連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第4回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回、紹介する作品は、2019年12月13日公開となった映画『屍人荘の殺人』です。
2017年刊行、国内主要ミステリー賞4冠を達成した、今村昌弘のデビュー小説『屍人荘の殺人』が、神木隆之介、浜辺美波、中村倫也の共演で実写映画化となりました。
大学の夏の合宿で起こる奇想天外の密室殺人事件。ミステリ愛好会のホームズとワトソンこと、明智恭介と葉村譲コンビは、この事件を解決出来るのか?
原作との違いを比較し、より深く映画を楽しみましょう。
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CONTENTS
映画『屍人荘の殺人』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【原作】
今村昌弘
【監督】
木村ひさし
【キャスト】
神木隆之介、浜辺美波、葉山奨之、矢本悠馬、佐久間由衣、山田杏奈、大関れいか、福本莉子、塚地武雅、ふせえり、池田鉄洋、古川雄輝、柄本時生、中村倫也
【作品概要】
第18回本格ミステリ大賞など、国内主要ミステリー賞4冠達成の話題作、今村昌弘の『屍人荘の殺人』の映画化です。
監督は『99.9刑事専門弁護士』シリーズ、『民王』の木村ひさし監督。脚本は、『TRICK』の蒔田光浩が担当しています。
ある出来事がきっかけで、「紫湛荘」に集まった14人を演じるのは、神木隆之介、浜辺美波、中村倫也を始め、柄本時生、古川雄輝、ふせえり、塚地武雅など、若手からベテランまで個性豊かな俳優陣が勢揃いです。
映画『屍人荘の殺人』のあらすじとネタバレ
神紅大学ミステリー愛好会のホームズとワトソンこと、明智恭介と葉村譲は、今日も大学で起こる謎の事件を調査しています。
いざとなると凄い閃きを発揮したり、しなかったり、自ら事件に飛び込んで事件を大きくしてしまう明智と、ミステリー小説オタクでありながら、これまで一度も推理が当たったことがない葉村。
今回もまた、依頼人にまんまと騙され、笑いものになってしまいました。
それを見ていたひとりの女子大学生がいました。剣崎比留子です。剣崎は、警察からも頼りにされる正真正銘の女子大生探偵なのでした。
剣崎は2人に、ロックフェス研究会の夏の合宿に、一緒に来て欲しいと誘います。
その真意は謎ですが、合宿前にサークルに届いたという「今年の生贄は誰だ」と書かれた脅迫状に、明智は興味津々です。葉村もまた、剣崎の可愛らしさにメロメロです。
まんまと乗せられやってきたのは、「紫湛荘」という名のペンションでした。管理人の菅野唯人が迎えてくれました。
合宿に参加したメンバーは、ロックフェス研究会の進藤歩とその彼女・星川麗花。同じサークルの名張純江、重元充。
そして、サークルOBでこのペンションのオーナーの息子・七宮兼光、その友達・立浪波流也。七宮のコネを狙う女・下松孝子。明智、葉村、剣崎、管理人の菅野を合わせて11人が集まりました。
管理人の菅野を残し、メンバーは近くで行われている野外フェスへと向かいます。
その頃フェス会場では、スタッフを装い、手に注射器を持った怪しげな人たちが、人ごみに紛れて行きました。
各々にフェスを楽しんでいる中で、七宮と立浪は、落ちていたスマホを拾います。持ち主が可愛い女の子だとわかると、2人はナンパしようと声をかけます。
スマホを落とした静原美冬は、七宮のしつこい誘いに困っています。
その時です。どこからともなく悲鳴があがりました。七宮を探していた下松が、血だらけの男に噛みつかれています。
倒れ込む下松に駆け寄り、声をかける名張。突然、起き上がった下松が、名張に襲い掛かってきます。
死人が生き返り、生きている者を襲っては噛みついていきます。フェス会場はパニックに陥りました。
『屍人荘の殺人』映画と原作の違い
国内主要ミステリー賞4冠を達成した話題作、今村昌弘の『屍人荘の殺人』が映画化上映となりました。
神木隆之介、浜辺美波、中村倫也を始め、個性豊かな俳優陣の集結により、原作の世界をさらに分かり易く、よりコミカルにした映画化。
奇想天外のミステリーがどのように映像化されたのか。原作と比較し、違いを検証していきます。
登場人物の違い
映画では、原作と同じ名前でも設定の違う人物が何人かいます。出目飛雄(塚地武雅)と高木凛(ふせえり)、そして静原美冬(山田杏奈)です。
原作では3人とも大学の学生の設定ですが、映画では野外フェスの参加者で、たまたまペンションに逃げ込んできた一般人の設定となりました。
ゾンビ出現という思いもよらないハプニングで集まった面々。外部の人間が紛れ込んだことで、この後の殺人事件の犯人特定が困難なものになっています。
ちなみに、合宿を行う大学のサークルは、原作だと「映画研究部」と「演劇部」の集まりになっていますが、映画では「ロックフェス研究会」となっています。
これにより、原作にある、山奥にある廃ホテルでの映画撮影のシーンがカットされています。そのホテルは、今回のゾンビテロ事件の首謀者たちが潜伏していた場所だったのですが、映画では触れられていません。
原作ではさらに、その場所で、テロ組織・斑目機関と思われる人物の手記を見つけた重元充(矢本悠馬)が、事件解決後、大学に一度も現れず姿を消しています。
葉村譲のこめかみの傷
原作では、葉村譲(神木隆之介)は、過去の辛い経験からトラウマを抱えていました。
それは、日本を襲った未曾有の大震災でのことです。葉村の家族は辛くも津波から逃れますが、家は崩壊寸前となり、避難生活を余儀なくされていました。
ある日、まだ使えるものを取りに家に戻ると、勝手に家に入り込み中を漁っている連中と居合わせます。怒りに駆られた葉村は、もみ合いになり瓦礫でなぐられ、こめかみに傷を負うのでした。
それ以来、被災者からすら物を奪おうとする浅ましい奴ら、人の物を黙って持っていくことが、何よりも許せないこととなりました。
原作で、葉村は妹から貰った大事な腕時計を、出目に盗まれてしまいます。それを知った葉村は許すことが出来ず、ゾンビ化して死んだ出目の部屋に入り時計を取り戻します。
しかし葉村は、大事なものだとしても、死んだ人間の荷物から、腕時計を取った自分を恥ずかしく思い、許すことが出来ませんでした。
出目の部屋から出る時、出会ってしまった静原を、犯人だと確信した葉村でしたが、自分の行動を隠すため、皆に嘘の証言をしてしまいます。
映画では、まったく推理の当たらないことから「迷宮太郎」とあだ名を付けられた幼少時代のエピソードや、剣崎の可愛いお願いにデレデレと答えてしまう、ムードメーカー的存在となっています。
演じた神木隆之介の、真面目な演技の中にも垣間見えるコミカルな部分が、存分に発揮されており、愛すべきキャラとなっています。
謎解きパフォーマンス
この物語には、名探偵が2人登場します。明智恭介(中村倫也)と、剣崎比留子(浜辺美波)。映像化したことで、2人の謎解きのポーズが加わりました。
明智は始め、完全に名前負けしたポンコツ探偵ですが、最後の最後に名探偵ぶりを発揮します。閃きのポーズは、指パッチンです。
剣持は最初から正真正銘の名探偵ですが、実の姿はトラブルを呼んでしまう体質で、周りから恐れられ孤独な子供時代を過ごしていました。
そんな剣崎の閃きのポーズは、横綱の土俵入り、雲竜型です。
明智の指パッチンは、鳴る時と鳴らない時があったり、後に葉村が明智の真似をしたり、剣崎役の浜辺美波の可愛い雲竜型と、映像ならではの面白さがありました。
犯行の動機
原作同様、映画でもゾンビテロの犯人は謎のままですが、殺人事件の犯人は静原美冬です。
犯行の動機となったのは、1年前の夏の合宿で七宮たちに遊ばれ自殺した遠藤沙知の復讐でした。
原作では、美冬と沙知の関係性は、近所に住む幼なじみの設定でしたが、映画では姉妹の関係性になっています。
また、原作では、美冬は沙知と同じ大学に入り、映画研究部へと入部。OBの七宮が主催する恒例の夏の合宿に参加します。
映画では、野外フェスで「スマホを落としただけの女」という設定で登場。もっとも犯人から遠い存在になっていて、原作を読まずに映画を観た方は、まんまと騙されたに違いありません。
明智恭介の最後
愛すべきキャラ・明智恭介の、序盤でのゾンビ化に喪失感が止まらない方、明智ロスに陥った方が多いとことでしょう。
原作では、いよいよ逃げ場が屋上しかないという場面で、ゾンビ化した明智と葉村が、向き合います。迫りくるゾンビ明智を槍の一撃で仕留める剣崎。胸アツのセリフが続きます。
映画では、すべて解決し、ゾンビも駆除された後に、ポツンと明智が現れます。振り向いた明智はゾンビでした。
「あげない。彼は私のワトソンだ」。仕留めたのは、やはり剣崎でした。
他のゾンビがいなくなった後だけに、明智役の中村倫也のゾンビ姿が、より印象に残るシーンとなっています。
まとめ
予測不能な奇想と謎解きで、国内主要のミステリー賞4冠に輝いた、今村昌弘の『屍人荘の殺人』の映画化に伴い、原作との違いを比較しました。
「ミステリー」と「ゾンビ」のジャンルが融合した新しいパニックミステリー・エンターテイメント映画『屍人荘の殺人』。
グロくなりがちなゾンビの抹殺シーンは、レントゲン画像で表現され、目を瞑ることもなく観ることができます。ゾンビ映画やホラー映画が苦手な方。またお子さんでも楽しめる映像になっています。
小説では「屍人荘の殺人」の続編「魔眼の匣の殺人」が発売されています。映画化第2弾となるのか?
ゾンビ化したはずの明智が、最後に伝えようとして声にならなかった言葉。いったい明智は、何とつぶやいたのでしょうか。続編があることに期待します。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介するのは、2020年3月6日公開の映画『仮面病棟』。
知念実希人の小説「仮面病棟」が、坂口健太郎と永野芽衣の共演で映画化となります。
その日、病院は仮面の凶悪犯に占拠された。閉じ込められた者たちの運命は。犯人の目的は。そして、病院の隠された秘密が暴かれていく。
映画公開の前に、原作のあらすじと、映画化で注目する点を紹介していきます。