シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』は、6月9日より東劇他にて全国公開。
何か笑えるような楽しい日本映画が観たいと思った時に、実はオススメなのがシネマ歌舞伎!
歌舞伎座の夏芝居の風物詩として好評を得た『東海道中膝栗毛』では、お伊勢参りの途中でラスベガスにまで行ってしまうという奇想天外な新しい弥次喜多の物語が話題となり、2017年にシネマ歌舞伎として公開。
そんなお馴染みの弥次さん喜多さんのお騒がせコンビが、続編のシネマ歌舞伎では映画名探偵コナンのパロディも見せちゃいます!
CONTENTS
シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』の作品情報
【公開】
2018年(日本映画)
*上演2017年8月
【演出】
市川猿之助
【原作】
十返舎一九
【脚本】
戸部和久
市川猿之助
【構成】
杉原邦生
【配役】
弥次郎兵衛:市川染五郎(現・松本幸四郎)、喜多八:市川猿之助、大道具伊兵衛:中村勘九郎、女医羽笠:中村七之助、座元釜桐座衛門:市川中車、天照大神:市川笑也、瀬之川伊之助:坂東巳之助、中山新五郎:坂東新悟、玩具の左七:大谷廣太郎、芳沢綾人:中村隼人、女房お蝶:中村児太郎、舞台番虎吉:中村虎之介、伊之助妹お園:片岡千之助、伊月梵太郎:松本金太郎(現・市川染五郎)、五代政之助:市川團子、瀬之川亀松:中村鶴松、芳沢小歌:市川弘太郎、瀬之川如燕:市川寿猿、芳沢菖之助:澤村宗之助、芳沢琴五衛門:松本錦吾、若竹緑左衛門:市川笑三郎、同心古原仁三郎:市川猿弥、同心戸板雅楽之助:片岡亀蔵、鷲鼻少掾:市川門之助、関為三郎:坂東竹三郎 ※出演者名は上演当時の表記。
【作品概要】
歌舞伎の舞台を映像に収めて映画館で上映する「シネマ歌舞伎」シリーズ。第31弾は、2017年8月に歌舞伎座で上演された『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』を映像にお越し、2018年6月9日より公開。
また、シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛〈やじきた〉』の市川染五郎(現・松本幸四郎)と市川猿之助による弥次さん喜多さんコンビ第2弾。
シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』のあらすじ
【これまで(前回のあらすじ)】
歌舞伎座で大道具のアルバイトをしていた弥次郎兵衛と喜多八は、はずみで手にいれたお金を元に、お伊勢参りに旅に出ます。
道すがら借金取りに追われたり、怪奇現象にも見舞われたり、アメリカのラスベガスに辿り着いたりと、様々な苦難を乗り越え、やっとの事で伊勢参りを果たしたします。
そんな矢先、追いかけてきた借金取りから逃れるため、花火の筒に隠れた2人はそのまま打ち上げられてしまいました…。
【今回の物語】
花火に吹き飛ばされて、何の因果か運よく江戸に舞い戻って来た弥次郎兵衛と喜多八。
伊勢までの道中で一文なしとなった2人は、仕方なく歌舞伎座で裏方のアルバイトを再開します。
劇場では「義経千本桜」の初日を明日に控え、初日の切符は完売御礼で大繁盛。
しかし、舞台裏では俳優同士がいがみ合うなど、悪い噂が流れ不穏な空気になっています。
一方の弥次郎兵衛と喜多八の2人は、相変わらず失敗続きで、怒られてばかりいます。
そんななか、「四の切」の稽古中に舞台で殺人事件が起きます。しかも、こともあろうに次々に俳優たちの命が奪われて行きます。
弥次喜多の2人は、失敗したことを怒られたことを恨んでの犯行ではと、容疑者として疑われてしまいますが…。
映画『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』の感想と評価
歌舞伎というと、何だか敷居が高く、古くさいから観に行ったことがないという映画ファンもいるかも知れません。
でも、実は歌舞伎は意外なほど、現代的な今最先端なお芝居なのです!
例えば、最近のハリウッド映画で、CGIを使った特撮の大作映画や、マーベルやDCコミックのようなヒーローものしか見ないというあなた!
そんな人にこそ、今回ご紹介するシネマ歌舞伎を観ていただけると、どこかしら同じような点を見つけられるかもはずです。
歌舞伎の名称の由来は、「傾く(かたむく)」の古語にとなる「傾く(かぶく)」からきたと言われています。
戦国時代の終わりから江戸時代初頭に京や江戸で大流行した、派手な衣装や一風変わった異形なファッションを好み、常軌を逸した奇抜な行動とることを指した言葉です。
そのような人たちを「かぶき者」とも言ったことから始まります。そういうと、何だかアメリカンコミックを映画化した作品と近いような気がしないといえば、言い過ぎでしょうか。
特に今回は日本で一番初めに、今で言うところのベストセラー作家になった、十返舎一九(じっぺんしゃいっく)の読本『東海道中膝栗毛』が基になっていますから、楽しめる作品になっています。
それをまったく新しい感覚で、「オペラ座の怪人」ならぬ、“歌舞伎座の怪人”と言ったミステリー仕立てのコミカルな歌舞伎ですよ。
十返舎一九(じっぺんしゃいっく)とは
明和2年(1765年)〜天保2年8月7日(1831年9月12日)を生きた江戸時代後期の戯作者。
代表作『東海道中膝栗毛』で知られる十返舎一九は、元々は武士の出でした。
駿府府中(今の静岡)の下級武士の子どもに生まれ、若い頃に江戸に出ると小田切土佐守に仕えて、土佐守が大坂町奉行になったことで、今度は大坂に行きましたが、その後に武家奉公を辞めたと言われています。
大坂では、近松余七の名で浄瑠璃作者となった後、ふたたび江戸に出向くと、今で言う出版業者と言えばいいでしょうか。
蔦屋重三郎の食客となって仕事などを手伝ううちに、戯作の道に入ったそうです。
寛政7年(1795)になると、いくつかの洒落本を出した後、享和2年(1802)に初編として出した『膝栗毛』が大ヒット。
十返舎一九や版元の予想を超えた好評を得て、その後はシリーズ化。『東海道中膝栗毛』によって日本初の流行作家になり、つまりは原稿料のみで生活をすることができた初めての作家です。
凸凹か底抜けか?弥次喜多バディな『歌舞伎座捕物帖』誕生!
十返舎一九の書いた大人気となった『東海道中膝栗毛』を基に、新作「やじきた」シリーズとして書かれたのが、『歌舞伎座捕物帖』です。
今見ていただいたこの写真は、バディとなった弥次郎兵衛と喜多八が花火とともに伊勢から打ち上げられて、江戸に帰ってくる場面です。
前作で花火と一緒に夜空に打ち上げられた、スラップスティックコメディを思わせるオープニングから、続編は始まります。
しかも、市川染五郎(現・松本幸四郎)演じる弥次郎兵衛と、市川猿之助の演じた喜多八は、スローモーション映像を真似た演技での登場です。
これは「シネマ歌舞伎」という映像だからではなく、元々の舞台でそのように演じています。
何ともユニークな登場の仕方で、弥次郎兵衛と喜多八の2人は高いところにいますから、「馬鹿と煙は高いところが好き」と言いますから、彼らがお調子者で目立ちたがりなキャラクターであることを示しています。
これだけで見れば、これから物語がどんな風になるかは想像がつきます。
また、前作は観ていなくても、そこは「シネマ歌舞伎」!ちゃんと前作のダイジェスト映像も工夫されて、今回の一部として登場するのでご安心を。
市川染五郎(現・松本幸四郎)と市川猿之助が演じるやじきたコンビは、コメディ映画でいえば、凸凹コンビでお馴染みのアボット&コステロや、底抜けコンビのディーン・マーティンとジェリー・ルイスといったところでしょうか。
かつて見た「凸凹」シリーズや「底抜け」シリーズのように、本作『歌舞伎座捕物帖』は「やじきた」シリーズとして、ミステリーコメディとなったギャグは満載作品です!
歌舞伎の舞台道具を使った言葉遊びのダジャレから、親族や歌舞伎俳優をイジる楽屋ネタ、あの名探偵コナンのコナンくんや古畑任三郎のモノマネとパロディのオンパーレド。
また、NHK番組の「香川照之の昆虫すごいぜ!」的な場面までも登場しちゃいます!
ここまで言えば、歌舞伎ということで敬遠しているあなたにも、いか「シネマ歌舞伎」がエンターテイメントで、面白いのかわかっていただけたでしょうか。
実はこれだけでなく、まだ、『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』にはあの隠れキャラも登場します。(配役表見るとばれちゃいますが…)
また、今回の歌舞伎座で起こる殺人事件の背景にはジェンダーについてのことも絡んできます。まさに今日的な映画そのものですよね。
あなたもご存知のように歌舞伎は、すべて男性の役者が演じています。
十返舎一九の原作やキャラクターを活かしながらも、脚本を担当した戸部和久や、また、脚本と演出を務めた市川猿之助の現代的センスに驚かされます。
後半の事件展開や真犯人、そしてボスキャラ登場⁈。
やはり、歌舞伎の舞台でLGBTに触れるようなモチーフを入れ込んだ巧みさは、映画の原点のひとつに歌舞伎があるだという証とともに、チョッと今の日本映画には手本にしてほしいところですね。
文句なしにエンターテイメントに笑え、日本文化の豊かさ堪能できるシネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』。
これ必見ですよ!
まとめ
シネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』では、歌舞伎座の裏舞台で起きた殺人事件を描いています。
そこで歌舞伎の仕掛けを使いつつ、まるで歌舞伎を学ぶメイキングビデオ的な要素もあるので、歌舞伎初心者や玄人の方も一緒に楽しめるでしょう。
そして、大入り満員を迎える初日前に起きた連続殺人事件、歌舞伎座を血で汚す“真犯人の思い”とは何か。
弥次郎兵衛と喜多八こと、市川染五郎(現・松本幸四郎)と市川猿之助が演じる、バディなやじきたコンビの推理と活躍いかに?(騒動かな)に、ぜひ、コミカルな滑稽ぶりに注目してくださいね。
また、どこか客演のように粋に演じる中村勘九郎や中村七之助のお二人の姿に笑わせられますよ。
さらには個人的には、市川團子の異彩を放った演技を超えた風格に、歌舞伎の未来が楽しみなのはいうまでもありませんよー。
どこまでもエンターテイメントなシネマ歌舞伎『東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖』は、6月9日より東劇他にて全国公開。
“やじきた”初のミステリーを映画館の大スクリーンで、お見逃しなく!