連載コラム「邦画特撮大全」第67章
東映製作の特撮作品「スーパー戦隊」シリーズは、現在も毎年新作が製作・放送されています。現在放送中の『魔進戦隊キラメイジャー』で数えること44作品目。シリーズの息の長さに改めて驚きます。
スーパー戦隊シリーズは1990年代にアメリカへ渡り、英語版ローカライズ作品「パワーレンジャー」シリーズが製作されました。「パワーレンジャー」は人気を博し、現在まで劇場用作品が3作製作されています。
今回の邦画特撮大全は、アメリカ映画なので厳密には「邦画」ではありませんが、映画版『パワーレンジャー』3作品を紹介します。
CONTENTS
映画『パワーレンジャー 映画版』の作品概要
【公開】
1995年(アメリカ映画)
【原題】
Mighty Morphin Power Rangers The Movie
【監督】
ブライアン・スパイサー
【キャスト】
ジェイソン・デビッド・フランク、デイビッド・ヨスト、エイミー・ジョー・ジョンソン、スティーブ・カルデナス、ジョニー・ヨング・ボッシュ、キャラン・アシュレー、ポール・フリーマン
映画『パワーレンジャー 映画版』のあらすじ
かつて地球支配を目論んだ悪の帝王アイバン・ウーズが、魔女リタ・レパルサたちの手によって6千万年の封印から目を覚まします。
非常事態を察知したゾードンはパワーレンジャー6人を現場へ向かわせますが、アイバンはその間に基地を強襲。アイバンの手によってゾードンは瀕死の状態に。
パワーレンジャーはゾードンを救いアイバンを倒すため、新たなパワーを求めて惑星フェイドスへと向かいます。
映画『パワーレンジャー 映画版』の感想と評価
映画『パワーレンジャー 映画版』予告編
マッシブなスーツとフルCGの巨大戦
東映が製作するスーパー戦隊シリーズの英語版ローカライズ作品が『パワーレンジャー』。その劇場用オリジナル作品の第1作目が本作『パワーレンジャー 映画版』です。
差別問題に厳しいアメリカ作品のため、『パワーレンジャー』は白人・黒人・東洋人などさまざま人種のメンバーで構成され、5人のうち2人は女性になっています。
トップシーンはパワーレンジャー6人によるスカイダイビングで、映画はいきなりアメリカンな空気を放ちます。パワーレンジャーのスーツは、TVシリーズでは日本と同じデザインでしたが、本作ではマッシブな造形にリファインされています。
TVシリーズの劇場用作品では、主人公たちが映画オリジナルキャラクターの個性に負けてしまうことがしばしばありますが、本作でもパワーレンジャーの個性が本作の敵役アイバン・ウーズに負けてしまっているように感じられ、そこが少し残念な点でもあります。
本作一番の見所は、当時まだ珍しかったフルCGによる巨大戦です。日本のスーパー戦隊の巨大戦は基本的に着ぐるみによって表現されています。
『パワーレンジャー』TVシリーズの巨大ロボ戦のシーンは、主に日本版からの流用映像でした。これはアメリカで特撮シーンを新規に撮影した場合、映画並みの予算とスケジュールがかかってしまうための措置です。
本作の巨大ロボ戦がCGだったのも、そうした面をカバーするためのものでした。
映画『パワーレンジャー・ターボ 誕生!ターボパワー』の作品概要
【公開】
1997年(アメリカ映画)
【原題】
Turbo: A Power Rangers Movie
【監督】
デヴィッド・ウィニング、シュキ・レヴィ
【キャスト】
ジェイソン・デビッド・フランク、ジョニー・ヨング・ボッシュ、キャサリン・サザーランド、ナキア・ブリース、ブレーク・フォスター、ヒラリー・シェパード・ターナー
映画『パワーレンジャー・ターボ 誕生!ターボパワー』のあらすじ
宇宙の女海賊ディバトックスは、緑の星ライレリアに住む魔法使いラルゴを狙います。ラルゴはディバトックスの魔の手から逃れるため、地球へ逃亡。ゾードンの指令を受けてラルゴを保護するパワーレンジャーでしたが、妻と子供を人質に取られたラルゴはディバトックスのもとへ行ってしまいます。
ディバトックスの真の目的は、異次元ミューランシアス島に封印されている魔獣マリゴルを復活させること。異次元に行くにはラルゴが持つ鍵が必要だったのです。
パワーレンジャー6人もディバトックスを追って、異次元へ向かいます。
映画『パワーレンジャー・ターボ 誕生!ターボパワー』の感想と評価
映画『パワーレンジャー・ターボ 誕生!ターボパワー』予告編
日本の特撮スタッフも参加!重量感のある合体シーン
本作のベースは『激走戦隊カーレンジャー』(1996~1997)。『カーレンジャー』はメインライターの浦沢義雄による作風が反映され、シュールなギャグが満載というスーパー戦隊シリーズにおける異色作のひとつでしたが、本作『パワーレンジャー・ターボ』は非常にオーソドックスなヒーロー映画となっています。
ディバトックスの部下で甥のエルガーは『カーレンジャー』の副長ゼルモダ、ライゴグも同じく『カーレンジャー』の総長ガイナモがオリジナル。
デザインはほとんど同じですが、着ぐるみは流用ではなく新規造形です。前作ではCGだった巨大ロボ戦ですが、本作では日本と同じく着ぐるみによって撮影されています。
またメガゾードの合体シーンは、本家スーパー戦隊を手掛ける日本の特撮研究所で撮影されました。巨大メカのターボゾードのミニチュアは非常に細かく作り込まれています。
本家『激走戦隊カーレンジャー』の合体シーンは強い疾走感のあるものでしたが、本作では重量感のある合体シーンとなっています。
映画『パワーレンジャー』の作品概要
【日本公開】
2017年(アメリカ映画)
【原題】
Power Rangers
【監督】
ディーン・イズラライト
【キャスト】
デイカー・モンゴメリー、ナオミ・スコット、RJ・サイラー、ベッキー・G、ルディ・リン、エリザベス・バンクス、ブライアン・クランストン
映画『パワーレンジャー』のあらすじ
アメリカンフットボール選手として将来を有望視されていた高校生ジェイソン・スコットは、悪ふざけから交通事故を起こしてしまいます。事故での怪我からジェイソンは選手生命を絶たれ、悪ふざけの責任から補修クラスへ。
ジェイソンはいじめられっ子のビリーを救ったことをきっかけに、彼と一緒に立入禁止の鉱山へ行きます。その時、鉱山に偶然居合わせたのは、元チアリーダーのキンバリー、不登校児のザック、転校生のトリニー。
5人は鉱山の中から、不思議なメダルを手に入れ、驚異的な力を得ます。そのメダルはパワーレンジャーの力を封じたもの。
5人は谷底で見つけた宇宙船内でかつてのパワーレンジャー・ゾードンと出会い、パワーレンジャーの使命を知ります。
しかし5人はなかなか変身できません。一方かつてのパワーレンジャーで、力を求め悪に堕ちた魔女リタ・レパルサが復活し、その脅威が5人にも迫っていました……。
映画『パワーレンジャー』の感想と評価
ヒーローになるまでの過程を丹念に描いた青春映画
本作『パワーレンジャー』は、シリーズ第1作目のTVシリーズ「マイティ・モーフィン・パワーレンジャー」(1993~1994)のリブート作品です。
本作の一番の特徴はパワーレンジャーの5人が変身するまでに、映画の半分の時間が要されていることです。
事故による怪我で選手生命を絶たれ周囲の人々から失望されたジェイソン、自閉症スペクトラムのビリー、友人を傷つけてしまった元チアリーダーのキンバリー、病弱な母の看病に追われている不登校児のザック、度重なる転校から孤独感を抱えるトリニー。
彼らパワーレンジャーに選ばれた5人の高校生は、それぞれ問題を抱えた等身大の若者です。彼らが得たパワーレンジャーの力そのものは肉体的なものであり、5人が抱える精神的な問題を解決できるものではありません。
彼らが抱える問題はあくまで彼ら自身の手によって乗り越えなければいけないのです。5人はパワーレンジャーに選ばれ仲間を得たことで、少しずつそれらを乗り越えていきます。仲間を得たことで主人公が成長していくのは、青春映画の定石でしょう。
本作『パワーレンジャー』は5人がヒーローの使命に目覚めるまで、人間的に成長する過程を丹念に描いています。一方5人が変身してからのアクションシーンは迫力満載で、CGもふんだんに取り入れられています。
『パワーレンジャー』は単純なヒーロー作品ではなく、青春映画としても楽しめる作品なのです。
まとめ
長い歴史のある日本のスーパー戦隊シリーズは、もはや日本人の伝統文化のひとつともいえるでしょう。その英語版ローカライズ作品『パワーレンジャー』に目を向けると、日本とアメリカの文化や製作条件の違いを理解するきっかけにもなるのではないでしょうか。
また『パワーレンジャー』にも30年近い歴史が存在します。3作品を順に見て行くと、映像技術の進化を感じることが出来ます。
次回の『邦画特撮大全』は…
次回の邦画特撮大全は井上森人が監督した自主怪獣映画『無明長夜の首無しの怪獣』(2018)を紹介します。
お楽しみに。