連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile033
「Tカード」の情報が令状なしに警察に提供されていた事実が報道され、話題となっています。
薬局や飲食店など様々なところで貯めることの出来る「Tポイント」は、活用すればするほどその人の「人となり」が記録されていきます。
犯罪捜査のためなら仕方のないことではあるとは言え、「令状なし」での情報提供は「完全監視」の世界に繋がっていく危険な兆候でもあります。
そんなわけで今回は、以前のコラムでも取り上げました「完全監視」の世界を描いた人気アニメシリーズの派生映画『PSYCHO-PASS Sinners of the System』をご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『PSYCHO-PASS Sinners of the System』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
塩谷直義
【キャスト】
野島健児、佐倉綾音、有本欽隆、東地宏樹、関智一
映画『PSYCHO-PASS Sinners of the System』とは
「踊る大捜査線」シリーズで有名な本広克行が総監督を務め、アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」の虚淵玄が脚本を担当した深夜アニメ『PSYCHO-PASS サイコパス』。
ダークかつ理知的な展開が人気を集め、連続アニメ2シーズンの後には本広克行が監督を続けて担当した映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』(2015)が公開されるほどの長寿シリーズとなりました。
そして、2019年には新たな企画『PSYCHO-PASS Sinners of the System』が遂に始まり、本編シリーズの主人公である常守朱「以外」のキャラクターをメインとした3作が劇場公開されます。
今回は3作それぞれのあらすじや作品の特徴を、類似の設定を持った作品と比べながら予習していきます。
『Case.1 罪と罰』(2019年1月25日公開)
『Case.1 罪と罰』のあらすじ
潜在犯(※犯罪を行う心理的状況と判断された人間)隔離施設「サンクチュアリ」のカウンセラーによる暴走事件が公安局で発生。
逮捕されたカウンセラー夜坂泉(声:弓場沙織)の送還に同行する霜月美佳(声:佐倉綾音)と宜野座伸元(声:野島健児)は、「聖域」とは名ばかりの「サンクチュアリ」の恐るべき実態を知ることになり…。
「完全監視」は「幸福」なのか?
「PSYCHO-PASS」の世界では「潜在犯」と呼ばれる存在がいます。
深層心理情報を数値化するシステムにより「犯罪を行う心理状況」であると判断された人間は「潜在犯」となり、生活を圧倒的に制限されるなど「犯罪者」のような扱いを受けることになります。
2015年の『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』では、この「シビュラシステム」が実験的に採用された国「シーアン」の都市「シャンバラ・フロート」を舞台として物語が展開されました。
「シャンバラ・フロート」では、「潜在犯」は毒入りの首輪を強制され決められた場所以外を動けず、危険と判断されたら殺害。
そして、その他の人間は「潜在犯」を奴隷のように扱うことで、優雅な暮らしを体現していました。
「潜在犯」以外には「楽園」とすら思える「シャンバラ・フロート」の「闇」は、本編シリーズの主人公によって明かされます。
しかし、『Case.1 罪と罰』の主人公、霜月美佳は「潜在犯」に対し「極刑」を求めるほど「シビュラシステム」に忠実な捜査官。
彼女が「聖域」とは名ばかり隔離施設「サンクチュアリ」での「潜在犯」の現状を見て何を想い、どう変わるのでしょうか。
「シビュラシステム」に従順だった過去を持ちながらも、「正義」を理解し柔軟な心に成長した宜野座伸元とのバディも見逃せません。
『Case.2 First Guardian』(2019年2月15日公開)
『Case.2 First Guardian』のあらすじ
国防省を武装ドローンが襲撃する事件が発生します。
事件を捜査するため国防軍基地を訪れた執行官(※徹底監視された上で事件の捜査・犯人の逮捕及び処刑の権限を与えられた「潜在犯」)の征陸智己(声:有本欽隆)は、国防軍のパイロット須郷鉄平(声:東地宏樹)と事件の捜査を始め…。
機械の発展と意識の変化
『Case.2 First Guardian』では連続アニメ以前の物語が描かれ、作中で直接的な絡みの無かった征陸智己と須郷鉄平のバディ捜査で物語が進んでいきます。
何故、須郷鉄平が「潜在犯」となってしまったのかが詳しく描かれると同時に、物語軸として一番古い作品でもあるため、シリーズの未鑑賞の方でも楽しめる作品となっていることが予測できます。
この章で物語の主軸となる犯罪は武装ドローンでのテロ。
現実の社会でも無人で操作の出来るドローンは1万円以下で買えるほど一般的となり、それと同時に戦争でもドローンは幅広く使用されています。
しかし、その一方で問題となるのは使用者の「意識」。
現代社会の戦争の実態を描いた映画『ドローン・オブ・ウォー』(2014)でも表現されていたように、無人機での「殺人」は前線で戦う兵士よりも精神に異常を及ぼすことが分かっています。
ボタン1つで人を殺すことの出来る装置。
簡易になった殺人行為が使用者に与える「非現実感」は「罪悪感」の無さに繋がり、深刻な状況を及ぼすのではないか、と現代社会でも危惧されています。
『Case.3 恩讐の彼方に__』(2019年3月8日公開)
『Case.3 恩讐の彼方に__』のあらすじ
復讐を遂げた後、指名手配となった日本から「シーアン」へと渡り放浪を続ける元執行官の狡噛慎也(声:関智一)は、ゲリラに襲われた難民たち支援し1人の少女を助けます。
ゲリラへの復讐を望み、戦い方の指導を乞う少女に対し狡噛は復讐の果てにあるものに想いを馳せ…。
恩讐の彼方に
連続アニメ第1シーズンで常守朱と並びW主人公を務めた狡噛慎也が主人公となるファン待望の最終章。
『Case.3 恩讐の彼方に__』はそのタイトルから見て、日本のとある名作を下敷きとしていることが伺えます。
文藝春秋社を創設した実業家であり、小説家でもある菊池寛による短編小説『恩讐の彼方に』。
この作品は、江戸時代を舞台に犯罪者である主人公市九郎による「贖罪」と、市九郎の命を狙う実之助による「復讐」が交わり、「恩讐」の意味を問いかける名作です。
菊池寛による『恩讐の彼方に』と同様に『Case.3 恩讐の彼方に__』は、指名手配犯として追われる「犯罪者」狡噛慎也と、「復讐者」の少女の運命が交わります。
相手の「贖罪」の機会を奪うと同時に、自身の「贖罪」を果たす「復讐」と言う行為。
その先に待ち受けるものと、狡噛慎也にとっての「贖罪」とは一体何なのか、ファンには見逃せない作品です。
まとめ
「SF」ジャンルとして恒例とも言える、世界観を構成する「用語」の数々。
特に「用語」の多い「PSYCHO-PASS」シリーズでは、劇場版の本作から入るのは少し躊躇ってしまう方もいるかもしれません。
ですが、連続アニメシリーズを通し面白さは保証付きの一級品。
「SF」好きの方は連続アニメを1から観てでもこのシリーズに入っていただきたいと心から願います。
最新作、『PSYCHO-PASS Sinners of the System』の第1章『Case.1 罪と罰』は1月25日金曜日より全国で上映、「正義」の意味を問う最新作をぜひ劇場でご覧になってください。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile034では、人間に立ちはだかる最大の脅威「自然」に立ち向かう男を描いた、アミール・ナデリ監督の映画『山〈モンテ〉』から、「自然」と「人間」の在り方を探ってまいります。
1月30日(水)の掲載をお楽しみに!
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