Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

コメディ映画

映画『ハッパGoGo大統領極秘指令』あらすじネタバレと感想。虚実入り混じりのドラッグ・ムービー

  • Writer :
  • 松平光冬

アメリカに渡ったウルグアイ人親子に与えられた極秘ミッション。
それは、「マリファナの供給ルートの確保」だった――

ウルグアイ発のコメディ『ハッパGoGo 大統領極秘指令』が、2019年7月13日(土)より日本公開されます。

マリファナの合法化という、世界初の政策から生じた問題を解決すべく、アメリカに渡ったウルグアイ人親子の珍道中を描きます。

映画『ハッパGoGo 大統領極秘指令』の作品情報


(C)Loro films

【日本公開】
2019年(ウルグアイ・アメリカ合作映画)

【原題】
Get the Weed

【監督・脚本】
デニー・ブレックナー、アルフォンソ・ゲレロ、マルコス・ヘッチ

【キャスト】
デニー・ブレックナー、タルマ・フリードレル、グスタボ・オルモス、ホセ・ムヒカ、バラク・オバマ(アーカイブ出演)

【作品概要】
2013年に、世界で初めてマリファナ合法化法案が可決された南米国ウルグアイを舞台に、マリファナの供給ルート確保にアメリカへ向かったウルグアイ人親子を描いたコメディ。

ウルグアイで活動する映画作家デニー・ブレックナー、アルフォンソ・ゲレロ、マルコス・ヘッチの3人が製作・監督・脚本を共同で担当し、ブレックナーは主演も兼任。

共演にブレックナーの実母タルマ・フリードレルと、大学教授が本職のグスタボ・オルモスという一般人をキャスティング。

さらには、マリファナ合法化に踏み切ったホセ・ムヒカ元大統領本人も出演し、話題を呼びました。

3年半という期間をかけて完成した本作は、2018年サンタバーバラ国際映画祭の審査員特別賞、2018年マラガ映画祭Zonacine部門観客賞を受賞しています。

映画『ハッパGoGo 大統領極秘指令』あらすじとネタバレ


(C)Loro films

南米にある人口約340万の国、ウルグアイ東方共和国。

2013年12月、この国で世界初のマリファナ(大麻)の合法化が承認されます。

大統領ホセ・ムヒカは、「麻薬密輸業者(ナルコス)と戦うための大いなる実験」と、国が栽培と販売を統括し、合法マリファナとして薬局で1グラム1ドルで販売する仕組みを確立。

経営難にあえぐ薬局を営んでいたアルフレドは、この法案がチャンスとばかりに、ブラウニーにマリファナを混ぜて試験販売を開始したところ、飛ぶように売れます。

やがてテレビ取材が訪れるほどの人気となるも、実はそのマリファナは密売業者から独自入手していたことが警察に発覚し、アルフレドは逮捕、独房入りに…。

しかし、国内ではマリファナ合法化から数ヶ月たっても軍による栽培が始まらないことから、徐々に不満の声が高まります。

このままでは自らの政党が推す次期大統領候補が負けてしまうと、任期満了間近のムヒカは策を講じることに。

それは、マリファナ入手の腕前を見込んだアルフレドを釈放させ、彼をアメリカに向かわせてマリファナの供給ルートを探らせるというものでした。

折しも、アメリカのオバマ大統領とホワイトハウスでの会談を控えていたムヒカが現地入りするまでの25日間で、1年に必要なマリファナ50トンを入手するという極秘指令を受け、アルフレドは母タルマと共にアメリカに渡ります。


(C)Loro films

早速アルフレドは、「ウルグアイ合法大麻会議所」というニセ組織をでっち上げ、コロラド州デンバーで行われる全米最大のマリファナイベント、「420ラリー」と「カンナビスカップ」に参加。

イベントで様々な団体や組織の代表とコンタクトを取って情報を集めますが、肝心のマリファナの実物が手に入りません。

続いて、アメリカで初めてのマリファナの一般販売を行った3Dマリファナセンターに向かうも、州外への持ち出しは禁止されているとして、やはり入手に失敗します。

次にアルフレド親子が向かったのはニューヨーク。

2人はそこで、ウルグアイ警察官にして元麻薬捜査官のタトを仲間に加えます。

人通りの多いニューヨークなら絶対情報が得られると、3人はタイムズスクエアやブルックリンでマリファナの入手ルートを聞きまわりますが、当然のごとく空回り。

アルフレドは、状況を知りたがるムヒカからの電話攻勢のプレッシャーを受けながらも、ニューヨークで知り合ったフランス人女性との恋のアバンチュールを楽しみます。

その一方で、母タルマとタトがいつの間にか親密な関係になっていたと知り、頭を抱えるのでした。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ハッパGoGo 大統領極秘指令』ネタバレ・結末の記載がございます。『ハッパGoGo 大統領極秘指令』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

アルフレドとタトは、マリファナが合法化されている州のひとつワシントンDCに向かい、タトの旧知の友にして、合法化に向けて動いた重鎮と面会し、アメリカにおけるマリファナの実情を聞きます。

どんどんと期日が迫りつつある中でも、ラテンアメリカンならでの情熱気質で入手ルートを探し続けていた3人でしたが、ついに街頭でマリファナを売るジャマイカ人との接触に成功。

ジャマイカンたちとフットサルをプレイして打ち解けたアルフレドは、期日ギリギリに彼らからマリファナ50トンの確保ルートのコネクションを密約します。

そうこうしているうちにムヒカが訪米し、オバマ大統領との歴史的会談に臨みます。

その間にアルフレドとタルマは、ウルグアイ合法大麻会議所員を名乗って駐米ウルグアイ大使を訪問。

大使と会談することで警備を手薄にし、その間にタトが大量に仕入れたマリファナをムヒカのトラックに積み込んで、秘密裏に輸送する作戦を実行します。

会談前に、入手したマリファナを混ぜて作ったブラウニーを誤ってタルマが食べたために、大使の前で卒倒してしまうハプニングがあったものの、作戦は無事成功。

ウルグアイに戻る飛行機の中で、アルフレドとタルマ、そしてムヒカは祝杯を上げるのでした――。
(C)Loro films

映画『ハッパGoGo 大統領極秘指令』の感想と評価

南米の小国ウルグアイ発、虚実入り混じりのコメディ


(C)Loro films

3人のウルグアイ人監督(ブレックナー、ゲレロ、ヘッチ)が本作『ハッパGoGo 大統領極秘指令』を製作したのは、2013年当時、マリファナ合法化によって自国の世論が大きく揺れていたことが発端でした。

緊張下にあった国内を解そうと、3人は薬局で「大麻入りブラウニーのテスト販売を開始」と嘘の宣伝をして、その模様を隠しカメラで映したドッキリ動画を作成し、YouTubeにアップ。

その動画の視聴者が100万人を越えたことで、これを映画化しようと決意します。

近年、YouTube動画から映画製作につながるケースは増えており、2018年の『アンクル・ドリュー』なども、老人に扮したNBA選手が華麗なプレイを披露するコマーシャル動画をドラマ化したものです。

しかし本作の面白さとして、一向に国内栽培が始まらず、合法化したもののマリファナ不足に陥っていた現実のウルグアイが、一段階乗っていることが挙げられます。

一般的に、マリファナなどのドラッグ類は南米から流れてくるものと思われがちですが、本作ではそれを逆手に取り、南米国がアメリカ本土にドラッグを仕入れに行くというフィクション(とも言い切れない面もありますが…)が効いているのです。

(C)Loro films

さらに現実とフィクションの境界について触れると、本作ではゲリラ撮影をかなり多用しています。

例えば、アルフレド役のデニー・ブレックナーがアメリカのドラッグイベントに参加するシーンは、劇中のニセ組織「ウルグアイ合法大麻会議所」を実際に名乗って参加しています(なお、参加するイベントの一つ「420ラリー」の420とは、マリファナを意味するスラングで、『パルプ・フィクション』の劇中に映る時計が全て4時20分なのもここから)。

ほかにも、タイムズスクエアでアルフレドがミッキーマウスやマーベルヒーローの着ぐるみ人物にマリファナの入手先を聞くシーンも、意味もなくモザイク処理が施された人物が映り込んでいるのも、おそらく“ガチ”で撮影したものと思われます。

それでいて、終盤でムヒカとオバマ両大統領の実際の会談映像を盛り込んだりもしているため、観客は一体何が現実で、何がフィクションか頭がパニックになるかもしれません。

南米の小国ウルグアイが、強国アメリカを徹底的に茶化してしまう痛快さが、本作の魅力となっています。

影の主役、「世界一貧しい大統領」ホセ・ムヒカ


(C)Loro films

そして本作最大の目玉とも言えるのが、ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカの出演でしょう。

ムヒカは1950年代中盤から政治活動にのめり込み、60年代中盤にトゥパマロス人民解放運動に参加し、ゲリラ活動を開始。

それにより4回も投獄されたり、6発の銃弾を浴びたりするも、1995年に国会議員となり、2010年から15年にかけて大統領を務めました。

大統領になっても給料の大半を貧しい人々に寄付し、愛車の古いフォルクスワーゲンを自ら運転し、大統領専用機も持たず、農場で質素に暮らす生活ぶりから「世界一貧しい大統領」と呼ばれるも、その清貧ぶりが国民に愛されました。

彼が全世界に先駆けて行ったマリファナ合法化も一見無謀と思われますが、きっかけは、不法に荒稼ぎしていた麻薬組織の壊滅という逆転の発想からきています(実際に、ウルグアイ国内の薬局で販売できるようになったのは2017年から)。

ムヒカが本作に出演した経緯について、3人の監督は一切明かしていません。

ただ、3人は映画が完成した際、一番最初にムヒカと彼の妻に試写を観てもらい、もし2人が気に入らなければ映画はお蔵入りするつもりだったとのこと。

しかし2人が大ウケしたことで、無事公開と相成りました。

そもそもムヒカ本人もエンディングで語っているように、ウルグアイは君主や特権階級に権力を統括されない共和国

そうした権力者を笑える内容となっている本作は、いかにもウルグアイらしい共和国的な映画となっています。

官僚的な人間はこの映画を気に入らないだろうけど、日々の生活にユーモアは必要だ」というムヒカの言葉が、全てを表しているのです。

まとめ


(C)Loro films

アメリカに行ってマリファナを入手してくるという危険な極秘指令…のはずなのに、当の本人たちからは危機感が感じられず、それどころがマリファナを吹かしまくったり、恋愛を満喫したりする始末――。

そうした陽気なラテン気質満載な内容と、作品全体を包むユルい雰囲気がミックスした本作『ハッパGoGo 大統領極秘指令』は、文字通りの“ドラッグムービー”といっても過言ではないかも。

ランニングタイムも75分という短さのため、サクッと観られる一本となっています。

『ハッパGoGo 大統領極秘指令』は、2019年7月13日(土)より新宿K’s cinemaを皮切りに全国で随時ロードショー!

関連記事

コメディ映画

【妻ふり映画】あらすじとキャスト!『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』

映画『家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。』は、6月8日(金) 謎の〈妻ふり〉ロードショー! ネットで有名なYahoo!知恵袋。そこにあげた投稿から始まった伝説のコミックエッセイを、榮倉奈々×安 …

コメディ映画

映画『セラヴィ!』あらすじネタバレと感想。ラストの結末も

結婚式はまさに、“現代社会の縮図”のようなものです。 人生は人に泣かされ人と笑う、そんな時間をウェディングプランナー30年の大ベテランのマックスが、17世紀のお城を舞台にして豪華絢爛の結婚式をプロデュ …

コメディ映画

映画『引っ越し大名!』あらすじネタバレと感想。星野源×高橋一生×高畑充希らで描く等身大時代劇

映画『引越し大名!』は2019年8月30日(金)より全国ロードショー公開! 泰平の時代を迎えた江戸時代。 その時代を生きた大名たちにとっての一大事業「国替え(=引っ越し)」をテーマにした等身大時代劇を …

コメディ映画

【ネタバレ】翔んで埼玉2|あらすじ感想と結末の評価解説。琵琶湖で滋賀を救え!“日本大阪人化”の野望と戦うシリーズ第2弾

伝説の茶番劇・第Ⅱ章は、まさかの《東西》対決!? 埼玉県の自虐ネタをたっぷり詰め込んだ、魔夜峰央のギャグ漫画を実写映画化した『翔んで埼玉』(2019)。そのご当地自虐ネタが話題を呼び、大ヒットを記録し …

コメディ映画

幽幻道士キョンシーズあらすじと全5シリーズ放送日!FOXムービーにて

「キョンシー来る来る、今日も来る!お札をおでこに貼り付けて、死んでもお里に帰るため」ご存知カワイイ!テンテンちゃんが帰って来る〜!、もちろん、チビクロ、トンボ、スイカ頭もね。 幽玄道士キョンシーズは日 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学