連載コラム『鬼滅の刃全集中の考察』第11回
大人気コミック『鬼滅の刃』の今後のアニメ化/映像化について様々な視点から考察・解説していく連載コラム「鬼滅の刃全集中の考察」。
今回からは、原作でも屈指の人気エピソードであり、炎柱・煉獄杏寿郎の魂を燃やした激闘と熱き言葉、何よりその生き様に多くのファンが涙した「無限列車編」の名言・名シーンを改めて紹介・解説していきます。
2020年10月16日に公開されると同時にメガヒットを記録、ついには日本映画興行収入歴代1位の記録を塗る変えるまでに至った『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』。
そのBlu-ray/DVDの発売が2021年6月16日に決定された中、改めて胸震える名言・名シーンを振り返っていきましょう。
CONTENTS
「うまい!!」
「無限列車編」においての煉獄の第一声になります。
煉獄と合流すべく列車内を進む炭治郎達は、大声で叫ばれたこの言葉により、煉獄を発見。無心に弁当をかき込みながら、ひたすらに叫び続ける煉獄のコミカルな場面ですが、煉獄の快活なキャラクターを印象付ける場面にもなっています。
映画劇中では第一声の「うまい!」はとりわけ大きい音量で発せられ、列車の車体を揺らす表現と合わせて、驚かされる演出となっています。
「この煉獄の赫(あか)き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす」
列車内に現れた鬼に対峙する煉獄が、日輪刀を構えながら発したセリフです。
実際は、魘夢により眠らされてしまった煉獄が見る夢の中での出来事なのですが、瞬く間に鬼を倒す煉獄の強さを思い知らされる場面でもあります。
それまでの朗らかなに会話する様子とは打って変わって、張り詰めた気迫を身に纏い鬼と対峙する煉獄。その変化を、原作ではセリフの書体を変えることで表現しています。
また映画でも、快活な口調が一瞬で鳴りを潜め、静かに何かを宣告するような声色の中にも、ひしひしと闘志を感じさせる日野聡の演技によって、その変化は見事に表現されています。
「夢を見ながら死ねるなんて幸せだよね」
炭治郎たち全員が自身の血鬼術で眠りについたことを確認した“下弦の壱”魘夢。その中で彼がひとり呟いた言葉です。
この場面の時点では魘夢の血鬼術の全貌が判明していないため、魘夢の存在が不気味そのものであり、それを助長するかのようにこの言葉が発されます。
また映画で描かれた、どこか恍惚としたように焦点の合わない視線で虚空を見つめる様子は、より一層不気味さを観る者に感じさせる演出となっています。
「そんなことで俺の情熱は無くならない! 心の炎が消えることはない! 俺は決してくじけない」
魘夢の血鬼術によって見せられる夢……過去の出来事の回想の中で、煉獄が弟・千寿郎に言い聞かせた言葉です。
回想の中で、煉獄は「鬼殺隊」の“炎柱”に選ばれたことを父・槇寿郎に報告しますが、冷たくあしらわれてしまいます。またその出来事を、千寿郎もまた気に病んでいました。しかしながら煉獄は、父からの心ない言葉に深く傷ついていることは明らかであるにも関わらず、その出来事で千寿郎を心配させまいと、敢えて力強くこの言葉を発したのです。
映画でも煉獄はやはり力強く力強く宣言しますが、普段の彼と比べると「快活さ」がどこかわざとらしいように感じられ、内心では傷ついていることを察することができる演技で描かれていました。
傷心を取り繕いながらも、千寿郎を気遣って熱き言葉を発することができる煉獄の情熱の強靭さ、それ故に生じる彼の優しさを感じさせるセリフの一つと言えます。
「目覚めろ!! 起きて戦え!!」
魘夢が見せる夢の中で、在りし日の穏やかな暮らしを送る炭治郎の元に、鬼殺隊士の姿をした炭治郎が現れて叫んだ言葉です。この言葉を切っ掛けに、夢の中の炭治郎は自身が鬼(魘夢)によって眠らされていることに気が付き、反撃に転じようとします。
夢の中の炭治郎と、真実を映し出す鏡の如く水面越しに現れた鬼殺隊士姿の炭治郎。「水面上/水面下」で度々説明される「意識/無意識」を象徴的に表現した場面であり、水面上にいた夢の中の炭治郎=炭治郎の“本来”の無意識は、「家族とともに暮らせていた平穏な日々」を想い続けていた事が分かる場面でもあります。
違和感を抱きながらも平穏を享受していた炭治郎に対し、鬼殺隊士姿の炭治郎が激しく叫ぶ対称的な姿を、映画では花江夏樹が見事に演じ分けています。
「斬るべきものはもう在る」
夢の中で「ここは夢の世界だ」と完全に自覚したものの、現実世界へと覚醒する方法を模索し続ける炭治郎に、鬼殺隊士姿の炭治郎から姿を変えて現れた父・炭十郎が伝えた言葉です。
炭治郎と背中合わせで現われた炭十郎は、顔を見せることなく静かにその言葉を言い放つと消えていきました。映画では炭十郎を演じる三木眞一郎によって、たった一言ではあるものの、耳朶に響き、荘厳さを湛える見事な演技で、印象に深く残る場面となっています。
後に、夢の中での「死」が現実世界での「覚醒」の方法と知る炭治郎ですが、夢の中の自身=「無意識」の自身はすでに気が付いており、死への恐怖から思考から除外していました。
しかし、優しいながらも時には厳しかった炭十郎の言葉によってその事を自覚させられたこの場面は、炭治郎の亡き父・炭十郎への信頼が垣間見える場面でもあります。
「迷うな!! やれ!! やるんだ!!」
眠りから目覚めるため、夢の中の炭治郎が自らの首を日輪刀で斬り落とそうする場面にて、彼が心中で叫んだセリフです。
夢の中とはいえ、自ら死する恐怖に立ち向かう炭治郎の胆力の凄まじさが感じられるこの場面。映画ではまさに「決死の覚悟」を自らに課すため、言い聞かせるように叫んでいます。
死の恐怖に駆られながらも、夢ではなく現実で闘い生き抜く事を覚悟した炭治郎を、見事に演じ切った花江夏樹の演技力にも注目です。
「人の心の中に土足で踏み入るな」
夢の中で在りし日の弟妹たちと決別し、自らの首を斬り落とす事で、眠りから目覚めた炭治郎。彼が現実世界でついに魘夢と対峙し、日輪刀を抜き放ちながらぶつけた言葉です。
自らも味わった、人間の心の弱みに付け込み利用する魘夢の手口に対して、普段は穏やかな性格であり、これまでの鬼との戦闘でも常に冷静さを保っていた炭治郎が怒りを露わに。額に青筋を立てその表情にも怒りが滲ませますが、闘いに不可欠な冷静さのためにも、その怒りを抑えんとしている様子も垣間見えます。
たとえそれが「鬼に成り果てた人」であったとしても、人の想いを大切にする炭治郎。だからこそ、その想いを我欲のため踏みにじる魘夢に激しい怒りを覚えるという、炭治郎の人間像が強く描かれた場面です。
「禰豆子ちゃんは俺が守る」
自らの肉体を列車と融合させた魘夢から乗客を守ろうとする禰豆子ですが、無数の触手に拘束され、窮地に陥ります。そこに駆け付けた善逸が禰豆子を救出、宣言するように告げた言葉です。
普段は情けないながら、決める時にはしっかり決める善逸のギャップがカッコいいセリフです。またその後、フガフガと鼻ちょうちんを出しながらそのセリフを繰り返す姿も、決める時には決めるのにやっぱり何か締まらない、善逸らしいコミカルな場面となっています。
普段のコミカルな演技とは打って変わって、クールでしっかり決めた演技を見せる下野紘のギャップをつけた演技が、映画でも発揮されていました。
「柱として不甲斐なし 穴があったら入りたい!!」
夢からついに目覚めた煉獄が、事態が一変している事に気が付いて放ったセリフです。その言葉とは裏腹に、至って冷静な煉獄は瞬時に状況を把握。劣勢になりつつあった炭治郎達は煉獄の参戦により、一瞬で形勢を五分へと戻し、反撃へと転じていきます。
煉獄の責任感の強さが感じられるセリフですが、決してネガティブな要素を感じさせないところに煉獄らしさが表れていると言えます。
映画でも、急を要する事態ながらもどこか悠々とした語り口が印象的でした。また直後、日輪刀を構えてから幾つもの車両を瞬く間に移動し、攻撃を加えてゆく場面も、多くのファンに「映画を観て良かった」感じさせたあろう迫力をもって描かれています。
「俺は全力を出せていない!!」
列車と融合する事で一度は形勢を逆転させたものの、煉獄の加勢の結果、炭治郎と伊之助の手によってその首を斬られた魘夢が、今際の際で叫んだセリフです。
それまでの夢を見ているかのような恍惚とした語り口から一転しての、恨み節のような口調。そして中性的だった声質から、悔しさや苦しさを滲ませた声質への変化は、魘夢役の平川大輔の演技力の高さがうかがえます。
その後の「何という惨めな悪夢…だ……」という心中での言葉通り、魘夢にとってこの出来事はまさに悪夢そのものであり、何よりの「悪夢」たる理由は、そんな出来事が「現実」に訪れてしまったという点でした。
無惨に殺されそうになった時でさえ、「夢見心地」と口にしていた魘夢に訪れた、あまりにも皮肉な最期。このセリフは、「人間に倒される」という悪夢のごとき「現実」を突きつけられたが故に姿を現した、魘夢の「人間臭さ」が見られる言葉とも言えます。
「お前も鬼にならないか?」
突如現れた“上弦の参”猗窩座が煉獄に対して放ったこの言葉。
これまで登場した鬼とは違い、純粋に戦闘を楽しみ、「強者」としての自己を高める事を至上とする猗窩座。自らの対戦相手欲しさに「鬼になれ」と誘うその姿は、“上弦”の鬼としての桁外れの強さと共に異質さを感じさせます。
作中で初めて登場した“上弦”の鬼の突拍子のない言葉に驚きを禁じ得ない場面ですが、煉獄は即答でその誘いを断ります。しかしその後の激闘の中でも、猗窩座は再三、煉獄に対し鬼になるよう誘い続けます。
猗窩座を演じた石田彰はこれまで冷静でクールな役柄が多いイメージでしたが、文字通り「戦闘狂」である猗窩座を、「感情の高ぶりが抑えられない」と言わんばかりの高揚感を含ませた演技と声質で表現。その一方で、高揚感を表面上には見せながらも、どこか感情が欠落し、冷めた雰囲気をも漂わせる猗窩座が抱える「空虚」を初登場の時点から見事に演じ切っています。
まとめ/次回の『鬼滅の刃全集中の考察』は……
『鬼滅の刃』の「無限列車編」名言・名シーン集その1、いかがだったでしょうか。
煉獄の熱い言葉、炭治郎の深い家族への想い、そして初めて対峙する“上弦”の鬼・猗窩座の「誘い」と、各キャラクターの強い想いが交錯する「無限列車編」。原作コミック上の巻数では比較的短いエピソードながらも濃い内容となっており、クライマックスに向けまだまだ名言・名シーンが飛び出してきます。
また次回記事も、「無限列車編」の名言・名シーンをピックアップ。
ついに始まった煉獄と猗窩座の激闘。魂のぶつかり合いの中、煉獄の放つ名言の数々をはじめ、煉獄の最期を飾る感動的な名シーンも紹介します。