連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第9回
様々な映画が大集合した「未体験ゾーンの映画たち2020」が、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催されました。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は全58作品を見破、「未体験ゾーンの映画たち2019」にて紹介させて頂きました。
今回も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第9回で紹介するのは、サスペンス映画『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者』。
殺人容疑をかけられた実業家と、彼の窮地を救うべく現れた敏腕女弁護士。今まで負け知らず弁護士は、男を必ず無罪にしてみえると約束します。
その為に事件の現場で何が起きたか、正直に話してもらう必要があると告げる弁護士。しかし自己保身を図る男の証言は、嘘で塗り固めたものでした。この状況で描かれる対話サスペンス劇に、衝撃のラストが待ち受けています。
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CONTENTS
映画『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者』の作品情報
【日本公開】
2020年(イタリア映画)
【原題】
Il testimone invisibile / The Invisible Witness
【監督】
ステファノ・モルディーニ
【キャスト】
リッカルド・スカマルチョ、ミリアム・レオーネ、マリア・パイアーロ、ファブリオツィオ・ベンティヴァリオ、サラ・カルディナレッティ
【作品概要】
真実を語らない重大事件の容疑者と、敗北を知らない敏腕弁護士の真実を巡る対決を描おいた、サスペンス・スリラー映画。『ジョン・ウィック チャプター2』の悪役が印象深いリッカルド・スカマルチョが、『ミラノ、愛に生きる』のマリア・パイアーロと対話劇を熱演。そして鍵となる女を2008年度ミス・イタリアに輝いた後、女優として活躍するミリアム・レオーネが演じています。
本作は「シネ・エスパニョーラ2017」で上映されたスペイン映画、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』のイタリア版リメイク作で、2019年ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞脚色賞にノミネートされました。ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者』のあらすじとネタバレ
豪華な高層マンションに到着した白髪の女。彼女はその一室に住む実業家、アドリアーノ・ドリア(リッカルド・スカマルチョ)の部屋を訪ねると、ドリアに弁護士のフェラーラ(マリア・パイアーロ)だと名乗ります。
フェラーラは、彼の顧問弁護士パオロが推薦した人物でした。予定より早い到着にドリアは驚きますが、彼女は状況が悪くなったので、急ぎ駆け付けたと説明します。
TVのニュースは著名な実業家のドリアが、女流写真家ラウラ(ミリアム・レオーネ)殺害の容疑者として、捜査中だと伝えていました。
フェラーラはドリアに、事件の訴訟代理人が新たな参考人を用意したと伝えます。彼らが検察に出頭するまで3時間しかありません。それまでに対応策を準備する必要がある、そのために急遽訪問したと語るフェラーラ。
パオロは事態に対応に動き回っています。残り時間も無く、彼に代り私が対応策を決めると彼女は告げます。私は裁判で負けた事は無いが、勝つためには真実を包み隠さず話して欲しい、と言葉を続けます。
猶予は3時間しか無いと言い、ペンを取りノートを広げ、ストップウォッチを取り出すフェラーラ。なぜラウラとホテルへ、と質問されドリアはためらいがちに話し始めます。
…妻子ある身のドリアは、女流写真家のラウラと不倫関係になります。ところがある日、2人の関係ををばらすと脅迫されます。そして雪山の山頂にあるホテルに、10万ユーロを持ってくる様に指示されました。
指定されたホテルの一室で指示を待つドリアとラウラ。すると彼のスマホにメールが送られます。金を入れたトランクを用意するドリアは、部屋に潜んでいた男に襲われ、頭を鏡にぶつけられ意識を失います。
彼が目覚めると床に置物が転がっており、思わずそれを掴みます。部屋の物音を聞きつけたのか、心配した者が扉がノックする音が聞こえます。
彼が目にしたのは、札が散らばる中床に倒れていたラウラでした。彼女は頭を強打され死んでいます。ドアを開け入った警官に、ラウラを抱き自分はやっていない、隠れていた男が殺したと訴えるドリア…。
フェラーラは指摘します。警察の報告書によると、目撃者は物音は聞いたが、部屋から出てくる者は見ていない。ドアは内側からロックされ、窓も施錠され人が出入りした形跡も無い。犯人は何処へ消えたのか。
それでも2人が入る前から部屋に犯人が潜んでいた、自分は罠にかけられたと主張するドリア。逮捕された結果妻ソニア(サラ・カルディナレッティ)も去ったと訴えますが、肝心な事は説明しません。
ドリアにフェラーラは告げます。私は30年のキャリアがあるが、弁護の依頼人には2種類ある。1つは自分に不利な事でも正直に打ち明ける者、もう1つは自分か賢く立ち回れると信じ、弁護士にすら嘘をつき真実を隠す者だと。
真実を知らねば、弁護方針は固まらないと彼女は語ります。ドリアに対し、苦しみのない救いは無いと告げ、自分に辛く不利な真実も語るよう求めます。そして、あなたは私より賢くない、と言い放つフェラーラ。
裁判で今の証言を事実として争うなら、部屋に隠れていた人物が必要だと彼女は説明します。彼女が示す、行方不明の若者・ダニエルを書いた新聞記事を見て、目をそらしたドリア。やがて彼は語り始めます。
…3ヶ月前、ドリアはラウラと山荘で過ごしていました。2人は車で帰路に着きますが、妻子を偽る生活に疲れた彼は、別れ話を切り出します。
慣れない道を走る車は逆走していました。突然鹿が横切り、車は対向車を巻き込む事故を起こします。2人は無事ですが、対向車を運転していた若者は死亡します。警察に通報しようするドリアを制止するラウラ。
事故が表ざたになればマスコミを騒がせ、浮気もバレて互いに家族を失う事になる。目撃者も無く、立ち去れば自損事故で処理される。ラウラに言いくるめられ車に戻るドリア。
しかし事故で故障した車は動きません。そこに山道を登ってくる車が見えます。するとラウラは対向車の中の遺体を伏せて隠します。
通行車が現れると、ラウラは対向車の運転者を装い、ドリアの車と接触事故を起こし、2人で事後処理している姿を装います。通行車の運転手に事情を説明した時に、犠牲者のスマホが鳴りますがラウラが誤魔化します。
ドリアは通行車に通り過ぎるよう促します。その際ラウラは巧みに犠牲者の存在を隠しますが、彼のスマホを思わず自分のポケットに入れました。
対向車は動かす事が可能で、2人は遺体をその車のトランクに入れます。ラウラは計画を話します。今の目撃者は、ここで起きたのは軽い接触事故と信じたはず。遺体を車と共に隠せば、死亡事故は存在しなくなる。
ドリアが対向車を運転し、遺体と共に湖に沈める。ラウラは動かなくなった車と残り、1人で運転したと装い回収車を待つ。そして2人は今後二度と会わない。
何かが少し違っていれば、事故は起きなかったはず。そう後悔しつつ彼はラウラの指示通り、車を湖に沈めます…。
今まで隠していた、交通死亡事故を涙ながらに打ち明けたドリア。しかしフェラーラは驚きや同情の表情を見せません。彼の話は脅迫者につながっておらず、話の続きを促すフェラーラ。
…車を沈めたドリアはラウラに連絡し、迎えに来させます。しかし修理した車で現れたラウラは、思わぬ展開になったと語ります。
ドリアが去った後、彼女は1人故障した車に残り、回収車を待ちます。車にあったドリアのライターで煙草に火を付けた彼女は、新たに車が現れたと気付きます。
その車にはトンマーゾ(ファブリオツィオ・ベンティヴァリオ)と名乗る老人が乗っていました。トンマーゾはかつて、ラウラが乗る車のメーカーに務めていました。彼は好意から車を直そうと申し出ます。
ここでは直せない故障だが、牽引し自宅に運べば修理できると語るトンマーゾ。ラウラは老人の提案を受けました。トンマーゾ宅に向かうラウラは、彼に名前や職業を偽りました。
その時ラウラに、銀行に勤める夫から電話がかかります。トンマーゾの目前で夫と会話をしますが、老人に不審を抱かせぬよう注意して話します。
老人宅につくとトンマーゾの妻、エルヴェラが出迎えます。彼女は昔劇団にいましたが、今は引退して夫と静かに暮らしていました。年老いたエルヴェラの招きで邸内に入ったラウラは、鹿の血と誤魔化した手の汚れを洗い落とします。
車を修理するトンマーゾは、車内に置き忘れたドリアのライターに気付きます。一方エルヴェラと話していたラウラは、家にあった写真を見て愕然となります。先程事故で死なせた若者は、この老夫婦の息子・ダニエルだと気付きます。
するとエルヴェラに、ダニエルの友人から彼が約束の時間に現れない、との電話がかかります。平静を装うラウラは、車の修理が終わったと聞くと、急ぎ立ち去ろうとします。
息子の身を案じたエルヴィラがダニエルに電話をかけると、ラウラのポケットに入ったままの、ダニエルのスマホが鳴りだします。老夫婦は驚きますが、ラウラはスマホをソファーに隠し、ダニエルが忘れたと装います。
ダニエルがスマホを忘れるとは、と老夫婦は不審がりますが、ラウラは先を急ぐと称し出発します。その車を老夫婦が見送り、ラウラはドリアと合流しました。
ドリアは事故を起こした車を処分し、事故を葬り去り妻子や事業が待つ日常に戻ります。しかしある日TVで、行方不明のダニエルを捜索する人々の姿が報道されます。その映像にトンマーゾと妻も映っており、私は後悔の念に襲われた…。
そこまで語った時、フェラーラに電話が入ります。彼女は得た情報として、代理人が用意した参考人は、これから検事と面会します。急ぎ対策を練るためにも、あなたは真実を語って欲しいと告げるフェラーラ弁護士。
ドリアは顧問弁護士であるパオロに電話します。予定より早く彼女が現れたと聞くと、実績のある彼女に協力するよう告げるパオロ。彼はヘリに乗り人に会いに行く最中でした。フェラーラはドリアが警察の追求を受けた件の説明を求めます。
…行方不明のダニエル捜索の報道を見た後、ドリアの元に刑事が現れます。あの日道路に事故の痕跡があり、そして女が目撃された。女はあなたのナンバーの車に乗っていたとの証言がある、と刑事は質問します。
顧問弁護士のパオロと共に、事情聴取を受けるドリア。目撃された女の似顔絵は、ラウラと似ていました。しかしパオロは、その時ドリア氏はパリにおり、車はその前に盗難されたと説明します。
2人になった時に、パオロは正直に事情を説明して欲しいと言いますが、不倫相手と会っており表沙汰にしたくない、とだけ話すドリア。彼はパオロに、パリのいたアリバイの用意と、警察に圧力をかける事を依頼します。
自動車事故の件で警察が動いていると知ったラウラは、銀行員である夫の権限で預金情報にアクセス、ダニエルが横領を働いたと記録を改竄します。それがダニエル失踪の原因ではないかとの報道を知り、驚いたドリアは彼女に説明を求めます。
ドリアはラウラが事故現場でダニエルの財布を持ち出し、そこから得た個人情報を使い、操作した事実を知らされます。元銀行員の彼女にそれは可能でした。ラウラが保身を図り暴走したのです…。
そこまで語ったドリアを遮り、今の説明では検事を納得させられない、と告げたフェラーラ。彼女が銀行員であったのはかなり以前。システムも変わり、彼女に可能な行為でないと指摘します。
その指摘に彼女の夫が協力したのかも、と説明して話を続けるドリア。
…不安を抱えながらも、アジアとの大きな取引をまとめたアドリアーノ・ドリア。事業は順調で、世間の注目を集めます。ところが盛大なパーティーの場に、彼に面会を求める人物が現れます。それはダニエルの父、トンマーゾでした。
彼は警察で、事情聴取を受けに現れたドリアを見ていました。修理した車に乗りこむ時、彼が手助けした女が、座席の位置を調整する姿を見て、車は彼女の物で無いと気づくトンマーゾ。
そう語り煙草をくわえた老人に、ドリアはライターを差し出しますが、トンマーゾはそれが修理した車の中にあったものと、同じだと気付いた様子です。
ドリアは自分はパリにいたと釈明しますが、老人は航空券やホテルの領収書など、証拠はねつ造できると言います。彼は警察に、息子の事故現場には自分が手助けした女以外に、第3者がいたと訴えます。
そう訴え出た直後、トンマーゾの息子ダニエルは横領の容疑者とされ、警察の扱いも変化します。行方不明の息子が犯罪者扱いされ、ショックで彼の妻エルヴェラは寝込んでしまします。
ダニエルは横領などしていない。証拠を捏造したり、銀行や警察に手を回せるのは、あなたの様な人物だ。そう疑ってドリアを尾行したトンマーゾは、彼が修理した車に乗っていたラウラと、密会している姿を目撃します。
その事実をトンマーゾは警察に訴えますが、相手にされません。あなたの権力を思い知らされたと語る老人。しかし失う物の無い私はあなたを恐れてはいない、そう言葉を続けると、訴えないので息子が眠る場所だけは教えて欲しい、と懇願します。
しかしドリアは語らず、トンマーゾは警備員に追い出されます。私は真実を胸の内に隠し、苦しみながら家族と事業を守る道を選んだ…。
そう語り終えたドリア。彼は自分が起こした交通事故の犠牲者を隠し、その結果被害者の父から疑われたと告白しました。それを聞いても無罪請負人の弁護士、フェラーラは動じません。
映画『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者』の感想と評価
映像で描く“嘘”の積み重ねミステリー
濃厚な会話劇であるこの作品を紹介すると、膨大な文字数になりました。
オリジナルのスペイン映画『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』を知らなくても、悪役顔のリッカルド・スカマルチョと、訳ありムードを漂うマリア・パイアーロとの対話に、何か仕掛けがあるはずと、誰もが身構えて鑑賞するでしょう。
この2人の会話だけで構成された物語ですが、その告白(嘘であったりする訳ですが)は映像で物語られます。『ユージュアル・サスペクツ』と似た構造ですが、本作が面白のは嘘を用意した人物が、質問や与えられた情報に合わせ、新たな嘘を作る点です。
嘘の物語が画面に描かれると、そこは映像の力、見る者に信ぴょう性を与えます。身構えて映画を見た方も、何が嘘で何が真実か判らない迷宮に墜ちるでしょう。映像が持つ、ミスリードさせる力を再確認させてくれる作品です。
ピースを拾い集めたパズルの様な映画
映画も後半になると、逃れる側が計算した上で嘘と真実を語る姿と、追求する側は切り札を握りながら、巧みに誘導し追い詰めていたと理解できる、優れた尋問ミステリーだと気付かされるでしょう。
そう理解して振り返ると、嘘による創作の中に真実が隠れていたり、映画のクライマックスへ向けての伏線が張ってあると気付きます。オリジナル映画があったといえ見事な脚本、脚色賞にノミネートされる訳です。
映画を見終え振り返ると、無罪請負人フェラーラを演じたマリア・パイアーロが、微妙に表情を使い分けた熱演がより理解でき、同時にそれがラストへのヒントだと理解できます。
これから本作を見る方は、彼女の表情や態度に注目して鑑賞すると、より深く楽しめること間違いありません。
まとめ
サスペンス映画といっても、奇抜すぎる設定や後出しで状況を加え、安易に“どんでん返し”や“衝撃のラスト”を用意する作品も多数あります。
しかし『インビジブル・ウィットネス 見えない目撃者 』は、仕掛けは全て会話の中、および会話が生んだ物語の中に潜んでいます。それを意識すれば、本作が上質のミステリーであったかを実感できるでしょう。
嘘は嘘で誤魔化せると信じている方、この映画を見た上で、しっかり反省するように。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第10回は中国の秘境冒険大活劇映画『トレジャー・オブ・ムージン 天空城の秘宝』を紹介いたします。
お楽しみに。