映画『ブラインドスポッティング』は2019年8月30日よりロードショー公開
黒人男性射殺事件で揺れたカリフォルニア州オークランドを舞台にした映画『ブラインドスポッティング』。
小学生から一緒に育ってきた黒人のコリンと白人のマイルズを取り巻く人種の壁と個々のフラストレーションを、ユーモアたっぷりに等身大で描いた秀作です。
グラミー賞及びトニー賞を受賞しているマルチタレントにして『ワンダー 君は太陽』で知られるダヴィード・ディグスとラファエル・カザルが製作・脚本・主演を務めています。
映画『ブラインドスポッティング』の作品情報
【公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Blindspotting
【監督】
カルロス・ロペス・エストラーダ
【脚本】
ダヴィード・ディグス、ラファエル・カザル
【キャスト】
ダヴィード・ディグス、ラファエル・カザル、ジャニナ・ガヴァンカー、ジャスミン・ケパ・ジョーンズ、ウェイン・ナイト、イーサン・エンブリー
【作品概要】
本作は、実生活でも高校の時から親しい友人ダヴィード・ディグスとラファエル・カサルが10年以上掛けて温めその構想を練った物語です。
2人はともにカリフォルニア州オークランド出身であり、2009年に起きたオスカー・グラント射殺事件を受けて脚本に反映しました。
2018年1月にサンダンス映画祭で上映され、『ジョン・ウィック3』や『ガラスの城の約束』など話題作を手掛けるライオンズゲートが配給しました。
映画『ブラインドスポッティング』のあらすじとネタバレ
カリフォルニア州、オークランド。2ヶ月の刑期を終えたコリン・ホスキンスは仮釈放されます。裁判官は、社会復帰施設に1年間滞在することを命じ、定められた義務を説明します。
夜11時に定められた施設の門限をはじめ、与えられた雑務の実行、職の維持、アラメダ郡外への移動禁止。そして、法執行機関と如何なる問題も起こさないこと。麻薬使用や喧嘩などに関われば、仮釈放は取り消され即時刑務所へ再収監されると言い渡されました。
それから11ヶ月と3日後。仮釈放期間満了まであと3日。夜、コリンは親友のマイルズともう1人デズと一緒に車の中でハンバーガーを食べています。
不味いと口から吐き出したマイルズは、車中にある拳銃を発見。「弾が入っているのか?」と訊くと、デズは得意げな顔で「ダッシュボードにも有るゼ」と答えます。
もう1丁ダッシュボードから拳銃を見つけたマイルズは興奮気味。後部座席に座っているコリンは焦って車から出ようとしますが、2シーターのため扉が付いていません。
デズはサンバイザーの上や後ろにも有るよと更に銃の在りかを教えます。結局3人の両手にはそれぞれ2丁ずつの拳銃が…。
コリンは門限が迫っていると訴えますが、マイルズはコリンが握っていたリボルバーを気に入りデズに金を払って購入します。
コリンとマイルズは配車サービスの仕事に行くデズの車から降り、帰路に着きます。コリンは後3日で自由の身となり、人生をやり直すと意気込みました。
2人が仕事をする引っ越し業者のトラックでマイルズを自宅まで送り届けた帰り、コリンは信号が赤になり停車します。
門限を気にしながら腕時計に視線を走らせ、青信号でアクセルを踏み込んだ所へ走って来た1人の黒人男性がトラックにぶつかります。
緊張した面持ちの男性は直ぐにまた走り出しますが、後から追い掛けて来た警官が止まれと怒鳴り、銃を抜いて男性に向けます。
「撃たないで」と叫ぶ男性を警官は何度も狙撃。トラックのバックミラーに映る男性は道路に倒れていました。
ショックを受けたコリンは警官を凝視していると、その警官がゆっくりコリンに顔を向けます。
そこへサイレンを鳴らしたパトカーが到着。降りてきた他の警官は、コリンに立ち去れと激しい口調でトラックを叩きます。
次々に急行するパトカーのサイレンを聞こえる中、コリンは荒い息を押し殺しつつも施設へ戻りました。
自室に入ったコリンに対し、扉をノックする施設の責任者が門限を9分過ぎていること、トイレ掃除の当番であることを忘れないよう忠告します。
仮釈放刑期満了まであと2日。6時25分にアラームが鳴り、コリンは日課のジョギングへ出掛けます。昨夜射殺された黒人男性と目が合った瞬間が頭を過り、コリンは頭を振りながら走り続けました。
マイルズを迎えに行ったコリンは、前夜に目撃したことを打ち明けます。マイルズは思わず息子ショーンの耳を塞ぎ、妻のアシュリーはコリンを心配します。
職場へ向かうコリンとマイルズが途中食料品店に寄ると、店内のテレビでは昨晩コリンが遭遇した事件が報道されていました。ニュースは逃走した容疑者を警官が4発撃って死亡したと伝え、警官モリーナの顔写真が映し出されます。
レジ側の冷蔵室に入った緑色の健康ジュースが10ドルと聞き文句を言うマイルズの隣で、コリンは1瓶購入。職場の事務所へ到着したコリンは、買ったばかりのジュースで事務員のヴァルに健康志向をアピールしました。
仕事を終えたコリンは、マイルズを連れて母を尋ねます。アジア人の義父と挨拶を交わし、重罪犯の身で簡単に住居を借りられない為、仮釈放の刑期満了後に施設を出たらしばらく厄介になりたいと母に頼みました。
マイルズは、コリンの母親が使わなくなった沢山のヘアアイロンを貰い、近くのヘアサロンで販促します。
店主は使い勝手をコリンの髪の毛で試します。ドレッドヘアがストレートになったコリンは浮かない顔。
バイレイシャルのショーンをバイリンガル環境が整った幼稚園に通わせたいアシュリーの為に教育費を稼ぎたかったマイルズは、ヘアアイロンを売ったお金の中からコリンに分け前を渡します。
門限にまたしても間に合わなかったコリンを、施設職員が見咎めます。ルールを守る能力をもう一度養えと言い聞かせ、自分が報告書に書けば新たに1年間の滞在延長になると警告。現時点ではまだ重罪犯であるコリンに、「自分を証明し続けろ」と言いました。
黒人男性を射殺した警官モリーナが判事の席に座る悪夢を見たコリンは、翌日も早朝のアラームで目が覚めます。
仮釈放刑期満了まであと1日。ジョギングに出たコリンですが、モリーナの顔がチラつきます。
仕事を終えて事務所に戻ったコリンを見て、過去の事件を思い出した客が連れの友人に語って聞かせます。
以前バーでバウンサーをしていたコリンは、店内の飲み物を外へ持ち出した客に注意しました。しかし、口論となり客に突き飛ばされたコリンは、相手を殴り、側に居た気の短いマイルズが更に酷い暴行を加えてしまったのです。
苦い記憶を思い出すコリンに、ヴァルは、本気で更生したいならマイルズとの付き合いを止めるよう忠告します。
マイルズは11才の時から育った自分の親友であり、一度も訪れなかったヴァルとは違い、刑務所に何度も面会に来てくれたとコリンは言い返します。
ヴァルは、白人だった客を蹴飛ばしていたのが同じ白人のマイルズではなく、もし黒人のコリンであれば、駆けつけた警官は発砲していただろうと苦言を呈しました。
デズが迎えに来てパーティーへ向かったコリンとマイルズ。黒人みたいな振りをする必要は無いと軽口を叩かれたマイルズは、腹を立て相手を床に突き飛ばします。
直ぐ止めに入ったコリンはマイルズを連れて外へ出ますが、突き飛ばされた男性が追って来て白人を蔑む言葉でマイルズを呼び止め、2人は殴り合いの大喧嘩に発展します。
またしてもキレたマイルズは度を超えて相手を暴行。パーティーの主催者に出て行けと怒鳴られ、集まった客達からもひんしゅくを買います。
止まらないマイルズは、携帯していた拳銃を取り出し空に向かって何度も発砲。コリンはマイルズの手から拳銃を奪い取り、2人はその場から走り出しました。
映画『ブラインドスポッティング』の感想と評価
『ブラインドスポッティング』は、アメリカに住む異なる人種の人々が抱える葛藤と日々直面する差別の現実を圧倒的なリアリティを持って描いています。
人種差別は、自分がされて初めてそのぶつけようのない怒りやストレスが分かります。本作は、正にそこを理解してもらうため、実に的を射た描写をしています。
マイルズと口論した後に夜道を歩くコリンを、パトカーがUターンして着いて来る場面。夜出歩く黒人に無言のプレッシャーを掛ける警察の態度を表しています。
製作・脚本・主演を兼ねたダヴィード・ディグスとラファエル・カザルは、誰もが理解し共感して貰えるよう作品の構想を練ったと明かしています。
ディグスは、このシーンでコリンが感じる恐怖を理解できない黒人は存在しないが、経験することが無いために分からない白人をたくさん知っていると話しています。
的確に表現された日常に起きる事実は張りつめた空気を捉え、観る人は皆コリンのポケットにある銃が見つからないことを祈るでしょう。
この背景に在るのは、アメリカの都市部で行われるジェントリフィケーションにあります。「再開発」と言えば聞こえが良いですが、その実態は貧困層を強制的に排除する政府の政策です。黒人をターゲットにする意識が更に強くなっていった為、必然的に反発が起き、現在も人種間の溝は深まっています。
そして、本作がもう1つ伝えているのは、重罪を犯した元受刑者のコリンは銃を携帯していても、それが彼の全てではないということです。
黒人だから射殺する警官より、二流市民の扱いを受けても引き金を引かない人間の差は歴然としています。
タイトルの「ブラインドスポッティング」とは、作品のために造られた新用語で、日本の学校教育にも使われている「ルビンの壺」に由来します。
カザルは、ある事象を見た時に1つの存在を認識すると、そこあるもう1つの存在を見逃してしまうことから、これを「死角」だと説明しています。
劇中、コリンがモリーナに銃を向けて怒りを爆発させる場面で、「I am both pictures」という台詞があります。黒人という見た目だけで判断するなというコリンの訴えです。
「人は一面的ではないと気づき、努力をして相手を理解する必要性」をメッセージに込め、ディグスとカザルは作品のタイトルを『ブラインドスポッティング』と決めました。
また、誰もが受けたくないであろうモリーナ役を演じた『イーグル・アイ』やテレビドラマ『スニーキー・ピート』で知られるイーサン・エンブリーの好演も特筆すべき点です。
口コミで広がり批評家から絶賛された本作は、当初限定された劇場のみで公開。低予算で派手さは無くても、多くの人々の琴線に触れるこの作品を発見した日本の配給会社にエールを送ります。
まとめ
仮釈放の刑期満了まであと3日を残したコリン。警官が黒人男性を背後から射殺する所を目撃します。騒げばまた刑務所へ送られると恐れたコリンは沈黙し、良心の呵責に苛まれます。
そんな彼の心情の前で、無頓着な親友マイルズは短気を起こしコリンの刑期満了最終日に銃を発砲。幼い頃からの親友同士が本音でぶつかり合い、互いに持つ人種の隔たりが初めて浮かび上がります。
晴れて自由の身になった初日、コリンに課された試練は自分の葛藤と対峙することでした。
『ブラインドスポッティング』は、アメリカで日常化するレイシャルプロファイリングがもたらす人々の精神的苦悩を見事に映像化した佳作。お勧めの映画です。