第32回東京国際映画祭・ワールドフォーカス上映作品『チェリー・レイン7番地』
2019年にて32回目を迎える東京国際映画祭。令和初となる本映画祭がついに2019年10月28日(月)に開会され、11月5日(火)までの10日間をかけて開催されます。
株式会社アニプレックスの協力のもと、注目のアニメ映画をはじめ、世界各国の映画祭受賞作や話題作から、日本公開が未定の作品を取り上げる「ワールド・フォーカス」部門。
その中の一本として、中国・香港合作によるアニメ映画『チェリー・レイン7番地』が上映されました。
会場には来日ゲストとして監督のヨン・ファンが登壇し、映画上映後にティーチインも行われました。
映画『チェリー・レイン7番地』の作品情報
【日本公開】
2019年(中国・香港合作映画)
【原題】
繼園臺七號(英題:No.7 Cherry Lane)
【監督・脚本・作曲】
ヨン・ファン
【キャスト】
シルヴィア・チャン、ヴィッキー・チャオ、アレックス・ラム、ダニエル・ウー、テレサ・チャン、グロリア・イップ、フルーツ・チャン
【作品概要】
反英デモが広がりを見せる1967年の香港を舞台に、大学生の青年と、彼が英語教師を勤める家の少女、そして彼女の母の3人を取り巻く関係を描くアニメーション。
『華の愛 遊園驚夢』(2001)や『桃色 COLOUR BLOSSOMS』(2004)などを手がけた香港映画界の名匠ヨン・ファンが、自身初のアニメ映画として企画、製作しました。
シルヴィア・チャン、ヴィッキー・チャオ、アレックス・ラムといった、中国・香港映画のトップスターたちが声の出演を務めた本作は、2019年の第76回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で最優秀脚本賞を受賞しました。
映画『チェリー・レイン7番地』のあらすじ
1967年の香港は、文化大革命の真っ只中であり、各地でイギリスの植民地支配に対する抗議デモが、学生たち主導で多発していました。
そんな中、香港大学に通うジーミンは、台湾から移住して雑貨の卸商をしているユー夫人の一人娘メイリンの家庭教師をするため、親子が住むマンション「チェリー・レイン7番地」に通うことに。
ジーミンとユー夫人は、初対面にもかかわらず、『失われた時を求めて』や『紅楼夢』といった幅広い文学作品について語り合うほど意気投合します。
そんな気品あふれるユー夫人に心惹かれる一方で、小悪魔のような魅力を持つメイリンも意識するジーミン。
片やユー夫人とメイリン親子も、美青年で教養あるジーミンに心を奪われていきます。
奇妙な三角関係状態を続ける3人でしたが、香港は激動の波に呑まれていきます――。
映画『チェリー・レイン7番地』の感想と評価
本作『チェリー・レイン7番地』は、とにかく絵の美しさに目を奪われます。
とりわけ、ユー夫人やメイリンといった女性キャラクターの、華麗にして妖艶なデザインが際立っています。
一方で、反英デモ隊による暴動のシーンは、一転して荒々しいタッチで描くなど、絵のコントラストを使い分けているのもポイント。
ただ、あらすじに関しては、現実と妄想が入り混じった構成で進むため、正直言って初見で作品全体を把握するのは難しいかもしれません。
それでいてエロチックな描写も盛り込んだあたりは、これまでに様々な形の恋愛映画を手がけてきたヨン・ファン監督ならではといえます。
ちなみに劇中で、ジーミンとユー夫人が映画を観るシーンがあります。
観ている映画は、フランス人女優シモーヌ・シニョレ主演の『年上の女』(1959)、『素晴らしき恋人たち』(1961)、『愚か者の船』(1965)の3本(『素晴らしき恋人たち』はオムニバス映画)。
実はこれらは、本作のあらすじとも密接にリンクしているので、気になった方は併せてチェックしてみましょう。
上映後のヨン・ファン監督のティーチイン
10月30日および11月1日の本作上映後に、監督のヨン・ファンが登壇、舞台挨拶を行いました。
監督曰く、東京国際映画に参加したのは今回で2回目で、宮沢りえやジョイ・ウォン出演の2001年の『華の愛 遊園驚夢』以来だとか。
最初に、司会進行の矢田部吉彦プログラミング・ディレクターによる質問を経て、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。
作品の時代設定の1967年当時、監督は20歳で、本作は自身の半自伝的な要素が込められているとのこと。
それでいて、「主人公の青年ジーミンはもちろんのこと、ユー夫人に娘のメイリン、さらには怪しい隣人のメイ夫人にネコといった他のキャラクターにまで自分を投影している」と語りました。
1964年に戒厳令下の台湾から移住してきた監督は、海の匂いや街の活気があふれる香港という町に自由を感じたことで、どうしてもこの年代の香港を舞台にした映画を作りたいと構想を練っていたそうです。
そして本作で初のアニメ作品を手がけた理由を聞かれると、「やったことのないことにチャレンジしたかった」と明かした上で、「普段からアニメは観ないので、既存のアニメではやらないような手法を取り入れていったと思う」と、並々ならぬ情熱を注いで製作にあたりました。
続く観客からの質疑応答で、「ほかのアニメーション作品よりも動きがスローなのは何故か」と問われると、「私自身はスローとは思っていない」とし、「言葉や映像に集中してもらいたかったという狙いもあったし、そもそも1967年は、今よりも人の心や動きもゆったりとエレガントでしたよね」と同意を促す一面も。
続いて、「最初に3Dで映像を作って2Dに戻した理由は」と問われると、「元々3Dがあまり好きではない」と断言し、「2Dだと非常に繊細な絵ができるし、想像力を掻き立てる」と、その効果の確かさを強調。
また、撮影も通常1秒24フレームのところをシーンによって12フレーム、7フレームと使い分けたり、インドネシアの影絵を模した絵も使用するといった、製作の裏側を明かしてくれました。
まとめ
ティーチインの最後に、ヨン・ファン監督は、「アニメーションに関して世界最高水準である日本で、私の初アニメ作品が上映されたことはとても嬉しく思う」と締めくくりました。
前述したように、初見で全てを把握するのは難しいと思われる本作こそ、何度もリピートして観てみたいもの。
東京国際映画祭開催後に、多数の作品の日本公開が決定することが多い「ワールド・フォーカス」部門。
本作が、日本でも正式に一般公開されることを期待しましょう。