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Entry 2019/05/10
Update

ホラー映画『マタンゴ』『吸血鬼ゴケミドロ』あらすじと内容解説。こわいトラウマ必死の邦画とは|邦画特撮大全45

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第45章

まだ5月だというのに気温と湿度が共に高い日が時折あります。

町に出るとTシャツ姿の人も目立ちます。夏には早いですが、そんな日にホラー映画はどうでしょうか? 

今回の邦画特撮大全は『マタンゴ』と『吸血鬼ゴケミドロ』、2作の特撮ホラー映画を特集します。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

映画『マタンゴ』の作品情報


©︎東宝

【公開】
1963年8月11日(日本映画)

【監督】
本多猪四郎

【特撮監督】
円谷英二

【脚本】
木村武

【キャスト】
久保明、水野久美、土屋嘉男、小泉博、佐原健二、八代美紀、太刀川寛、天本英世

【作品概要】
本作はウィリアム・H・ホジスンの小説「闇の声」(現在刊行されている創元推理文庫版の邦題は「夜の声」)を翻案したホラー映画です。

監督を本多猪四郎、特撮監督を円谷英二が務めました。出演者も久保明や水野久美、土屋嘉男、小泉博、佐原健二とお馴染みの東宝特撮映画の常連キャストで占められています。

むき出しになった人間のエゴ


©︎東宝

遭難し南海の孤島に漂着した男女7人が、極限状態からエゴをむき出しにしていく様と島に存在するキノコ“マタンゴ”の恐怖を描いたのが本作『マタンゴ』です。

『マタンゴ』は精神病院に収容されている青年=村井研二(久保明)の語りから始まります。

彼は自身が体験した恐怖について語るのですが、次に映し出された映像は軽快な音楽に合わせて満点の空の下、海を行くヨット。バカンスを楽しむ男女7人という陽気なものです。

冒頭からいきなり恐怖を描くのではなく、明るい雰囲気の場面を挿入することでその後来るショックをより強調させます。

“マタンゴ”というキノコの標本と「キノコを食べるな」という警告が残された難破船を根城に遭難した男女7人は生活を始めます。

この7人は臨時雇いの小山仙造(佐原健二)を除いて全員旧知の仲です。元々見知った人間同士が女性と食糧を巡り対立していく様は、非常に生々しいです。

また青年実業家・笠井雅文(土屋嘉男)と作田直之(小泉博)は上司と部下の関係で当初はそれが保たれていましたが、次第に信頼関係が悪化していきます。

極限状況にあってはそれまでの上下関係も無に帰すということでしょう。演じた土屋嘉男によるとこの笠井雅文のモデルは西武グループの堤義明氏だそうです。また太刀川寛演じる小説家・吉田は大藪春彦がモデルです。

次第に食糧も底を尽き登場人物たちは次々とキノコへ手を出してしまいます。

しかしこのキノコは食した人間をキノコへと変貌させてしまうのです。このキノコには強い中毒性や幻覚作用があり、覚せい剤を想起させる演出がされています。

余談ですが撮影に使われたキノコは、撮影所の近くにある和洋菓子店で作られたもので非常に美しかったそうです。

映画『吸血鬼ゴケミドロ』の作品情報


©︎松竹

【公開】
1968年8月14日(日本映画)

【監督】
佐藤肇

【脚本】
高久進、小林久三

【キャスト】
吉田輝雄、佐藤友美、高英男、楠侑子、金子信雄、高橋昌也、加藤和夫、北村英三、キャシー・ホラン、山本紀彦

【作品概要】
東宝のゴジラと大映のガメラに対抗すべく、前年『宇宙大怪獣ギララ』(1967)を製作した松竹。本作『吸血鬼ゴケミドロ』は『ギララ』に続き、松竹が製作したSF特撮映画です。

監督は『散歩する霊柩車』や『怪談せむし男』など恐怖映画を手掛けたほか、テレビドラマ『キイハンター』などを演出した佐藤肇。本作は『黒蜥蜴』(原作:江戸川乱歩、主演:丸山明宏、監督:深作欣二)の併映作品でした。

鮮烈なビジュアルによる恐怖


©︎松竹

青白い物体に接触し、何処とも知れぬ山中へ不時着した旅客機。それに乗り合わせた10人の人間が極限状態に置かれエゴをむき出しにしていくというのが、本作『吸血鬼ゴケミドロ』です。

『マタンゴ』同様に“クローズド・サークル”が舞台で、人間のエゴがむき出しになっていく様、さらに異星人による人類侵略を描いた映画です。

しかし『マタンゴ』が陽気な映像から始まったのに対し、『ゴケミドロ』は冒頭から飛行機にぶつかって来て死ぬ鳥や深紅の空など、恐怖感を煽る映像から始まります。

また『マタンゴ』の登場人物は旧知の仲ですが、『ゴケミドロ』は旅客機ということでお互いが見知らぬ相手。そのため、これまで築いていた関係性が生々しく悪化するのではなく、初めからお互いを信用していない殺伐とした空気感が映画にあります。

乗客の1人でテロリストの寺岡に水銀状の宇宙生物“ゴケミドロ”が寄生し、寺岡は吸血鬼と化してしまいます。外部との連絡を絶たれただけでなく、吸血鬼というさらなる恐怖が乗客たちを襲うのです。寺岡=吸血鬼を演じたのは高英男。彼は専業の俳優ではなく本職はシャンソン歌手です。彼が持つ独特の雰囲気と、額から鼻にかけて割れた裂け目というビジュアルが相まって、独特の空気を映画に与えています。

当時松竹の社員で本作の脚本に参加していたのが、後に『皇帝のいない八月』など作家として活動する小林久三です。小林の回顧によれば、吸血鬼の顔の裂け目はフレドリック・ブラウンの小説『73光年の妖怪』から得たイメージで、同じく脚本を担当した高久進からの提案だったそうです。

本作は元々、特撮を担当したピー・プロダクションの鷺巣富雄によって持ち込まれた企画です。“ゴケミドロ”という奇妙な名前は苔寺(西芳寺の別名)と深泥池(みどろがいけ)を合成したものです。宇宙生物なのになぜか京都のお寺と池を元にした名前なのが不思議です。

まとめ

『マタンゴ』はスティーブン・ソダーバーグが一時期リメイクを検討していました。

一方クエンティン・タランティーノが『吸血鬼ゴケミドロ』のファンで、自作『キル・ビル』において『ゴケミドロ』の深紅の空を引用しているのは有名な話です。

閉じた空間内での極限状態という共通したシチュエーションの特撮ホラー映画『マタンゴ』と『吸血鬼ゴケミドロ』。

しかし前者は人間のエゴなど心理的な恐怖描写を重視した作風で、後者は鮮烈なビジュアルで恐怖感を煽る演出がとられており作風が大きく違います。

両作品の違いを比較しながら見ると非常に面白いです。

次回の邦画特撮大全は…


©︎東宝

次回の邦画特撮大全は、『空の大怪獣ラドン』(1956)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

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