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Entry 2021/07/12
Update

鬼滅の刃名言/名場面刀鍛冶の里編|ネタバレ有でねずこ/禰豆子感動シーン×冨岡の意味深発言を解説【鬼滅の刃全集中の考察19】

  • Writer :
  • 薬師寺源次郎

連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第19回

大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。

前回記事に引き続き、今回も「刀鍛冶の里編」の名言/名シーンを紹介・解説していきます。


(C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

刀鍛冶の里の存在を嗅ぎつけた“上弦の伍”こと玉壺、“上弦の肆”こと半天狗の同時襲撃によって窮地に立たされる炭治郎たちですが、反撃のきっかけを探り奮戦します。

危機的な状況の中で放たれる渾身の叫びと魂の宿る言葉、そして「刀鍛冶の里編」のクライマックスを飾る感動的な名シーンをご紹介していきます。

【連載コラム】『鬼滅の刃全集中の考察』記事一覧はこちら

「俺じゃ斬れない お前が斬れ」

玄弥を励ます炭治郎は半天狗の分裂体・哀絶に背後を取られ、攻撃されます。致命傷を受けたと思った炭治郎ですが、玄弥が身代わりとなり、このセリフと共に半天狗の本体・怯を倒す事を炭治郎に任せます。

これまで炭治郎に対し、玄弥は仲間意識など全く持っていませんでした。それは炭治郎を邪見に扱う里の中での会話、いち早く“柱”となるために「半天狗の頸を渡さない」と宣言する場面からも明白です。しかし命を助けられ、挫けそうになった自身をを励ましてくれた炭治郎に心を開き、信頼するようになった事がこのセリフからありありと伝わってきます。

炭治郎の純粋で誠実な心が、焦るが故に荒み頑なになってしまっていた玄弥の心に変化を与えた事が理解できる場面であり、同時に身を挺し炭治郎を守った玄弥の姿からは、誰もが彼の本当の強さを気づいたはずです。

「悪鬼め…!! お前の頸は俺が斬る!!」

喜・怒・哀・楽の半天狗の分裂体4体が融合した鬼・憎珀天は、野ネズミほどの体躯しかない本体・怯を倒さんとする炭治郎らに対し「弱者をいたぶる、鬼畜の所業」と評します。しかし炭治郎はその嗅覚によって、憎珀天が何百と言う人間を食べた事を「匂い」で感じ取り、このセリフを叫びます。

初めは憎珀天の威圧感から身動きはもちろん、声を発する事させできなかった炭治郎ですが、自らの残虐な行いを棚に上げ、まるで被害者かのようにふるまう憎珀天に対し激怒。その怒りは、憎珀天の威圧を振りほどくほどに激しいものであるのが分かります。

普段は穏やかで優しいながらも、激情家である炭治郎らしさを感じさせると共に信念の強さを感じさせる渾身の叫びとなっています。

「そして人は 自分ではない誰かのために 信じられない力を 出せる生き物なんだよ」

玉壺の血鬼術によって水中に閉じ込められ、窒息寸前だった無一郎は小鉄が送り込んだ空気で一命を取り留めます。

この時、薄れゆく意識の中で無一郎は自身に繰り返し語りかける炭治郎の姿を見ていましたが、炭治郎から言われたはずのない言葉ばかりがよぎり困惑していました。しかし意識を取り戻す際、それが亡き父親が生前無一郎にかけていた言葉だった事を思い出します。

そして、記憶にないはずの父親の姿が炭治郎の姿と重なって見えていた事に無一郎が気づく中、彼の父はこの言葉を語りかけます。

それまで他人に無関心だった無一郎でしたが、炭治郎との出会いで他人を想いやる事が、自分自身の力へと変わる事を悟ります。そして父の言葉に対し「知ってる」と胸中で返事をする姿には、無一郎が人らしい感情を取り戻している事を感じさせます。

「無一郎の…無は……“無限”の“無”なんだ」

無一郎の双子の兄・有一郎が今際の際に無一郎へ告げた言葉です。

早くに両親を亡くし兄と共に生活していた無一郎は、自身が「始まりの剣士」の末裔であることを知り「剣士になろう」と兄に提案しますが、有一郎は厳しい言葉で却下。それは両親に代わって無一郎を守り、鬼殺隊へ関わらせまいとした有一郎の優しさだったのですが、そっけない態度で無一郎と接してしまった事で、二人の間には溝が生まれてしまいます。

のちに二人は鬼に襲われ、有一郎は死の間際、無一郎が他者のために“無限”の力を出す事ができるという意味でこの言葉を遺したのです。

無一郎が自身の記憶の「最後の一片」を呼び起こし、“霞”がかかったように忘れてしまっていた亡き兄の想いをついに思い出した感動的な場面ですが、この事をきっかけに無一郎は鬼の首魁・鬼舞辻無惨を倒す鍵の一つ「痣」を発現させるなど、物語的にも重要な場面になっています。

「俺のために刀を作ってくれて ありがとう 鉄穴森さん」

玉壺との戦闘の最中、刀鍛冶・鉄穴森から新たな日輪刀を受け取った無一郎の言葉です。

小鉄との会話内で刀鍛冶を軽視する発言をしたり、他人への無関心から人の名前を覚えなかったりした無一郎でしたが、「鉄穴森さん」に対するこの言葉からは、彼に他人への関心や感謝といった人間らしい感情が芽生えた事がはっきりと伝わってきます。だからこそ作中の鉄穴森も、無一郎からの思わぬ言葉に涙を流したのでしょう。

そしてこの言葉の直後、それまでの並みの刀では斬る事ができなかった玉壺を、新たに受け取った刀で見事両断している点も含めて、胸が熱くなる場面になっています。

「なんで自分だけが本気じゃないと思ったの?」

真の姿を現した玉壺は変幻自在の動きによって無一郎を翻弄し、ついにはトドメの一撃を彼に食らわせます。かと思いきやそこに無一郎の姿はなく、“霞柱”の本気に驚く玉壺の背後に現れた無一郎はこの言葉と共に、目にもとまらぬ高速の一撃で玉壺の頸を斬り落とします。

危機的状況からの大逆転という少年漫画での王道パターンではありますが、『鬼滅の刃』ならではの展開の速さで描かれた決着には誰もが驚かされたはずです。

また手負いの状態でありながら、“上弦”の鬼を単身で倒してしまう無一郎の最大の見せ場を象徴するセリフには、思わず鳥肌が立ったファンも少なくないでしょう。

「希望の光だ!! この人さえ生きていてくれたら絶対勝てる!!」

戦線に駆けつけた蜜璃は憎珀天との戦いの中で失神、トドメを刺されそうになったところを炭治郎と玄弥に助けられます。その際に炭治郎はこの言葉を叫び、“柱”である蜜璃を中心に戦略を立て直そうと仲間たちを鼓舞します。

一方の蜜璃は失神中、自身の過去の記憶を回想していました。生まれながらの驚異的身体能力や特異な髪色から異端視され、“女の子”として扱ってもらうために自身の素性を隠そうとしていた事、そうしなくてはならないのをずっと疑問に感じていた事……その悩みは、鬼殺隊に入っても彼女の心の片隅に渦巻いていました。

しかし炭治郎の言葉を聞いた時、「人の役に立ちたい」と戦い続けてきた自分を他者が認めてくれている事、ありのままの自分が必要とされている事を実感します。炭治郎自身は前述以上の意図を持った言葉ではなかったものの、その言葉のおかげで蜜璃は心のつっかえが取れ、全力を発揮できる、偽らざる自分自身になれるきっかけとなったのです。

「任せておいて みんな私が守るから」

前述の炭治郎のセリフによって心の踏ん切りがついた蜜璃は単身、憎珀天へ向かっていきます。その際に彼女はこのセリフを口にしています。

これまで、まさに“恋”する乙女のような言動とコミカルな振る舞いが目立っていた蜜璃ですが、このセリフを放った際の凛々しい表情は非常に印象的です。

またこのセリフをきっかけに蜜璃は無一郎同様に「痣」を発現させている事からも、彼女が自身の全力を発揮する極限下の戦いへとその身を投じるのを決意した事が分かります。そして、あるがままの自分自身を受け入れる事ができた蜜璃の「戦う者」としての姿には、普段の可愛さだけでなくカッコよさを感じられたはずです。

「貴様ァァァ!! 逃げるなァァ!! 責任から逃げるなァァ」

蜜璃の登場によって形勢が逆転し、炭治郎達は半天狗の本体・怯を追います。必死に逃げ延びようとする本体に、業を煮やした炭治郎は怒りを込めこの言葉を叫びます。ですがこのセリフは単に、人を食らい生き続けてきた半天狗が逃げようとする事への怒りから生じたものではありません。

自らが責を負う事で傷つきたくないという「怯え」の心から、自らの行い全てに責任を持たず、保身のためならば他者を貶め傷つける事も厭わない……どんな苦難を前にしても自らの選択に対する責任を取り続け、常に「生きる」という道を選び歩んできた炭治郎にとって、半天狗の在り方は「生きる」という事の否定そのものでした。それ故に、彼は「責任」という語とともにこの言葉を叫んだのです。

後に人間だった頃の半天狗は、悪事を働くも自身の中でそれを正当化し、悔いるどころか他人に罪を問われると「自分は誰からも同情されない可哀相な人間だ」と思い込むほど、卑屈で卑怯な人物であった事が語られます。

たとえ相手が鬼であったとしてもその命を絶つ事に心を痛め、その者が抱え続けてきた後悔や悲哀の念に寄り添ってきた炭治郎。しかしその反面、自らの行いに責任を持たず、己のためならば他者の悲劇も顧みない者……「生」そのものを否定する者には決して容赦しないという、炭治郎の“炎”のような義憤の想いを感じられる名言です。

「お お おはよう」

半天狗の本体・怯の頸を斬る事に成功したと思った炭治郎ですが、辛うじて生き延びた本体は新たに出現させた巨躯の鬼・恨の体内に身を隠し、刀鍛冶の里の住人を襲います。

助けに行こうとする炭治郎ですが、すでに夜が明けつつある事に気づき、鬼である故に太陽光で死んでしまう禰豆子と住人の命のどちらを選ぶか、究極の選択を迫られます。しかし妹を見捨てる事ができない炭治郎を、禰豆子は日光に焼かれながらも、分裂体・恨に襲われようとしている住人達の元へと投げ飛ばします。

禰豆子の想いに応え、ついに本体・怯を倒した炭治郎ですが、禰豆子を失った悲しみに打ちひしがれます。しかし禰豆子は鬼でありながらも太陽光を克服し、人の言葉を片言ですが喋るようになります。その時の第一声が、「夜明け」を告げる挨拶の言葉であるこのセリフだったのです。

炭治郎の葛藤、禰豆子の想いと覚悟、妹の覚悟に応えた兄自身の覚悟と喪失の悲しみを経て、それら全てが報われるかのように至ったこの場面。目まぐるしく感情が入り乱れる中で驚愕と感動を読者にもたらした、「刀鍛冶の里編」でも屈指の名場面であるといえます。

「俺はお前たちとは違う」

玉壺・半天狗という“上弦”の鬼2体の撃破後、緊急で開かれた柱合会議では無一郎・蜜璃が戦いの中で発現させた「痣」が議題に。迫りくる無惨との最終決戦のためには「痣」の発現が急務とされ、その発現方法について“柱”達同士での話し合いがなされようとしていました。

しかしその中で、“水柱”冨岡義勇は一人、その場を退席しようとします。

そして他の“柱”達が止めようとする中で冨岡はこのセリフを放ち、それを侮辱と捉えた風柱・不死川実弥と一触即発になりますが、“岩柱”悲鳴嶼行冥によって遮られます。

冨岡がそう口にしたのには深い理由があり、後に炭治郎の言葉によって判明しますが、口数が少なく極端と思えるほど言葉が足りない冨岡はこの時、いたずらに他の“柱”との軋轢を作ってしまいます。

しかしこのセリフを放った際の冨岡は皆に背を向け、表情がうかがえませんでした。果たして冨岡は、この時どのような表情をしていたのか……後に語られる冨岡の真意を知ると、また違った意味合いで捉える事ができる名場面です。

まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……

「刀鍛冶の里編」名言/名シーン集その2、いかがだったでしょうか。

「刀鍛冶の里編」は玄弥・無一郎・蜜璃の過去が明らかになるエピソードであると共に、彼ら彼女らが炭治郎の言葉によって過去の呪縛を払拭してゆく展開が描かれている事からも、そこで交わされる名言はいずれも胸を打つものであったと感じられます。

そして何より、太陽光を克服することとなった禰豆子のそこに至るまでのプロセスと第一声は「刀鍛冶の里編」のハイライトと言っても過言ではなく、この場面に涙したファンは少なくないと感じています。

次回記事では、「柱稽古編」の名言/名シーンをピックアップ。急遽開催された“柱”達による合同稽古の中で、炭治郎はそれぞれの“柱”から人間として何を感じ取ったのか。そして迫りくる最終決戦を前に、隊士たちは何を想ったのかを名言/名シーンと共に探ってゆきます。

【連載コラム】『鬼滅の刃全集中の考察』記事一覧はこちら






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