Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2019/03/11
Update

映画『シスターフッド』あらすじと感想レビュー。西原孝至監督の混在するドキュメンタリーと劇映画の臨界を探る|OAFF大阪アジアン映画祭2019見聞録3

  • Writer :
  • 加賀谷健

連載コラム『大阪アジアン映画祭2019見聞録』第3回

女性の存在が根本から問い直されている昨今、意欲作が次々と発表されています。

しかし若手女性の映像作家の活躍は目覚ましいものがありますが、男性監督の作品でも繊細なまでに登場する女性キャストの描写が成功した作品は存在します。

映画『シスターフッド』は男性の西原孝至監督による作品。2019年の第14回大阪アジアン映画祭の「インディフォーラム」部門でも上映されました。

西原孝至監督のドキュメンタリー畑で培われた観察眼を活かした作品は、多くの観客を未知の領域に連れ出す渾身の一作です。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら

映画『シスターフッド』作品情報


(C)2019 sky-key factory

【公開】
2019年(日本映画)

【監督】
西原孝至

【キャスト】
兎丸愛美、BOMI、遠藤新菜、秋月三佳、戸塚純貴、栗林藍希、SUMIRE、岩瀬亮

【作品概要】
学生団体「SEALDs」の活動に迫ったドキュメンタリー映画『わたしの自由について』(2016)で高い評価を得た西原孝至監督待望の新作。

当初はドキュメンタリー作品として企画が進み、2017年の#MeToo運動を機に劇映画パートを撮影。オムニバス形式でタイプの異なる女性たちの日常を切り取りながら、ドキュメンタリーと劇映画の境界が次第に曖昧になっていきます。

映画『シスターフッド』あらすじ

 

(C)2019 sky-key factory

“フェミニズム”をテーマにした新作の取材を受けるドキュメンタリー映画監督の池田(岩瀬亮)。

記者の中には辛辣な意見もあり、手応えが摑めないでいました。

ある日、彼はパートナーのユカ(秋月三佳)から母親の介護をするためにカナダへ移住するとを告げられます。

しかしあまり動じる素振りもみせずにやり過ごします。

一方、ヌードモデルの兎丸(兎丸愛美)は、友人の美帆(遠藤新菜)の大学で講義を行った池田のインタビューに応じます。

カメラを向けられた彼女は、自身の境遇を赤裸々に語りだします。

さらに地道な歌手活動を続けるBOMI(BOMI)にもインタビューした池田は、今まで見過ごしてきたものに気づかされ、カナダへ発とうする恋人の元へひた走るのですが…。

言葉をもつことともたないこと

 

(C)2019 sky-key factory

映画の冒頭に興味深いやり取りがあります。

新作ドキュメンタリー作品の監督として取材を受ける池田ですが、記者からの質問は辛辣なものです。

一言で言ってこの映画は何が言いたかったのか。その問いに池田はうまく答えられません。

しかし言語化出来ない感情をすくいとるのが映画です。映画は抽象的なことを具体化していく作業です。その力を信じなければ映画監督は務まらないでしょう。

そういう気持ちはないですかと、逆に問われた記者は自分は鈍感だからと言うことしかできません。

モワモワっとした人間の感情とゆっくり時間をかけて向き合うために映画というメディアはあるはずです。

ドキュメンタリー映画はそのときほぐしのプロセスを描きます。

そうした映画のあり方自体を問い直そうとする本作の西原孝至監督の試みは具体的にはどのようなものなのでしょうか。

ドキュメンタリーと劇映画の“臨界”


(C)2019 sky-key factory

もともとドキュメンタリー映画として撮影が進められ、後から劇映画パートを付け加えたという本作は確かにドキュメンタリーと劇映画との境界が極めて曖昧になっています。

近年、そうしたボーダーレスな作品世界が多くみられますが、本作と他の凡百の作品が決定的に違うのは、監督がその曖昧な領域に細心の注意を払いながら足を踏み入れていることです。

広告的には、「ドキュメンタリーと劇映画が混在した実験的なモノクロ映画」ということになるのでしょうが、西原監督は形式上はドキュメンタリーと劇映画のあわいを漂いながらも、その実、明確な“フィクション”を目論んでいます。

池田のパートナーのユカが興味深いことを言っています。「そこはいつも現実となった夢の中」。

この台詞から西原監督が意図するものを読み取れば、現実と虚構の“臨界”がついにみえてくるでしょう。

映画監督が映画監督を描くこと

ドキュメンタリー監督の池田は、西原監督の思考を体現した存在です。

監督自身の思考プロセスを登場人物に委ねる例で真っ先に浮かぶのがフェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(1963)です。

この作品が映画監督のための映画と言われるのは、フェリーニが思考していたことがそのまま映画監督のグイドというキャラクターに受け継がれているからです。

これをみればフェリーニの思考のすべてが分かります。

ただ、フェリーニがフェリーニである所以は、所詮、映画は作り物であるという映画の“作為性”に徹していたことにあります。

本作の西原監督はフェリーニに比べればナイーブすぎるかもしれませんが、そのことがかえって映画にある“真実味”を加えているのです。

参考映像:フェデリコ・フェリーニの『8 1/2』(1963)

西原監督の手法

 

(C)2019 sky-key factory

本作の鮮やかなモノクロームは虚構世界を際立たせますが、一方で西原監督が今まさに思考しているという現実があることによって、この作品には鮮やかなグラデーションが生まれています。

西原監督は、池田のドキュメンタリー制作を通して、自身の思考を整理しながら映像素材を再構築していくのです。

それは池田大学の講義で引用する佐藤真監督の言葉にそのまま示されています。

その意味で本作は西原監督の思考の過程を追ったドキュメントであるでしょうし、作為が施された実際の映像は紛れもない劇映画としての輪郭をはっきり描くことになります。

そうしてその思考の軌跡を辿りながら、画面上に痕跡を残していくのが池田というキャラクターの役目なのです。

だから当然彼は、ドキュメンタリーの人物としての精彩を欠いたフィクショナルな存在であり続けなければなりません。

曖昧ではない女性たちの選択 


(C)2019 sky-key factory

映画のラストでは空港を彷徨うことになるマージナルな池田に比べて、女性たちは揃って“多様性”を生きています。

彼女たちはそれぞれ個別の選択をしていきますが、それは個性ではなく、人生を生きるための強い意志です。

その場をやり過ごすことばかりの池田は決断するのがあまりに遅すぎました。

女性たちがドキュメンタリーの人物として精彩を放つことが出来たのはそれを怠らなかったからです。

彼女たちがカメラの前で赤裸裸に語る時、西原監督はドキュメンタリストして向き合い、いざ人生の選択をする瞬間にはしかるべき演出家として俳優に芝居を付けています。

西原監督のそうした選択によって本作はドキュメンタリーと劇映画の境界を漂うという曖昧さを見事に解消しているのです。

まとめ

 

(C)2019 sky-key factory

多様性という言葉ばかりが安易に流通する今の社会では、もう一度“共生”というキーワードが問い直されなければなりません。

人が生きていくためには必ず他者の存在が必要です。映画ではそうした自分ではない誰かの真実の姿を垣間みることが出来ます。

言語化出来ない、人間にとって“大切な何か”を発見するにはそれなりの時間がかかるでしょう。

しかし「ドキュメンタリーと劇映画が混在した」本作が超越する時空間の中で、観客はそれぞれの何かを見出していくはずです。

西原監督が意図した多様性とは、ひとりひとりが自分ではない誰かと向き合っていく姿勢を整えていく生き方のことではないでしょうか。

【連載コラム】『大阪アジアン映画祭2019見聞録』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

映画『THE LAW 刑事の掟』ネタバレ感想と考察評価。ブルースウィリスの“ダイハードを彷彿”させる作品|未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録16

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第16回 様々な事情で日本劇場公開が危ぶまれた、埋もれかけた映画を紹介する劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。 …

連載コラム

【ネタバレ】ゴジラマイナスワン|矛盾?ラスト/最後の敬礼の意味を考察!酷評/賛否両論シーンが描く《祟り神の自分》に代わり生き抜く者の覚悟|0-1方程式の名はゴジラ4

賛否両論「敬礼」シーンが描く《代わりに生き抜く者》の覚悟とは? 日本制作の実写ゴジラシリーズ作品としては『シン・ゴジラ』(2016)以来の7年ぶりとなる「ゴジラ」生誕70周年記念作品として、山崎貴監督 …

連載コラム

映画『レモ第1の挑戦』あらすじと感想評価。ブルーレイが発売された“労働者階級の007”の製作秘話とは|すべての映画はアクションから始まる2

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第2回 “労働者階級のジェームズ・ボンド”が、裁けぬ悪を成敗する! 日本公開を控える新作から、カルト的評価を得ている知る人ぞ知る旧作といったアクション映 …

連載コラム

韓国映画『よりそう花ゝ』あらすじ感想と評価考察。アン・ソンギのいぶし銀の演技力と“紙の花”の意味|コリアンムービーおすすめ指南32

韓国映画『よりそう花ゝ』は2023年1月13日(金)よりシネマート新宿他にて全国公開! 『風吹く良き日』(1980)、『シルミド SILMIDO』(2003)、『折れた矢』(2011)などの作品で知ら …

連載コラム

映画『川っぺりムコリッタ』あらすじ感想と評価考察。富山をロケ地に松山ケンイチがゆるく切ないキャラを演じる|TIFF2021リポート1

『川っぺりムコリッタ』は、東京国際映画祭2021のNippon Cinema Nowにて上映! 2021年、舞台を日比谷・有楽町・銀座地区に移し実施された東京国際映画祭。話題の日本映画を集めた企画&# …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学