連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第36回
「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第36回で紹介するのは、テロ組織と闘う特殊部隊の活躍を描いた映画『ピーク・レスキュー』。
欧米の映画やドラマでは、スパイや特殊部隊が国境を越え、世界を股にかけ活躍します。今や躍進著しい中国映画も、同様のアクション映画を作るようになりました。
そんな映画の代表「ウルフ・オブ・ウォー」シリーズも、2作目ではアフリカを舞台に描かれ、中国の歴代興行収入記録を塗り替えた、ヒットを記録しています。
そして新たに、東南アジアの地でASEANサミットを狙うテロリストに立ち向かう、中国特殊部隊の活躍を描いたアクション映画が誕生しました。
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CONTENTS
映画『ピーク・レスキュー』の作品情報
【日本公開】
2020年(中国映画)
【原題】
嶺峰营救 / Peak Rescue
【監督】
ジン・ハオ(靳浩)
【キャスト】
ツァン・ヤキ(张亚奇)、フェイ・シンジェ(费馨洁)、ワン・ジチェン(王子宸)、ハイ・ヤン(海扬)、リュウ・シンザン(刘秦杉)
【作品概要】
テロ阻止に死力を尽くす、中国特殊セキュリティチームの活躍を描く、ミリタリーサスペンス映画。中国空軍精鋭部隊を描いた映画、『スカイハンター空天猎』の軍事シーンの撮影に参加した、ジン・ハオが監督を務めました。
主演は高校生時代から俳優として活躍し、アクション映画や武侠映画などで活躍するツァン・ヤキら、若手スターが集結した作品です。
映画『ピーク・レスキュー』のあらすじとネタバレ
北ミャンマー特別行政区。ドローンを飛ばして周囲を監視していた隊員が、車両の接近を報告します。その連絡を受けて装備を身に付け戦闘配置に着く、現地の特殊部隊隊員たち。彼らを指揮するのがハン・ハオ(ツァン・ヤキ)隊長でした。
車は彼らが追うターゲットと、武装したテロリストがたむろするアジトに向かっています。それに対し特殊部隊は射撃を開始、手際よく男たちを排除すると、その車を奪って乗り込みます。
特殊部隊が奪った車がアジトに近づくと、狙撃手が歩哨を射殺し援護します。任務を果たした狙撃手は位置を移動し、監視班はこのアジトに間違いなくターゲットの男がいると確認します。
アジトには別の車が到着し、中から1人の女が降りました。彼女は部下にケースを運ばせます。その中身は放射性物質をまき散らす大量破壊兵器、通称”汚い爆弾”でした。これを特殊部隊は追っていました。
爆弾とその起爆に必要なUSBメモリが取引されていましたが、交渉が決裂すると殺し合いが始まります。その瞬間に銃撃を開始し、突入する特殊部隊隊員たち。
武装したテロリストが駆け付け、敵味方入り乱れる激しい銃撃戦となります。そこに隊員が乗った車も到着し、銃撃戦に参加します。
車で逃走を図った男がいましたが、隊長から指示を受けた狙撃手が射撃します。しかしその男を逃しました。アジトを制圧すると、特殊部隊は爆発物を回収します。
しかし取引現場に現れた女はその場を離れると、1人川で船を操り姿を消します。
東南アジアの国オーリラン、ASEANサミット開催72時間前。襲撃されたアジトから逃れた女は、街の中で、スマホで入金を確認した上でUSBを取引します。相手は彼女を追ってきますが、女は巧みに尾行を巻きました。
しかし女が車に乗り込むと、白人の男が現れ銃を突きつけます。その男こそ、あの取引現場から逃げた人物で、彼こそテロリストのボスでした。
ボスは女から受け取ったUSBが偽物との連絡を受けると、本物を渡せと脅します。しかし動じることなく、自分を殺せばUSBの行方は分からなくなる、と告げる女。
車に乗り込んだボスは、銃で脅し女に車を走らせます。しかし僅かな隙をついて女は反撃し、銃を奪って発砲しますが、ボスは走る車から転がり降りて逃れます。
後続する部下の車に乗ると、彼は部下と共に女の車を追跡します。女はナビで中国領事館の位置を確認し、そこを目指し車を走らせました。
テロリストの車は市内で発砲しながら追ってきます。それでも女は領事館にたどり着くと、警備員の制止を振り切り車で敷地内に入ると、手を上げ投降の意志を示します。その姿を見送るしかないテロリストたち。
女は中国の特務機関の用意した、市内にある秘密のセーフハウスに連れていかれます。しかしその姿は何者かに目撃され、通報されていました。
ASEANサミット開催48時間前。オーリランのホントック国際空港に、旅客機が到着します。降り立った乗客たちの中に、4人の中国人男女がいました。彼らは皆冒頭の作戦に参加した、特殊部隊のメンバーです。
観光客を装った4人が運河を進む船に乗り込むと、連絡員が接触してきます。ハオ隊長は彼から写真を渡され、今回の任務がこの”ホワイトゴード(白羊)”と呼ばれる女の保護だと聞かされます。それは領事館に逃げ込んだ、あの女でした。
連絡員は現地のヤクザ、ジンヤー・トンから武器を調達しろと指示して立ち去ります。しかし”ホワイトゴード”の写真を見て、衝撃を受けうなだれるハオ。
その夜トンと取引を済ませ、武器を手に入れたハオは車に乗り込みます。車には部下のガオ・レイとその弟分のゴウズ、女隊員のジン・ナンがおり、4人は固い絆で結ばれていました。ハオは車を運転するジン・ナンに、セーフハウスへ向かわせました。
そのセーフハウスに、テロリストのボスが迫っていました。”ホワイトゴード”は危険を察したのか、護衛を気絶させるとセーフハウスから逃亡します。ここを襲撃したボスは残された彼女のパスポートと、赤いカードを手に入れます。
ハオたちがセーフハウスに到着すると、そこにはパトカーや救急車が停まっていました。直ちに連絡員に電話をかけ、護衛が殺されたものの、肝心の”ホワイトゴード”は行方不明だと知らされるハオ隊長。
ホテルでシャワーを浴びていたハオは、かつて付き合っていた彼女のことを思い出し、苦悩していました。そこにジン・ナンが現れます。ハオの態度の異変に気付いた彼女は、”ホワイトゴード”と隊長の関係について訊ねます。
ハオ隊長は”ホワイトゴード”の正体はかつての自分の妻、シュー・ビン(フェイ・シンジェ)だと答えます。しかし軍人のハオは任務のため、彼女が必要とする時に側にいることができず、ビンは彼の元から離れて行ったのです。
彼に心を寄せるジン・ナンは思わず抱きつきますが、ハオの首のネックレスには、ビンとの結婚指輪がかかっていました。思わずハオの部屋から飛び出したジン・ナンを、気まずそうな顔のガオ・レイとゴウズが迎えます。
2人はジン・ナンが隊長を好きだと気付いていました。彼女が姿を消してから、それを冗談のネタにするガオ・レイと弟分のゴウズ。
その頃ボスは部下に、”ホワイトゴード”ことシュー・ビンが、所持していたカードを調べさせていました。
セーフハウスから逃れた後、ホテルに宿泊していたビンを、カードから行方を突き止めたテロリストたちが襲撃します。高い戦闘スキルを持つ彼女は、次々敵を倒してゆきます。
しかし数で勝るテロリストに圧倒され、ついに絶対絶命の危機を迎えます。そこに現れて敵を倒し、彼女を救ったのがハオたち特殊部隊の面々でした。
映画『ピーク・レスキュー』の感想と評価
参考映像:『スカイハンター空天猎』(2017)
成長著しい中国映画界。本国に厖大な数の観客を抱え、更にアジア圏を中心とする需要も大きく、ハリウッド映画をしのぐ興行成績を収める作品も、続々と誕生しています。
ハリウッドに肩を並べる存在に育った中国映画は、その内容もハリウッド映画に対抗できるスケールを持つようになりました。
この作品の中国特殊部隊が異国で、自在に活躍する姿に政治的意図を感じる人もいるでしょうが、そういった作品を求める、自国の発展に意気高揚する観客層のニーズに応える、という必要性はあるのでしょう。
そして今までイギリスのスパイや、アメリカの軍隊や捜査官が映画やドラマで、世界中で好き勝手に活躍するのを、抵抗なく受け入れてきた我々の姿勢は何だったのか。それを他の国の映画が行うと覚える違和感の正体は何なのか、という疑問を再確認させてくれます。
という堅苦しい話題は置いて、本作監督は『スカイハンター空天猎』(2017)の、アクションシーン撮影に参加したジン・ハオです。その手腕に注目してみましょう。
動画配信用に作られた中国の本格派アクション
映画にしては短い上映時間の『ピーク・レスキュー』、本作は中国の動画配信サイト”iQIYI(アイチーイー、爱奇艺)”で公開されるために製作されました。
視聴者を引きつける、世界を舞台にしたアクション映画を完成させるべく起用されたジン・ハオ監督。彼が生んだアクションシーンは見応え充分、ファンなら必見の出来栄えです。
冒頭のミャンマーを舞台にした特殊部隊が見せる軍事作戦的なアクション、中盤のホテルでフェイ・シンジェが室内空間を利用して単身テロリスト集団と闘うシーンはスパイ映画的で、それぞれならでは、の見応えがあります。
続く路上での特殊部隊隊員vsテロ集団の銃撃戦は、マイケル・マン監督の『ヒート』(1996)風の描写。そしてクライマックスは、列車内という狭い空間でのアクションと、様々な戦闘状況が意図して作られています。
様々なアクションを見せることにこだわり、完成度の高いシーンを生んだ作品と評価して良いでしょう。
何故か80年代B級香港映画ムードが漂う
ところでこの映画上映時間が短く、アクションシーン盛り沢山なのに、主人公らの恋愛模様に部下の壮絶な死と、エモーショナルな描写に実に時間をかけ過ぎです。
だったらもう少し、異国で行うスパイ活動的な描写や、説得力あるテロリスト捜索に時間をかけた方がいいぞと、誰もが言いたくなるでしょう。
終盤の列車内のシーンも、アクションは見応え充分ですが、主人公や避難する乗客がどう動いたか、あの列車はどうつながっているのか、位置関係がさっぱり理解できません。
そしてクライマックスでいきなり、ここぞとばかりに流れるムーディーな歌謡曲には、申し訳ないですが吹き出してしまいました。
一体これはいつの時代のセンスなんだ? その昔香港でB級アクション映画を手がけていた監督が、久々に中国に招かれて撮ったのか? と真剣に思いました……。
その後現れるエンドロールが、なぜか昔のフィルム映画のプリント処理が甘かったそれの様に、上下にカクカク動いて流れる光景に、トドメを刺されました(皆様の目に触れる際は、差し替えられているかもしれませんが)。
盛り上げ方や妙な所で、実に80年代B級香港映画のテイストに溢れているこの作品、実に愛おしくなりました。
まとめ
色々とB級映画感、そして古典的ベタな盛り上げ演出たっぷりの『ピーク・レスキュー』ですが、アクションシーンは一級品、日本映画が太刀打ちできるレベルではありません。
東南アジア某国を舞台にしたこの作品、…どう見てもタイ。ロケ地もタイで、劇中にセリフに出て来たチョウ・ユンファの映画『アンナと王様』(2000)、舞台はご存知の通りタイです。
実際の国名を出すのは遠慮したのでしょう。海外で自由自在に暴れる、ハリウッド映画よりは謙虚な姿勢である、ってことにしておきましょう。その割にはミャンマーって言葉は、ヤバイ場所を示す言葉として使用していますけど。
いろいろとツッこみながら見ても楽しい映画です。でも邦画の実写映画版『空母いぶき』(2019)も、妙な名前の国を登場させていましたから、人のことは言えません。
映画を作るための、大人たちの知恵と配慮ですから…。広い心で受け入れましょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第37回は連続殺人鬼の魂が乗り移ったドローンが美女を襲う!驚愕設定のホラー映画『DRONE ドローン』を紹介いたします。お楽しみに。
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