劇場未公開だったイタリア映画『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』は、「Viva!イタリア vol.4」で劇場公開されました。
“落ちこぼれインテリをなめるなよ”とばかりに、危ない教授たちの逆襲が始まります。
欧州危機に始まるイタリアの社会背景を笑い飛ばす、痛快風刺コメディ映画『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』を紹介します。
CONTENTS
映画『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』の作品情報
【公開】
2014年(イタリア映画)
【原題】
Smetto quando voglio
【原案・脚本・監督】
シドニー・シリビア
【キャスト】
エドアルド・レオ、ヴァレリア・ソラリーノ、ステファノ・フレージ・リベロ・デ・リエンツォ、ロレンツォ・ラヴィア、ピエトロ・セルモンティ、ネリ・マルコレ
【作品概要】
本作は、『主席の学者がゴミ収集員』という記事が、イタリアの新進気鋭監督シドニー・シリビアの目に留まったのが発端でした。イタリア社会を小突き、皮肉をちりばめて笑い飛ばすストーリー。
登場人物たちの個性と怒涛の台詞がぶつかり合うこのイタリア映画は、公開後たちまち話題となり、2014年イタリア・ゴールデン・グローブ賞最優秀コメディ賞受賞。
本編は、更にスケールアップした続編『いつだってやめられる10人の怒れる教授たち』(2018 日本公開)のプロローグです。
映画『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』あらすじとネタバレ
神経生物学者で有機分子学の権威である研究員ピエトロ・ズン二は、強盗、恐喝、合法ドラッグの密売等で逮捕。
4ヶ月前。研究員ピエトロは、新たに開発した有機分子のアルゴリズムについて、予算委員会で発表していました。
途中でプロジェクターが壊れてしまい発表が中断。「政治の問題だ、君のことを話したら役員が微笑んでいたよ」と共同研究者の教授がひとこと告げて忙しそうに去っていきます。
ピエトロは嫌な予感がしながらも家に帰ります。
すると同居している恋人のジュリアは、「今日こそ、4人とも授業代払ってもらうのよ!」と声を荒げています。
ピエトロは家で家庭教師の授業を始めようと、部屋に入りました。
「景気が悪いのよ」と全く払う気のない生徒たち。
「もうダンスのレッスンに行くわ」と、生徒の3人が出て行く時、ピエトロは生徒の青年マウリッツオがいないことに気づきます。
彼はピエトロのベットで熟睡していました。
翌日ピエトロが居間に入ると、マウリッツオがジュリアと朝食を食べ、彼女は「知ってるでしょ、彼の両親交通事故で亡くなってるし、週末はウェイターでアルバイトして生活してるのよ」と言いました。
マウリッツオは、何度も頷きながら朝食を頬張っています。
大学でピエトロが学生の口頭試験をしていると、ある教授が「残念な知らせと最も悪い知らせがある」と呼びにきます。
新議会の結果、予算が打ち切られ、月500ユーロの給与も絶たれること告げられました。
ピエトロは「役員が微笑んでいたと言ったじゃないですか!」と反論すると、教授は「活動家は政治的に良くない」と告げました。
家に帰ったピエトロに、新議会の良い結果が聞けるだろうと嬉しそうなジュリアは、「月1000ユーロはあったでしょう?食器洗浄機買いたいわ、いいでしょ?」と話しかけます。
本当のことを切り出せず、遂にピエトロは審議も通り月1800ユーロも固いと嘘をつきました。
ベットに誘うジュリアに申し訳なさそうに、外へ出て行くピエトロ。
ラテン語学者の友人マッティアとジョルジオがが働くガソリンスタンドに行きました。
ピエトロは何とかお金を借りようと会いにやってきました。
そこに偶然高級車でガソリンを入れに来た青年を見て、ピエトロは驚きました。
授業料を払わず、両親が交通事故で亡くなり、週末生活費のためにバイトをしていると言っていたあのマウリッツオでした。
ピエトロは、すぐに車の後を追いかけ、マウリッツオの後をつけてディスコの中に入っていきます。
お金持ちのおぼっちゃまことマウリッツオは、「ピエトロ、楽しもうよ」とカクテルを勧めます。
自転車で全速力で追いかけてきたピエトロは、喉が渇いていたので一気に飲み干しました。
気がつくとトイレで気絶しており、ドラッグ入りのドリンクを飲まされていたことを知ります。
さらに原価たった2ユーロの合法ドラッグが100ユーロで売られている事実を知り、ピエトロは呆然とします。
イタリアでは、保険衛生省が公表している違法成分リストに載っていない成分から製造されるドラッグを、警察が取り締まることができないことをピエトロは、知っていました。
ピエトロは、いいアイデアを思いつきました。
リストに載っていない成分から、新しいドラッグを開発することを決心しました。
映画『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』の感想と評価
笑いの向こうは、痛く哀しい
本作品『いつだってやめられる7人の危ない教授たち』に出てくる教授や研究員たちは、2009年に始まった欧州危機の最大の犠牲者たちです。
そんなイタリア社会の現実の中で、生きて行くために自分の積み上げてきた権威や、プライドを捨てても生活していくメンバーたちです。
ギャング団結成前は、中華料理の皿洗い、ガソリンスタンド店員、工事現場の工員など毎日に日銭を稼ぐ中時々学者ならではの言い回しや思考が垣間見えて、涙と笑いが混じってしまいます。
ギャング結成の瞬間、メンバーの瞳は全員キラキラと光が輝くその時に、胸がキューンと張り裂けそうな切ない笑いがやってきます。
アルベルトが大学の研究室に忍び込んだ時、学生時代の自分の写真を見つけたあの微笑みと試作品を人権させてくれとピエールに懇願する潤んだ瞳。
声を上げて笑った後にくる心の痛みと哀しみ。
ムレーナがつぶやく言葉、「俺も流体学をやってたよ」
ムレーナとムレーナを見つめるピエトロ、その二人の見つめ合う瞬間。
刑務所で、ピエトロが「暴動でも起こすさ」とはにかんだ表情など、これらから想像させられることは、それでも人間は生きていると言うことです。
その健気さと強かさに底抜けの大笑いと涙でエールを送りたくなり、また一方で、彼らを見つめている観客はエールをもらえます。
まとめ
本作にはイタリアという国が立体的に見える箇所が、会話から垣間見える瞬間があります。
「ロマ」という伝統的な少数民族。
「レニングラード攻防戦」や「ロシア娼婦」というロシアとの歴史。
「アルバニア人」というイタリアの隣国アルバニアとの関係。
余談ですが、なぜかパーティーにギャング団が呼ばれて邸宅の門をくぐっていくシーンがあるのですが、その門に「ソウスリャナンデモ キープ・イット・グリージー(greasy:油こい、しつこいの意)」と日本語のカタカナ文字で書かれてありますが、日本の何かの意味を表しているかもしれません。
もう既に、続編『いつだってやめられる 10人の怒れる教授たち』(2018年/日本公開)、3作目『いつだってやめられる 名誉学位』(公開未定)と3部作が完成しています。
イタリアの皮肉と笑いとペーソスの世界を立体的に味わえるこの3部作。
まずは本作『いつだってやめられる 7人の危ない教授たち』から観てみるのはいかがでしょうか。