こんにちは!「Cinemarche」のシネマダイバー、金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回ご紹介する作品は、成功すれば賞金1万ドルが授与され、失敗すれば死が待ち受ける、命がけの謎解きゲームに挑む6人の男女を描いた、映画『エスケープ・ルーム』です。
謎の企業が仕掛けた「脱出ゲーム」を攻略する為、6人の男女が、知力と体力を駆使して、次々と出現する部屋の攻略に挑むサスペンス・スリラー。
主人公の天才女子大生を、NetflixオリジナルのTVシリーズ『ロスト・イン・スペース』で注目された、テイラー・ラッセルが演じる他、ハリウッドの注目俳優が集結し、体当たりのスタントに挑んでいます。
2019年初頭に公開されたアメリカでは、初登場で2位となる、スマッシュヒットを記録しています。
【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら
映画『エスケープ・ルーム』のあらすじ
(C)2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
理系女子大生ゾーイは、優秀な知性を持ちながら、内気な性格が災いし、大学の講義で発言できずにいました。
大学教授からの期待を感じながらも、なかなか自分の殻を破れずに悩んでいたゾーイに、謎の立方体が送られます。
投資家として大成功しているジェイソンは、世間が生誕祭の祝日を楽しんでいる時も、自身のオフィスに出勤し仕事をしていました。
ジェイソンは、自身の顧客から、謎の立方体をプレゼントとして受け取ります。
スーパーの倉庫番としてアルバイトをしているベンは、今の冴えない生活から脱出する為、大金を必要としていましたが、思うように仕事も見つからず悩んでいました。
ある時、ベン宛てに、謎の立方体が送られます。
立方体の謎を解いたベンは、オフィス街にある、謎の企業に招待されます。
企業の待合室に入ると、ゾーイとジェイソンの他、勝ち気な性格の女性アマンダ、トラック運転手のマイケル、スマホを2つ常に所持している程の、ゲーム好きのダニーというメンバーが待機していました。
ダニーは、全員が集められたゲームは「エスケープ・ルーム」という体感型の脱出ゲームで、一番早く脱出した者は、賞金1万ドルが与えられる事を説明します。
ゲームの開始は、ゲームマスターと呼ばれる進行役が行い、ゲームマスターが来るのを待つ必要がありました。
ベンは、ゲームマスターが来るまで、外で煙草を吸っていようと、部屋の外に出ようとしますが、ドアノブが外れてしまいます。
それは「エスケープ・ルーム」からの、脱出ゲームが開始された事を意味します。
(C)2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『エスケープ・ルーム』ネタバレ・結末の記載がございます。『エスケープ・ルーム』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。
第1の部屋
外れたドアノブの跡が、ダイヤル式になっている事に気付いたジェイソンは、部屋の中にヒントがあると考え、全員で部屋の中を捜索します。
部屋の中に、ブラッドベリの書籍「華氏451」があった事から、ゾーイは、ダイヤルを「451℃」に回しますが、それは罠でした。
天井や柱がヒーターのようになり、待合室は一変し、高温度の灼熱地獄と化します。
暑さに苦しむアマンダに、ベンは部屋の中にあった給水装置から、水を注ぎ差し出しますが、アマンダの体が傷だらけである事に気付きます。
部屋を探索するゾーイは、テーブルにあるコースターに注目し、6か所あるコースターの1つを押します。
すると、背後の絵画が開き、脱出用のダクトが出現しますが、人が1人入るまでの大きさに開くには、6か所あるコースターを、全て押す必要がありました。
6か所あるコースターを押さえたまま、1人ずつ脱出用のダクトに入りますが、ベンとダニーが残り「誰か1人が残って、コースターを押し続けないといけない」状況となります。
ですが、ベンは給水装置の水に注目し、コップいっぱいまで水を注ぎ、その重さでコースターを押さえ続ける方法を取ります。
ベンとダニーは、灼熱部屋の天井から、炎が噴射されるギリギリの所で、脱出に成功します。
中継地点:山小屋
灼熱部屋から、無事に脱出した6人は、命の危険を感じ、ゲームどころではありません。
ですが、電波も圏外で、助けを呼ぶことが出来ず、ゲームを続行するしかありませんでした。
ベンは、アマンダの体が傷だらけであった事から、ゲームマスターをアマンダと疑いますが、アマンダは元陸軍兵士で、戦争から、唯一の生き残りとして戻って来た過去を語ります。
山小屋から脱出するには、錠前にかけられた、ロックを解除する必要があり、7文字のスペルを入力しなければなりません。
部屋の中には「歴史に名を刻むもの」とヒントがあり、ジェイソンは歴代大統領と想定して、スペルを入力しますがロックは解除されません。
部屋の中には、アルファベットが一文字ずつ書かれたヒントもありました。
ヒントに気付いたベンは、自身の過去が蘇ります。
ベンは、友人たちと歌いながら車を運転し、事故を起こしていました。
その事故で亡くなった、友人たちのスペルが壁に書かれており、ベンは、ロックを解除するスペルは、その時に歌っていた歌詞に登場する人物であると気付きます。
第2の部屋
ベンの気付きにより、ロックが解除され、外に出た6人を待っていたのは、雪山のような部屋でした。
ダニーは、本物の雪山のような演出にはしゃいで動き回りますが、見えない壁に激突します。
ダニーを笑っていたのも束の間、見えない壁から冷気が噴射され、部屋の気温は氷点下まで下がっていきます。
部屋から脱出する為に、散策を行う6人は、たった1着の防寒着を発見します。
ジェイソンは、その防寒着を見た瞬間から、好戦的な態度を見せるようになります。
そんな中、ベンが偶然、氷の1か所に穴が開いている事を発見し、マイケルが見つけた釣竿と、ゾーイが見つけた磁石で、氷の底に沈んでいた鍵を釣りあげます。
しかし、鍵は氷で覆われており、溶かす必要があります。
遠くで煙草を吸っていたベンに、ライターを渡すように伝えますが、寒さで機嫌が悪くなっていたベンは、ライターを投げ捨て「取りに来い」と言います。
ダニーがライターを拾った瞬間、氷の一部が爆発し、ダニーは氷の下に落下します。
氷の下は川のようになっており、激しい流れに抗えず、ダニーは命を落とします。
自分の軽率な行いを反省したベンと仲間たちは、協力して氷を溶かし、鍵を取り出します。
第3の部屋
第2の部屋を脱出した5人を、次に待っていたのは、天地が逆になったビリヤード・ルームでした。
ビリヤード・ルームに設置されている電話の、外れた受話器から、不快なノイズが流れ、ノイズが流れる度に、床が抜け落ちていく仕掛けになっています。
アマンダは、元陸軍兵士の身体能力を活かし、ビリヤード・ルームを駆け上がり、金庫を見つけます。
ですが、金庫の解除に必要な4つの数字が分かりません。
ビリヤード・ルーム内を注意深く見ていたゾーイは、壁の一部がスライドパズルになっている事に気付き、床が抜け落ちていくビリヤード・ルームを進み、スライドパズルに挑みます。
スライドパズルを完成させると、ビリヤード台の上に配置された、ビリヤードボールの数字が金庫の番号である事が分かります。
金庫を開けて、次の部屋への鍵を手に入れたアマンダですが、出口までの足場を失い、次の部屋への鍵をジェイソン達に投げ渡して、奈落の底へ落ちていきます。
第4の部屋
アマンダを失った悲しみを抱えながら、4人は病室のような部屋に辿り着きます。
そこで、今回集められた6人の共通点が発覚します。
ゾーイは、飛行機墜落事故に遭遇しながらも生き残った、唯一の生還者で、ジェイソンも海難事故からの唯一の生存者でした。
そこへ、ゲームマスター「ウータン・ユー博士」からの映像が流れ、唯一の生存者の中から、さらに生き残る事ができる、強運の持ち主を探す事が、「エスケープ・ルーム」の狙いである事が分かります。
そして、次のゲームは5分以内に次の部屋への出口を探さないと、毒ガスが噴射されるという内容でした。
ジェイソン、ベン、マイケルは病室の中を探しますが、ゾーイは「あいつらが監視している以上、勝ち目はない」と考え、部屋内の監視カメラを全て破壊しようとします。
ジェイソンは、ウータン・ユー博士のヒントから、心拍数が脱出の鍵である事に気付き、AEDを使用し、マイケルの心臓に電気ショックを与えて、心拍数を上げようとしますが、失敗しマイケルは死亡します。
ジェイソンは「逆に心拍数を下げる」事を思いつき、瞑想を始め、心拍数を下げ、次の部屋への入り口を出現させます。
ジェイソンとベンは、次の部屋へ進みますが、ゾーイはこれを拒否し、病室に残り、毒ガスを吸って倒れます。
第5の部屋
ジェイソンとベンは、白と黒を基調にした狭い部屋へ辿り着きます。
ベンは、マイケルを殺したジェイソンに不信感を抱き「海難事故で生き残った時も、誰かを犠牲にしたのか?」と問いかけます。
ジェイソンは友人の防寒着を奪い、自分だけ生き残った過去を告白します。
それでも「ここを生きて出るしかない」と語るジェイソンと、ベンは嫌々ながら共闘するしかありませんでした。
第5の部屋の仕掛けは簡単で、次の部屋へと繋がる扉を開けるだけですが、固くて重い事から、2人は協力して扉を開きます。
ですが、扉には毒が塗ってあり、部屋の中にある解毒剤を探す事になります。
ベンは、解毒剤を見つけましたが、1人分しかなく、それに気付いたジェイソンに襲われます。
ベンは格闘の末、ジェイソンを壁に叩きつけ命を奪い、自分に解毒剤を注射し「最期の部屋」に挑みます。
最期の戦い
病室で倒れていたゾーイは、死体を回収に来た作業員を襲い、拳銃を奪います。
ゾーイは、病室にあった酸素吸引機を使用し、毒ガスから身を守っていました。
ゾーイは、部屋から抜け出し、階段を駆け下ります。
一方、「最期の部屋」を攻略したベンは、ウータン・ユー博士が待つ部屋へ辿り着きますが、ウータン・ユー博士は「競馬に勝った馬が、賞金を貰えるか?」と言い放ち、ベンの首を絞めます。
そこへ、ゾーイが現れ、ウータン・ユー博士を射殺します。
数日後、ゾーイは「エスケープ・ルーム」のあった場所に警察を連れて行きますが、そこは廃墟となっており、何も残っていませんでした。
ゾーイは退院したベンと共に、このゲームを仕組んだ企業を探し出す事を決意しますが、ゾーイには、新たな謎解きが準備されていました。
サスペンスを構築する要素①「命がけの謎解きゲーム」
(C)2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved.
脱出成功者には、賞金1万ドルが授与される謎解きゲームと、それに挑む6人の姿を描いた『エスケープ・ルーム』。
日本でも、体感型の謎解きイベントなどが人気ですが、この『エスケープ・ルーム』では、体感型どころではなく、命を懸けた謎解きゲームが展開されます。
効率良く謎を解かないと、参加者にとって不利になる仕掛けが発動され「急いで謎を解かないと命を奪われる」という恐怖と、参加者が1人ずつ脱落していく緊迫した展開で、100分の上映時間を駆け抜けていきます。
サスペンスを構築する要素②「集められたメンバーの共通点」
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命がけの謎解きゲームが、本作の物語の軸になっていますが、並行して、一見するとランダムに集められた、参加者に共通する「ある理由」が物語の鍵にもなっています。
序盤では、アマンダがゾーイに発するセリフや、山小屋で触れられるベンの過去、第2の部屋で発見された防寒着に対する、ジェイソンの態度など、観客に「参加者には何かある」と感じさる演出が組み込まれています。
謎解きゲームが繰り返され、下手をすると単調な展開になる可能性があった本作を、「参加者の秘められた過去」という要素を加える事で、観客を飽きさせずに、物語へ引き込む効果を生んでいます。
参加者に共通する「ある理由」は、第4の部屋で明らかになり、全員が何かの事故の、唯一の生き残りだった事が判明します。
そして、それぞれの過去が判明した瞬間から、それまでリーダー的な立場だった、ジェイソンの本性が明らかになります。
真に警戒するべきは、仕掛けられた謎ではなく仲間だったという点は、1997年の大ヒット映画『キューブ』に共通する部分がありますね。
サスペンスを構築する要素③「勝つ為の手段」
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「エスケープ・ルーム」を、結果的に攻略したのは、ベンとゾーイとなります。
ベンは正攻法に乗っ取り、「エスケープ・ルーム」のルールに従い勝利しますが、ゾーイは、ルールを破り相手の裏をかいた勝利となります。
「エスケープ・ルーム」の黒幕は、謎のままですが、生き残ったベンをウータン・ユー博士が簡単に殺そうとした辺り、権力者が、一般市民を玩具のように扱っている、ゲームである事が分かります。
社会で生活する中で、例え納得のいかない事でも、誰かが決めた規則に従わなければならない事が多いですが、本作には「そのままでは、負けるだけだ」というメッセージが込められています。
映画のラストで、正攻法で攻略したベンが命を奪われかけた事に対し、相手の裏をかいたゾーイが、ウータン・ユー博士を倒している事からも分かります。
本作では不条理とも言える、恐ろしい仕掛けの数々が現れますが、諦めず、冷静に物事を見極めれば、例え相手が強大でも、どんな人間も勝利する事ができるという、人間賛歌がテーマであると感じました。
映画『エスケープ・ルーム』まとめ
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人の命を弄ぶ、この「エスケープルーム」を作ったのは何者なのでしょうか?
本作のラストで、シルエット姿の、文字通りの黒幕が「まだまだゾーイと遊べそうだ」と笑っていた辺り、ゾーイの戦いは続くのでしょう。
実は『エスケープ・ルーム』は、全米でのスマッシュヒットを受けて、続編の公開が決まっており、ゾーイ役のテイラー・ラッセルも続投するようです。
このまま「ソウ」シリーズや、「ハンガー・ゲーム」シリーズのような、デスゲーム映画の新たなシリーズとなる可能性もありますね。
映画『エスケープ・ルーム』の今後に期待しつつ、是非、ノンストップの100分間を、体験してみて下さい。
次回のサスペンスの神様の鼓動は…
次回も、魅力的な作品をご紹介します。お楽しみに。