Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2018/11/12
Update

『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』評価と考察。平成ガメラとの共通の比較解説|邦画特撮大全22

  • Writer :
  • 森谷秀

連載コラム「邦画特撮大全」第22章

今回取り上げる作品は『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』(2001)です。

『ゴジラVSデストロイア』(1995)で一旦終了したゴジラシリーズですが、『ゴジラ2000〈ミレニアム〉』(1999)からシリーズが再開。

本作は1999年以降に製作されたいわゆる“ミレニアムゴジラ”シリーズの第3作目です。

本作を監督したのは“平成ガメラ3部作”で知られる金子修介監督です。

『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』の魅力を、“平成ガメラ3部作”との共通点や本作でのゴジラの設定を中心に紹介していきます。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』の作品概要


東宝作品『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』

本作はゴジラシリーズの第25作目。監督は金子修介、特撮技術(特撮監督)は神谷誠が務めました。

金子修介は平成ガメラ3部作で知られる監督です。金子はかつて『ゴジラVSモスラ』(1992)の監督に名乗りを挙げていました。

そのため、本作の監督オファーを即決したそうです。

特撮技術の神谷誠は平成ガメラでは特撮班の助監督でした。

またゴジラのスーツアクターを担当した吉田瑞穂、キングギドラのスーツアクターを担当した大橋明ですが、平成ガメラでそれぞれ吉田がレギオンとイリス、大橋がガメラのスーツアクターを担当していました。

音楽の大谷幸も平成ガメラの音楽担当でした。このように平成ガメラ3部作に携わったスタッフの多くが、本作にも参加しています。

前回紹介した84年版『ゴジラ』(1984)同様に、本作でもシリーズ第1作目『ゴジラ』(1954)以外のゴジラシリーズの設定は使用されていません。

本作には現実の自衛隊に代わる防衛組織として“防衛軍”が登場しています。

主人公・立花由里(新山千春)の父親・立花泰三(宇崎竜童)は防衛軍の准将で、1954年に上陸したゴジラによって少年期に家族を喪った人物に設定されています。

白眼のゴジラ=戦没兵の怨霊

本作に登場するゴジラはシリーズの中でもかなり凶悪な部類に入ります。

過去のゴジラに比べてでっぷりとした体格に白い眼というデザインも凶悪さを増大させます。

戦い方も凶悪でバラゴンの顔を踏みつけたり、バラゴンの体を尻尾で執拗に叩いたりしています。

凶悪さを出すためなのかゴジラのスーツアクターを、平成ガメラ3部作では敵怪獣を演じていた吉田瑞穂が担当しています。

本作に登場する伊佐山老人(天本英世)は、ゴジラを太平洋戦争で命を散らした数多くの魂が宿った残留思念の集合体という説を唱えています。

本作に登場するゴジラは怨霊と言えます。また伊佐山はゴジラ出現の理由を、多くの人間が太平洋戦争の悲劇を忘れたからとしています。

つまり本作ではゴジラを“核の恐怖”だけではなく、“戦争そのもののメタファー”として捉えているのです。

しかし上記の残留思念の集合体=怨霊という考え方は、伊佐山老人の口から語られるだけです。

ゴジラの攻撃描写(襲撃場所や被害総数)にはそういった戦争を感じさせる要素があまり見受けられないため、ゴジラが“戦争そのもののメタファー”として十分に描かれたとは言いづらいのが残念です。

平成ガメラとの共通点


(C)1999 KADOKAWA 徳間書店 日本テレビ 博報堂 日販

本作の重要な設定に“護国聖獣”があります。

バラゴン、モスラ、キングギドラは古代、クニを守るための聖獣であり、ゴジラからクニを守るため眠りから目を覚ましたというものです。

バラゴンは狛犬、モスラは鳳凰、ギドラは八岐大蛇の伝承の基になった聖獣とされ、それぞれ新潟県・妙高山、鹿児島県・池田湖、富士山麓で眠りについていました。

また劇中バラゴンは婆羅護吽、モスラは最珠羅、キングギドラは魏怒羅という漢字表記も登場しました。

ちなみに護国聖獣は当初バラゴンのほかアンギラスとバランの予定でしたが、集客効果を考え人気怪獣であるモスラとキングギドラに変更されました。

このような古代の伝承と怪獣を結びつける設定は平成ガメラ3部作と共通しています。


(C)1999 KADOKAWA 徳間書店 日本テレビ 博報堂 日販

『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)ではガメラが玄武、敵怪獣であるイリスが朱雀というように、登場する怪獣を四神相応と結びつける設定がなされていました。

またギドラが眠りについていた富士山麓の地下洞窟は、イリスが眠っていた洞窟を想起させるものとなっています。

その洞窟を見つける自殺志願者を演じたのが螢雪次朗。彼は平成ガメラ3部作で長崎県警の刑事・大迫を演じていたため、特撮ファンへのサービスといえる配役です。

螢雪次朗の他、渡辺裕之やかとうかずこ、松尾貴史、前田亜季と前田愛といった平成ガメラシリーズの出演者が出演しています。

平成ガメラ出演者のほかにも中村嘉葎雄や上田耕一、村田雄浩といったゴジラシリーズの出演者、高橋昌也や笹野高史、温水洋一、奥貫薫らがカメオ出演しています。

またブレイク以前の加瀬亮、塚本高史、木下ほうか、大河ドラマ『真田丸』(2016)の大蔵卿局役で話題となった峯村リエも出演しています。誰がどこに出ているのか探してみるのも一興でしょう。

また本作で内閣官房長官を演じたのが先日物故された俳優の津川雅彦(1940~2018)。出演場面は少ないですが、津川が演じることで作品に重厚感と奥行きを与えてくれます。

津川は『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999)では航空総隊司令、『デスノート』『デスノート the Last name』(2006)では佐伯警察庁長官など、ほかの金子修介監督作品でも本作と同様の役回りで出演しています。

まとめ

金子修介監督率いる“平成ガメラ3部作”のスタッフが制作した『ゴジラ・モスラ・キングギドラ大怪獣総攻撃』。

描写に踏み込みの甘さが感じられるものの、“戦争そのもののメタファー”や護国聖獣という設定や視点には独自のものがあります。

防衛軍などミリタリー色の強い描写と護国聖獣といったオカルト色の強い要素が同居しており、これまでのゴジラシリーズとは一風変わった味わい深い作品となっています。

次回の邦画特撮大全は…

次回の邦画特撮大全は『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964)を特集します。

お楽しみに。

【連載コラム】『邦画特撮大全』記事一覧はこちら

関連記事

連載コラム

Netflix映画『ベケット』ネタバレ結末感想とあらすじ解説。タイトルに主人公の名前を付けた“真意”を解く|Netflix映画おすすめ53

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第53回 休暇で訪れたギリシャにて、悲劇的な事故に遭ったアメリカ人旅行者が、危険な政治的陰謀に巻き込まれ、命を狙われる逃走劇を描いたNetf …

連載コラム

『The Witch魔女』韓国映画の感想レビュー。結末まで目が離せないヒロインをキム・ダミが演じたサイキック&バイオレンス!|コリアンムービーおすすめ指南4

こんにちは西川ちょりです。 今回取り上げる作品はパク・フンジョン監督の新作『The Witch魔女』です。 シネマート新宿、シネマート心斎橋で開催中の「のむコレ2018」のラインナップの一本として公開 …

連載コラム

『オレンジ・ランプ』あらすじ感想と評価解説。実話から和田正人と貫地谷しほりで描く‟認知症と共に生きる”軌跡|映画という星空を知るひとよ153

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第153回 39歳で若年性認知症と診断された丹野智文さんご本人と、家族の9年間の軌跡の実話を映画化した『オレンジ・ランプ』。 若年性アルツハイマー型認知症と診断 …

連載コラム

『パパは奮闘中!』感想と評価解説。「夫婦・労働・子育て問題」と物語に流れる確かな信念が心を打つ|銀幕の月光遊戯28

連載コラム「銀幕の月光遊戯」第28回 突然妻が何も言わず家を出ていき、仕事と育児に悪銭苦闘することとなった夫とその子どもたち。ベルギー・フランス合作映画『パパは奮闘中!』は現代の様々な問題を内包しつつ …

連載コラム

【ネタバレ】ベスト・フレンズ・エクソシズム|結末あらすじ感想と評価解説。ガチ怖描写が苦手な人にもオススメできるティーンホラー|Amazonプライムおすすめ映画館15

連載コラム「Amazonプライムおすすめ映画館」第15回 夏の終わりを感じながら、1年に1度のホラーの祭りでもある「ハロウィン」が迫る10月初旬。 普段はホラー映画を観ないと言う人の中にも、この時期だ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学