連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』第98回
今回紹介するのは、2026年11月14日(土)よりユーロスペースほか全国公開の『さよなら、私のロシア』。
祖国ロシアのウクライナ侵攻を機に職を辞したジャーナリスト、ジャンナ・アガラコワの良心の呵責を追います。
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映画『さよなら、私のロシア』の作品情報

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
【日本公開】
2026年(クロアチア・オランダ・フランス合作映画)
【原題】
A Little Gray Wolf Will Come
【監督・脚本・編集】
ジャンナ・アガラコワ
【製作】
マグダレナ・ペトロヴィッチ
【共同脚本】
タチアナ・ボジッチ、ジョルジオ・サヴォーナ
【撮影】
ジョルジオ・サヴォーナ
【共同編集】
アレクサンダー・ゴエクジャン、カタリナ・テュルラー
【キャスト】
ジャンナ・アガラコワ、アリーチェ・サヴォーナ、ジョルジオ・サヴォーナ
【作品概要】
祖国ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ロシア国営放送の職を辞したジャーナリスト、ジャンナ・アガラコワが監督・脚本を担当したドキュメンタリー。
辞職前に、夫でカメラマンのジョルジオ・サヴォーナ、娘のアリーチェ・サヴォーナと共に、ロシア各地を巡る旅をした過程を収めます。
2025年のシェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭(イギリス)でのワールドプレミアを皮切りに、デンマーク、ベルギー、イタリア、アメリカ、イスラエル、ドイツといった世界各国の映画祭で上映されました。
映画『さよなら、私のロシア』のあらすじ

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
2022年3月、ロシア国営放送の海外特派員ジャンナ・アガラコワは、ウクライナ侵攻に抗議し辞職。
自分がいつからプロパガンダに加担していたのかの答えを求め、過去をさかのぼりはじめます。
ニューヨーク在住時に、イタリア人の夫ジョルジオと思春期の娘アリーチェと共にロシア各地を旅していたジャンナ。
4つの夏と1つの冬の旅を含む家族の記録には、母娘関係のズレとロシアの現実が映し出され、やがてアリーチェの強烈な一言をきっかけに、各地を巡った過去の旅は、ジャンナの内省の旅へと変貌していきます。
プーチンの共犯者になることを拒んだジャーナリスト

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
ミハイル・ゴルバチョフ、ジャック・シラク、ニコラ・サルコジといった国家主席や、第9代国際オリンピック委員会(IOC)会長トーマス・バッハに映画監督のオリバー・ストーン、俳優のジェーン・フォンダといった著名人への取材経験を持ち、かつては「ロシアで最も信頼されているジャーナリスト」上位10人の一人として挙げられていたジャンナ・アガラコワ。
しかし、2022年2月24日のロシアによるウクライナ侵攻を機に、国内のテレビ局が他国への軍事攻撃を行う政府のプロパガンダに加担しているとして、翌3月3日には所属していた放送局に辞表を提出します。
3月17日、国境なき記者団の協⼒を得てのパリでの記者会見で、ウラジーミル・プーチン⼤統領によるウクライナ侵攻への抗議の意を示したジャンナ。
本作『さよなら、私のロシア』は、彼女が特派員としてニューヨークに在住していた2015年にロシアに里帰りした際、夫のジョルジオや娘のアリーチェらと共に家族旅行した映像を基に構成されています。
ロシア人として、ジャーナリストとしてのアイデンティティ

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
ジャンナがロシア国内を家族で旅行するに至ったそもそものきっかけは、ロシアの小説家でノーベル文学賞受賞者のアレクサンドル・ソルジェニーツィンでした。
ソ連崩壊後のロシアの人々がどのように暮らし、何を感じているかを直接知るべく国中を巡って、市民の声を聞いたというソルジェニーツィンの旅を追体験し、その道中をドキュメンタリー作品にしていくというものでした。
3歳でニューヨークに移って以来、ロシアに馴染みがなかった娘のアリーチェの視点に寄り沿うことで、「もっとロシア人らしくなってほしい、もっと私に似てほしい」という願望があったというジャンナ。
しかしその思惑は、旅を進めていくうちに変容していくこととなります。

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
ソ連が崩壊したロシアでは、いわゆる政治的な自由と経済の自由化の波が高まり、それとともに政治批判や問題提起をする報道に重きを置いた独立系メディアが次々誕生。1990年代半ばには、テレビ局だけでも50局近くが新たに開局されたと云われています。
ところが、1999年12月31日にプーチンがロシア大統領代行に就任して以降、一般市民向けのテレビ局の大半が国営化され、メディアは徐々に国家の統制下に置かれていくことに。
大統領職のバトンを渡す形となったボリス・エリツィンの、「プーチンが勝てば、報道の自由は確かなものになるだろう」という期待は大きく裏切られることとなります。
本作では、祖国を偉⼤で素晴らしい国と信じるも、これまでプーチン政権に加担してきたことに悩むジャンナが赤裸々に描かれています。
「またプロパガンダ記事を書いてるの?」――旅行しながら仕事をしていた際にアリーチェに揶揄され口論になれば、夫とも運転中の車内で激高・絶叫してしまう。
ロシア人女性として、そしてロシア人ジャーナリストとしてのアイデンティティを見つめ直すことになっていくのです。

(C)2025 LEWA productions – Revolver Amsterdam – Giorgio Savona productions
「ロシアの学校では、何よりも⼤切なのは『戦争が起きないこと』だと教えられてきた」と語るジャンナ。ですがウクライナ侵攻以降、国内の学校では戦争を是とする愛国教育が推し進められている状況にあります(ロシア教育の実態については、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞受賞作『プーチンの愛国教室』に詳しい)。
2025年2月に、ロシア司法省からスパイと同義の「外国のエージェント(代理人)」に指定され、事実上の亡命生活を送っているジャンナ。しかし、「人生で二度目のチャンスをもらった」として、フリージャーナリスト兼フィルムメーカーとしての道を歩み出しています。
本作の日本公開に併せてジャンナは、人として実存することについてメッセージを残しています。
「愛国心とは、ファシズムからほんの二歩しか離れていないものです。そして、いかなる国家的アイデンティティや文化的アイデンティティよりも、人間性こそが重要であるということです」。
次回の連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。主に『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューのほか、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)































