連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第28回
今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。様々な58本の映画が公開中ですが、今回は南アフリカのバイオレンス・サスペンスが登場します。
南アフリカの犯罪都市ケープフラッツを舞台にした映画『NUMBER37 ナンバー37』。
ファンタジア映画祭2018で最優秀監督賞を受賞した、ノシフォ・ドゥミサ監督は、どん底の毎日を生きる男が人生の一発逆転を狙う姿をバイオレンスとサスペンスで描いています。
第28回はソリッド・シチュエーションな状況で展開する映画『NUMBER37 ナンバー37』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『NUMBER37 ナンバー37』の作品情報
【公開】
2019年(南アフリカ映画)
【原題】
Nommer 37
【監督】
ノシフォ・ドゥミサ
【キャスト】
イルシャード・アリー、モニーク・ロックマン、エフライム・ゴードン、ダニー・ロス、ディオン・ロッツ
【作品概要】
双眼鏡を手にした車椅子の男が、身近に起きた殺人事件を目撃したことで展開してゆくサスペンス・ムービー。
アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』を思わせる設定を、南アフリカの犯罪都市に移して描くバイオレンス映画です。
世界最大のジャンル・ファンタスティック映画の祭典「ファンタジア映画祭2018」で、最優秀監督賞を獲得しています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『NUMBER37 ナンバー37』のあらすじとネタバレ
犯罪都市ケープフラッツで、こそ泥をして暮らしているランダル(イルシャード・アリー)は、金貸しの男エミー(ダニー・ロス)を尋ねていました。
エミーは金を返却出来なかった男に、拷問を行っていました。貸し倒れた奴はこうなる、とエミーはランダルに説明します。彼は裏社会の危険な男でした。
ランダルはエミーから金を借り、その金を元手に麻薬取引を行い、大金を得ようとしていました。取引が成功すれば、エミーに金を返しても大金が手元に残るはずです。
エミーはヤクの売人は信用できないぞ、と言いながらも金を貸します。ランダルは友人のレスターと共に、麻薬取引に向かいます。
数か月後。車椅子に乗るランダルは、恋人のパム(モニーク・ロックマン)と新居となるアパートに到着しました。エレベーターの無いアパートを、彼は2階へとかつぎ上げられ登ります。
足の不自由なランダルに、アパートの2階にある部屋は不便でしたが、パムは1階の部屋は空いていなかったと説明して侘びます。
彼女は退屈しのぎになるわ、とランダルにプレゼントを渡しますが、彼は金の無駄使いだと怒り、その箱を開けようともしません。
傷付いたパムに、ランダルは君を養えなくなったと語りますが、彼女はそんなことは頼んでないと答えます。
2人で助け合うのよ、と語りランダルにキスをするパム。2人は抱き合いますが、彼は力なくもう止めようとつぶやきます。
次の日。アパートに独り残されたランダルは、暇を持て余していました。ふとパムから渡されたプレゼントを思い出します。
箱の中には双眼鏡が入っていました。身動きの出来ないランダルは、窓から外の街の風景や、向かい側のアパートの部屋を眺め楽しみます。
ランダルの元にエミーから電話がかかってきますが、それをとりませんでした。
その夜、アパートの部屋がノックされ、用心棒をつれたエミーが現れます。
エミーは忠告しただろ、とランダルに告げます。ランダルは麻薬の取引に失敗して撃たれ、体が不自由になりました。その結果エミーに借りた金も、今だに返せていません。
エミーは帰宅したパムも脅します。少し時間をくれ、というランダルにエミーは7日間の猶予を与え、貸し倒れたらどうなるか覚えているなと言って部屋から去ります。
パムに問い詰められたランダルは、エミーに2万5千ランドを借りていると告げます。
取引に成功していればこんな生活ではなかったと言う彼に、パムはその取引で友人のレスターが死んだ事実を思い出させます。
彼女は私がいるのに何の不満があるのと励まし、エミーに事情を話して、自力で金を返すことを提案します。
ランダルは犯罪仲間に次々と電話をかけ、自分に出来る仕事が無いか探します。
しかし不自由な体のランダルに、仕事を回す者はいませんでした。
仕事も無くアパートに独り残るランダルは、今日も双眼鏡で外を覗いています。彼は路上に1人の男を目撃します。
その男はランダルの向かい側のアパートに住む、ロイヤーの部屋に入ります。男はロイヤーたちに身分証を見せます。彼は汚職警官でした。
ロイヤーはこの一帯を支配する凶悪なギャングのボスです。ロイヤーとその手下が、警官に大金の入ったカバンを渡すのをランダルは目撃します。
ところが何かもめ事があった様です。ロイヤーたちは警官に襲い掛かり、彼を殺します。ランダルはその一部始終を見ていました。
ランダルは緊急ダイヤルに通報しますが、思い直して何もしゃべらず電話を切ります。
彼は帰宅したパムに、ロイヤーたちの殺人を目撃したと伝えます。警察に通報すればと言う彼女に、ランダルは計画があると告げます。
ランダルは近所に住む友人のウォレン(エフライム・ゴードン)を、彼の計画に加えるべくメールで夕食に誘います。
2人をホワイト牧師が訪ねてきました。牧師はランダルとパムを幼い頃から知る人物でした。
ホワイト牧師はランダルに前向きに生きるよう言葉をかけますが、ランダルは神は傍観しているだけだ、と答えます。
どんな手を使っても今の生活から逃れたいと言うランダルに、牧師は君のために祈ると告げ去っています。
連絡を受けたウォレンが現れます。お調子者の感のある彼とパムと共に食事をしたランダルは、本題を切り出します。
ロイヤーの殺人を目撃したランダルは、彼を脅してカバンの中にあった大金、10万ランドを脅し取る計画を打ち明けます。
人目を気にせず殺しを行う、危険なロイヤーから金を奪うのか、とウォレンは心配しますが結局ランダルの計画に乗ると決めました。
翌日、ランダルとパムとウォレンは計画を実行に移します。まずランダルがロイヤーに電話をかけ、警官を殺したなと告げます。
この辺りの警官は買収済みだと答えるロイヤーに、彼は自分は警官ではないと告げて話を進めます。
交渉を進めたランダルは、黙っている代償として10万ランドを要求し、それを収集所のゴミ箱に入れるように指示します。
金を渡すことを約束したロイヤーは、これ以上欲は出すなよ、とランダルに警告します。
双眼鏡を手にしたランダルは、アパートの窓から金の入ったバックがゴミ箱に入れられるのを確認します。
パムはまっとうに働くべきだと、不安げにランダルに語りますが、既に計画は動き出しています。ゴミ箱の中に隠れていたウォレンからメールが入ります。
金はロイヤーの部下が見張っていましたが、彼らにランダルらに指示された子供たちが絡み始めます。その隙をついて収集車がゴミを回収します。
慌てて収集車を追うロイヤーの部下たち。どさくさに紛れてウォレンは金を回収します。
ウォレンからの成功のメールに、ランダルとパムは喜びます。双眼鏡でウォレンの部屋を見ると、彼はカバンの中の現金をこちらに見せびらかしています。
早くこちらに金を持ってこいと伝えるランダルのメールに、ウォレンはお前たちが来いとメールしてきます。難癖をつけ俺が7割もらう、とウォレンはメールしてきます。
ランダルは怒りますが、車椅子の身では身動きがとれません。ウォレンは双眼鏡で見つめるランダルを挑発しつつ、パムが来るなら自分の取り分は6割でいい、と持ちかけます。
やむなくパムがウォレンの部屋に向かいます。彼女が到着するとウォレンは、双眼鏡で見つめるランダルに対し、思わせぶりに窓のカーテンを閉めます。
ランダルには過ぎゆく長い時間を、ただ待つしかありませんでした。
辺りが暗くなった頃、パムがウォレンのアパートから出て来ました。彼女は金の入ったゴミ袋を手にしています。
ランダルは彼女を見守っていましたが、路上にはギャングたちがたむろしていました。ギャングの1人が、ゴミを捨ててやろうとでも彼女に言ったのか、パムに絡んできます。
止むなくパムは、怪しまれないように自ら袋をゴミ箱に捨て、ランダルの部屋に帰ってきます。
ウォレンと何をしていたか聞かないのとパムは、ランダルに尋ねます。
ランダルは俺たちは地獄の中にいる、頭の中は金のことばかり、とつぶやきます。
天気が崩れてきました。雨が降り出すと、路上のギャングたちもどこかへ去って行きます。その隙にパムがゴミ箱に入れた金の回収に向かいます。
ランダルの双眼鏡には、金が無くなっていると訴えるパムの姿が映っていました。
周囲を双眼鏡で探すと教会の中で大金を前に、神に感謝しているホワイト牧師の姿がありました。
翌日。街中で新しい自転車を見せびらかすウォレンの姿に、ランダルは焦ります。
金が手に入ったとアピールするかのような不用意な振る舞いに、ランダルはウォレンに電話しますが繋がりません。ウォレンの様子を見た1人の男が、何者かに電話をかけています。
ウォレンの部屋にロイヤーと部下が乗り込んでいきます。彼が殺されるのをランダルとパムは見守るしかありませんでした。
ウォレンの殺害現場に警察が現れます。1人の女刑事が、ランダルの部屋を見つめていました。
ランダルの部屋に現れた女はゲイル警部と名乗ると、彼がウォレン殺害直前に電話をかけた理由を尋ねます。
さらにゲイル警部は、ランダルとウォレンのメールのやりとりを指摘します。誤魔化すランダルに彼女は殺された警官の写真を見せ、見覚えはないか聞きます。
口をつぐむランダルにゲイル警部は、思い出したら連絡をと名刺を渡します。悪い警官ばかりで、誰も通報しないとランダルは答えます。
ゲイル警部たち警察の関係者に、ホワイト牧師は自分は罪を犯したと訴え、ゴミ箱で見つけた大金を引き渡していました。
計画に失敗したランダルとパムは、荷物をまとめ逃げ出そうとしますが、そこに金貸しのエミーが用心棒と共に現れます。
こんな時間に外出か、とエミーは2人を脅します。ランダルは金ならあるが受け取りに失敗した、1日だけ猶予をくれと懇願します。
猶予を与える代わりにこれは利子だと告げ、エミーはパムの指を切り落とし、引き上げていきます。
パムの手当てをするランダルに、彼女はこれからどうするかを尋ねます。ランダルは君を失望させたが、もう一度だけ俺を信用してくれと訴えます。
自分たちの計画はすべて裏目に出た、警察も信用できないと言うランダル。彼には更に危険な、最後の計画がありました。
しかし、それを実行できるのはパムのみ。ランダルはこそ泥として身に付けた鍵破りの手口をパムに教えます。
映画『NUMBER37 ナンバー37』の感想と評価
名作『裏窓』に敬意を持って制作された映画
参考映像:『裏窓』(1954)
この映画のプロットは、1954年のアルフレッド・ヒッチコック監督の不朽の名作『裏窓』を基に制作しています。
南アフリカの映画会社でスタッフがアイデアを出し合い、25分の短編映画『Nommer 37』として2014年に完成しました。
この短編映画は「SAFTA(南アフリカフィルム・テレビアワード)」の2016年度最優秀短編映画賞を受賞、長編映画化されることとなりました。
監督を務めたノシフォ・ドゥミサ並びに、主人公ランダル役のイルシャード・アリーは、短編作品『Nommer 37』に引き続いて長編映画に参加しています。
こうして完成した『NUMBER37 ナンバー37』は、モントリオールで開かれた「ファンタジア映画祭2018」で、最優秀監督賞を受賞するというサクセスストーリーを成し遂げました。
小さなプロットを大きく育てた作品
短編から長編映画化された過程からもお判りの通り、『裏窓』的な設定をアフリカの犯罪都市を舞台に、いかに発展させるかの工夫がなされています。
登場人物を増やし、様々な登場人物との駆け引きを加え、脚本はサスペンス要素を盛り上げています。
同時に監督は映像表現にも様々なこだわりを見せています。車椅子のランダルは、基本的には高いアングルから全身を写した映像で画面に描かれます。
そのランダルが窓に移動し、双眼鏡を握ると顔を画面いっぱいに映し出し、外の出来事を見て焦燥する彼の内面へと観客を導いていきます。
アパートを舞台にした限られたスペースでの撮影のため、ランダルが自分の存在を小さく感じている表現として背景を大きく見せるため、目的に合わせ様々なレンズを使用し撮影したとノシフォ・ドゥミサ監督は語っています。
長編映画にスケールアップするにあたり、ストーリー以外にも様々な工夫が図られていることに注目してご覧下さい。
まとめ
『裏窓』と似た設定を持つ映画に、2007年に公開されたアメリカのサスペンス作品で、シャイア・ラブーフ主演の『ディスタービア』があります。
『ディスタービア』は双眼鏡を手に家から出れないシャイア・ラブーフに、裁判所命令で発信機を付けられ、自宅軟禁処分という現代的な設定を与えられました。
参考映像:『ディスタービア』(2007)
それに対し『NUMBER37 ナンバー37』の主人公は車椅子の身であり、ヒッチコック作品の『裏窓』に、あくまで忠実な設定担っています。
しかしこの映画の主人公は悪を暴くのではなく、悪人から金を脅し取る計画を目論みます。
身動きのとれない主人公が計画を実行するには、恋人や友人を巻き込むしかありません。ここで生まれるサスペンスを楽しむ作品となっています。
どう考えても主人公に高いハードルが与えられたこの状況、スタッフ一同がどの様な展開を与え、それをいかに映像で表現したかをお楽しみ下さい。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第29回は香港バイオレンス映画の鬼才ハーマン・ヤウ監督と怪優アンソニー・ウォンがタッグを組んだ、最凶のホラー映画『ザ・スリープ・カース』を紹介いたします。
お楽しみに。