連載コラム『シニンは映画に生かされて』第4回
はじめましての方は、はじめまして。河合のびです。
今日も今日とて、映画に生かされているシニンです。
第4回でご紹介する作品は、死者との再会を通じて夫婦と家族の深く温かい愛を描いた、イ・ジャンフン監督のラブストーリー映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』。
日本でも映画化され大ヒットした市川拓司のファンタジー恋愛小説『いま、会いにゆきます』。その再映画化作品である本作は、韓国国内での公開当時にはわずか15日で200万人を動員するという驚異的な記録を打ち立てました。
CONTENTS
映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』の作品情報
【日本公開】
2019年(韓国映画)
【原題】
Be with You
【原作】
市川拓司
【脚本・監督】
イ・ジャンフン
【キャスト】
ソ・ジソブ、ソン・イェジン、キム・ジファン、コ・チャンソク
【作品概要】
日本でも2004年に映画化され大ヒットした市川拓司のベストセラー小説『いま、会いにゆきます』の再映画化作品。
監督・脚本は、本作が長編デビュー作となるイ・ジャンフン。
妻を亡くし一人息子と共に慎ましく暮らす主人公ウジンを演じたのは、『王の運命 ー歴史を変えた八日間ー』『映画は映画だ
』で知られる人気俳優のソ・ジソブ。
そして夫と息子のもとに再び戻ってくる妻スアを演じたのは、『四月の雪』『私の頭の中の消しゴム』で知られる女優のソン・イェジンです。
映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』のあらすじ
妻を亡くし、自身の難病と付き合いながらも現在は息子ジホと二人暮らしをしているウジン。
亡くなった妻スアは、父子に「梅雨になったらまた戻ってくる」という約束を残していました。
その約束から1年が経ち、梅雨の季節が訪れたある日、生前と同じ姿のスアが父子の元に現れます。
ウジンやジホ、自身の死すらも覚えていない状態だったスアを、父子は自宅へと連れ帰ったことで、三人での暮らしが再び始まりました。
最初はぎこちなさがあったものの、次第に「三人家族」としての生活が蘇ってゆく中、スアとウジンはかつての馴れ初めにまつわる記憶を共有し、再び心惹かれ、恋に落ちます。
ですがその頃には、梅雨の季節が終わりを迎えようとしていました。
映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』の感想と評価
「自身の思いを込めようとする」という原作への愛
2019年4月7日、シネマート新宿にて行われたトークショーには、イ・ジャンフン監督と原作者にして作家の市川拓司氏が登壇しました。
そこで市川氏は、本作が原作に忠実な「『優しい手触り』の作品」であり、「今までで一番しっくりくる映像化作品」であることを語りました。
無論、日本から韓国へという舞台の変更など、本作には原作小説からの改変点がいくつもあります。しかしながら、原作者自らが「一番しっくりくる」と語るだけの理由が本作には存在するのです。
ジャンフン監督は本作を制作するにあたって、原作小説の世界観を尊重しながらもそれに対する「自身の思いを込めようとした」と語ります。
ただ、機械的に、流れ作業的に原作通りの物語をなぞってゆくのではなく、その物語を読んだ時、感動した時の思いを込めようとする。
それはまさに原作小説に対するジャンフン監督の愛そのものであり、だからこそ、本作がただの「原作付き映画」という枠を超える映画となっているのです。
ジャンフン監督と原作者・市川氏の共通点
またトークショーでは、ジャンフン監督と市川氏の幾つもの共通点が話題に上がりました。
外見や雰囲気、家族構成をはじめ、ジャンフン監督が初の長編映画である本作を制作した年齢と市川氏がその原作小説を執筆した年齢が共に40歳だったといった奇跡的な偶然など、様々な共通点が二人にはあったのです。
そして、ジャンフン監督と市川氏が抱いていた罪悪感にも、共通するものがありました。
小説『いま、会いにゆきます』の物語は、市川氏の実体験が基になっています。大学時代に陸上選手として活躍していたものの、突如病に罹り長期間の闘病を経験した市川氏は、自身の闘病生活に巻き込みたくないという思いから、現在の奥様に一度は別れを告げたこともありました。その出来事は、小説の物語にも踏襲されています。
その後、奥様が再び市川氏に会おうとしてくれたのをきっかけに二人は復縁しますが、自身の人生に巻き込んでしまったことに対する罪悪感が少なからずあったそうです。
さらに、自身の出産を経て体調を崩しそのまま亡くなってしまった、市川氏の実母に対する罪悪感。この二つの罪悪感が、小説『いま、会いにゆきます』の物語のベースとしてあるのです。
一方、その小説を原作として映画を制作したジャンフン監督も、40歳にして長編デビュー作を初めて制作した遅咲きの監督であることからも分かる通り、そこに至るまでに、多くの苦労や迷惑をかけてきた自身の家族に対する罪悪感を抱いていました。
原作者である市川氏が抱いていた罪悪感。そしてジャンフン監督が抱いていた罪悪感がシンクロしたことで、本作に込められた悲しみにもリアリティが生じたのです。
「優しい手触り」を感じられる「救い」の物語
けれども、本作に込められているのは、罪悪感がもたらす悲しみだけではありません。
市川氏は、映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』を「『赦し』と『寛容』の物語」であると語ります。それは、小説『いま、会いにゆきます』の物語そのものでもあります。
悲しみをもたらす罪悪感。その源とされる人生の中で犯した罪を赦され、受け入れられる。それは「救い」であり、「『赦し』と『寛容』の物語」とは、「救い」の物語でもあるのです。
そして、そのような「救い」の物語を、ジャンフン監督は優しく、そして温かい眼差しをもって描きました。それは原作小説における「救い」の物語を真摯に、誠実に捉えようとする試みであり、それ故に映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』は、市川氏の評したように「『優しい手触り』の作品」となれたのです。
イ・ジャンフン監督とは
イ・ジャンフン監督は本作が公開される8年前に原作小説を初めて読み、その美しい物語に魅了されました。
そして2015年から、『いま、会いにゆきます』映画化、すなわち映画『Be With You ~いま、会いにゆきます』の制作に向けて本格的な準備を始めました。
長編デビュー作である本作は韓国国内で記録的な大ヒットを打ち出し、今後の活動が非常に注目されている監督です。
まとめ
原作者に通ずる親しい人々に対しての罪悪感とそれがもたらす悲しみを抱きながらも、優しく、そして温かい眼差しをもって「救い」の物語を捉えようとする。それは、イ・ジャンフン監督だからこそできたことです。
そして、「本作を観終えた後、隣にいる存在がどれだけ大切なのかを気づいてほしい」とジャンフン監督が語る本作は、劇場に訪れた観客たちに染み渡るような感動と涙を促してくれるのです。
映画『Be With You 〜いま、会いにゆきます』は、2019年4月5日(土)より、シネマート新宿を皮切りに全国順次公開中です。
次回の『シニンは映画に生かされて』は…
次回の『シニンは映画に生かされて』は、2019年5月3日(金)より公開の映画『キュクロプス』をご紹介します。
もう少しだけ映画に生かされたいと感じている方は、ぜひお待ち下さい。