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『ヴィーガンズ・ハム』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。肉屋夫婦が人間狩りを始めた最後の運命とは⁈

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

廃業寸前の「肉屋」が販売を始めたのはヴィーガンの肉だった!?

お店の経営と夫婦間の危機を迎えた肉屋が、あることをキッカケにヴィーガンの肉を販売し始める、フランスのブラックコメディ『ヴィーガンズ・ハム』

「完全菜食主義者」のヴィーガンを、肉屋の夫婦が獲物にしていくという、人間狩りとも呼べる内容で、良識的な方は受け入れられない作品かもしれません。

ですが、本作はただ趣味が悪いだけの、ブラックコメディではありません。

人間の本質的な部分を捉えている、かなり特異な作品である『ヴィーガンズ・ハム』の魅力をご紹介します。

映画『ヴィーガンズ・ハム』の作品情報


(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888

【公開】
2022年映画(フランス)

【原題】
Barbaque

【監督・脚本】
ファブリス・エブエ

【共同脚本】
バンサン・ソリニャック

【キャスト】
マリナ・フォイス、ファブリス・エブエ、ジャン=フランソワ・キエレイ、リサ・ド・クート・テイシェイラ

【作品概要】
廃業寸前の肉屋を営むヴィンセントが、店を襲ったヴィーガンへの復讐をキッカケに、ヴィーガンの肉で作ったハムの販売を始める、フランスのブラックコメディ。

コメディアン出身の監督、ファブリス・エブエが主演も務め、『私は確信する』(2018)のマリナ・フォイスが、ヴィンセントの妻ソフィーを演じています。

映画『ヴィーガンズ・ハム』のあらすじとネタバレ


(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
肉屋を営み、肉に対して強いこだわりと愛情を持っているヴィンセント。

ですが、結婚して30年になる、妻のソフィーとの夫婦関係は完全に冷め切っていました。

また、肉屋の経営も危機的な状況で、廃業寸前となっています。

ある時、ヴィンセントの肉屋が、動物の覆面をした集団に襲われます。

覆面の集団はヴィーガンで、動物の肉を販売する肉屋を何件も襲っていました。

その中の1人を取り押さえ、覆面を取ったヴィンセントは、男の顔を見ますが、暴行を受け逃げられてしまいます。

数日後、ソフィーの友人ステファニーに招待され、ヴィンセントとソフィーはステファニーの自宅を訪ねます。

ステファニーの夫マルクは、肉屋で成功しており、4店舗のチェーン店を展開しています。

ですが、肉を量産する為に薬を使っており、ヴィンセントにはそれが許せませんでした。

ステファニー夫婦との食事の帰り道。

さんざんマルクに自慢されたことから、ヴィンセントとソフィーはストレスが溜まり、口論となります。

ソフィーに離婚を切り出されたヴィンセントですが、数日前に店を襲ったヴィーガンの1人を偶然発見します。

勢いに任せて、ヴィーガンをひき殺したヴィンセントですが、その後のことを考えていませんでした。

ソフィーは、かつてフランスを震撼させた猟奇殺人鬼が、死体を解体しゴミ箱に捨てたことを思い出し、ヴィンセントに実行させます。

夜中に、ヴィーガンを食肉解体したヴィンセントは、疲れて眠ってしまいます。

ヴィンセントが目を覚ますと、すでにお店の開店時間となっており、ソフィーがハムを売っていました。

ソフィーが、豚肉と間違えて加工したそのハムは、昨夜ヴィンセントが解体したヴィーガンの肉でしたが「ハムが美味しい」と、街中の評判になってしまいます。

ヴィンセントは戸惑いながらも「イランの農場から豚を仕入れた」と嘘をつき、販売を続けますが、ヴィーガンの肉が無くなってしまいます。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『ヴィーガンズ・ハム』ネタバレ・結末の記載がございます。『ヴィーガンズ・ハム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
ヴィーガンの肉を加工した、ハムが売れることに気付いてしまったソフィーは、次のヴィーガンを探そうとしますが、ヴィンセントは乗り気ではありません。

それでも、ソフィーの強引さに巻き込まれたヴィンセントは、ヴィーガンをおびき出す為に「動物殺害反対」の運動を起こします。

その運動に興味を持った、やせ形のヴィーガンの男に誘われ、ソフィーとヴィンセントは真夜中の肉屋襲撃に参加します。

肉屋襲撃のメンバーの中に、ヴィンセントの肉屋を襲った男、カミーユも参加していました。

ソフィーとヴィンセントはカミーユに「どこかで会ったか?」と聞かれますが、咄嗟に「私たちは花屋だ」と嘘をつきます。

肉屋襲撃のターゲットは、マルクの肉屋でした。

ソフィーは嫌がりますが、逆にヴィンセントはノリノリで、マルクの肉屋を破壊します。

結局、新たなヴィーガンが手に入らなかった夫婦には、もう一つ悩みがありました。

娘のクロエの恋人、リュカが極度のヴィーガンで、ソフィーとヴィンセントは肉屋を営んでいるだけで、めちゃくちゃに罵倒されます。

ヴィーガンのハムを販売すれば、肉屋の経営危機が救えるのに、煮え切れないヴィンセントに苛立ったソフィーは、ヴィーガンの男を誘惑し、自宅に連れ込みます。

ソフィーはヴィンセントに、男を殺させようとしますが、ヴィンセントは嫌がります。

ヴィーガンの男と話をしようとしたヴィンセントですが、男にソフィーを侮辱されたことで頭に血が昇り、男を殴り殺します。

殺してしまったヴィーガンの男をハムにし、再び販売を再開すると、店は大盛況となります。

ここから、何かが吹っ切れたヴィンセントは、ソフィーと共にヴィーガンを次々に狩り、ハムにして販売するようになります。

次のヴィーガンを探し、野菜食のイベントに来たソフィーとヴィンセントですが、リュカに見つかってしまいます。

リュカは「肉屋がここに何の用だ?」と、2人を罵倒します。

その様子を、イベントに参加していたカミーユに見られてしまいます。

数日後、新たなターゲットとなったヴィーガンのウィニーを、ソフィーとヴィンセントはおびき出しますが、ヴィンセントが刃物を振り上げた瞬間に逃げられてしまいます。

それでも、ウィニーを追いかけたソフィーとヴィンセントですが、ウィニーは心臓発作で亡くなってしまいます。

ヴィンセントはウィニーの肉を料理し、ステファニー夫婦に振る舞いますが、肉の中からペースメーカーが出て来たことで、元看護士のステファニーに疑念を持たれます。

ヴィンセントはステファニーを罵倒し、マルクの耳を噛みちぎって帰ります。

その夜、ヴィンセントはヴィーガンの肉を食べ始めたことで、自身が凶暴になっていることを悩みます。

そこへ、リュカが訪ねて来て「罵倒して申し訳ない、あなた達は立派に生きている」と謝罪されます。

そのリュカを、ソフィーが殺そうとした為、ヴィンセントはリュカを逃がします。

ヴィンセントは、ヴィーガンのハムを販売することを止めます。

そのせいで客足が再び途絶えてしまい、ソフィーと喧嘩をしたことで、ヴィンセントは頭を冷やす為に、散歩に出かけます。

肉屋で1人になったソフィーを、カミーユが仲間を連れて襲います。

肉屋の倉庫で縛られたソフィーは、カミーユの仲間に「肉にされて、可哀想な動物と同じ運命を辿らせる」と、刃物を向けられます。

そこへ、店に帰って来たヴィンセントが現れ、ソフィーと共にカミーユと仲間のヴィーガンを殺していきます。

数日後、ソフィーとヴィンセントの連続殺人が明るみになり、2人は「ヴィーガンを30人殺した殺人鬼」として伝説になります。

法廷で「最後に何か言いたいことは?」と聞かれたソフィーは「ウィニー」と答えるのでした。

映画『ヴィーガンズ・ハム』感想と評価


(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
ヴィーガンの肉を加工したハムを売る為、ヴィーガン狩りを行う夫婦を描いたブラックコメディ『ヴィーガンズ・ハム』

ヴィーガンは「完全菜食主義者」のことで「動物の搾取を避けるべき」という考え方の人達です。

何を食べて生きていくかは、もちろん個人が決めればいいですし、人それぞれなので、ヴィーガンを標的に人間狩りを行う夫婦の映画は、普通に考えれば酷いんですが、そんなことは気にならないぐらい、本作は見事なまでに、ユーモラスな作風に仕上げています

まず、主人公のソフィーとヴィンセント、夫婦のキャラクターが個性的です。

ヴィンセントは異常なまでに、肉への愛情とこだわりを持っています。

本作のオープニングは、ヴィンセントがお客さんに肉を提供する為に、肉をスライスし、必要以上にパンパンと叩き、紙に包んで販売する場面から始まります。

楽しそうに肉を扱うヴィンセントと、その様子を冷たい目でずっと見ているソフィーの、何とも言えない微妙な空気から始まるんですが、一切セリフが無いこの場面で、2人の関係が分かります

やはり、ソフィーはヴィンセントに不満を持っており、その不満が爆発する形で、ヴィーガンで作ったハムを売ることになるんですね。

このソフィーが猟奇殺人事件のマニアで、ヴィーガンのハムを作る為に、過去に起きた猟奇殺人事件を参考にするのですが、ここで更に話がややこしくなっていきます

ヴィーガンのハムを作らせようとするソフィーと、頑なに嫌がるヴィンセント、この2人のやりとりが面白く「上質な肉にこだわりたい」といろいろ言い訳をするヴィンセントが、苦し紛れに発する「神戸ヴィーガン」というパワーワードも飛び出します。

ただ、本作は「ヴィーガンに何をしてもいいんだ!」という極端な思想がある作品ではありません

本作で重要な存在となるのが、娘のクロエの恋人リュカです。

ソフィーとヴィンセントは、リュカを食事でもてなそうとしますが、極度のヴィーガンであるリュカは、何だかんだ理由をつけて、何も食べようとしません。

この場面のリュカは、ヴィーガンである自身の思想から、完全に肉屋のヴィンセントとソフィーを見下しています

ですが物語の中盤で、リュカはソフィーとヴィンセントに、自身の思想を押し付け罵倒したことを、謝罪します

つまり、ヴィーガンとかそうじゃないとか、たった一つの言葉で、その人の全てを分かったようになる、それこそが本当に危険なことで、本作はその浅はかさを皮肉っているんです。

肉屋を襲撃したカミーユ達のように、もはや聞く耳をもっていないような人は別ですが、基本的に主義を押し付けるのではなく、分かり合おうとする姿勢が大事なんですね。

というメッセージも感じつつ、本作が素晴らしいのは、難しいことは抜きにして、コメディに振り切っている部分です。

特に、ヴィーガン狩りに目覚めたヴィンセントが、ヴィーガンを追い回す場面は、草食動物を狩る肉食獣の映像とリンクしており、かなり馬鹿馬鹿しくも笑える場面となっています。

ヴィーガンを狩ってハムにするという、なかなか酷い内容の作品なので、一つ間違えると不快な作品になりかねませんでしたが、最後まで笑えて楽しい作品に仕上がっているのは見事でした。

まとめ


(C)2021 – Cinefrance Studios – TF1 Studio – Apollo Films Distribution – TF1 Films Production – Chez Felix Cinefrance SAS – Cinefrance Plus – Cinefrance 1888
本作はソフィーとヴィンセントの関係性が面白く、夫婦仲が冷え切っている序盤、ヴィーガン狩りを始めた中盤、再び関係が悪化する終盤と、夫婦仲も展開に応じて変化していきます

最終的に、伝説的な猟奇殺人鬼になってしまった夫婦ですが、最後の裁判の場面では夫婦仲が良さそうだったので、それは良かったんじゃないでしょうか

ただ、最後に何故ソフィーは、犯罪がバレるキッカケになったウィニーの名前を出したんでしょうか?

ヴィーガンのハムを売って儲けることに、おそらくソフィーも抑止力が効かなくなり、止まるキッカケを求めていたのでしょう。

止まるキッカケを与えてくれたウィニーに、感謝を伝えたセリフそれが最後の「ウィニー」じゃないでしょうか。

ただ、ソフィーとヴィンセントは様々な場所で銃を撃って、ヴィーガンを殺しまくってるんで、ウィニーの前に犯行がバレてても不思議じゃありません。

そこは、街の警官が恐ろしく無能に描かれているので、コメディということも踏まえて、内心でツッコミながら観賞すると更に楽しめる作品です。



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