『映画ドラえもん のび太の月面探査記』は、映画ドラえもんシリーズ第39作として製作されました。
この映画は、直木賞作家の辻村美月を脚本に迎えた映画オリジナル作品。
ドラえもん、のび太やおなじみのメンバーたちが、月面を舞台に冒険を繰り広げます。
『映画ドラえもんのび太の月面探査記』のあらすじネタバレと、ご感想を紹介します。
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
八鍬新之介
【キャスト】
水田わさび(ドラえもん)、大原めぐみ(のび太)、かかずゆみ(しずか)、木村昴(ジャイアン)、関智一(スネ夫)、皆川純子(ルカ)、広瀬アリス(ルナ)、中岡創一(キャンサー)、高橋茂雄(クラブ)、柳楽優弥(ゴダート)、吉田鋼太郎(ディアボロ)、酒井藍(カイア)
【作品概要】
アニメ「ドラえもん」に長編劇場版の第39作目となる本作は、直木賞作家でドラえもんファンでもある辻村美月(『鍵のない夢を見る』、『凍りのくじら』など)が、映画脚本に初挑戦。
八鍬新之介がシリーズ3作目となる監督を務め、ゲスト声優には広瀬アリス、柳楽優弥、吉田鋼太郎らが起用されています。
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』のあらすじとネタバレ
いつものように遅刻しそうになり慌てるのび太の目に、あるニュースが飛び込んできました。
月面探査機が謎の白い影を捉えたというニュースは、クラスの中でも「エイリアン」だ「宇宙ゴミ」だと、話題にのぼっていました。
そんなクラスメイトたちにのび太は、「あの影は月のウサギだ」と告げますが、当然のように皆の笑いものになってしまいます。
ドラえもんにまで馬鹿にされたのび太ですが、「いつから月にウサギがいないことになっているんだ!」と憤慨します。
そこでドラえもんが取りだしたのが“異説倶楽部メンバーズバッジ”という秘密道具でした。
バッジを付けたものだけに、異説(=世間一般で信じられる定説とは違った異なる説)が現実となった世界を観ることが出来るという秘密道具で、これを使って月にいるウサギを現実のものにしようというのです。
バッジをつけて月の裏側に向かったドラえもんとのび太は、秘密道具を使い、生物が住める環境を整え、ムービットと名付けたウサギを作りだします。
月の王国が発展することを願い、一旦地球へ戻ったのび太は、不思議な転校生ルカ(皆川純子)と出会います。
その頃別の宇宙のカグヤ星では、姿を見せない星の長・ディアボロ(吉田鋼太郎)にゴダート隊長(柳楽優弥)が叱責されていました。
ディアボロはカグヤ星を救うために、エスパルと呼ばれる種族をゴダートに見つけるよう命令していましたが、一向に見つからないことでゴダートを責めます。
理不尽な命令に困惑しつつも、ゴダートは部下とともにエスパル捜索へと出発します。
再び話は地球へ戻り、月の王国は発展し、のび太はウサギの件で自分を馬鹿にしたジャイアン、スネ夫、そしてしずかちゃんを異説メンバーズクラブへと招待します。
密かにのび太の様子を見張っていたルカも仲間入りを志願し、全員でバッジを付けて月へと向かいます。
ドラえもんはバッジが外れると異説の世界が見えなくなり、現実の空気が無い月の裏側へと戻って死んでしまうと一同に警告します。
月の王国は1000匹以上に増えたムービット、そして工場やショッピングモールまで出来上がる程に発展していました。
のび太の真似をしてメガネをかけるウサギ、ノビットと出会った一行は王国を案内してもらいますが、そこへのび太が作った失敗作が巨大に成長したウサギ怪獣が現れ、ノビットを捕まえて王国の地下へと逃げ込みます。
一人でウサギ怪獣を追いかけたのび太は、ノビットを助けることには成功しますが、異説バッジが外れ谷底へと転落してしまいます。
外れたバッジを見つけ慌てる一同でしたが、谷の底からのび太の声が聞こえてきました。
『映画ドラえもん のび太の月面探査記』の感想と評価
映画ドラえもんは第1作『のび太の恐竜』(1980)を皮切りに、この40年間で39作が作られてきました。
2005年には、ドラえもん役の大山のぶ代を始めとする、メインキャラクターの声優陣が交代、水田わさびらの若い声優陣へと引き継がれます。
同年はその交代の影響もあって、毎年製作されてきた映画ドラえもんが唯一公開されなかった年となりました。
映画版は、この大山のぶ代らが演じた1980~2004年までの作品群を第1期、2006年以降の現在に至る水田わさび版を第2期としており、通称はそれぞれ“のぶドラ”、“わさドラ”と呼ばれています。
そして幼少期に第1期作品群を観て育ってきた世代にとっては、「のぶドラこそがドラえもん」という思いが強く、声優陣交代をきっかけにTV版や映画から離れていった人も数多く見受けられます。
第2期のわさドラ版の映画は、『のび太の恐竜2006』が始まりとなりますが、同作が第1期のリメイクであったように、その後数年はリメイク、オリジナル作品が交互に製作されていきます。
これは、第1期も『のび太のねじ巻き都市冒険記』(1997)以降がそうであったように、藤子・F・不二雄原作ではなくなったことで、ドラえもんで描かれるべきテーマ、演出が見失われていったことが影響しています。
さらに第2期では、それまで第1期作品の大多数で監督を務めた芝山努がいなくなったこともあり、過去作のリメイクを製作することで、テーマ的にも興行的にも確実さを重んじて製作されていたことが伺えます。
この潮流に変化が見られ出したのが、『のび太の秘密道具博物館』(2013)前後の作品からでした。
参考映像:『のび太のひみつ道具博物館』
特に完全オリジナル作品である『のびたの秘密道具博物館』では、未来で秘密道具がどのように生まれ、進化していったかが明確に描かれており、旧来のドラえもんファンだけでなく、今ドラえもんに魅入られている少年少女たちに向け、“21世紀の現在、より現実的な未来となった22世紀を見据える子供たち”を意識したメッセージが盛り込まれています。
さらに同時期の作品群は、ジブリ作品、『ゴーストバスターズ』や『ドラゴンボール』など、過去のアニメ、SF作品を想起させる演出、シーンが多々あり、一新されたスタッフにより新たなドラえもん像を確立していこうと、様々な試みがされており、単なるオマージュに終わらない作品のクオリティーを高める装置として、大いに機能しています。
翻って本作でも、直木賞作家でドラえもんファンの辻村深月を脚本に迎え、破壊されたカグヤ星の月が『スターウォーズ』のデススターを思わせるデザインをしているなど、挑戦的、野心的な製作方針がとられています。
小説家、辻村深月のセリフを大事にした展開は、少々説明口調の強いところもありましたが、ディアボロの想像力を否定する言葉に対し、ドラえもんが「想像力は未来だ」と反論する場面は、長年継承されてきたドラえもん映画の真髄を明確に言語化してみせてものだと言えるでしょう。
まとめ
第1期作品群を楽しんできた今の大人たちにとって、現在のドラえもんがなかなか受け入れづらいものであることは間違いありません。
まして子供の付き添いでもない限り、自ら進んでドラえもん映画を観に行こうというモチベーションも出てこないことでしょう。
しかし、我々が長年ドラえもんを観てきたように、同じく当時ドラえもんを愛し、楽しんでいた世代のスタッフたちが生み出した新たなドラえもん像は、単に童心に立ち返るという意味だけに留まらない、新鮮な喜びをもたらしてくれるはずです。