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Entry 2018/11/06
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『恐怖の報酬 オリジナル完全版』感想と評価。1977年の名作フリードキン版で描かれた映画的サスペンス手法を解説|サスペンスの神様の鼓動2

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ピックアップする作品は、40年の歳月を経て復活した、ウィリアム・フリードキンの傑作映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』です。

スティーブン・キングや、クエンティン・タランティーノなど、ファンを公言している有名人も多い、本作をサスペンス的な手法に注目しながら、ご紹介します。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『恐怖の報酬 完全版』のあらすじ


(C)MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.

メキシコ・ベラクレス

あるホテルの一室で、窓際の景色を眺めながら、ウィスキーを飲んでいる男。

その部屋に姿を現した、初老の殺し屋ニーロは、男を射殺して、何事もなかったかのように部屋を後にします。

【イスラエル・エルサレム】
バスに乗り込む3人の若者達。

若者達はテロリストで、持っているバッグには時限爆弾が入っており、大爆発が起きます。

テロリストの仲間が集うアジトは、特殊部隊に包囲されます。

アジトにいたカッセムは、同志たちが射殺や連行される姿を目にしながら、1人逃げ出します。

【フランス・パリ】
投資家のマンゾンは、証券取引所の頭取から、不正融資と詐欺の疑いを追求されます。

告発までに24時間、マンゾンは大物財界人を父に持つ義弟のパスカルに助けを求めますが、突き放されてしまいます。

追い詰められたマンゾンは、妻と食事を楽しんでいた高級レストランから逃げ出します。

【アメリカ・ニュージャージー州エリザベス】
教会に強盗へ入った、アイリッシュ・マフィアの一味。

マフィア達は神父を銃で脅し、売上金の強奪に成功しますが、逃げようとした神父を1人射殺します。

車で逃亡する車中、強盗の成功に浮かれるマフィア達ですが、神父を射殺した事で論争が起き、内輪揉めに発展します。

そして、運転を担当していたスキャロンはミスをしてしまい、大事故を起こしてしまいます。

消火栓から噴き出した水しぶきが、血まみれのマフィア達を濡らす凄惨な事故現場から、スキャロンは1人で逃げ出します。

その夜、スキャロンは友人のヴィニーから、マフィアが射殺した神父は、対抗組織のボスの弟で、スキャロンに対して殺害命令が出ている事を知らされます。

スキャロンはヴィニーの勧めで、国外へ逃亡します。

【南米・ボルヴェニール】
マンゾンは「セラーノ」、カッセムは「マルティネス」という偽名を使い、南米のボルヴェニールに逃亡していました。

2人は多くの労働者が働く、アメリカの石油資源会社の製油所で働いていました。

またスキャロンも、「ドミンゲス」という偽名で運転手の職に就き、ボルヴェニールで働いていました。

ある日、山岳地帯の油井で大規模な爆発事故が発生、巨大な火柱が立ち、消化は容易でない状況となります。

石油会社のコーレットは、爆発物の専門家、デル・リオスのアドバイスから、ニトログリセリンの爆風で消火する事を決めます。

ですが、倉庫に保管されていたニトログリセリンは、湿気で液状化しており、少しの衝撃で爆発する可能性がある不安定な状況でした。

乱気流の可能性がある為、空路での輸送も危険、選ばれたのはトラックによる輸送でした。

1人1万ドルと新たな身分証の発行という報酬で、トラックの運転手を募集、テストの結果選ばれたのは、マンゾン、カッセム、スキャロン、そしてカッセムの友人マルケスでした。

出発当日、マルケスが姿を現さない事を不審に感じたカッセム。

カッセムが様子を見に行くと、マルケスは何者かに殺害されていました。

殺害現場付近にいた、ニーロに襲いかかるカッセムですが、殺害されたマルケスの代わりに、ニーロもニトログリセリン運搬のメンバーに加わる事になります。

火災現場まで320キロ、密林の中を突き進む、彼らの運命は?

サスペンスの仕掛け①「不安定な状態のニトログリセリン」


(C)MCMLXXVII by FILM PROPERTIES INTERNATIONAL N.V. All rights reserved.
本作のストーリーで、核となる部分は、液状化して、少しの衝撃で爆発する恐れのあるニトログリセリンを、無事に運ぶ事ができるのか?という部分です。

ニトログリセリンは、木の箱に保管されており、トラックの荷台に砂を敷き詰める事で、土台を安定化させています。

ですが、大きな揺れで左右に動き出す場面もあり、何かの衝撃で爆発する可能性がある事を、観客に伝えて来ます。

その為、トラックが車幅ギリギリの、山道を通過する場面でも、小さな岩が転がっただけで不安な気持ちになるというような、一触即発のニトログリセリンの運搬が始まって以降は、終始緊張感のある映像と展開が繰り広げられます。

サスペンスの仕掛け②「誰が生き残るのか?訳ありの四人」


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本作で、ニトログリセリンを運搬する事になるのは、四人の男達。

全員がマフィア、テロリスト、詐欺容疑の投資家、殺し屋と訳ありなのが特徴です。

消火用のニトログリセリンは、本来ならトラック一台分で足りるのですが、二手に分かれて、二台のトラックで運ぶ事になる為、どちらかが失敗する可能性が出てきます。

しかも運搬メンバーは全員訳ありで、筋の通った正義漢がいない為、誰が生き残るのか?全く展開が読めなくなります。

また、運搬する人数が減れば、成功した時の報酬が増える為、四人は協力間関係を結ぶ気もありません。

不安定なニトログリセリンの運搬に、人間関係も絡んでくる為、更に緊迫感が増していきます。

サスペンスの仕掛け③「密林という空間」


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ニトログリセリンの運搬先は、320キロ先の火災現場で、密林を抜けて行かなければなりません。

衝撃を与えると、爆発して命を落とす可能性がある状況で、車幅ギリギリの山道を走ったり、暴風雨の中を壊れかけの吊り橋を渡ったりするという、危険な展開が連発します。

また、閉ざされた密林という環境で、限られた装備を駆使して、障害に立ち向かう展開も本作の見どころになっています。

特に、道に倒れた巨木を、あるアイデアで破壊するのですが、一切の説明セリフを排除し、淡々と見せていく事で、心理的な余裕の無さを表現した名場面となっています。

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』のまとめ


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死と隣り合わせの状況に直面した、4人の男たちが密林を舞台にした戦いを繰り広げる本作。

演出面以外にも、2年を超える製作期間を費やした本作は、迫力満点の映像が楽しめます。

特にトラックが吊り橋を渡る印象的なシーンは、実際に橋を建設し撮影、本番とリハーサルでトラックは5回転落しながらも、映像を完成させました。

製作期間と、製作費がどんどん膨れ上がる事から、監督のフリードキンは「呪われた作品」とすら思ったそうです。

フリードキンの執念が込められたとさえ言える本作の迫力は、40年が経過した現在でも色褪せる事が無く、逆にCGが主体となった現在の映像作品では、なかなか味わえない本物ならではの迫力が楽しめます。

映画『恐怖の報酬 オリジナル完全版』は、2018年11月24日(土) シネマート新宿、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショーとなります。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

2018年11月24日に公開される、『イットカムズアットナイト』をご紹介していきます。お楽しみに!

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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