Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

Entry 2020/07/01
Update

NETFLIX映画『MUTE ミュート』ネタバレ感想と考察評価。ダンカンジョーンズ監督が描くSFサイバーパンクとしての追跡劇|SF恐怖映画という名の観覧車109

  • Writer :
  • 糸魚川悟

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile109

進化し続ける技術の先にある未来はキラキラとした便利な社会。

様々な「SF」映画でそんな輝かしい未来が描かれる一方で、輝かしい未来とは真逆の絶望の未来も描かれてきました。

今回は「輝かしい未来」と「絶望の未来」のちょうど中間にあたるような「サイバーパンク」な世界観を持った映画『MUTE ミュート』(2018)をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら

映画『MUTE ミュート』の作品情報

【日本公開】
2018年(NETFLIX独占配信映画)

【原題】
Mute

【監督】
ダンカン・ジョーンズ

【キャスト】
アレクサンダー・スカルスガルド、ポール・ラッド、ジャスティン・セロー、セイネブ・サレー、ギルバート・オーア

【作品概要】
『月に囚われた男』(2010)や『ミッション: 8ミニッツ』(2011)で知られるダンカン・ジョーンズが製作したSFサスペンス映画。
主演にドラマシリーズ「トゥルーブラッド」で知られるアレクサンダー・スカルスガルド、共演に「アベンジャーズ」シリーズで「アントマン」を演じるポール・ラッドが起用されたことでも話題となりました。

映画『MUTE ミュート』のあらすじとネタバレ

幼少期、レオは首を切る大きな怪我をしたものの、母親の宗教的理由で適切な処置を受けることが出来ず、声を発することが出来なくなってしまいます。

30年後のベルリン、文明が発達した世界でもテクノロジーに頼ることなく生きるレオは恋人のナディーラから携帯電話をプレゼントされます。

ナディーラはナイトクラブのウェイトレスであり、レオは同じ店でバーテンとして働いています。

世間では脱走兵の問題や、企業によるクローン人間の作成が社会問題となっていました。

ある日、接客中にナディーラに手を出そうとしたイギリス人の客に掴みかかったことで、レオはクラブの支配人であり裏社会のボスとも言われるマクシムから叱責を受けます。

その騒動の後、ナディーラは誰かと電話をし、夜になるとレオの家に憔悴しきった面持ちで現れました。

疲れ切っているナディーラにメモ帳に描いている絵のことを聞かれたレオは、彼女を自身の工房に案内し、様々な装飾をあしらった自作のベッドを見せます。

そのベッドはまだ完成していないようでしたが、いずれ自分とナディーラで使いたいと伝えるレオに対し、ナディーラはレオに伝えていない自身の過去を理由に身を引きたいと言います。

お互いを想っていることからなし崩し的に一夜を共にしますが、翌朝、目を覚ましたレオの前からナディーラは姿を消していました。

仕事の時間になってもナディーラが現れないことを不安に思うレオは、再び現れたイギリス人の客に煽られたことで殴りかかってしまい、クラブを解雇されます。

娼館で働くナディーラの同居人ルーバから「ナディーラには秘密がある」と聞いたレオ。

家に帰るとナディーラからプレゼントされた携帯電話に謎の人物から「ブラックマーケットへと行け」とメッセージが届きます。

そのころ、ブラックマーケットではマクシムお抱えの闇医者であるビルが、自身の娘ジョシーをドイツから脱出させようと偽造IDの発行をブラックマーケットの取締役に依頼していました。

しかし、ブラックマーケットの取締役であるスチュワートはクラブでレオを煽った張本人そのものであり、ブラックマーケット内でレオの姿を見つけると彼を追い出そうと躍起になり、ビルは偽造IDを手にすることが出来ませんでした。

スチュワートとレオは一触即発の状況になりますが、対峙の途中でレオはナディーラが誰かと電話をした際にレオのメモ帳を使っていたことを思い出します。

残されたページに炭をつけることで彼女のメモした住所を知ることが出来、レオはおとなしくブラックマーケットから去っていきました。

ナディーラのメモの住所はオズワルドと言う金持ちの家で、レオはオズワルドを訪ねることにします。

オズワルドは「ニッキー」と呼ばれる人物から男女関係なく買う買春商売の客であり、レオをニッキーの使者と勘違いします。

オズワルドはニッキーから買った人物の写真を残しており、その写真の中からナディーラを見つけたレオは自身の知らないナディーラを知ることになります。

娼館の近くで買春を生業としているグループの飛空艇を発見したレオはマクシムの車を奪い飛空艇を追跡し、買春商売を行っているニッキーと対面します。

レオはニッキーからナディーラの情報を聞き出そうとしますが、ニッキーから情報を得ることは出来ず、逆にニッキーの怒りを買い用心棒たちに襲われそうになります。

しかし、レオはニッキーが娼館の元締めであるマクシムに内緒で娼館の女性を使い買春商売を行っていることを見抜いており、ニッキーに対して逆に脅迫を仕掛けることで、無傷でその場を切り抜けることに成功。

未だナディーラの情報がなく途方に暮れるレオは電話番号から電話の場所を追跡できることを知り、ナディーラの携帯の場所を追跡してみようとします。

電話の追跡機能がオフになっていたため追跡をすることはできませんでしたが、電話番号に登録された住所を知ることが出来、レオはその場へと足を運びます。

そこはナディーラとルーバの家であり、2人の家からナディーラの母親の電話番号を手に入れたレオはその電話番号から住所を見つけ出そうとします。

一方、ビルはマクシムからマクシムに内緒で買春商売を行っていたニッキーを拷問するように命令されます。

ジョシーのIDや戸籍が未だ手に入らず不満を抱えるビルでしたが、移植手術の天才であり相棒である医者のダックと共にニッキーを拷問。

マクシムはニッキーが、ニッキーの秘密を知るレオと何を取引したのかに注目していました。

ダックとビルはレオは単にナディーラを探していただけだと勘づいていましたが、マクシムが納得しないと感じ仕方なく拷問を続けることにします。

拷問が終わり、ダックの経営する移植病院を訪ねたビルは病院内の診察室や更衣室に隠しカメラがあることに気づきます。

録画されていた内容に少女の着替えの動画があり、ダックが小児性愛者であることを確信したビルは激昂しダックを殴り、二度と少女への治療を行わないようにと脅します。

マクシムから連絡があり、ビルとジョシーのIDの準備が終わりアメリカへ渡ることが出来ると聞いたビルは喜び、ダックと共に祝いとしてショッピングモールのダイナーへと向かいました。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『MUTE ミュート』のネタバレ・結末の記載がございます。『MUTE ミュート』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

一方、電話番号から住所を特定したレオはナディーラの母親を訊ねます。

ナディーラの母親に様々な写真を見せると、ナディーラの母親はジョシーの姿に反応し泣き始めます。

ナディーラの母親はジョシーがナディーラの娘であり、さらにナディーラの夫がビルであることをレオに伝え、レオはショックを受けます。

ナディーラが消えた日、レオとナディーラに睡眠薬を盛りナディーラを誘拐したのはビルでした。

全てを理解したレオはビルを探します。

そのころ、ビルはダックに、ジョシーと共にベルリンを離れるつもりでいることを話していました。

自身がいなくなった後の闇医者の後釜としてダックを指名するビルは、今までダックに強く当たったことを謝罪します。

しかし、ダックは強く当たられていたことを根に持っており、ナディーラの居場所をにおわせる「謎のメール」をビルには内緒でレオに送りつけていました。

ビルの居場所を探すレオに対して、ビルの命綱であるジョシーとビルのIDの存在をメールで教えるダック。

レオは2人のIDを奪うためクラブを強襲し、マクシム含め配下を全員倒し、ビルとジョシーのIDを奪います。

ジョシーとクラブへ駆けつけたビルはレオにIDを奪われたことを聞き、レオを追います。

IDからビルの家の住所を知ったレオはビルの家へと侵入し、地下で拷問され満身創痍のニッキーを解放しますが、追ってきたビルによってニッキーは殺害されてしまいます。

地下でビルと対面したレオはナディーラが倉庫で死んでいるのを発見。

ビルはジョシーを奪い逃走したナディーラを許さず、ジョシーを奪い返すためにナディーラを殺害していたのでした。

ビルはレオに襲いかかりナイフで殺害しようとしますが、レオにナイフを奪われ首を刺されます。

倒れたビルを尻目にレオはナディーラの死体を抱え森の中へと向かいます。

遅ればせながら到着したダックは地下で首を刺され瀕死のビルを発見。

しかし、自身に強く当たっていたビルをダックは許さず、息絶えようとしているビルを救わず、ビルに見えるようにジョシーを抱え出て行きました。

ナディーラの死体の横で絶望するレオを失神させたダックは、レオに声帯の手術を施します。

ダックはレオを、ビルとナディーラが愛を誓い合った橋へと連れて行き、親友であったビルを殺したことを自身の声で謝罪させようとします。

しかし、手術を終えたばかりのレオは喋れず、ダックはレオを海へと突き落とそうとしますが、息を大きく吸い込み巨体を使いダックを固定したレオは共に海へと落ちます。

息を大きく吸い込んでいたレオはダックが溺死してもなお生きており、水面へと浮き出ることが出来ました。

橋から海に落ちたレオを心配するジョシーが顔を出していることに気づいたレオは、初めて自身の声で危ないと叫びます。

海から出て、ジョシーと会うレオはジョシーをナディーラの母のもとに連れて行くことにしました。

時が流れ、ジョシーのお絵かきを見つめるレオは、自分がナディーラにプレゼントした木細工をジョシーが付けているのを見て、新たな木細工をジョシーに渡しました。

映画『MUTE ミュート』の感想と評価

ダンカン・ジョーンズ監督が『ブレードランナー』(1982)に感銘を受け、5年の歳月を使い製作した映画『MUTE ミュート』。

本作は監督が描きたかった「サイバーパンク」な世界観を堪能できる作品で、今の社会よりも明らかに進んではいるもののどこか荒んだ街並が眼前に広がり、「SF」映画でありながら強い「人間味」を感じます。

言葉を喋ることの出来ないレオを演じたアレクサンダー・スカルスガルドの演技も秀逸で、顔や所作だけでレオの怒りや悲しみを全て表現しきっており、「無言(mute)」が「無感情」とはイコールにならないことが分かります。

「サイバーパンク」な世界観での人間味溢れる追跡劇が臨場感たっぷりに描かれる本作は、「SF」が好きな人にも「ハードボイルド」が好きな人にもオススメの出来る作品です。

まとめ

『月に囚われた男』の精神的続編でもある本作は、同作でサム・ロックウェルが演じたサム・ベルがとあるシーンで登場します。

画面内がサム・ロックウェルだらけとなる異常な空間はダンカン・ジョーンズ監督らしい表現で、『月に囚われた男』を未鑑賞の方にも印象に残ること間違いなしといえます。

Netflixオリジナル映画『Mute ミュート』は、綺麗なだけじゃない少し荒んだ未来を描いた「サイバーパンク」な世界を鑑賞したい人にオススメの作品です。

次回の「SF恐怖映画という名の観覧車」は…

いかがでしたか。

次回のprofile110では、SNSから見る「表の顔」だけで構成された人格の問題を描いた『ブラックミラー シーズン2 ずっと側にいて』をネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。

7月8日(水)の掲載をお楽しみに!

【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら


関連記事

連載コラム

【ネタバレ】KIMIサイバートラップ|結末あらすじ感想と評価解説。映画監督ソダーバーグ最新作は”ヒッチコック風”サスペンスで魅了|増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!10

連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第10回 第10回で紹介するのは、スティーブン・ソダーバーグ監督の『KIMI サイバー・トラップ』 。一見いかにも”現代風”のハ …

連載コラム

映画『エリック・クラプトン~12小節の人生~』感想と評価。ブルースに捧げた人生とは|映画と美流百科11

連載コラム「映画と美流百科」第11回 今回は2018年11月23日(金・祝)から、TOHOシネマズ シャンテほかにて公開の『エリック・クラプトン~12小節の人生~』をご紹介します。 監督はアカデミー賞 …

連載コラム

社会派映画『金環蝕』『新聞記者』考察と比較解説。日本政治が腐敗する正体と産物を紐解く|おすすめ新作・名作見比べてみた7

連載コラム「おすすめ新作・名作見比べてみた」第7回 公開中の新作映画から過去の名作まで、様々な映画を2本取り上げ見比べて行く連載コラム“おすすめ新作・名作を見比べてみた”。 第7回のテーマは「政治の闇 …

連載コラム

【2018年のSF・ホラー映画の評価まとめ】人気となったサメ映画や邦画SF作品の躍進を振り返る|SF恐怖映画という名の観覧車29

連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile029 2018年も終盤に差し掛かり、次回のコラムでお会いする際にはもう2019年。 6月15日より、「SF恐怖映画という名の観覧車」と銘打ち始 …

連載コラム

グーシャオガン映画『春江水暖』あらすじと感想レビュー。中国の伝統的な文人の視点である「絵巻物」をもって世界や物語を組み立てる|フィルメックス2019の映画たち2

第20回東京フィルメックス「コンペティション」審査員特別賞『春江水暖』 2019年にて記念すべき20回目を迎える東京フィルメックス。令和初となる本映画祭が開催されました。そのコンペティションで審査員特 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学