連載コラム「邦画特撮大全」第29章
漫画家・水木しげるの代表作と言えば『ゲゲゲの鬼太郎』です。
1968年にモノクロ版の第1作、1971年に第1作の直接的続篇の第2作が製作されました。
以降およそ10年周期でテレビアニメ化され、第3シリーズ(1985~1988)、第4シリーズ(1996~1998)、第5シリーズ(2007~2009)が製作されました。
ゲゲゲの鬼太郎 第41話予告「怪事!化け草履の乱」
現在はアニメ化50周年を記念して第6シリーズが放送中です。
アニメーション作品の方がなじみ深い『ゲゲゲの鬼太郎』ですが、実は過去に4度も実写映像化されています。
今回は実写映像化された『ゲゲゲの鬼太郎』の歴史を辿っていこうと思います。
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まるで宇宙刑事シリーズ・月曜ドラマランド版『ゲゲゲの鬼太郎』
『ゲゲゲの鬼太郎』最初の実写化は1980年代。“月曜ドラマランド”というかつてフジテレビがアイドル主演のSPドラマなどを放送していた枠で、東映によって製作されました。
鬼太郎役には『友よ、静かに瞑れ』(1985)の六浦誠。そのほか鬼太郎ファミリーのキャストはねずみ男に竹中直人、子泣き爺に赤星昇一郎、砂かけ婆に由利徹といった個性的な面々です。
赤星昇一郎は当時、子泣き爺に扮してコントを披露していたことからキャスティングされました。
後に多くの特撮作品に出演することになる赤星ですが、彼が初めて出演した特撮作品が本作なのです。
目玉おやじは人形で、一反木綿は着ぐるみで表現されました。目玉おやじの声はアニメ版でも同役を担当していた田の中勇が演じています。
一方、敵妖怪役には汐路章(おっかむろ)、佐渡稔(吸血鬼エリート)、うえだ峻(あみきり)、夏樹陽子(女ぬらりひょん)といった面々です。
ほとんどが東映特撮作品とゆかりのある俳優陣になっています。
また吸血鬼エリート以外は人間に化けて暗躍しているという描写がされており、正体の妖怪は着ぐるみで表現されています。
本作の企画プロデューサーに吉川進、監督に小林義明、撮影に瀬尾脩、アクション監督に金田治というスタッフ編成。妖怪造型はレインボー造型企画が担当しています。
このように本作の主要スタッフの大半は、同時期に製作・放送されていた特撮ドラマ『宇宙刑事ギャバン』(1982)から始まった“宇宙刑事シリーズ”と重なります。
そのため本作には“宇宙刑事シリーズ”を思わせる演出が随所に表れています。
例えば鬼太郎が一反木綿に乗って飛ぶ場面は、東通ECGシステムというビデオ合成技術が使用されています。
この技術は映画『宇宙からのメッセージ』で用いられたもので、“宇宙刑事シリーズ”でも使用されています。
そしてクライマックスの戦闘場面。当初は東映特撮おなじみの採石場で鬼太郎ファミリーと敵妖怪が戦っています。
その後、鬼太郎とぬらりひょんの一騎打ちとなるのですが、この時に場面が突如として異空間に飛ぶのです。
『宇宙刑事ギャバン』ではギャバンと敵怪人が“魔空空間”と呼ばれる異次元へ飛び一騎打ちとなるのですが、その演出をそのまま実写版『鬼太郎』にも導入しています。
アニメ第3作目の人気を受けて・『妖怪奇伝・魔笛エロイムエッサイム』
実写化第2弾『ゲゲゲの鬼太郎 妖怪奇伝・魔笛エロイムエッサイム』(1987)はビデオ映画としてリリースされました。
時期的にはアニメ第3シリーズの放送中です。スタッフの多くはそのまま“月曜ドラマランド版”から続投したのですが、キャストは一新されています。
鬼太郎には子役の和田求由が配され、ねずみ男にうえだ峻、子泣き爺に不破万作、砂かけ婆には奥村公延がキャスティングされています。
奇妙なのは砂かけ婆役で、2作品ともなぜか男優が老婆を演じています。また敵妖怪役で若村麻由美と余貴美子が出演しています。
本作には水木しげるのもう1つの代表作『悪魔くん』から悪魔くんとメフィストが登場。
メフィスト役は市川勇が担当しました。前作同様、東映特撮とゆかりのある俳優が集められています。
敵の総大将・ぬらりひょんを、前作に別役で出演していた汐路章が演じています。
本作に登場するぬらりひょんは一般的な和装ではなく、軍服にサーベルという出で立ち。配下には“朱の盆”という大きな赤い顔の鬼のような妖怪がいます。
このぬらりひょんの設定は当時連載されていた漫画版、アニメ第3シリーズの設定を導入したものです。
軍服姿の初出は漫画『最新版ゲゲゲの鬼太郎』です。その後アニメ第3シリーズの劇場版『激突!異次元妖怪の大反乱』(1985)にも軍服姿で登場しました。
CGによる妖怪表現・松竹版『ゲゲゲの鬼太郎』
東映が製作した実写版から20年の時を経て、松竹が2007年に実写版『ゲゲゲの鬼太郎』を映画化しました。当時はテレビアニメ第5シリーズが放送中でした。
監督は『釣りバカ日誌』シリーズや『空飛ぶタイヤ』(2018)の本木克英。脚本は『パッチギ!』(2004)やNHK連続テレビ小説『マッサン』などで知られる羽原大介が手がけました。
物語は鬼太郎と人間の少女・実花の交流を中心に、「天狐」「妖怪大裁判」など原作のエピソードを繋げたものになっています。
鬼太郎にはウエンツ瑛士、猫娘には田中麗奈、ねずみ男に大泉洋、砂かけ婆に室井滋、子泣き爺に間寛平というキャスティングが配されました。特に大泉洋のねずみ男はハマリ役です。
またヒロインの三浦実花を井上真央が演じたほか、本木監督が『釣りバカ日誌』シリーズの監督ということもあり、輪入道に西田敏行、本作オリジナルの妖怪・モノワスレに谷啓が起用されています。
一方、目玉おやじや一反木綿、ぬりかべなどの妖怪は、人形や着ぐるみではなくCGによって表現されました。その他、着ぐるみ、特殊メイク、俳優とCGの合成などさまざまな手法で妖怪が表現されています。
本作のヒットを受け、翌年2008年に第2作『ゲゲゲの鬼太郎 千年呪い歌』が公開されました。
鬼太郎ファミリーは前作から全員続投。監督も前作と同じく本木克英が務めました。
原作を再構成した前作と違い、こちらは完全にオリジナルの物語になっています。
本作には敵としてぬらりひょんが登場し、名優・緒形拳が演じています。
また水木しげるファンとして知られる佐野史郎が蛇骨婆、水木しげるを師と仰ぐ作家・京極夏彦が鬼道衆頭目で出演しています。
まとめ
東映特撮の文法によって制作された実写版1作目と2作目。
CG技術の発展を大いに利用した松竹版の2作。
実写版『ゲゲゲの鬼太郎』という作品を通して、特撮の進歩の歴史、各会社の特色がわかるのではないでしょうか。
次回の邦画特撮大全は…
参考映像:妖怪大戦争(1968年版)予告篇
次回の邦画特撮大全は、大映が製作配給した1968年公開の黒田義之監督の『妖怪大戦争』と、2005年に松竹が配給した三池崇史監督の『妖怪大戦争』を取り上げます。
お楽しみに。