連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第37回
“ゴゴ”(カレンジン語で“おばあちゃん”)の愛称で親しまれる94歳の小学生のドキュメンタリー映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』をご紹介します。
本作を手掛けたのは、『世界の果ての通学路』のパスカル・プリッソン監督。女性に学問が不必要とされた時代を生きてきたゴゴが、ひ孫たちに教育の大切さを教えるために、小学校へ通う姿を追います。
教育を受けることを諦めない社会人、94歳のゴゴがなぜそこまで頑張るのか。ひ孫たちと学校で勉強をするゴゴの姿から、教育とは何かと考えさせられます。
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』は、2020年12月25日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 。
CONTENTS
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生 』の作品情報
【日本公開】
2020年(フランス映画)
【原題】
Gogo
【監督】
パスカル・プリッソン
【キャスト】
プリシラ・ステナイ、チェプコエチ、ディナ、リーダーズ・ビジョン小学校校長
【作品概要】
ケニアで小学校に通う94歳のゴゴ(おばあちゃん)を追ったドキュメンタリー『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生 』を手掛けたのは、パスカル・プリッソン監督です。
監督の劇場デビュー2作目『世界の果ての通学路』(2014)では、教育を受ける道程で様々な障害に立ち向かう4つの国の子供たちの勇気と苦難を描きだしました。
本作でも、複雑なケニアの社会事情を知ることができ、主人公・ゴゴが勉強に取り組む姿から、真の教育とは何かと考えさせられます。
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生 』のあらすじ
ケニアに住むプリシラ・ステナイは、皆から“ゴゴ(おばあちゃん)”と呼ばれる人気者です。3人の子供、22人の孫、52人のひ孫に恵まれ、小さな村で助産師として暮らしていました。
ある時、彼女は学齢期のひ孫娘たちが学校に通っていないことに気がつきます。
自らが幼少期に勉強を許されなかったこともあり、教育の大切さを痛感していたゴゴは一念発起。
周囲を説得し、6人のひ孫娘たちと共に小学校に入学しました。
年下のクラスメートたちと同じように寄宿舎で寝起きし、制服を着て授業を受ける毎日。ゴゴは、すっかり耳は遠くなり、目の具合も悪いため、勉強するのは一苦労です。
それでも、助産師として自分が取り上げた教師やひ孫と同い年のクラスメートたちに応援されながら勉強を続けています。
目指すは卒業試験! 小学校卒業資格を手に入れるのです。
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生 』の感想と評価
危険な道のりを何時間もかけ通学する子供たちを捉えた『世界の果ての通学路』(2012)で、世界中を感動で包んだパスカル・プリッソン監督。
フランスでヒットを飛ばした『世界の果ての通学路』に続き、本作で追うのは、“ゴゴ”の愛称で親しまれる94歳の小学生です。
世界最高齢小学生の毎日を追う
パスカル・プリッソン監督が、力強いヒューマニズムの物語を探していることを知っていたナイロビの友人が、世界で最も高齢の小学生であるゴゴに捧げられた地元紙の記事を読んで、彼女のことを教えてくれました。
さっそく監督がゴゴに会って、ドキュメンタリー映画の話をすると、この作品が見本となり他の少女たちの就学を奨励できるなら、と了承してくれたと言います。
ゴゴは全ての親が娘たちを学校に行かせるように説得したかったのです。
こうして、出演者と時間をかけて信頼関係を築きあげ、そのリアルな姿をカメラに収めていくことが実現しました。
高齢の小学生の学校生活の一環として、数学や英語の授業、修学旅行、誕生日会、新寄宿舎の竣工式などが撮影されます。
ゴゴは、時には木陰で大勢のクラスメイトにおとぎ話をしてあげたり、校庭の片隅で同い年の校内敷地に住む友人とランチを食べたりと、学校生活を満喫。
ケニアの美しい自然を背景に、数々の歌と仲間たちの笑顔に彩られたゴゴの学校生活が、ありのまま映し出されていました。
けれども、その一方では、貧困や慣習などの理由から、未だアフリカに根強く残る教育問題が浮かび上がっています。
ケニアの教育問題
ケニアでは、約1割の子どもが初等教育修了試験を合格できず、進学するのを諦めているそうです。そこには、ケニアならではの3つの要因がありました。
要因① 学校へのアクセスの困難さ。長い距離を時間をかけて通学する子供たちの負担を考えて、学校に学生寮を設けています。
要因② 早すぎる結婚。ケニアでは18歳までに結婚する女の子の割合は23%です。15歳までに結婚する女の子の割合は5%で、世界で20番目に早すぎる結婚が多い国なのです。
理由は嫁ぎ先からの結納金。女の子を家の経済的な「資産」だと捉える考え方が根強く残っている証拠です。早すぎる結婚を経験した子どもの多くが進学を諦めており、その約7割は初等教育レベルに留まっていると言われています。
要因③ 女の子の早すぎる妊娠。貧しい家は金銭的補助を受けるため、未婚の少女に性交渉をさせたりするといいます。早すぎる妊娠は、女の子の心身に大きなダメージを与え、その人生を大きく転換させてしまいます。
こんなケニアの社会事情もあり、自身も女の子には教育はいらないという風習の中で育ってきたゴゴですが、「勉強したい、勉強は大事」という気持をずっと持ち続けていました。
そして、90歳になった頃、孫たちが学校に行かないのを不甲斐なく思い、ゴゴは自ら勉強をする姿を見せることを決意したのです。
高齢のゴゴが、小学校卒業を目指して勉強に打ち込む姿とその決断には頭が下がります。
まとめ
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』は、パスカル・プリッソン監督自らがケニアに赴き、学校生活を始めとするゴゴの生活を追ったドキュメンタリー。
目もよく見えなくなり耳も遠くなったゴゴにとって、卒業試験に合格するという目標を持ち、94歳で学校に通うのは、どれほど大変なことでしょう。
けれども、生活に追われる日常から離れ、学校での勉強や友人とのふれあいを心から楽しむゴゴの笑顔には、学びの喜びが満ち溢れています。
義務教育制度があり、教育を受けるのが当たり前と思っている私たちには、ゴゴたちの勉強に対する悩みは、驚くべきことでしょう。
94歳でも自分の夢を追う、スーパーおばあちゃん、ゴゴ。その学校生活の様子を知ることで、教育とは本来何なのかを考えさせられました。
映画『GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生』は、2020年12月25日(金) シネスイッチ銀座ほか全国順次公開 。
それに先駆けて、12月10日(木)~13日(日)に開催されるフランス映画祭2020横浜での上映も決定しています。ゴゴの頑張る姿をスクリーンでぜひ。