連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第29回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第29回は、日本でのリメイク版も決定したスリラー映画『CUBE』(1997)。
立方体の中だけで物語が進むワンシチュエーションかつ登場人物も極端に少ない低予算映画でありながら、類似作品が多く生み出されたほどの高い人気を誇る本作には、鑑賞者の意識を誘導するさまざまな工夫がなされていました。
ビンチェンゾ・ナタリ監督の密室スリラー『CUBE』をご紹介します。
【連載コラム】「B級映画ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『CUBE』の作品情報
【原題】
Cube
【日本公開】
1997年(カナダ映画)
【監督】
ヴィンチェンゾ・ナタリ
【キャスト】
ニコール・デ・ボア、デヴィッド・ヒューレット、アンドリュー・ミラー、モーリス・ディーン・ウィント、ニッキー・グァダーニ、ウェイン・ロブソン
【作品概要】
テレビドラマや短編映画の監督を務めていたヴィンチェンゾ・ナタリが初めて製作した長編映画。
本作の大ヒットを機にヴィンチェンゾ・ナタリはドラマシリーズ「ハンニバル」や「ストレイン 沈黙のエクリプス」など話題作の監督を務めることになります。
映画『CUBE』のあらすじとネタバレ
各面にハッチの存在する立方体の部屋で目を覚ました男性。
各面のハッチは同様の立方体の部屋へと繋がっており、ハッチをくぐり隣部屋へと移動した男性は部屋に仕掛けられたワイヤーカッターによって切り刻まれ死亡してしまいます。
各キューブから5人の男女が集結します。
3人の子供を持つ警察官のクエンティン、頭を打ち生きる覇気のないワース、数学を専攻する女学生のレブン、陰謀論を信じる医師のハロウェイ、そして脱獄のプロであるレン。
レンはハッチを開け隣部屋に靴を投げると靴は火炙りにされ、隣部屋には動作感知機が仕掛けられているとわかります。
誰も立方体に来た時の記憶がなく、犯人たちの目的もわからないまま靴を隣部屋に投げて安全を確認し進むことになります。
唯一の手がかりは、定期的に聴こえる動作音と部屋と部屋を繋ぐハッチに記載された9桁の番号だけでした。
隣部屋のハッチを開けた際に、レンが空気が乾いていることから分子感知器があることを確認し、その部屋が罠であると察します。
「目の前のことに集中しろ」と一向にアドバイスすると、レンは罠と確認した部屋とは違う方向の部屋へと進みますが、進んだ先の部屋で壁から噴射された硫酸を浴びてしまいます。
クエンティンはすぐさまレンを引っ張り上げますが、硫酸は彼の頭部全体を腐食させ、レンは死亡。
集められた人間の能力に注目が集まった時、学生のレブンが各部屋に記載された数字に注目します。
今まで通った素数を含む数字が記載された部屋に罠があったことから、数字を読めば罠にかからずに移動できると考えたレブンはその方法で部屋を突破して行きます。
いくつかの部屋を突破した際、上の部屋から知的障害を抱えたカザンが落ちて来ます。
さらに次の部屋に進もうとした際に、素数の数字ではない部屋に罠がありクエンティンが負傷。
みんなの士気を下げるような言動を繰り返すワースをクエンティンは怪しみ追求すると、ワースはこの立方体の続く構造物の外殻の設計者であることを自白します。
しかし、依頼主も目的も分からないワースは、この構造物にはもともと目的があったが、今は入れるものがなくなったから適当に人を入れ始めたと考えており、生きる覇気を失っていたのでした。
ワースはこの構造物の外角の1辺が132メートルであったことを覚えており、そのことからレブンは部屋の数が26×26×26となる17576個であることを導き出します。
さらにワースは外殻にひとつだけ外に出る部屋が用意されていることも話し、脱出口が存在することも明らかになります。
レブンは各部屋に記載された数字がデカルト指標であり、数字を読み解くことで現在の座標が示されていると考えますが、各辺が26個の立方体によって成り立っているならば、存在しないはずの27の座標が出たことでその説に懐疑的になりました。
皆をまとめて来たクエンティンでしたが、カザンが迷惑になると考え見捨てようとするなど、徐々に暴君と化して行きます。
端の部屋に到着しハッチを開けると長い暗闇がどこまでも続いており、地面も見えないことから正解の部屋以外の外周の部屋は出口ではないと判明。
さらに服で紐を作りハロウェイが外を調査しますが、やはり正解の出口以外からの脱出ができないことがわかります。
ハロウェイは部屋に戻ろうとし、引き上げるために手を伸ばしたクエンティンがハロウェイの手を掴みますが、クエンティンと口論していたハロウェイはわざと手を離され、底の見えない暗闇へと落下していってしまいます。
さらにクエンティンは罠のない部屋であることを確認するために、ワースを下の部屋に突き落としました。
映画『CUBE』の感想と評価
ワンシチュエーションながら引き込まれ続ける工夫
本作は上映時間の全てが立方体の部屋の中で描かれており、外の世界や別の舞台が登場することは一切ありません。
しかし本作はワンシチュエーションでありながら飽きを感じさせない工夫を随所随所に盛り込んでおり、絶望感と要素が繋がっていく快感によって上映時間たっぷりと作品に引き込まれます。
ハッチによって各立方体は繋がっており物語はハッチを移動し続けながら展開していきますが、各立方体内の照明がところどころ異なるなど同じ舞台ながらも移動している感覚を照明の違いによって表現しています。
脱出の糸口となる「数字」に関しても物語の序盤から明らかにしておくことで、フェアかつ数字を巡った立方体の真相が2点3点していく様相が楽しめます。
こう言った要素はワンシチュエーションスリラーの傑作となる『SAW』(2004)に引き継がれ、ジャンルの発展に貢献しただけでなく、今に続く人気の秘訣ともなりました。
実力派俳優を揃え日本でのリメイクを制作する
本作をベースとしたリメイク作品がなんと日本で製作され公開されます。
『花束みたいな恋をした』(2021)などに出演し日本アカデミー賞の受賞歴を持つ人気俳優の菅田将暉を主演に据え、『さんかく窓の外側は夜』(2021)の岡田将生や幅広い役を引き受ける斎藤工、『真夏の方程式』(2013)の杏、そして吉田鋼太郎など人気俳優から実力派俳優で固めた出演陣を揃えています。
人気俳優を揃えたことで本作の持つゴア描写が薄れるのでは、と言う懸念もありましたがリメイク版にも原作で恐怖を示した「ワイヤートラップ」は健在。
数字による脱出口の推理も引き継がれており、実力派俳優や若い世代に人気の俳優を起用したことで広い世代に映画『CUBE』の魅力を広めるきっかけとなることが期待されます。
まとめ
犯人たちの目的が分からないだけでなくその正体すら判明しない死のトラップ迷路を描いた映画『CUBE』。
トラップの種類の豊富さや、他者を牽引するために用意されたはずの人間の暴走、徐々に明らかになる立方体の正体。
あらゆる要素が計算され尽くされた面白さを提供してくれる本作はワンシチュエーションスリラーの傑作であり、今後も語り継がれていくことは間違いない作品です。
【連載コラム】「B級映画ザ・虎の穴ロードショー」記事一覧はこちら
配信状況などはU-NEXT公式サイトをご確認ください。