連載コラム「永遠の未完成これ完成である」第27回
映画と原作の違いを徹底解説していく、連載コラム「永遠の未完成これ完成である」。
今回紹介するのは岩手県出身作家・三秋縋の小説『恋する寄生虫』です。林遣都と小松菜奈の共演で実写映画化となりました。2021年11月12日(金)、全国公開予定です。
極度の潔癖症に苦しむ高坂賢吾(林遣都)は、ある日を境に視線恐怖症で不登校の女子高生・佐薙ひじり(小松菜奈)の面倒を見ることになります。
互いの症状を克服するため協力しあうことにした2人は、クリスマスイブに手をつないで歩く事を目標にします。
次第に惹かれ合う高坂と佐薙。しかし、その感情の裏には「虫」の存在がありました。運命か、偶然か、それとも虫の仕業なのか。
切なくも美しい異色のラブストーリー『恋する寄生虫』。映画公開に先駆け、原作のあらすじ、映画化で注目する点を紹介します。
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CONTENTS
映画『恋する寄生虫』の作品情報
【公開】
2021年(日本)
【原作】
三秋縋
【監督】
柿本ケンサク
【キャスト】
林遣都、小松菜奈、井浦新、石橋凌
映画『恋する寄生虫』のあらすじとネタバレ
石鹸を泡立て手を隅々まで入念に洗い、完全に無臭になったのを確認し、アルコール消毒剤を両手に塗りたくって、高坂賢吾はようやく心が落ち着いてきました。
高坂は極度の潔癖症です。自分以外の人間は、細菌を培養する器のようなもの。指先が触れただけでそこから雑菌が繁殖し、全身が汚染される気がします。
きっかけは、完璧主義者で綺麗好きな母の影響だったかもしれません。高坂はそれを認めたくありませんでした。母は、高坂が9歳の時、自ら命を絶ちます。
27歳になった高坂は、潔癖症が加速し仕事も続かず、現在は失業中。コンピューターウイルスに興味を持ち、「SilentNight」という名のマルウェアを開発していました。
「SilentNight」は、12月24日クリスマスイブの日の夕方5時に作動し、感染端末の通信機器をオフにするというワームです。
聖夜という特別な日に、友人や恋人、大切な人への連絡が取れなくなった人々が、自分と同じ孤独な夜を過ごすことを想定したテロ行為でした。
訪問者はなんの前触れもなく訪れました。夜中に鳴ったインターフォンに、高坂はウィルス開発がバレたと察します。
虚ろな目の無精ひげを生やした男は、和泉と名乗りました。「ウイルス開発をバラされたくなかったら、ある子供の面倒をみろ」と高坂を脅迫します。
翌日の夜、高坂はコートを羽織り、両手にラテックス手袋、使い捨てマスクをかけ、除菌シートと除菌スプレーを持ち、その子供に会いに出かけました。
指定の場所にいたのは子供ではなく、プラチナブロンドのショートカットにがっしりとしたモニターヘッドフォンをし、女子高の制服を着た美少女でした。
彼女の名は、佐薙ひじり。和泉からの指令は、友達になって不登校児である佐薙を学校へ通うようにすることでした。「こういうの、あなたで7人目だから」。佐薙は、和泉のことも知っていました。報酬の半分を渡すことで手を打つと言います。
すっかり佐薙のペースに振り回される高坂でしたが、和泉に警察に突き出されることは免れました。
次の日から、佐薙は高坂の聖域とも呼べる部屋に上がり込むようになります。佐薙はスリッパもはかず、我がもの顔でベッドに腰を下ろし、本を読んで過ごします。佐薙が読んでいる本の9割は、寄生虫に関連するものでした。
金髪、ピアス、短いスカート、煙草、寄生虫。いずれも高坂にとって「不潔」の象徴でした。何度も悲鳴を上げそうになりながらも、高坂は自分が潔癖症であることを告げることはしませんでした。潔癖症で人を傷つけた経験があるからです。
12月にはいった頃、高坂は佐薙に呼び出されます。不審に思い迎えにいってみると、動けなくなった佐薙の姿がありました。触れることもできないまま、高坂は佐薙が落ち着くのを待ち、一緒に帰ります。
佐薙は自分が「視線恐怖症」であることを話しました。ヘッドフォンで聴覚を遮断し、脆弱な心を守り、周りをけん制するため見た目を派手にする傾向があるこの症状を、高坂も知っていました。
高坂も、これまで他人に打ち明けることはなかった自分の潔癖症のことを、佐薙に打ち明けます。2人は強迫性障害に苦しむ者同士でした。
高坂は震える手で佐薙の頭をなでます。なぐさめのつもりでした。「無理しなくていいよ」と呆れながらも佐薙は気がまぎれたようでした。
そして佐薙は、手に消毒液をふりかけラテックス手袋をし、マスクを装着すると、おもむろに高坂の肩を掴みマスク越しに唇を重ねました。
潔癖症で27年間キスのひとつもしたことがないと笑った高坂へお礼のつもりでしょうか。「可哀そうだからキスしてあげたの。感謝して」。
佐薙が帰った後、掃除もせず風呂にも入らず洗浄強迫から離れていられたのは随分久しぶりでした。高坂の中で何かが変わり始めていました。
それから佐薙の提案で、クリスマスイブまでに互いの症状を克服できたら、手を繋いで駅前のイルミネーション通りを歩こうと約束します。
高坂はもう自覚していました。10歳も離れたこの少女に自分は恋をしていると。2人は少しづつリハビリを重ねます。
しかし、クリスマスイブを目前に、佐薙は「このまま一緒にいたら、私いつか高坂さんを殺してしまう」、そう言い残し高坂の元を去ってしまいます。
クリスマスイブ当日、諦めきれない高坂は約束の駅前で佐薙を待ち続けます。しかし、佐薙は現れませんでした。
立ち去ろうとした時、同じように待ちぼうけをくらっている女子高生が目につきました。黒髪で制服をきちんと着た清楚な感じが、佐薙とは正反対だなと思ったのもつかの間、その少女は高坂がずっと待っていた佐薙でした。
「ずるいよ」。気付けば手を伸ばし佐薙を抱き寄せていました。「平気なの?」と聞く佐薙に「どうしてか、佐薙に汚されるのは許せるんだ」と力を込める高坂。
その後2人は、人生で最も穏やかで満ち足りた7日間を共に過ごします。和泉が2人を迎えにやってきたのは、年が明けてすぐのことでした。
ある施設に向かう車中で、和泉は高坂に衝撃的な事実を話します。「あんたの頭の中には、新種の虫が住み着いている。そして、佐薙の頭の中にも」。血の気の引いた顔でじっと俯いている佐薙が「騙しててごめんなさい」とつぶやきました。
和泉の説明はこうでした。高坂と佐薙の社会に適合できない症状も、そして惹かれ合う感情も、すべてその頭に住み着いた虫のせいであるというのです。
診療所には、虫の研究をしているという瓜実医師がいました。瓜実医師からの詳しい説明によると、虫は他の人間の中にいる虫を察知し、繁殖するために宿主どうしを引き寄せる。そのため、虫が存在しない他人を遠ざけるよう強迫性障害を引き起こすといいます。
さらに恐ろしいことに、その虫は宿主を自殺させてしまう性質がありました。このことは、自分の体を実験台にしたことで命を落とした甘露寺医師の残した手記に記載されていたものです。
幸いにして、既存する薬物で虫を駆除できることを証明した甘露寺医師でしたが、やはり患者である虫の宿主の女性と恋に落ち、虫の駆除を拒み心中していました。
瓜実医師は佐薙の祖父でした。佐薙の両親もまた自殺をしています。虫の宿主だったとみて間違いありません。孫の異変と虫の存在に気付いた瓜実は、甘露寺医師の手記をもとに薬を処方するも、佐薙はそれを隠して捨てていました。
佐薙が自分の意思で虫の駆除に前向きになるにはどうしたらいいのか。甘露寺医師と心中した女性の父親であった和泉が協力をかってでます。
和泉は、佐薙が生きることに前向きになるには心を開ける友達の存在が必要だと考えます。そこで佐薙と合いそうな人物を捜していたところ、偶然に高坂を見つけます。
虫はキスや性行為で人から人へ繁殖します。親密になっても潔癖症の高坂なら、佐薙に触れることはしないだろうと思っていました。まさか、高坂自身が虫の宿主だったとは知らずに。
虫同志が出会ってしまったからには、治療を施すしかありません。治療を拒めば二度と佐薙には会えません。治療をすれば、佐薙への愛が冷め、潔癖症に悩むこともなくなります。
映画『恋する寄生虫』ここに注目!
ウェブ小説で若者を中心に人気を博し、小説家デビューを果たした新鋭作家・三秋縋の『恋する寄生虫』。作品人気はコミックス化、そして実写映画化と勢いが止まりません。
孤独な2人が「虫」によって「恋」の病に落ちていく。この異色のラブストーリーは、儚くも脆くそれでいて神聖なまでに美しく、読後に深い余韻を残してくれます。
映画化では心の痛みを抱える主人公2人を、林遣都と小松菜奈が演じます。抜群の演技力とカリスマ性を併せ持つ2人の初共演にも注目です。
監督は、CMやミュージックビデオなど多岐に渡り活躍中の柿本ケンサク監督。脚本は、数多くのラブストーリーを手掛けてきた山室有紀子が担当。
果たして、ラブストーリー色が強くなのか、それともミステリアスな雰囲気になるのか、どんなビジュアルで楽しませてくれるのか、映画化に伴い注目する点を紹介します。
人間に住み着く「虫」とは
何と言ってもこの物語で欠かせないのが「虫」の存在です。ある特徴を持つ人間の頭に住み着き、虫のいる宿主同志を引き合わせるという「寄生虫」。
この寄生虫の特徴は、他の虫のいる宿主を見つけるために、虫のいない人間を嫌いにさせます。主人公の高坂は極度の潔癖症、佐薙は視線恐怖症と社会に適合できないほど体に影響が出ています。
また、他人の中にいる虫と繁殖をするため、宿主同志に恋をさせるという特徴を持ちます。キスひとつでも繋がり有性生殖を果たします。
「虫」にとっては本能の成せる行動でしかないのですが、宿された人間にとってはとんでもないやっかいなことです。
さらに最も謎に包まれた特徴として、宿主を自殺に追いやるという特徴があります。この特徴は最後に覆されることになるのですが、同時に悲しい結末を連れてきます。
「虫」が住み着く人間の特徴とは。映画化では、「虫」の姿にも注目です。
ハッピーエンドorバッドエンド
極度の潔癖症の高坂と、視線恐怖症の佐薙。孤独な2人が何よりも恐れていることが、「一生誰も愛せず、また誰にも愛されないまま死んでしまうかもしれない」ということでした。
そんな2人が恋に落ちます。初めての感情に戸惑う高坂と佐薙。「恋」は想像をはるかに超える素敵なものでした。気分は良く、湧き上がる安心感は生きることに前向きにさせてくれます。
しかし、人生で初めて迎えた幸福な時間は「虫」によるものだったと判明します。その後の2人の思考と行動に注目です。
高坂は「虫」を否定し、佐薙は「虫」を肯定します。その考え方の違いは、この物語をハッピーエンドに捉えるか、バッドエンドとして捉えるのか、あなたの思考とリンクします。
まとめ
岩手県出身の新鋭作家・三秋縋の小説『恋する寄生虫』を紹介しました。社会に適合できない孤独な2人が恋に落ちるラブストーリー。普通じゃないのは、その「恋」は「虫」によるものでした。
2人の恋は本当に「虫」によるものだけだったのでしょか。それでもいい、死ぬ前にこの幸福感を味わえたのなら。あなたなら、この「寄生虫」、受け入れられますか?
林遣都と小松菜奈のW主演で映画化。『恋する寄生虫』は、2021年11月12日(金)全国公開です。
次回の「永遠の未完成これ完成である」は…
次回紹介する作品は、お笑い芸人・つぶやきシローの小説『私はいったい、何と闘っているのか』です。この度、実写映画化し2021年12月17日(金)、全国公開予定です。
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