連載コラム「コリアンムービーおすすめ指南」第2回
韓国映画について縦横無尽に語ることをコンセプトにした本連載もようやく2回目。
月に一度の更新となりますが、お付き合いのほどよろしくお願いいたします。
アクション映画や韓国ノワールというジャンルにおいて男同士の対立や絆は欠かせない要素です。
男の世界の美学なくしてこの分野は成立しません。
今回は韓国映画で表現される男同士の友情の在り方について考察してみました。
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CONTENTS
警察学校の学生を主人公にしたバディ映画『ミッドナイト・ランナー』
参考映像:『ミッドナイト・ランナー』(2017)
不覚にも見逃していた『ミッドナイト・ランナー』(2017/キム・ジュハン監督)を先日、ようやく劇場で捕まえることができました。
警察学校の学生であるギジュン(パク・ソジュン)とヒヨル(カン・ハヌル)はある日女性が車に連れ込まれ誘拐されるのを目撃します。
二人が力を合わせて、憎き犯人を捕まえるべく奔走する姿に思わず涙がこぼれました。
コメディタッチの作品なので自分でも意外だったのですが、二人の情熱が伝わってきて、純粋で一途な彼らの行動に感動を覚えずにはいられなかったのです。
仕事のパートナーや、友人同士など、二人組を主人公にすえた映画は「バディ映画」と呼ばれ、境遇や性格の違う二人が時に反発しつつ同じ目的に向かっていく様が描かれます。
『ミッドナイト・ランナー』も違った持ち味の二人が互いを補い協力しあっていく姿が描かれ、清々しい作品に仕上がっていました。
映画『コンフィデンシャル/共助』と『義兄弟』に見る「兄弟の誓い」
参考映像:『コンフィデンシャル/共助』(2017)
境遇と性格にプラスして「見た目」も違う「バディ映画」と言えば、『コンフィデンシャル/共助』(キム・ソンフン監督)が思い出されます。
こちらは学生ではなく本職の警察。しかも北朝鮮のエリート刑事イム・チョルリョン(ヒョンビン)と韓国のさえない刑事カン・ジンテ(ユ・ヘジン)が組むことになり(北の刑事は超男前で、南の刑事は…)という展開。
両国の政治的思惑が絡み、複雑な関係におかれた二人なのですが、気のいい韓国の刑事に北の刑事は次第に打ち解けていきます。
中盤あたりに、カン・ジンテがイム・チョルリンに「兄貴と呼べ」というシーンがあります。
韓国では親しい間柄の男性が、兄、弟と呼び合い交流を深めるという慣習があり、韓国映画をよくご覧の方には馴染みのあるシーンでしょう。
日本のヤクザ映画のように兄弟の杯を交わすという大それたものではなく、割と気軽に兄貴分、弟分の関係となって、仲を深めていくのです。
映画的には弟分のほうが、「兄貴」と呼ぶシーンがキーとなります。『コンフィデンシャル』でも北の刑事が「兄貴」と口にする際には、二人の信頼関係が出来上がっているという証明になっています。
参考映像:『義兄弟 SECRET REUNION』(2010)
『義兄弟』(2010/チャン・フン監督)では、ハンギュ(ソン・ガンホ)がジウォン(カン・ドンウォン)に「兄貴と呼べ」と言い、「嫌だ」と即答される場面があり笑ってしまいました。
しかし、最後の最後にカジウォンがしたためた手紙に「兄貴」という呼びかけがなされていて、観客はその響きにじわりと心動かされることになります。
究極の兄弟愛映画『新しき世界』
参考映像:『新しき世界』(2013)
兄弟愛作品といえば、『新しき世界』(2013/パク・フンジョン監督)を取りあげないわけにはいかないでしょう。
ジャソン(イ・ジョンジェ)とチョン・チョン(ファン・ジョンミン)は二人とも韓国最大の犯罪組織に属する男。
しかし、実はジャソンは潜入捜査官で、組織、とりわけ、兄貴分のチョン・チョンを裏切っていることに複雑な想いを抱えていました。
組織の跡目争いが熾烈になるに従い、警察の作戦も過激になっていき、やがてジャソンの身も危うくなり、チョン・チョンにも正体を知られるところとなります。しかし、チョン・チョンがとった行動は意外なものでした…。
映画は組織の頂点に立った者の姿をラストに描いたあと、6年前のまだ若きジャソンとチョン・チョンが二人で敵陣に殴り込むシーンを最後に添えます。
全編、ほぼ笑顔を見せないジャソンが最高の笑顔を見せるこのわずか数分のシーン。これがあることで、全編を通して彼らが抱えていただろう感情が観る者の心にどっと溢れだします。
『あたらしき世界』は韓国ノワールの最高峰と評される傑作ですが、「究極の兄弟愛映画」としても最高峰に位置しているといって良いでしょう。
映画『名もなき野良犬の輪舞』に見る男同士の関係
参考映像:『名もなき野良犬の輪舞』(2017)
『あたらしき世界』に触発されビョン・ソンヒョン監督が撮った『名もなき野良犬の輪舞』(2017)にはジェホ(ソル・ギョング)とヒョンス(イム・シワン)という二人の男が登場します。
ジェホは暴力団組織の幹部で、ヒョンスはチンピラ。二人は刑務所で出会います。
ジェホのことを「おじさん(アジョシ)」と呼ぶヒョンスに対し、ジェホがぼそっと「兄貴」と訂正するシーンがあり、その後、ヒョンスはずっと彼を兄貴と呼び、共に行動することになります。
これまた熱い兄弟愛映画かと思いきや、実はこの映画、意外にもラブストーリーなのです。
「お前は痣まで美しい」というジェホの言葉や表情で、ジェホがヒョンスに一目ぼれしたことを私たちは早々に悟ります。
時間軸をうまく使い、見事な構成となっている作品ですので、設定など細かいことはあえて書きませんが(初めて見る方は是非驚いてください!)、このような出会い方をしてしまった二人の行きつく先は悲劇しかなく、止めを刺すものと刺されるものが目と目を合わせ最期まで見つめあうシーンは哀しきラブシーンとして激しく心を揺さぶられます。
とりわけ、ヒョンスに心を奪われてしまったがゆえに周りの全てを信じられず崩壊へとひた走るジェホを演じたソル・ギョングの演技は圧巻です。
冒頭とラスト、赤いコンパーチブルに身を投げ出す男の姿をカメラは見下ろしますが、冒頭とラストでその身は入れ替わっており、ラストの方の車にはもうそこに乗り込んでくる者の姿はありません。
悲壮と呼べる表情で天を仰ぎ見る男。観客である私たちも彼と同じ表情をして画面を見つめるしかありません。
このような苦しみと哀しみに満ちた作品であるにも関わらず、なぜか、また見直したくなる、何度も何度も映画館に足を運び、そのたびに新しい発見があり、二人の感情を確認したくなる、『名もなき野良犬の輪舞』はそのような魂を揺さぶる傑作です!
男二人の絆を描いた作品といっても多様なバリエーションがあり、韓国映画の豊饒さに感嘆せずにはいられませんが、皆さまはどのタイプの作品がお好みでしょうか?
次回の『コリアンムービーおすすめ指南』は…
次回は、10月20日より公開のマ・ドンソク主演最新作『ファイティン!』を取り上げます。
孤独な男が「ある絆」のために頂点を目指す!50センチの上腕筋パワーが放つ腕相撲アクション映画です。
お楽しみに!