自信を持って紹介できる作品です。
期待される才能が結集
映像製作ユニットOne Goose(ワングース)の第一回長編映画として製作され、高い評価を獲得した『メランコリック』。
One Gooseはこの映画で主演の和彦を演じ、プロデューサーでもある皆川暢二と、俳優でタクティカル・アーツ(対武器を想定した護身術)・ディレクターとしても活躍している磯崎義知、監督・脚本として参加を望まれた田中征爾により結成されました。
この長編映画の製作を開始する当たっては、まず短編映画を製作して公開し、クラウドファンディングで製作費を募るという手法をとりました。
参考映像:短編映画『melancholic』予告編(2017)
長編映画製作の為の、デモンストレーションとして製作された予告編をご覧頂くと、完成した長編映画と同じ基本設定を持つものの、当初は非日常的な設定を中心に描いた、サスペンス色が強い作品であったと確認出来ます。
クラウドファンディングで製作費を募るなど、様々な努力の末に300万円を集めた上で、長編映画『メランコリック』の製作が始まります。
ちなみに製作費300万円という数字は、あの『カメラを止めるな!』とほぼ同じ金額です。製作環境や、純粋に中身を高く評価された作品であるなど、様々な共通点が指摘されています。
プロデューサーである皆川暢二は、直接交渉して浦安にある銭湯、“松の湯”をロケ地として選びました。交渉時に映画の内容を伝えたものの、オーナーが実に理解のある方で、撮影に自由に使わせてもらえたと、その舞台裏を語っています。
皆川暢二から、「仕事を待つだけの人生はいやだ。脚本・監督をやってくれ」との熱いオファーを伝えられたと話す田中征爾監督。彼は脚本の制作時に、自分の持つ劣等感を主人公に反映させ、その人物像を作り上げたと証言しています。
いよいよ撮影が始まると、限られた製作費だけでなく、監督が会社勤めをされているなどの制約もあり、僅か10日間で撮影を終えるという超タイトスケジュールで映画は製作されました。
撮影後の編集作業中には、「自分は世界一つまらない作品を作っている」様にも思えていたと、産みの苦しみを語った田中征爾監督。編集作業は東京国際映画祭の、応募締め切り日の朝に、ようやく終わりました。
こうして東京国際映画祭の、日本映画スプラッシュ部門に出品された『メランコリック』。苦労を経て送り出した作品を、監督は「東京国際映画祭では唯一、ただのピュアな自主映画」と紹介しています。
苦難を経て完成した映画が、完成度において如何なるレベルに達したかを、是非ご覧になって確認して下さい。
まとめ
才能溢れる三人が企画し、苦難を経ながらも完成させ、映画祭において高い評価を得た『メランコリック』。
危険な世界に巻き込まれ、奇妙な状況に流されゆく主人公が、様々な展開を経て他の登場人物と共に、ラストではいかなる姿を見せるのかを楽しみに、じっくりと映画をご覧下さい。
独特の笑いを漂わせる本作を、あえて例えて紹介するなら、銭湯やニートなど日本的風土で描かれた、流血込みのコーエン兄弟監督作品風の、完成度の高いクライムコメディ映画。
映画祭での受賞という、サクセスストーリーを歩んだこの作品が、更なる劇場公開とともに、多くの観客から支持を獲得する事を心から願いたい渾身の一作です。
映画『メランコリック』は2019年8月3日(土)より、アップリンク渋谷ほか順次公開!