連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第32回
「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」の第32回で紹介するのは、スター共演で送るウェスタン映画『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』。
西部開拓時代伝説のアウトロー、ビリー・ザ・キッド。そして彼を殺した保安官、パット・ギャレット。2人の伝説的人物の物語は、虚実を交え繰り返し語り続けられ、その姿は繰り返し映画に登場してきました。
伝説の2人の対決に偶然遭遇した姉弟の視点を通し、西部の掟を描く豪華スターが出演・監督した、異色のウエスタン・ムービーの誕生です。
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CONTENTS
映画『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
The Kid
【監督・原案】
ビンセント・ドノフリオ
【キャスト】
イーサン・ホーク、デイン・デハーン、クリス・プラット、レイラ・ジョージ、アダム・ボールドウィン、ジェイク・シュア、ビンセント・ドノフリオ
【作品概要】
やむなき理由で罪を犯し、叔父に命を狙われて逃亡した姉弟。2人は偶然ビリー・ザ・キッド一味に遭遇しますが、彼らは保安官パット・ギャレットに追われていました…。実在の伝説的人物を配して描く、新時代の西部劇です。
『マグニフィセント・セブン』のイーサン・ホークにクリス・プラット、ビンセント・ドノフリオが再集結、『アメイジング・スパイダーマン2』『ヴァレリアン 千の惑星の救世主』のデイン・デハーンなど、豪華な顔ぶれが出演しています。
出演のビンセント・ドノフリオが、原案を提供した本作を自ら監督、彼の娘で『移動都市 モータル・エンジン』のレイラ・ジョージも出演した作品です。
映画『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』のあらすじとネタバレ
父のビルは人生に失望していた、とリオ(ジェイク・シュア)は振り返ります。兄弟同様荒くれ者の父は、母が自分たち姉弟を連れて、家を出るのではと疑っていました。
ある日酒に酔った父は、母を疑って激しい暴行を加えます。耐えかねたリオは床に落ちた銃を拾い、思わず父に向けました。銃声が響き渡り、それは姉弟の叔父、カトラー(クリス・プラット)の耳にも入ります。
父はリオに射殺され、姉のサラ(レイラ・ジョージ)が意識の無い母に駆け寄りますが、既にこと切れていました。こんな事なら、もっと早く父を殺すべきだったと振り返るリオ。しかしそこに、カトラーが手下を引き連れ現れました。
ビルの遺体を見つけ、怒り狂ったカトラーはリオに暴行を加えます。隙を見てリオは叔父の顔を傷つけ、サラが背後から殴り倒すと、着の身着のまま逃げ出した姉弟。
叔父のカトラーを敵に回し、頼るべき身内も無い2人。そこでサラは弟に、母の友人がいるサンタフェを目指そうと言って励まします。
近くの農家から1頭の馬を奪い、逃避行を続ける姉弟。しかしカトラー一味も2人は、サンタフェを目指していると睨んでいました。
とある朽ちかけた小屋で眠っていた姉弟。リオが目を覚ますと、ライフルを持つ1人の男が立っていました。驚く2人に笑いかけ、親し気に話しかける男。それは逃亡中のお尋ね者、ビリー・ザ・キッド(デイン・デハーン)その人でした。
ビリーの仲間の男たちは、逃げ込んだ小屋にいた姉弟を邪魔者とみなし追い出せと迫りますが、ビリーにその気はありません。彼こそが有名なアウトロー、キッドと気付き話しかけたリオに、手を差し出し握手を求めるビリー。
ビリーは姉弟も追われる身と見抜いたのでしょうか。俺たちといれば安全だと告げ、1~2時間休むと言うと仲間と共に横になります。
その頃、ビリーを追う保安官パット・ギャレット(イーサン・ホーク)は髭を剃り、身支度を整えていました。
リオがビリーに話かけると、彼は喜んで相手になりました。父に殺された母の写真を見せたリオに、ビリーは何歳だと尋ねます。彼が15歳だと答えると、ビリーは自分も15歳で、母を守るために初めての殺しを行ったと告げます。それが全ての始まりだったとつぶやくビリー。
小屋はギャレットと部下たちに包囲されていました。ビリーの仲間チャーリーが馬の様子を見に外に出ると、一斉に発砲を開始します。ビリーたちは反撃して銃撃戦となり、姉弟は身を伏せるしかありません。
ビリーが投げ縄で馬を小屋に引き寄せ、逃亡を図ろうとするとギャレットが駆け寄り、その馬を射殺して逃走を封じます。ビリー一味とギャレットたちは睨み合いとなります。
リンカーン郡戦争と呼ばれる争いの後、ビリーは保安官になったギャレットに追われていました。一味のデイブは捕まれば処刑されると、最後まで抵抗することを望みますが、今回は逃れられないと覚悟を決めたビリー。
部下には射殺を望む者もいましたが、ギャレットは一味に投降を呼びかけます。それに応じてビリーはリオに形見となる石を与え、手を上げて小屋から出ます。
ビリー一味が逮捕される中、サラは小屋に身を潜め、この場をやり過ごそうと考えます。リオの父親殺しがバレれば、弟の死刑は免れません。
しかしリオは小屋から飛び出します。彼はこれを叔父の追跡を逃れるチャンスだと考えたのです。ギャレットから事情を尋ねられ、サラはとっさに母を亡くしてサンタフェに向かう途中に、父とはぐれたとと答えます。
その言葉を信じたのかどうか、ギャレットはサンタフェへ向かうビリーの連行に、姉弟を同行させることにします。リオはこの後ビリーはどうなるか訊ねますが、人殺しは処刑されるだけだ、と答えるギャレット。
ギャレットと逮捕されたビリー一味、そして姉弟を乗せた荷馬車は、護衛を引き連れ進みます。一行はメキシコ人の住む集落に到着します。
そこにはギャレットらが射殺した、ビリー一味のチャーリーの死を悲しむ妻や、ビリーの恋人がいました。ギャレットはチャーリーの死体を遺族に引き渡します。
ここでサラとリオに毛布が与えられ、ビリーらは加治屋で鎖につながれます。ビリーはギャレットの部下に話かけますが、彼らはビリーを極度に恐れて警戒していました。
ギャレットはチャーリーの遺族に金を受け取らせ、ビリーは恋人にキスをして別れを告げ、一行は集落を後にします。
とある家でギャレットらは、ビリーらを壁際に座らせテーブルで食事をとります。その席でギャレットから、離れ離れになった家族について訊ねられ、疑われぬよう慎重に答えるサラ。
無視されたかのような扱いにビリーが抗議すると、ギャレットは彼も食卓に着かせます。リオの隣に座ったビリーは、ギャレットと俺は、かつて遊び仲間だと親し気に話します。
ビリーに言わせれば、上手く立ち回れたかのどうかの差が、現在の2人の境遇の違いを生んだと話しますが、ギャレットは聞き流します。サラには無法者の勝手な言い分に聞こえましたが、彼に憧れを抱いているのか、リオは密かにビリーの手にバターを渡しました。
バターを塗って滑らせて、手を鎖から引き抜くとナイフを掴み、護衛の1人に突き付けたビリー。ギャレットは動じることなく、ビリーの仲間の1人に銃を向けます。ビリーは抵抗を諦め、大人しく連れていかれます。
屋外で煙草を吸っていたギャレットに、リオはリンカーン郡で何があったのかと訊ねます。金持ちがいて、もう1人の金持ちと戦争を始めた語るギャレット。
ビリーとギャレットはその抗争に巻き込まれ、仲間と共に対立し殺し合いました。自分もビリー同様悪事を犯した、しかし大事なことは、次に何をやるのかだと、ギャレットは語ります。
ギャレットは何か話したいことがあるのかと訊ねますが、リオは姉に止められます。父親殺しがバレると処刑されると言うサラに、リオは事情を話して自白すべきと訴えますが、あなたが死んだら私も死ぬと告げ、神も探せない遠い場所へ行こうと話すサラ。
ベットに入ったリオは、父を射殺した銃声を思い起こし、眠ることができません。彼の手にはビリーからもらった石が握られていました。
翌朝一行は出発し、馬車の中でビリーはリオに昨日の礼を告げます。馬車は処刑台の前を通り、サンタフェの街に到着します。住民たちは評判のお尋ね者、ビリー・ザ・キッドを一目見ようと集まり、ビリーも立ち上がって群衆の歓声に応えます。
一行はサンタフェの副保安官、ロメロ(ビンセント・ドノフリオ)の事務所に到着します。ギャレットはここで裁かれる、ビリーの仲間のデイブ・ルタボーを引き渡します。しかし周囲には野次馬だけでなく、ビリーに恨みを持つ者も私刑を加えようと集まっていました。
ビリーを安全な場所に連行しようと、ギャレットは人々が集まる中、強引にビリーの身柄を駅馬車に移します。そのどさくさに紛れ、サラは近くにあったカバンを奪って、リオと共に逃げ出します。そのリオを姿を笑って見つめるビリー。
ビリーの乗った駅馬車は、銃を持った復讐を願う男たちに囲まれます。護衛との間に緊張が走りますが、構わずビリーは寄って来た新聞記者の取材に、自慢げに応じます。ギャレットは1人の男の銃を撃ち落とし、皆が怯んだ隙に馬車を出発させます。
リオとサラは酒場に入ると、そこで働く亡き母の友人・ミラベルを訪ねます。しかしそこには、叔父のカトラー一味が待ち伏せていました。
サラを殴り倒すと、カトラーは父を殺した償いとして、お前を売春婦にすると告げます。リオに激しい暴行を加え、追って来たらお前も姉も殺すと告げ、酒場から叩き出したカトラー。
打ちのめされたリオは、街で衣服を盗み身なりを変えると、姉を救い出そうと決意します。
映画『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』の感想と評価
参考映像:『ヤングガン』(1988)
21歳の生涯で21人を殺した人好きのする性格の、小柄な左ききの早打ちガンマン、と語り継がれるアウトロー、ビリー・ザ・キッド。生前から虚実ない混ぜに報道され、やがて粋な義賊といったイメージが定着し、大衆向け小説や映画の主人公として活躍します。
名作西部劇映画から、『ビリー・ザ・キッド対ドラキュラ』という珍作映画にまで登場する彼ですが、その名を一躍有名にした抗争劇、リンカーン郡戦争を描いた映画、『ヤングガン』をご存知の方も多いでしょう。
キーファー・サザーランド、チャーリー・シーン、ルー・ダイアモンド・フィリップスら当時の若手スターを集めたこの作品で、ビリー・ザ・キッドを演じたのはエミリオ・エステベス。今回はデイン・デハーンがその雄姿を演じています。
西部伝説の人物が続々登場!
そしてビリー・ザ・キッドを殺した男として有名な人物が、パット・ギャレット。サム・ペキンパー監督の『ビリー・ザ・キッド 21才の生涯』では、ジェームズ・コバーンが演じました。
渋い男が演じる代名詞、というべき役を今回はイーサン・ホークが演じています。その姿はファンならずとも注目に値します。
この実在の2人の人物に、架空の姉弟の物語が絡むのが本作。当然フィクションの物語ですが、野暮は承知で詳しく見て行きましょう。
1877年から78年にかけて起きたリンカーン郡戦争。その後追われる身となったビリーは、1880年末にギャレットに逮捕されますが、1881年4月に脱走します。
その年の7月、ビリーは家から出たところを、ギャレットに射殺されます。ギャレットは後に、自著などでビリーが銃を持っており、正当防衛だったと主張していますが、現在は本作に描かれたように、闇討ちに近い襲撃だったとされています。
以上から本作はビリーがギャレットに逮捕されてから、射殺された後までの物語、という設定になります。劇中に登場人物の幾人かは、実際にビリーやギャレットの周囲にいた人物です。
巧みに虚実を交えた「伝奇」西部劇
1880年末にギャレットは、映画に登場した射殺されたチャーリーこと、チャールズ・ボードレやデイブ・ルタボーら実在の仲間3人と共に、ビリーを包囲して捕えます。ギャレットは彼らを護送すると、野次馬が集まり、彼らに恨みを持つ者も集まるという大騒動になります。
本作監督のビンセント・ドノフリオは、サンタフェの副保安官として登場しますが、これ実在の人物でギャレットから地元の看守を殺した無法者、デイブ・ルタボーの身柄を、私刑を望む住民の圧力を背景に引き取ります。
映画ではこの直後に処刑されるデイブですが、実際はこの後裁判で死刑判決を受けるも脱走、1886年にメキシコで地元民といさかいを起こし、殺害されたとされています。
デイブ・ルタボーはビリーとギャレッドだけでなく、ワイアット・アープやドグ・ホリディといった、西部劇を代表する著名人と関わった経歴を持つ無法者です。
映画では描いていませんが、ギャレットに護送されたビリーは裁判で死刑判決を受けた後、身柄をリンカーンに移されます。そこの保安官事務所に拘留中、ギャレットの留守に副保安官のボブ・オリンジャー、これも実在の人物を射殺して逃亡します。
これが1881年の4月。逃亡の経緯を映画は忠実に描いています。なおこの副保安官のボブ、リンカーン郡戦争時の振る舞いや、権力を得てからの態度で、世間から評判の悪い人物とされています。主人公に冷たい態度もとったのも、そんなエピソードの反映でしょう。
この後ビリーがギャレットに射殺されたのが7月。本作が実在の人物を登場させ、その人物に関わるエピソードを忠実に再現しつつ、一方で様々な改変を加えたとお判り頂けたでしょう。
何といっても史実のタイムスケジュールをかなり簡略・短期間化しています。本作は重厚な本格西部劇として楽しめますが、歴史上の人物を史実に沿いながらも自在に活躍させる、日本の娯楽伝奇歴史小説と同じ性格を持つ作品とも受け取れます。
アメリカンスピリットとビンセント・ドノフリオ
監督・主要キャスト以外にも、『マグニフィセント・セブン』に関わった人物が多数出演していますが、本作のアイディアはそれ以前から持っていた、と語るビンセント・ドノフリオ。
彼は『マグニフィセント・セブン』に出演中、本作を実現する為に、イーサン・ホークやクリス・プラットに声をかけました。
自身を生粋のニューヨーカーだと断りながらも、アメリカ人の心に今も生きる、西部劇を描きたかった。その古典的物語を、現在最高の俳優を起用して描きたかったと、ビンセント・ドノフリオは告白しています。
西部の英雄が生きた世界を体感させ、彼らの経験した事件を描き、それをフィクションの少年のエピソードと絡める事で、創造的に飛躍を遂げさせた作品、それがこの西部劇映画です。
西部劇では無法者を正しい人間として描いた、サム・ペキンパー監督作品や、クリント・イーストウッド監督の、『許されざる者』が好きだと語るビンセント・ドノフリオ。善と悪を単純なものとして描かない姿勢は、この本作のテーマとして流れています。
まとめ
西部劇に詳しく無くても、重厚な物語を楽しめるのが『スリー・ジャスティス 孤高のアウトロー』です。しかしアメリカ人の視点で見ると、フィクションに偏らず、史実にこだわって実在の人物を描こうとした、意欲的な作品だと見てとれます。
映画的にストーリーを簡略化しながらも、実在の人物はその性格を生かしながら描き、史実の出来事をフィクションの創造に生かしています。歴史小説、歴史ドラマファンなら、そんな視点で見ると楽しくなる性格を持つ作品です。
映画は登場する西部の伝説的人物が実際に活躍した、ニューメキシコで撮影されました。この映像と雰囲気も、当時を息遣いを感じさせる役割を果たしています。
日本のマンガやアニメ、ドラマや映画にも、様々な歴史上の人物を登場させ、創作した様々な作品があります。西部劇に登場するヒーロー言えば、なんとも古風な印象がありますが、本作の舞台となる時代は日本で言えば明治初期です。
つまり幕末の元志士や新選組の元隊士が、縦横無尽に活躍する創作された様々な作品と、時代的には何ら違いがありません。そう考えると西部劇も、実に身近な存在になりませんか。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第33回はナチゾンビが大暴れした映画『処刑山 デッド卍スノウ』がパワーアップ!待望の続編『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』を紹介いたします。お楽しみに。
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