連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第4回
世界各国で作られる、男の世界を描く血沸き肉躍るアクション映画たち。
国境を越えて楽しめるジャンル映画の定番として、配信映画の世界で人気のジャンルです。
元特殊部隊の男を主人公にした映画『内なる獣性』。誘拐された娘のために、再び男は危険な世界に舞い戻ります。
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映画『内なる獣性』の作品情報
【配信】
2020年(イタリア映画)
【原題】
La belva / The Beast
【監督・脚本】
ルドヴィコ・ディ・マルティーノ
【出演】
ファブリツィオ・ジフーニ、リノ・ムゼーラ、モニカ・ピゼッドゥ、アンドレア・ペンナッキ、エマヌエーレ・リンファッティ、ニコロ・ガラッソ、ジャコモ・コラヴィト、ジャーダ ・ガリアルディ、ジャンマルコ・ヴェットーリ、シルヴィア・ガレラーノ、マッシミリアーノ・セッティ
【作品概要】
戦場の記憶に苦しめられる元特殊部隊の男の娘が誘拐される。自ら犯人を追い始めた男の、”内なる獣性”が解き放たれる…イタリア発のバイオレンス・アクション映画。
『Il nostro ultimo』(2015)でフェラーラ映画祭のゴールデン・ドラゴン賞を獲得した、ルドヴィコ・ディ・マルティーノ監督の作品です。
『むかしMattoの町があった』(2010)に主演し高い評価を獲得し、『人間の値打ち』(2013)でダヴィッド・ディ・ドナテッロ助演男優賞を受賞した、ファブリツィオ・ジフーニが孤独の中で闘う主人公を演じます。
映画『内なる獣性』のあらすじとネタバレ
今も戦場で体験した記憶に苦しむ、レオニダ・リヴァ元大尉(ファブリツィオ・ジフーニ)。彼は医師の処方する薬に頼って生活していました…。
今は妻子と別れて暮らすレオニダは、幼い娘のテレサ(ジャーダ ・ガリアルディ)の、ラグビーの試合の観戦に訪れます。
別居中の妻アンジェラ(モニカ・ピゼッドゥ)と声を交わしますが、息子のマティア(エマヌエーレ・リンファッティ)は家族と離れて暮らす父親に反発している様子でした。
その夜はマティアとテレサが、父レオニダの家を訪ねる日でした。しかし途中立ち寄ったハンバーガー店でマティアが目を離した隙に、テレサが行方不明となります。
店員は彼女の悲鳴を聞いていました。マティアから連絡を受けるや、ただちに現場に駆け付けるレオニダ。
彼が到着した時、通報を受けた警察も駆けつけてきました。シモネティ刑事(リノ・ムゼーラ)がレオニダに声をかけますが、そこに怪しい4WD車を発見したとの無線連絡が入ります。
警察無線を聞いたレオニダは車に乗り込むと、制止する刑事を跳ね飛ばして走り出します。違反を繰り返しながら車を疾走させたレオニダは、無線を頼りに目的の車を発見しました。
追跡するパトカーは、カーチェイスの果てに事故を起こして横転しますが、後を追ったレオニダは停止した4WD車に迫ります。
慌てて走り出した車に彼はしがみ付きますが、振り払われ逃してしまったレオニダ。
犯人を見失い、手がかりも掴めずにいるシモネティ刑事は、レオニダ・リヴァ元大尉の資料を入手します。
30年間軍務に就き、特殊部隊員として戦地を転々としたレオニダは、任務で大きな失敗を犯していました。
除隊してから3年になりますが、まだ精神状態は不安定で、医師の勧めるセラピーを拒否し、薬の服用に頼っていると記されています。
レオニダが戦地で作った敵が誘拐犯かもと推測し、警察に構わず動いた彼は、捜査する側にとっても危険な存在になる、と危惧するシモネティ刑事。
その頃レオニダは、誘拐犯が落としたポーチに入った違法薬物を、街角に立つ売人に見せていました。薬物の出所を聞き出そうとしますが、警官と疑われた彼は、売人の用心棒に襲われます。
格闘の末に相手を倒したレオニダは売人をナイフで脅し、薬物はマスティフ組が仕切っていると知り、一味のたまり場を聞き出しました。
一味が集まるクラブに現れた彼は、電話をやり取りする怪しい女に気付きます。その女の後をつけるレオニダ。
バイクで移動した女は、造船所で4WD車の男と接触します。男は誘拐で得た報酬なのか、大金を手にしていました。
そこに現れ男を襲い、彼の雇い主を聞き出そうとするレオニダ。しかし抵抗した男に刺されます。
負傷に構わず反撃したレオニダは相手を殺した結果、雇い主の名をを聞き出せません。そこで女の後を追いますが、逃げられてしまったレオニダ。
そこで彼は男の死体を探り、ポケットからスマホを手に入れます。こうしてレオニダが去ると、造船所にマスティフ一味が現れます。
誘拐犯からの身代金要求が無く、シモネティ刑事たちの捜査は進展しません。
しかし防犯カメラの映像を確認すると、例の4WD車は何度もナンバープレートを付け替え、造船所付近を出入りしていました。
そして映像にはその車を追う、レオニダの車も映されていました。誘拐犯とレオニダとの関係を疑うシモネティ刑事。
警察に協力したアンジェラが自宅に帰ると、玄関の扉が開いています。家の中ではレオニダが、刺された傷を縫っていました。
自分の家は警察に監視されている、と告げたレオニダ。しかし元妻は警察には協力すべきで、息子マティアにはあなたは必要だと語りかけます。
しかし娘テレサのためなら死ねると言うと、妻を残し家を後にするレオニダ。
その頃警察に残っていたマティアは、密かに捜査資料を手に入れました。
部下と共に造船所を訪れたシモネティ刑事は、そこにいたマスティフ一味と銃を突き付けあります、
刑事が4WD車について尋ねると相手は発砲、部下を失いますが狙撃手の発砲で窮地を脱したシモネティ刑事。
この場所で誘拐犯の使用した4WD車と、処分しようとしたのか男の焼死体が発見されました。
そして男の遺体の傍では、誘拐されたテレサのものでしょうか、人間の乳歯が発見されました。
レオニダは片足を失った元戦友の力を借り、死んだ誘拐犯のスマホの連絡相手の、大体の居場所を掴みます。
元戦友はかつて死を恐れぬ男だったレオニダに、戦場が恋しいのかと尋ねます。足を失った時は絶望したが、負傷兵は俺だけではない。生きていけるとやがて気付いた、と心境を語る元戦友。
しかしレオニダ・リヴァ元大尉を苦しめていたのは、敵に捕らわれて拷問された時の記憶でした。
そこに救出部隊が現れレオニダは救われます。しかし部隊は敵と銃撃戦となり、彼を救うために多くの兵士が犠牲となりました。
混戦の中、自分だけが生き残ったレオニダ。その記憶が今も彼を苦しめていたのです…。
映画『内なる獣性』の感想と評価
心砕けた初老の男が肉体を武器に立ち上がる
社会に戻った元特殊部隊の男と言えば『ランボー』(1982)であり、それが誘拐された娘を取り戻すと映画と言えば『コマンドー』(1985)。
共にアクションスター全盛期のシルヴェスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガーを代表する作品です。『内なる獣性』はそれと同じ設定の映画と言えるでしょう。
しかし登場するのは劇中設定50歳以上の主人公。演じるのは演技派のファブリツィオ・ジフーニ。彼が『96時間』(2008)のリーアム・ニーソンより過酷な、傷だらけの闘いに挑みます。
苦悩を内に秘め、それを抱え込んだまま息子にも理解されず、警察を無視して孤独に街を支配する犯罪組織に挑む姿は、任侠映画・Vシネマ的な男の美学をたたえた作品です。
それはやや強引な展開が、お約束のように入ってくることも意味しています。
無茶な展開も愛する家族のため
第2次大戦後、日本と同様に海外への派兵に慎重であったイタリア。しかし1982年のレバノン内戦の停戦監視団に軍を派遣して以来、積極的に海外派兵を行うようになります。
湾岸戦争には空軍部隊を派遣しますが、本格化するのはアメリカ同時多発テロ事件の後。イタリアも対テロ戦争に参加し、それ以降も様々な国と地域に地上部隊を派遣するようになりました。
そんなイタリア軍の歩みを体現するのが本作の主人公。家族にも理解されない戦場で負った心の傷を、ファブリツィオ・ジフーニが渋く演じます。
しかし本作の本題ではない海外の戦場シーンは短く、手際よく描かれます。イタリア軍特殊部隊の活躍に期待を寄せた人は、いささかガッカリするでしょう。
今度の戦場はイタリア国内、相手は犯罪組織。銃より拳に物を言わせるシーンが多く、そして連続して多人数を相手にするシーンあり。
しかも飛んだり跳ねたり走ってみせる主人公。スタントも使っているでしょうが、見た目は地味でも実は最も体力を要する、アクションシーンが数多く登場します。
オーソドックスなスタイルのアクション映画ファンなら、その価値に気付くでしょう。
それゆえにこの主人公、怪我が絶えず酷い重傷すら負います。それでもすぐ起き上がる主人公、死んでも死なない奴こと『ダイ・ハード』(1988)のブルース・ウィリスもビックリです。
それもこれも愛娘を救うため。老いたパパは体一つで頑張ります。犯罪組織もそれに付き合うかのように雑に動き、警察組織も適度にザル状態の捜査です。
全てはアクション映画の様式美に従い、ラストに向けて疾走します。
まとめ
リアリズムよりアクション映画が持つ様式美を、その中でも男の美学を追求した映画、『内なる獣性』。
残酷シーンは控えめ、際どい裏社会を描きながらもエロも控え目。15歳未満の方の視聴は推奨しないとの告知は、暴力シーンと裏社会描写に全フリでしょうか。
短い時間で事件を解決し、娘を救い家族の絆を取り戻すには、リアリズム重視で描くには限界がありました。
しかし苦悩を抱えた男に姿を描き、それでも自分の流儀で目的を果たす不器用な姿は、東映ヤクザ映画を愛する人の心に確実に響きます。
そんな主人公を一番信頼し、(おそらく)父の教え通り適格に行動するのは、妻でも成長した息子でもなく幼い娘。父親世代のハートに響く描写です。
堅物のようで実は話の判る刑事に、根っからの悪党だが、やる事は少々間抜けな敵の親分。全てが然るべきピースに収まる映画です。
アクション映画は、こんな映画でいいんだよ。こんな映画を楽しみたい。そんな思いをお持ちの方にお薦めの1本です。
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