Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2025/12/08
Update

映画『ポカポン』あらすじ感想と評価考察レビュー。大塚信一監督が‟寄り添うことの出来ない社会構造”を描く|TIFF東京国際映画祭2025-16

  • Writer :
  • 糸魚川悟

映画『POCA PON ポカポン』は2026年に劇場公開予定!

2025年10月27日(月)から11月5日(水)まで開催された『第38回東京国際映画祭』の中で、2025年10月28日(火)と11月1日(土)に「Nippon Cinema Now部門」として公式上映が行われた映画『POCA PON ポカポン』

本作は2026年5月9日(土)新宿K’s cinema、ユーロスペース他、全国順次公開を迎えます。

一生の間に知り合うことになる人間の数は人生を80年とした場合、およそ3万人だとする有名な通説があります。しかし、3万人という数字はあくまで「知り合い」の数であり、お互いを理解できるほどの会話が出来る人間は人生の間でわずか300人以下になるとされています。

「知らない」からこそ生まれる冷酷さや偏見と、「知った」からこそ相手の気持ちと寄り添うことが出来ると言う、当たり前ですがつい頭から離れてしまう人間関係と社会の在り方を描いた映画『POCA PON ポカポン』(2025)をご紹介させていただきます

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら

映画『POCA PON ポカポン』の作品情報


(C)映画「POCA PON ポカポン」製作委員会

【日本公開】
2026年(日本映画)

【監督・脚本】
大塚信一

【撮影・美術】
永山正史

【音楽】
新音楽制作工房/菊地成孔

【プロデューサー】
森田一人、浅野博貴

【アソシエイトプロデューサー】
出町光識、安田初子

【キャスト】
原田琥之佑、尾関伸次、菜葉菜、大角英夫、川瀬陽太、山崎ハコ、足立智充、久田松真耶、木村知貴、牛丸亮、松本太陽

【作品概要】
ある猟奇殺人事件を背景に、時には人を癒やし、時には人を壊す天の声“POCA PON”と、温かさと不穏が同居する家族の日常を描いた未知のドラマ。

監督は商業デビュー作『横須賀綺譚』が重慶青年映画祭で高く評価された大塚信一。

有名ラーメン店で働き、ラーメンを作りながら日夜映画制作に取り組み続け、誰も観たことのない“新感覚・日本映画”を作り上げた。

メインキャストには『サバカン SABAKAN』『海辺へ行く道』と注目作が続く原田琥之佑、実力派の尾関伸次、『金子文子』が話題の菜葉菜、期待の若手・大角英夫の他、川瀬陽太、山崎ハコら現在の日本映画界に欠かせない俳優陣が集結。

映画『POCA PON ポカポン』のあらすじ


(C)映画「POCA PON ポカポン」製作委員会

健太(13)と祐二(10)、母親の朝子(34)の3人の母子家庭は、ある地方都市の団地で暮らしている。健太は母と弟に少しでもマシな未来を約束するため、 必死で勉強している。

健太を時折りつつむのは、どこか懐かしい、だけど思い出せないメロディ。そしていつもどこかで鳴り響いている「ポカポン」という音(声)。

朝子は勉強を頑張る健太に「そんなことは無駄だ、今を楽しんで遊べ」と言う。

互いを思いやりながらも、どこかすれ違う親子。

家族の生活は厳しい上に、隣人の騒音にも悩まされる毎日。そんな家族を団地の管理人である駿一は、何かと気にかけている。

駿一はある〈不思議な力〉を持っており、健太はだんだんと駿一に惹かれていく。

そんなある日、かつて社会を震撼させた猟奇殺人犯が、この団地で暮らしているという噂が流れてくる……。

映画『POCA PON ポカポン』の感想と評価


(C)映画「POCA PON ポカポン」製作委員会

「知らない」が生み出すもの

2025年10月27日(月)から11月5日(水)まで開催された『第38回東京国際映画祭』の中で、2025年10月28日(火)と11月1日(土)に「Nippon Cinema Now部門」として公式上映が行われた映画『POCA PON ポカポン』

敢えて音楽をつけずに展開した物語序盤が静寂と不穏そして猟奇的に映る一方で、物語の全容が見え始める中盤からは、本作の持つ温かみを感じることが出来ました。

本作が物語中で一貫して描いていたのは、「知らない」と言うことが生み出す偏見や恐怖でした。

主人公となる健太が暮らしている団地の一室、隣人は顔を見たこともない人間であり、日夜何かを叩くような騒音が響いており、母親の朝子は友人の言葉から、隣人がかつて複数人の子供を殺害した猟奇殺人犯なのではないかと恐怖を感じていくことになります。

しかし、健太の弟である祐二は、その騒音に対し特に恐怖は感じておらず、「何か理由があるのかもしれない」と言います。

このセリフは本作の持つメッセージを象徴するような言葉であり、隣人による「何かを叩くような音」が仮に家具や工作物を作る音だった場合、迷惑な騒音ではあるものの、音に感じていた恐怖の印象は一気に薄れるはずです。

本作では朝子が放つ「勉強の無意味さ」の偏見や団地の管理人である駿一の「肉嫌い」の理由など、作品全体を通して「知らない」や「知った」ことで変わることとなる人間の感情について描写されていました

「知らない」ことが生む最悪の結果

本作は劇中より、28年に発生した猟奇的な殺人事件を中心に物語が展開していきます。

大塚監督が『第38回東京国際映画祭』のQ&Aのコーナーでもそれとなく言及したように、90年代に実際に発生した殺人事件が本作のベースとなっています

この事件では犯行当時10代の少年であった犯人が「自分以外は人間ではなく野菜と同じだから切断や破砕をしてもいい」と証言したことも話題となり、本作でも殺人犯が同じような思想を持っていたのではないかと仄めかされます。

自身の人生において、会話したことも相対したこともない相手が「何を考えているのか」を考える時間は少なく、子供時代には「自分以外の人間はプログラム」と思った人も珍しくはないようです。

しかし、自分と同じように人間には感情があり、何かを考えて生きています。

多くの事柄や多くの人間のことを知るために見識を広めること、そしてそのなかで自分の感じる大事なものを取捨選択していくこと、当たり前なようで忘れてしまいがちなことを教えられる作品でした。

まとめ


(C)映画「POCA PON ポカポン」製作委員会

「知った」としても理解できないことや恐怖を感じることはもちろんですが、そんなことは世の中に多くあります。

それでも「知らない」よりは「知った」方が良いはずであり、主人公の健太はこの映画の中で知ろうとする行為を、周囲の反対を受けても放棄することはしませんでした。

静寂と不穏な雰囲気に包まれながらも、固い頭で決めつけることなく知ることを大事にするべきと言う温かなメッセージを与えてくれる映画『POCA PON ポカポン』

本作は2026年5月9日(土)新宿K’s cinema、ユーロスペース他、全国順次公開を迎えます。

【連載コラム】『TIFF東京国際映画祭2025』記事一覧はこちら



Warning: Use of undefined constant php - assumed 'php' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/demachi2026/cinemarche.net/public_html/wp-content/themes/stinger8-child/single.php on line 150

関連記事

連載コラム

『キャプテンマーベル』ネタバレ感想。 エンドゲームへと続く最強系女子を見よ|最強アメコミ番付評28

連載コラム「最強アメコミ番付評」第28回戦 こんにちは、野洲川亮です。 今回は予定を変更して、3月15日に公開された『キャプテン・マーベル』を考察していきます。 MCUシリーズ第21作目にして、初の女 …

連載コラム

遊郭編7話ネタバレ|妓夫太郎声優は逢坂良太!感想と考察解説×原作登場シーンとの比較も【鬼滅の刃全集中の考察32】

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第32回 大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。 2021年12月5日より放送 …

連載コラム

シアターモーメンツ『#マクベス』の舞台本番直前!劇団稽古に潜入リポート| THEATRE MOMENTS2019①

連載コラム『THEATRE MOMENTS2019』第1回 世界基準の演劇を目指し、これまで精力的な活動を続けてきた劇団シアターモーメンツ。 コラボレーション企画第2弾となる今回は最新公演『#マクベス …

連載コラム

映画ザ・ハーダー・ゼイ・フォール|ネタバレ感想とあらすじ結末の考察解説。西部劇×ヒップホップの融合がジャンル映画を復活させる Netflix映画おすすめ66

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第66回 2021年11月3日(水)にNetflixで配信されたヒップホップ西部劇『ザ・ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野』。 ラッパーの …

連載コラム

『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』あらすじ感想と評価考察。実話映画として艦長の“海に生きる者”としての生き様を活写|映画という星空を知るひとよ210

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第210回 戦時下でも決して失われることのなかった、海の男たちの誇りと絆を描いた重厚な戦争秘話を描いた映画『潜水艦コマンダンテ 誇り高き決断』が、2024年7月 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学