連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第14回
ヒューマントラストシネマ渋谷で絶賛開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。ジャンルと国籍を問わない貴重な映画計58本が、続々と上映中です。
第14回では、カナダのホラー映画『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』紹介します。
参加者に精神的・身体的苦痛を与え、究極の恐怖を体験させるアトラクション施設。
そこに参加した男女2人の体験を描く、バイオレンス・ホラー映画です。
映画監督で特殊造形の第一人者西村喜廣が本作に出演、また特殊メイクにも参加しています。
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CONTENTS
映画『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』の作品情報
【公開】
2019年(カナダ映画)
【原題】
Extremity
【監督】
アンソニー・ディブラシ
【キャスト】
チャド・ルック、ダナ・クリスティーナ、ディラン・スローン、西村喜廣、冨手麻妙
【作品概要】
精神的・身体的苦痛を参加者に体験させる施設で起きた惨劇を描く、バイオレンス・ホラー映画。
過去の体験が産むトラウマに苦しめられる若い女性アリソン
。彼女は恐怖を体験させるアトラクション施設「パーディション」に参加します。自分の限界を超える体験を通じて、アリソンはトラウマの克服を願いますが、事態は思わぬ方向へと向かいます。
『ラスト・シフト 最期の夜勤』『操り人間』を監督、数々のホラー映画製作に携わったアンソニー・ディブラシの作品です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』のあらすじとネタバレ
参加者に様々な精神的・身体的苦痛を与える、恐怖体験アトラクション施設「パーディション」は、全世界に配信され人気となっています。
参加する者は、主催者に精神的にも肉体的にもすべての権利を委ねた者の中から選ばれます。
雪の積もる中を、1台の車が走り抜けていきました。車内にアリソン(ダナ・クリスティーナ)がいました。彼女を心配するエリカのメッセージを無視して走り続けます。
荒野の中に建物の前に来たアリソンは、主催者の指示に従いスマホで自身の動画を撮影します。
名を名乗り、自らの意志で「パーディション」に参加したとアリソンは語ります。
彼女は車にキーとスマホを残して外に出ます。
そこにもう1台車がやってきます。車を降りたのはザッカリー(ディラン・スローン)。彼もアリソンと同じく「パーディション」の参加者でした。
建物の中に入ると、分厚い誓約書が用意されています。2人は目を通さずサインします。
指示に従い、汚れた便器の中にある物を手にした2人。中には覆面が用意されていました。
指示に従って覆面を付けるとマスクをした人物が現れ、2人をバンに乗せて走り去ります。
アリソンの過去。自死を図った彼女は、パートナーのエリカに救われました。アリソンは精神科医と、この件について話ています。
バンは到着し、アリソンとザッカリーはある施設の中へと連れて行かれます。
その2人に一方的に日本語で話しかけるレポーター(冨手麻妙)と、撮影するカメラマン(西村喜廣)が現れます。2人は構わず連れていかれます。
一室に入れられた2人は、骸骨のマスクを付けた女に挑発的に扱われます。
お前たちに起きる全ては、記録されるとの主催者からのメッセージが流れます。
また日本からの取材者には、敬意を持って接するようにと指示されます。全ては世界に向けて配信されるからです。
脅かすのはバカでも出来る、心の問題を解き放って欲しいと主催者は語り、続けて2人が恐れるものを質問します。アリソンは狭い場所、そして冬と答えます。
冬そのものではなく、幼い頃冬に起きた出来事が、アリソンを深く傷つけていました。
その部屋に何者かが忍び寄り、アリソンは激しく叫びます。
その後、骸骨のマスクを付けた主催者のボブ(チャド・ルック)はレポーターの取材を受けています。
なぜ2人を選んだとの問いに、全てを見守るようにと答えます。
別室に移されたアリソンとザッカリーは、服を脱ぎ着替える事を強要されます。
アリソンの車に残されたスマホには、エリカからのメッセージが入っていました。
アリソンの過去。彼女はパートナーのエリカからスキンシップを求められますが、激しく拒絶します。
愛情を示して欲しいと訴えるエリカに、あなたのせいでは無いと答えるアリソン。過去に起きた何かが原因です。
アリソンとザッカリーは引き離され、別室に移されます。
するとアリソンの前に、鏡越しに淫らな行為をする女が現れ、激しい音楽がかかる中、アリソンにも同じ行為をしろと求めますが、アリソンが行為を拒むと、次は暴行を加えられるザッカリーの姿が現れます。
淫らな光景と、暴行を加えられるザッカリーの姿が交互に現れ、アリソンが拒む限り暴行は止まず、アリソンが従った時、女の喉はかき切られます。
部屋から引き出されたアリソンは、痛めつけられたザッカリーと一緒にされます。
次は2人に犬が放たれ、施設内をゴールまで逃げ切るよう強要されます。逃げ遅れたアリソンの目前に犬が迫りますが、彼女の目前で犬は射殺されます。
彼女は罰として水を浴びせられ、暗く狭い棺の中に入れられます。
アリソンの過去。彼女は父親に箱に入れられ、埋められるという罰を与えられていました。
暴力描写を描いたアングラ映画を見るアリソンは、エリカに心配されます。アリソンの前に現れた女性が男に襲われる姿。箱の中のアリソンを、様々な記憶が襲います。
アリソンは「パーディション」に参加する許可を、精神科医に求めます。そんな行為にセラピー効果は無いと反対する医師の意見を押し切って、彼女は参加していました。
記憶に苦しめられ棺の中で絶叫するアリソンは、ようやく解放されました。
一方「パーディション」の舞台裏で、射殺された犬は実は生きていました。
取材にタネを明かしながら、自分はアングラ映画の特殊効果マンと説明するスタッフのジョン。彼はマスクを付け、参加者を脅す役も引き受けていました。
次に取材されたフィルはイラクやアフガンで従軍した人物。主催者のボブが戦争映画の脚本を書いている時に、彼と知り合ったと語ります。
それ以来「パーディション」に協力しているフィルは、この行為は自分にとってもセラピーの様なものと説明します。
自分の出番が来たフィルは、レポーターの元から去り、引き出されたアリソンとザッカリーの前にフィルが現れます。
アリソンに、何が欲しいかと尋ねるフィル。反抗的な彼女の顔にタオルを被せ、水をかけ責める姿に、ザッカリーは殺す気かと抗議します。
さらにフィルに責められ、恐れの対象は「父親」だと答えたアリソン。パニック発作を起こしますが、フィルの処置に落ち着きをとり戻します。
別室で見ていたレポーターは、問題は無いのかと尋ねますが、主催者であるボブは全て我々の管理下にあると説明します。
ザッカリーは尋問に、両親に負け犬と呼ばれた事を告白します。
アリソンは更に追求されますが、隙をつきフィルの顔面に頭突きをします。
舞台裏ではレポーターが、アトラクションの出演者の2人の女、ネルとキャシーにインタビューしています。
2人は質問に非協力的な態度を見せ、「パーディション」の待遇にも不満がある様子です。
反抗の止まないアリソンは水槽に入れられ、その前にボブが現れます。彼女にボッティチェリの地獄図を示しながら、ボブは彼女が「パーディション」という地獄で何を見るのかと挑発します。
ザッカリーはアリソンに対し子供の頃、臆病な行動で兄を死なせたと告白します。
一方で彼女は子供の頃の、父から受けた行為を話せずにいます。その記憶こそが彼女を苦しめているのです。
過去にアリソンは精神科医に母の死後、父から受けた行為を告白していました。
苦労の末に過去と向き合った彼女を、医師は前進したと評価します。
それでもアリソンの心の傷は軽くなりません。彼女は自分に流れる父の血を嫌悪していました。
「パーディション」舞台裏でフィルは、なぜあの女を選んだかとボブに尋ねます。他の候補者より美人だから、と彼は答えます。
あの女は異常だと訴えるフィルに、ボブはすべて演出の結果で、今も見せ場を作っていると答えます。
アトラクションは人助けではなかったのかと問うフィルに、ボブは自分たちの行為はもっと世界に評価されるべきと主張しますが、フィルはその態度に怒り去って行きます。
気を取り直したボブは、我が子と話そうとしますが、電話に出た別れた妻に養育費の支払いを迫られます。「パーディション」運営の内情は厳しいものでした。
雪の積もる野原に引き出されたアリソンとザッカリー。2人を連れ出したネルとキャシーは銃を持ち、殺されたくなければ逃げるよう指示します。
しかし捕えられたアリソンとザッカリー。ネルとキャシーはアリソンに銃を持たせ、女を食い物にした男だと言い聞かせ、ザッカリーを撃つよう指示します。
ザッカリーの姿に父を重ねたアリソンは発砲、彼は血に染まって倒れます。事態にネルとキャシーは銃を間違えた、事故が起きたとパニックを起こします。
2人は茫然とするアリソンを捕え、慌てて「パーディション」へと戻り、拘束したアリソンを前に、ボブとネルとキャシーは相談します。
ザッカリーの事故死を隠ぺいするには、アリソンを始末するしかありません。
身動きの取れないアリソンの前にマスクをした男が現れます。
映画『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』の感想と評価
カメラマン役の西村喜廣
『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』を見た方は、日本からの取材チームの登場にさぞ驚いたでしょう。
カメラマン役は本作の特殊メイクにも参加した西村喜廣。日本を代表する特殊メイクアーティストで映画監督としても活躍中です。
参考映像:『蠱毒 ミートボールマシン』(2017)
また西村監督作品『蠱毒 ミートボールマシン』に出演した冨手麻妙がレポーター役。彼女は数々の園子温監督映画に出演しています。
西村監督は世界のホラー映画ファンに、熱心に自身の作品を発信しています。
日本国内以上に、海外から広く支持された西村監督の人気を実感させる本作への登場でした。
行き過ぎた演出「パーディション」
襲う、脅かす側が被害者に逆襲されるパターンはサバイバルホラーの定番の1つです。
襲う側がトンデモない連中なら拍手喝采ですが、冗談や訳ありで脅かしただけなのにという可哀そうな展開もあります。
「パーディション」では、恐怖体験アトラクションを商売としながらも、アリソンのトラウマ克服のために過激なドッキリを演出しました。
仕掛けられた芝居で、体験者に人生を変える体験をさせる映画といえば、デヴィッド・フィンチャーの『ゲーム』があります。
参考映像:『ゲーム』(1997)
『ゲーム』は公開時、前作『セブン』とあまりに異なる作風に失敗作と評価され、次作『ファイト・クラブ』との狭間に埋もれた感のある映画です。
『ゴーン・ガール』が公開されたとき、その原点と認識された『ゲーム』は、改めて再評価されました。
サバイバルホラーである『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』も、『ゲーム』を意識した仕掛けで作られた映画です。
インディーズ映画製作のセルフパロディ?
映画『ゲーム』で主演のマイケル・ダグラスは、日常生活の中で大仕掛けなドッキリに遭遇します。
仕掛けるのはCRS社という大企業。トンデモない設定ですが、あの規模のドッキリを演出するには、必要な存在です。
ところが「パーディション」は、ネットのお蔭で世界に配信してるも、内実は実に寂しい小規模経営です。
スタッフはアングラ映画の特殊効果マン。また様々な経験を経て荒んだ態度の女性出演者に、レポータの冨手麻妙は同情を禁じ得ません。
主催者のボブは元々映画監督で成功出来なかった映画界を毒づく言葉は、本作製作者の自嘲ネタでしょう。
離婚したボブは、子供の養育費も払えぬ状態。「パーディション」はイマイチ成功していない様子で、参加者の人助けで始めたはずが、今や世間へのウケ狙いを模索しています。
商業主義のハリウッドを嫌いながらも、訳ありスタッフを抱え、作りたいものよりウケそうなものを製作しそれでもボブは取材に虚栄をはり続けます。
そんな滑稽だけど悲しい姿は、インディーズホラー映画製作者の嘆きを、セルフパロディにして見せたものでしょう。
まとめ
『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』は、様々な面でインディーズ映画を感じさせてくれるホラー映画です。
寂しい舞台裏を描きながらも、限られた環境でセットを組み恐怖を演出する「パーディション」のスタッフの姿は、まさに低予算ホラー映画の現場そのものです。
映画は主人公のアリソンを軸に描かれ、彼女の為に頑張り過ぎたスタッフは、ただ彼女の犠牲になるという皮肉な結果を迎えます。
脚本を工夫した結果の物語でしょうが、同時にインディーズ映画の製作現場に対する愛情も感じ取れます。
このような姿勢で作られた映画だからこそ、日本から西村監督と冨手麻妙が参加する意義があったのでしょう。
映画の作り手に対し、実にブラックな形で、思いをはせる事ができる映画が『トラウマ・ゲーム 恐怖体験アトラクション』です。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第15回はクライム・アクション映画『ハイエナたちの報酬 絶望の一夜』を紹介いたします。
お楽しみに。