連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile023
「人間」は平和的な状況においては、言葉や行動によって社会生活を共にし、お互いを支えあって生きていく事が出来ます。
しかし、その逆にprofile019でも紹介したように、危機的状況下において最も危険なのもまた「人間」です。
今回は、11月23日より公開される映画『イット・カムズ・アット・ナイト』(2018)が表現した「恐怖」を、類似の「SF」映画や「ホラー」映画と見比べることでその「異質」さをより深く探っていこうと思います。
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CONTENTS
映画『イット・カムズ・アット・ナイト』の作品情報
【原題】
It Comes at Night
【公開】
2018年
【監督】
トレイ・エドワード・シュルツ
【キャスト】
ジョエル・エドガートン、ケルヴィン・ハリソン・Jr、カルメン・イジョゴ、クリストファー・アボット、ライリー・キーオ
【作品概要】
長編映画『Krisha』(2016)でアメリカン・インディペンデント・フィルム・アワードの5冠を達成し、「Rotten Tomatoes」や「IMDb」などのサイトでも高い評価を得たトレイ・エドワード・シュルツ監督による第2作。
主演は「スター・ウォーズ」シリーズにも出演し、『ザ・ギフト』(2015)では長編映画監督としての才能を発揮したジョエル・エドガートン。
映画『イット・カムズ・アット・ナイト』のあらすじ
正体の分からない奇病が蔓延し、確実に滅びつつある世界。
山奥にひっそりと建つ家の中で外界との接触を断ち生きるポール(ジョエル・エドガートン)一家でしたが、ある日、食料を求める男が家に侵入したことがきっかけで全てが変わり始め……。
フランク・ダラボン監督の『ミスト』と比較
ジャンルとして「ホラー」と分類される今作。
確かに「原因不明の奇病が発生し~」と言う導入部分は如何にも「ホラー」的であると言えます。
では、「ホラー」界の大物小説家スティーヴン・キングの小説を原作とした根強い人気を持つ「ホラー」映画『ミスト』(2007)と今作を見比べてみようと思います。
映画『ミスト』では、危険な生物が出現する「霧」に覆われ、主人公たちはスーパー内での籠城を余儀なくされます。
このように、『ミスト』に限らずとも「ホラー」では「外敵に対し立て籠もる」展開は一般的なものではあるのですが、『イット・カムズ・アット・ナイト』では「ある点」が大きくその他の「ホラー」とは一線を画していました。
「It(それ)」が明らかにならない恐怖
今作のタイトルを直訳すると「それは夜に来る」となります。
普通に考えればこのタイトルの「It(それ)」とは原因不明の奇病のことなのですが、劇中では際立って「夜に来る」と言った描写はありません。
つまりタイトルの「It(それ)」とは、奇病のことを単純に指しているわけではなく、そしてそのことこそが今作の最大の魅力に繋がります。
『ミスト』でも他の多くの「ホラー」でも、「外敵がどのようなものなのか」は輪郭程度でもある程度は鑑賞者に情報として伝えられます。
しかし、今作では本当の「外敵が何なのか」は作中を通してもほとんど明らかにならず、その正体は鑑賞者の考察に委ねられることになり、何に怯えていたのかさえ分からないと言う「異質」な感覚を味わうことになります。
ダン・トラクテンバーグ監督の『10 クローバーフィールド・レーン』と比較
今作では物語の序盤で、外界との接触を断っていたポール一家が空き家だと思って侵入したと弁解するウィルの家族と共に共同生活を行うことになります。
このように「危険な外界」から身を守るために「見知らぬ人間同士」が生活をすることになる映画と言えば思い浮かぶ作品があります。
「クローバーフィールド」シリーズの2作目となる「SF」映画、『10 クローバーフィールド・レーン』(2016)。
同じような構図が描かれているこの2つの作品の「明らかな違い」を見比べていこうと思います。
映画『10 クローバーフィールド・レーン』では主人公のミシェルを自身のシェルターに案内するハワードの怪しさが前面に押し出され、「彼が言うことが正しいのか」それとも「彼が気が狂っているのか」と言う二者択一から「スリラー」に舵を切っていく展開が魅力の作品でした。
しかし、『10 クローバーフィールド・レーン』に対し『イット・カムズ・アット・ナイト』の登場人物は、一見「変な部分」を感じず、それこそが重要な要素になっています。
「疑心暗鬼」の恐怖
感染した父を射殺する導入部分から明らかになる、家族を守るためであれば何もかもを捨てれると言うポールの意思。
そんな彼のもとに現れた、自身と同様に家族の事を深く想うウィルと言う男の率いる一家。
お互いが「家族想い」な性格ゆえにほんの少しのすれ違いが「疑心暗鬼」を引き出し、過酷な状況下ではお互いを信じあうことの出来ない「人間の闇」を際立たせていきます。
今作は他の「スリラー」映画や『10 クローバーフィールド・レーン』と違い、あくまでも登場人物が「普通の人間」であるにも関わらず、危機的な状況下における「信頼関係」の崩壊と言う「恐怖」が描かれています。
映画『イット・カムズ・アット・ナイト』のまとめ
特別な思考の人間が登場せず、目に見える形での「外敵」はほとんど登場しない。
しかし、それでいて上映時間中終始纏わりつくような「恐怖」と、終末に明らかに歩を進めている「絶望感」。
「人間が怖いホラー」映画は今までにもいくつか紹介させていただきましたが、その作品たちとはひと味違う、トレイ・エドワード・シュルツ監督が作り出した「ホラー」の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…
いかがでしたか。
次回のprofile024では、『パージ:アナーキー』(2013)や名作「ターミネーター」シリーズから「SF」映画と「宗教」の関係性を紐解いていきます。
11月21日(水)の掲載をお楽しみに!