映画『偽りの隣人 ある諜報員の告白』は2021年9月17日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋他にて全国順次公開!
韓国歴代興収10位を記録した大ヒット作品『7番房の奇跡』(2013)のイ・ファンギョン監督による『偽りの隣人 ある諜報員の告白』(2020)は、1985年の軍事政権下の韓国を舞台に、民主化を求め自宅軟禁された政治家と彼を監視する諜報員の心の変遷を描いた社会派ヒューマンサスペンスです。
オ・ダルスが本作で2年ぶりの復帰を果たしたのをはじめ、『王の預言者』(2018)、『善惡の刃』(2017)などのチョン・ウ、『スマホを落としただけなのに』の韓国リメイクの出演が決定したキム・ヒウォンなど韓国を代表する名優、怪優が集結。
韓国で公開されるや、初登場1位を記録した注目の作品です。
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映画『偽りの隣人 ある諜報員の告白』の作品情報
【日本公開】
2021年公開(韓国映画)
【原題】
이웃사촌 /英題「BEST FRIEND」
【監督】
イ・ファンギョン
【キャスト】
チョン・ウ、オ・ダルス、キム・ヒウォン、キム・ビョンチョル、イ・ユビ、チョ・ヒョンチョル、チ・スンヒョン、キム・ソンギョン、ヨム・ヘラン、チョン・ヒョンジュン
【作品概要】
軍事政権下の韓国を舞台に、民主化を求め自宅軟禁された政治家と彼を監視する諜報員の心の変遷を描いた社会派ヒューマンサスペンス。
チョン・ウ、オ・ダルス、キム・ヒウォンなど韓国の個性派俳優が集結。監督は『7番房の奇跡』(2013)のイ・ファンギョン。
映画『偽りの隣人 ある諜報員の告白』のあらすじ
1985年、軍事政権下の韓国。
国家による弾圧が激しさを増す中、次期大統領選に出馬するため帰国した野党政治家イ・ウィシクは空港に到着するなり国家情報院の命で逮捕されてしまいます。その後、釈放されたものの、今度は自宅軟禁を余儀なくされました。
国家情報院・安全企画部企画調整室キム室長は、ウィシクを監視するため、当時左遷されていたものの愛国心だけは人一倍強いユ・デグォンを監視チームのリーダーに抜擢することにしました。
こうしてデグォンは、2人の部下と共に隣家に住み込み、24時間体制の監視任務に就くことになりました。
機密情報を入手するため盗聴器を仕掛けたデグォンたちでしたが、家族を愛し、国民の平和と平等を真に願うウィシクの声を聞き続けるうちに、自身が行っていることに疑問を持つようになります。
そんな矢先、ウィシクを援助し、大統領選出馬を強く押すウィシクの友人がキム室長の命令により殺害されてしまいます。
さらに、ウィシクの身にも危険が迫っていました……。
映画『偽りの隣人 ある諜報員の告白』感想と評価
爆笑必至の盗聴風景
シリアスなタイトルやメインビジュアルからは、緊張感に満ちたスパイものの印象を持ちますが、意外にも前半はコメディータッチで物語が進んでいきます。
チョン・ウ演じる主人公のデグォンをはじめ、盗聴チームの面子が、すっとぼけていて、頼りなく、なんともいえないゆる~いエピソードが積み重ねられていきます。
オ・ダルス扮するウィシクの一家が、美味しいサム・ギョプサルを食べている様子が耳に飛び込んでくるや、盗聴している面々もたまらずサム・ギョプサルを食べ始めたり、ウィシクの娘がトッポギのおすそ分けを持って訪ねて来ると、キム・ビョンチョル扮する盗聴員が、娘に一目惚れして、思わず部屋に招いて盗聴がバレそうになったり、といったドタバタした展開が笑いを誘います。
これはイ・ファンギョン監督の持ち味と言ってもよいでしょう。大ヒット作『7番房の奇跡』も、非常に深刻な主題を扱いながら、全編、明るい笑いに満ちた作品として制作されており、笑いながら、主人公とその周辺の人々に強く共感し、最後には思いっきり泣かされたものです。
本作もまた、ドタバタした笑いの中に、人と人が互いの人間性に触れ、惹かれ合う様子が描かれています。
ウィシク個人だけでなく、彼の家族が互いを思いやる様子が、デグォンの心に染み込んでいく姿に説得力があります。イ・ファンギョン監督も本作を「家族の映画だ」と述べています。
ちなみにウィシク一家の幼い息子・イエジュン役で出演している聡明そうな少年は、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』で「ダソン」を演じたチョン・ヒョンジュンです。
さて、そんな展開も中盤以降はがらりと雰囲気を変えていきます。
真の「愛国者」とは?
自宅軟禁された政治家といえば、金大中氏や金泳三氏といったのちに大統領となる野党政治家・民主化運動家を思い出させますが、映画は冒頭に「本作はフィクションです」と断っています。
「事実に基づく」「実際の事件にインスピレーションを受けた」といった字幕の出る作品も多い中、本作はあえて「フィクションです」とことわりをいれることによって、オ・ダルス扮する政治家ウィシクは、特定の人物をモデルにしているのではなく、民主主義政治を実現させようとする当時の様々な人々の思いを背負った象徴的な人物として登場してきます。
この作品でも描かれる、家族の反対を押し切って学生運動に走る若い人々たちの心情もそこには当然含まれているでしょう。
民主主義を実現させようとする切実な思いが伝わってくると共に、命をかけるほどの強い意志が描かれています。
ウィシクと敵対する人物として描かれるのが国家情報院・安全企画部企画調整室のキム室長です。演じるのはキム・ヒウォン。
『鬼手』(2019)、『名もなき野良犬の輪舞』(2017)などの作品では気のいいはぐれものを演じる一方、『アジョシ』(2010)では強烈な悪役を演じ、人気ドラマ『ミセン-未生-』(2014)でもいや~な課長を演じるなど、個性的な演技が光る名バイプレイヤーです。
キム室長が部下に命じるのは、ちょっといくらなんでもという非道な命令ばかり。でもこれが突飛なものといえないところが軍事政権の恐ろしさを表しています。
ウィシクとキム室長との間に立たされたデグォン。彼はいかなる行動をみせるのでしょうか。
まとめ
思わず脱力するお笑いシーンから、緊張感溢れるアクションシーンまで、完全にキャラクターに溶け込んだ出演者たちの名演技に笑って、怒って、気づけば涙ぐんでいることでしょう。
イ・ファンギョン監督は、人と人のふれあいを描かせれば、ピカイチであると言わずにはいられません。映画には思わず頬を緩めてしまうような暖かさが溢れています。
一方、「愛国者」を名乗り、自分たちにとって都合の悪い人物を不当に迫害する権力者には、強い憤りを感じずにはいられません。
イ・ファンギョン監督は、こうした相反する感情を、コメディーとシリアスを巧みに使い分けながら描いています。さらにクライマックスでは、これまで観たこともない独特なコメディーとシリアスの融合を見せてくれます。