映画『みぽりん』は関西での熱狂上映を終え、東京での劇場上映開始。
池袋シネマ・ロサにて、2019年12月21日より公開!
こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。
このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。
今回取り上げる作品は、極度の音痴であるアイドルが、ボイストレーナーの合宿を受けた事から始まる、恐怖の5日間を描いた映画『みぽりん』です。
厳密に言うと、本作はサスペンスではなくパニックホラーなのですが、独特のパワーを持つ、魅力的な作品なので、ご紹介させていただきます。
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映画『みぽりん』のあらすじ
声優地下アイドルユニット「Oh!それミ~オ!」のメンバーで、人気投票1位を獲得し、ソロデビューが決まった神田優花。
ソロデビューライブが目前に迫った優花ですが、実は極度の音痴で、プロデューサーの秋山は頭を抱えていました。
そんな時「Oh!それミ~オ!」のメンバーである里奈の紹介で、優花はボイストレーナーである、みほの合宿を受けるようになります。
最初は親切だったみほですが、想像を絶する優花の音痴ぶりを目の当たりにしてから態度が豹変します。
みほに「アイドルに相応しくない」と判断された優花は、合宿先の山小屋に監禁されてしまいます。
一方、ソロデビューライブが迫る中、優花と連絡が取れなくなった事に気付いた秋山は、マネージャーの相川、「Oh!それミ~オ!」の大ファンで、優花推しの加藤と共に、優花の捜索を開始します。
山小屋に監禁され、助けを呼ぶこともできない優花の運命は?
そして、異常なまでに「アイドルという存在」にこだわる、みほに隠された秘密とは?
「山荘で展開される恐怖の5日間」
狂気のボイストレーナー、みほに監禁された地下アイドル、優花が体験する恐怖の5日間を描いたパニックホラー『みぽりん』。
ボイストレーナーのみほは、最初は親切なのですが、自身の中にある「アイドルの定義」に、優花が相応しくないと判断した辺りから豹変していきます。
みほは感情が高まると甲高い笑い声を発し、笑いながら優花を恫喝していくという、映画『ジョーカー』のアーサー・フレックを彷彿とさせる恐怖があります。
異常な女性との出会いにより、山小屋に監禁されてしまう恐怖を描いた作品でいうと、1990年の、スティーヴン・キング原作の映画『ミザリー』があります。
『ミザリー』では、小説家である主人公のポールは、自分を監禁したアニーを、納得させる為の小説を書かなければならなくなります。
『みぽりん』では、優花はみほの考える「理想のアイドル」に近づく必要がありますが、異常なほどの音痴を克服する事ができるのでしょうか?
また、優花が監禁されている山小屋には、みほの他にも、ある恐怖が潜んでいます。
「『アイドルとは何か?』を問いかける、衝撃のラスト」
映画『みぽりん』は「本物のアイドルとは何か?」がテーマになっています。
「アイドル」の捉え方は、年代により大きく違いがあり、昔は「トイレになんていかない」と思わせるほど、清楚で高貴な存在でした。
ですが、現在は身近な存在だったり、キャラクターだけがやたら強かったり、お笑いをやったり、プロレスに参戦したりと、正直混沌としてきており、「アイドルの定義」が曖昧になっています。
いったい、何をもって「アイドル」と呼ぶのか?誰でも名乗れば「アイドル」なのか?という疑問が渦巻いており、特に昨今のアイドル業界は、長年支えてくれた、ファンへの裏切りとも呼べる行為が目立ち、大きなニュースになる事もありますね。
そんな、現代のアイドル事情を考えると、一見すると理不尽にしか聞こえない、みほの優花への要求が、実はまともに聞こえてきます。
ですが、みほの要求は昭和世代の考えで、優花の主張は平成、令和世代のアイドルの考えとなっており、本作のクライマックスは、アイドルに対する捉え方の、世代闘争となっていきます。
また、アイドル業界には運営者とファンの存在が不可欠で、本作ではプロデューサーの秋山と、優花推しのファンである加藤の目線を通しても語られていきます。
そして迎える最後の戦いは、裏でセンターマイクを争いながらも、ファンには夢を与える存在でなければならない、アイドルの宿命と、そのアイドルの裏で、商売を成り立たせないといけない運営の存在という、アイドル業界の縮図を見事に表現しています。
そして、幻想の世界であるアイドル業界と、隣接する現実社会との関係性についても描かれています。
「アイドルとは何か?」という問題定義を含んだクライマックスを経て、迎える衝撃のラスト。
ここで展開される、みほの主張は、個人的に賛成だったのですが、そこは鑑賞した方の意見が分かれる所でしょう。
「個性豊かな登場人物による癖になる世界観」
本作では、個性的で魅力的な登場人物たちが、見どころの1つとなっています。
主人公の優花は、楽屋でイカフライのつまみを食べながら、オロナミンCを一気飲みするなど、アイドルらしからぬ行動が目立ち、みほの逆鱗に触れる理由も分かる気がします。
優花は極度の音痴ですが、表情豊かで明るい性格のキャラクターで、おそらく神対応のみで人気を獲得してきた事が分かります。
また、狂気のボイストレーナーみほは、普段は穏やかで優しいのですが、スイッチが入ると馬事雑言を浴びせ始めるという、2つの人格を持ったようなキャラクターです。
ですが、みほはアイドルへ執着するようになった「ある過去」を抱えており、物語が進むにつれ、恐怖を与えるだけではなく、もう1人の主人公とも言える存在となっていきます。
他にも、どこか適当で頼りないプロデューサーの秋山、いろいろな意味で秋山に振り回され続けるマネージャーの相川、ファンの鏡とも言えますが、少し面倒くさい優花推しの加藤、優花と対照的に、本当にアイドルらしい里奈など、登場人物が全員個性的で、演じている役者が、全員役にハマっています。
個性豊かな登場人物が創り出す、本作の独特の世界観は、パワフルで癖になる魅力を持っています。
映画『みぽりん』まとめ
本作は、全編オール神戸ロケで撮影され、神戸の元町映画館で、2019年9月7日から1週間限定で上映されました。
元町映画館では、初日から最終日まで全て満席立ち見という記録を打ち立て、作品の話題がSNSで広まり、2019年12月21日~2020年1月10日までの、東京「池袋シネマ・ロサ」での上映が決まりました。
本作を「パニック・ホラー」と紹介しましたが、恐怖のテンションが高すぎて、笑えてしまう場面も多く、ホラーが苦手な方でも大丈夫です。
また、前述した『ミザリー』や『シャイニング』などの、名作ホラー映画へのオマージュも込められており、ホラー好きの方なら更に楽しめる作品です。
監督と脚本を務めた松本大樹は、本作が初監督作となっていますが、ここまで独特の作品を、いきなり作ってしまう辺り「凄い」の一言です。
クライマックスから結末までの「アイドルとは何か?」を巡る、衝撃のラスト10分を是非、ご覧ください。
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