連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第13回
世界各地の映画が大集合の「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。
今回も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第13回で紹介するのは、オーストラリアのホラー映画『フューリーズ 復讐の女神』。
殺人鬼が登場し犠牲者を殺害するスラッシャー映画。70~80年代の特殊メイク技術が発達する中、ビデオ市場の拡大と共に、世界中で刺激的なホラー映画が求められた時代に、続々と作られ一大ブームを巻き起こしました。
そういった映画に多大な影響を受け、そしてオマージュを捧げる作品が、オーストラリアで誕生しました。
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CONTENTS
映画『フューリーズ 復讐の女神』の作品情報
【日本公開】
2020年(オーストラリア映画)
【原題】
The Furies
【監督・脚本】
トニー・ダキノ
【キャスト】
エアリー・ドッズ、リンダ・ゴー、テイラー・ファーグソン
【作品概要】
驚きのシチュエーションで繰り広げられる殺人ゲームを描いた、スラッシャー・ホラー映画。ミュージックビデオやCM、TVドラマを手がけて来たトニー・ダキノ初の長編映画である本作は、シッチェス映画祭”Midnight X-Treme”部門で最優秀作品賞にノミネートされるなど、世界各国のファンタステック映画祭で上映され、好評を得ています。
主演は「未体験ゾーンの映画たち2018」で上映された『キリング・グラウンド』のエアリー・ドッズ。特殊効果には『ハクソー・リッジ』に加わった、ラリー・ヴァン・ディンホーフェンらが参加、見ごたえある残虐シーンを生み出しています。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『フューリーズ 復讐の女神』のあらすじとネタバレ
林の中を逃げまどう女。彼女をマスクを付けた大鎌を持つ男が追います。足に怪我した女はもう逃げる事が出来ません。彼女が襲われようとしたその時、もう1人仮面を付けた男が現れます。
恐怖に震える女の前で、2人に仮面の男は格闘します。後から現れた男は大鎌を奪うと、相手を惨殺します。生き残った男は、震える彼女を抱きかかえ、どこかに去って行きます…。
場面は変わり夜の街で、ケイラ(エアリー・ドッズ)は友人のマディと、スプレーで壁に落書きをしていました。ケイラは意識障害(突然体が動かなくなり、外部からの刺激に反応できなくなる症状)の持病を抱えていましたが、今までマディに助けられていました。
しかしマディもこれからずっと、彼女の面倒を見ている訳にはいきません。ケイラ自身も積極的になるべきだと訴えると、2人は言い争いになり、マディが先にこの場を離れます。
ところが叫び声と共に、マディの姿が消えます。彼女の名を呼んでも返事はありません。不安に襲われたもケイラも突然襲われ、拉致され意識を失います。ぼんやりとした意識の中で、彼女は手術台の上にいたようです。
彼女は突然鳴り響くノイズ音で目を覚まします。目の前のライトが赤く光っています。ケイラは荒れた林の中に置かれた、黒い箱の中にいました。
嫌な音から逃れるべく、黒い箱から出たケイラ。周囲には誰も居ません。自分の手に血が付いていますが、左目から出血していたようです。我に返りマディを探す彼女は、近くに朽ち果てた遺体があることに気付きます。
突然2人の女が現われ、声を上げようとしたケイラの口を塞ぎます。追手に居場所を知られると言う2人は、アリスとシーナ(テイラー・ファーグソン)と名乗りました。
2人は危険な何者かに追われており、すぐ移動するべきだと訴えます。尋ねると2人共、マディの姿を見ていませんでした。そして何かを思い出し、突然走り出すケイラ。
ケイラは自分が入れられていた箱に戻り、中を探りますが意識障害の薬はありませんでした。パニックが引き起こしたのか、発作を襲われるケイラ。意識障害の症状で彼女の視覚は働いていますが、体は倒れ動かす事ができません。
2人は不安そうにケイラを見ていました。やがて彼女は意識を取り戻しますが、数分ほど発作に襲われていました。彼女はアリスに、意識障害の発作を起こすと、意識を失ったり幻覚を見たりすると説明し、その薬が今手元には無いと打ち明けます。
彼女は発作で倒れた時、斧を持ち歩いている男の視点の幻覚を見ていたようでした。改めて箱を見ると、そこには“美女6”と記されていました。
シーナは助けを求めに、既に移動していました。アリスは彼女にシーナの後を追おうと言います。2人は歩き出し、ケイラはアリスにここに来る前の事を、何か覚えているかと尋ねます。
アリスは駐車場で盗みを働いていて、いきなり拉致されました。目に何か処置をされ、同じように黒い箱の中で目覚めます。もう一度尋ねても、やはりマディを見ていないと答えるアリス。
マディの名を叫ぶケイラを、追手に気付かれると言ってアリスが止めます。マディ探しに協力しない彼女に、ケイラはなぜ行動を共にするのか尋ねますが、2頭いる豚を追う時、猟犬は足の遅い豚を追うとアリスはケイラに告げました。
2人は新たな黒い箱を見つけますが、それは“野獣6”と記されており、中には何もありませんでした。すると斧を持った、異様なホッケーマスクのような仮面を付けた男が現れ、2人はとっさに箱の影に身を隠します。
男が迫ってくるとアリスは枝を投げ、注意をそらします。その隙に逃げようとケイラを促すアリスですが、彼女は発作に襲われていました。その時ケイラはまたしても、追跡者の視点になって眺めていると感じていました。
やむなく動きの取れないケイラを残し、アリスは全力で駆けだしますが男に追われます。男の投げた斧が木にめりこみ、それを抜こうとするアリスは男に捕らわれます。アリスの頬に斧をめり込ませてゆく男。
ようやく意識を取り戻したケイラが、アリスの元に駆け付けると、彼女は無惨な姿で殺されていました。ケイラが走ると林が途切れ、荒野が果てまで見渡せる場所に出ます。何もありませんが見通しが良く、いきなり襲われる可能性はありません。意を決し荒野に駆け出すケイラ。
ところが荒野の先に、何本もの杭が並んで立っています。彼女が近づくと杭の先に付いたライトが赤く光りだし、箱の中で聞かされたノイズ音が響き渡ります。不快な音に苦しめられ、ケイラは先に進むことが出来ません。
そこに悲鳴を上げ1人の女が駆けてきます。彼女は先程の斧を持った男に追われていました。ケイラは彼女に手を振りますが、男の投げた斧が彼女の背中に命中します。
男はなぜかケイラに手を振ります。唖然としたまま、思わず男に手を振るケイラ。傷付いた女に止めを刺そうとする男ですが、醜い人面のマスクをした、手鎌を持つ男が現れます。
斧の男はケイラに目をやると、手鎌の男に向かいます。2人の殺人者が争い始めた隙に、ケイラは傷付いた女を助けに向かいます。サリーと名乗る女に肩を貸して逃げ出すケイラ。背後では手鎌の男が、斧の男を倒していました。
深手のサリーは寒気を訴え、これは私たちに与えられた罰だと呟きます。血の跡を伝って手鎌の男が追ってくると、サリーの身を枯れ枝で隠し、助けを求めて走り去るケイラ。
しかしサリーは手鎌の男に見つかります。男は彼女の顔を眺めてから、サリーの両腕を引きちぎります。一方ケイラは現れた豚のマスクをつけた、ナタを持った男に襲われます。必死に抵抗するケイラですが、突然彼女の目前で、男は頭を破裂させて倒れます。
何が起きたか理解できないケイラですが、我に返りサリーの元に急ぎますが、彼女は死んでいました。気を取り直しナタを手にして進むケイラは、廃屋が並ぶ集落を見つけます。地図看板を見ると、ここは廃鉱山近くの集落のようです。
小屋の1つに入ったケイラは、背後に忍び寄る人物にナタを振るいます。それは同じ殺人者から逃げる女の1人でした。彼女の首に深い傷を負わせたケイラは、動揺しながら謝ります。そこにもう1人の女を連れたシーナが入ってきます。
シーナに事故だったと訴えるケイラ。しかし傷を負わせた女は死に、ショックで発作を起こすケイラ。その時彼女はまた何者かの視点で幻覚を見ていました。それは視点となった人物の手で、廃坑近くに隠されるマディの姿でした。
マディ、と叫び意識を取り戻したケイラに、シーナと共に現れた女が、誰の名前か訊ねます。友人のマディだとケイラが説明すると、彼女はローズ(リンダ・ゴー)と名乗り、シーナはナタを手に外の様子を伺いに出ており、ケイラに殺された女はジャッキーだと説明します。
ローズは親戚が意識障害を患っていたので、彼女の症状を理解していましたが、シーナに取り残されて怯えており、自分も殺すのかとケイラに訊ねます。あれは事故だったと説明し、2人は友人となって離れずに、今後は助け合おうと告げるケイラ。
ケイラはローズに何を体験したか尋ねます。彼女はフクロウのマスクを付けた殺人者を目撃していました。そしてシーナと出会い、2人で行動していました。
発作を起こした時、自分が見た光景はただの幻覚ではない、と感じていたケイラはある事に気付きます。そして小屋の中を探し、スプーンを見つけます。
ローズが叫ぶ中、ケイラはジャッキーの遺体の左目をえぐり出します…。
映画『フューリーズ 復讐の女神』の感想と評価
徹底した残酷描写で見せるスラッシャー映画
見事な悪趣味映画です。妙齢の女性が多数登場するこの作品、自主規制R15+相当と案内されていますが、その自主規制に占める、残酷度とエロ度の比率は10:0。清々しいほど徹底してます。スラッシャー映画ファンは絶対見るべし、苦手な人には劇薬以外の何物でもありません。
かくも徹底した作品なのに、今一つ世界のホラーファンに支持されていない模様です。この殺人ゲーム、どれだけ金と暇を持て余した奴らが開催したの?とツッコミたくなるトンデモ設定と、複雑なルールが理解し辛く、今一つ乗れなかった人が多かった結果でしょう。
しかしトンデモ設定でも面白いホラー映画には、ドリュー・ゴダード監督の『キャビン』があります。『キャビン』がどこかで見た様なモンスターのオンパレードなら、『フューリーズ 復讐の女神』はどこかで見た様な殺人鬼のオンパレード、実に愉快です。
映画の設定のために大きく広げた、嘘の大風呂敷さえ受け入れて鑑賞すれば、映画後半以降の駆け引きはお見事。そしてトム・サビーニが好きな特殊メイクファンは必見の作品です。
監督の70~80年代ホラー映画愛が炸裂!
監督・脚本のトニー・ダキノは、インタビューで自身を熱烈な、70~80年代ホラー映画ファンだと紹介しています。当時これらの映画が独立系の映画会社で作られ、その結果生まれたクレイジーな作品が大好きだと語っています。
監督はこの作品を作るにあたり、CGは予算の制約から排除しただけではなく、実際に作られたものが生むリアル感を映画に生かすべく、特殊メイクを中心とする映画作りを選択しました。
メイクやプロップを利用した撮影は、精密なものの製作には時間がかかり、NGが許されない撮影となります。時間と予算の制約に悩ませられますが、監督の友人でもある特殊効果マン、ラリー・ヴァン・ディンホーフェンに助けられたと語っています。
彼はこの映画の特殊効果シーンに対し、情熱的な完璧主義者として素晴らしい仕事をしてくれた、と讃えているトニー・ダキノ。とはいえ最初に撮影した残虐シーンの出来栄えには、これはやり過ぎだったかも…と思ったそうです。
この映画は70~80年代スラッシャー映画へのオマージュに満ちていますが、一方で監督はそれらの映画に登場する、性差別的に女性を描くパターンを破る、新しいスタイルの映画にしたいとも考えていました。
その結果本作に登場する女性は、殺される人物であっても感情があり、知的で、そしてヌードシーンの無い形で描かれています。
オーストラリアで生まれたこの作品は、同様に明るく乾いたテキサスで生まれた映画であり、そして自分のお気に入りでもある『悪魔にいけにえ』を意識していると監督は語っています。
多くのシーンが暗闇とは対極の、明るい中で撮影されましたが、それは特殊効果のスタッフに、大きなプレッシャーを与える環境での作業になったと打ち明けます。
まとめ
トニー・ダキノ監督のホラー映画愛と、特殊効果へのこだわりが詰まった『フューリーズ 復讐の女神』は、同時にホラー映画に登場する女性像の新たな形を示していました。冗談めかしてエロ度が少ない、と書きましたが監督の意図した狙いだったのです。
自身をゆるぎないホラー映画ファンと認めるトニー・ダキノは、次回作もホラー映画を作りたいと語っています。そしていつか自分が目標とする、『悪魔のいけにえ』のような、良い映画を作りたいとの夢を語っていました。
この映画に登場する殺人鬼は全て、デザイナーと相談し意図して有名なホラー映画のキャラクターを、アレンジしたデザインのマスクを付けています。
なるほど、あいつが『悪魔のいけにえ』の、レザーフェイスをアレンジした殺人鬼ですか。大変よく判りました。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第14回は実際の事件を元にテロリストとの攻防を描く映画『22ミニッツ』を紹介いたします。
お楽しみに。
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