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Entry 2019/07/22
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映画『ロケットマンの憂鬱』あらすじと感想。コメディで描かれた恐怖の時代と曲げない信念【バラージュ・レンジェル監督のQ&A収録】2019SKIPシティ映画祭4

  • Writer :
  • 桂伸也

SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2019エントリー・バラージュ・レンジェル監督作品『ロケットマンの憂鬱』が7月14日に上映

埼玉県・川口市にある映像拠点の一つ、SKIPシティにて行われるデジタルシネマの祭典が、2019年も開幕。今年で第16回を迎えました。


(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

そこで上映された作品の一つが、ハンガリーのバラージュ・レンジェル監督が手掛けた長編映画『ロケットマンの憂鬱』。

共産主義の統治下にあったハンガリーで、少年時代から宇宙飛行を夢見た一人のロマ(ジプシー)が、歴史の裏側で初の宇宙飛行市に選ばれ、思いを遂げる様をコミカルに描いた物語です。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

映画『ロケットマンの憂鬱』の作品情報

【上映】
2018年(ハンガリー映画)

【英題】
Lajko – Gypsy in Space

【監督】
バラージュ・レンジェル

【キャスト】
タマーシュ・ケレステシュ、ヨゼフ・ギャブロンカ、ティボール・パルフィ、アンナ・ベルガー、ラースロー・フェヘール、ボグダン・ベニューク

【作品概要】
人類で初めて宇宙に飛び出したという宇宙飛行士・ガガーリンのみならず、ライカ犬よりも前に「宇宙に送られた男」がいたという奇想天外な物語。

非常に残酷な面も感じさせながら、しっかりと笑わせるコメディーでもあり、最後には知られざる英雄たちの末路に哀愁味さえ覚えてしまうという、非常に引き込まれる要素が強い作品です。

脚本は共同脚本のバラージュ・ロバシュと共に、バラージュ・レンジェル監督が書き上げました。

本作はレンジェル監督としては長編映画デビュー作ですが、2018年のワルシャワ国際映画祭フリー・スピリットコンペティション部門でプレミア上映されるなど、世界的にも高い評価を得ています。

バラージュ・レンジェル監督のプロフィール


(c)Cinemarche

ハンガリーのブダペスト生まれ。短編『Kojot』(17)などの脚本を経て、数々の賞を授賞したHBOドラマシリーズ「Golden Life」の脚本チームに、メインライターとして参加し高い評価を得ています。

監督としての長編デビュー作に当たる本作は、2018年のワルシャワ国際映画祭フリー・スピリットコンペティション部門でインターナショナル・プレミア上映、さらにエストニアのタリン・ブラックナイト映画祭やプラハ国際映画祭(FEBIOFEST)などでも上映されました。

映画『ロケットマンの憂鬱』のあらすじ


(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

共産主義が存命だった時代、ソビエト連邦の同盟国であったハンガリー。その片田舎で、ある一人の少年が宇宙に出向くことを夢見ていました。

彼の名はライコ。その情熱は留まるところを知らず、ハンガリー、そしてソビエト連邦からの抑圧を受けながらも、いつしか夢に近づくことに。

そして1957年、宇宙事業に力を入れていた当時のソビエト連邦は、同盟国であるハンガリーに世界初の宇宙飛行士を選ぶ権利を与えました。その候補者として選ばれた一人が、ライコでした。

候補者たちの偉業をたたえる、ソビエト連邦の関係者たち。しかしある日ライコは、のちに歴史上初めて宇宙飛行を行ったとされるガガーリンから、ソビエト連邦の恐ろしい真の思惑を伝えられることになるのでした……。

映画『ロケットマンの憂鬱』の感想と評価


(c)2019 SKIP CITY NTERNATIONAL D-Cinema FESTIVAL Committee.All right reserved.

「世界で初めて宇宙に行ったのは、ハンガリーに住むジプシーの一人だった…」そのテーマからは、非常に滑稽な側面だけしか見ることができません。

もちろん映画にはコメディー要素が満載、人が撃たれて死ぬようなドギツイ場面でも、何か可笑しな要素をあしらい、笑いを忘れさせません。

しかし主人公のバックグラウンドは、そのテーマに書かれている以上の、主人公の思いを感じさせます。

この映画は、ハンガリーに住むジプシーの一人の男性が、世界発の宇宙飛行士を目指しソビエト連邦のロケットに乗り込んでいくまでの様を描いたものですが、例えば主人公がソビエト連邦の人間であれば、割とノーマルな設定と感じることでしょう。

これに対し冷戦下のハンガリーの人間であるというありえなさ、さらにジプシーという。社会的に認められない身分の人間であるという、完全に近いありえなさ。

この設定があるからこそ、逆に主人公の持つ確固たる決意、“宇宙に飛び出す”という信念が、非常に強いものであることを感じさせます。

主人公・ライコを演じたタマーシュ・ケレステシュは、冒頭の登場からラストシーンまで、ほぼ憮然とした表情を見せていますが、そんなところにもこの映画が、主人公の一人の男が強い信念を貫いた物語であることを示しています。

そして、彼が最後の最後で見せる笑顔。ついほろりとしてしまいそうなはかなさを感じさせる場面でありますが、その笑顔は偉業を成し遂げた開放感のようにも感じられ、見る側は彼のさまざまな思いに対して、いろんな共感を覚えることでしょう。

また、この映画のもう一つの特徴は、共産主義時代という設定です。大きくフィーチャーされているのが、その統治下の国々を抑圧した、ソビエト連邦の象徴であるブレジネフ書記長。

彼の姿はかなりコメディータッチに描かれていますが、非常にサディスティックで下品、他人に対しては抑圧的と、共産主義時代に猛威を振るったイメージを膨らませている一方で、どこか可愛げのあるキャラクターとして描かれています。

そんな彼を中心として描かれているソビエト連邦という国の姿は、例えば全く違う思想で生きてきた日本という国から見ると、非常に滑稽である一方、見えていなかった国の姿を垣間見るようでもあり、非常に興味深くもあります。

上映後のバラージュ・レンジェル監督とのQ&A

14日の上演時にはレンジェル監督が登壇、舞台挨拶を行うとともに、会場に訪れた観衆からのQ&Aに応じました。


(c)Cinemarche

──このストーリーを描いた動機と、ストーリーのモデルとなったエピソードを教えていただけますか?

バラージュ・レンジェル監督:(以下、レンジェル監督)ハンガリーが完全に共産主義下にあった時代に、まだ私は生まれていませんでした。しかし私の子供時代には、ハンガリーは共産主義から徐々に脱却していくという経験をしました。

そして子供ながらに私が覚えていたのは、私たちにとっては滑稽で、お粗末な恐怖の独裁政治というものに、私たちの両親や祖父母がさらされていたということです。

その頃から、私はこの問題について、いつか何かをやらなければならないと思いました。それは滑稽な側面と、ホラーで恐ろしい側面がミックスした形だと思っていました。

私が子供時代にソビエト連邦がもたらしてくれたものは、何も機能していませんでした。でも別の側面から考えると、ソ連が人類初の宇宙飛行を成功させたという、その偉業を成し遂げたというのは事実です。それもかなりペラペラのカプセルみたいなもので(笑)、人類を(宇宙に)送り込んだと。

もちろんソ連時代の宇宙開発はすべてがトップシークレットなので確実なことは言えませんが、いくつかの事実から「こう考えられるな」ということがあります。それはガガーリンが宇宙旅行に成功する前に、何人もの人が宇宙に送られ、戻ってこなかったということです。

なので、そうやって送り込まれた何人かの一人の物語を映画にしたいと思い、私の想像力の中でそれは「ハンガリー人のジプシーの宇宙飛行士」であった、という物語にしました。

──ライカ犬自体も、初めての犬じゃなかったという説もありますね?

レンジェル監督:そうですね、そういう説もあります。ただ冷戦時代のため完全に秘密にされており、その真偽は分かりません。

でも映画の最後の方で、犬が2頭いる写真があったと思いますが、それは実際の映像であり、また犬だけではなくサルなども送られたということが現状、分かっています。


(c)Cinemarche

──基本的な話ですが、この映画ではジプシーという表現を「ロマ」「イナゲリアン」、またはハンガリー語で「ツィガン」などといろんな言葉で表現されていますね。

レンジェル監督:ハンガリー語でジプシーは「ツィガン」という言葉で、ロシアの発音とかなり近い。でも今日、政治的に正しい表現、メディアなどで正しいとされる表現とされているのは「ロマ」という言葉です。ですので、この映画の字幕翻訳で「ロマ」という言葉を使っていただいているのだと思います。

ただ、ハンガリーの「ツィガン」のご当人たちは、自分たちのことは「ロマ」と呼ばず「ツィガン」というジプシーに当たる言葉を使われています。アメリカで黒人の方が「アフリカン・アメリカン」と呼ばず「ブラック」と呼ぶ方がいるという状況と似ているのかもしれません。

──なぜ主人公をジプシーと設定したのでしょうか?

レンジェル監督:ジプシーがハンガリーで、あるいは世界で最初の宇宙飛行士になるということは、今日でも考えにくいことなので、そうしました(笑)。

最後の方で彼は帰還できないことを知りながら、死ぬことを覚悟で宇宙に行ったわけですが、それは国家がすでに彼を必要としていないという事実があり、そのことは映画の時代設定から60年たった現在でも、現実と響き合っていると思います。


(c)Cinemarche

──最後のところに“父の記憶に”という献辞が記されていましたが、どのような思いがあったのでしょうか?

レンジェル監督:私の父と宇宙は何の関係もありません。しかし父は非常に静かで強い人であり、私が映画制作、映画監督の道を歩むにあたっていろんなことで助けてもらいました。残念ながらこの作品が撮影に入る前に亡くなってしまったため、この作品を父の思い出に捧げました。

この映画の主人公は英雄でありますが、もしこの映画のようなことが本当にあったとしたら、彼は世界の誰にも知られないままにいたであろうという人です。

世の中には多くの人に名前が記憶されている有名な人たちがいる一方で、人の役に立ち世界を動かしているにも関わらず、誰にも名前を知られることのない英雄もたくさんいます。私の父も、そんな人間の一人ではないかという思いもあり、父に捧げることとしました。

まとめ


(c)Cinemarche

コメディーという要素は、もちろん笑わせることを目的として、その素養を追究していくのが通例でありますが、この映画はコメディーという要素を別の意向に向けて追及しているようでもあります。

レンジェル監督がQ&Aでも話された通り、この映画でのコメディー要素とは、冷戦下で感じたソビエト連邦からの抑圧、恐怖政治を、子供の視点でとらえたというもの。

この映画が可笑しければ可笑しいほどに、その恐ろしい時代の恐ろしさは凄惨極まるものだったと感じることができます。その意味では、非常にメッセージ性の強い作品と見ることもできるでしょう。

また、そんな辛い状況下で冷静に思いを貫いた主人公の姿には、見る側には非常に多くの共感ポイントが見い出せるに違いありません。

【連載コラム】『2019SKIPシティ映画祭』記事一覧はこちら

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