メアリー・ノートンの児童文学「床下の小人たち」を米林宏昌が初監督
『千と千尋の神隠し』(2001)『ハウルの動く城』(2004)『崖の上のポニョ』(2008)で原画、『ゲド戦記』(2006)で作画監督補の米林宏昌が初監督を務めた作品です。
とある郊外の古い屋敷の床下で人間のものを借りながら、ひっそりと静かに暮らす小人の一家。
彼らは人間に見られてはいけないという掟がありましたが、屋敷にやってきた少年・翔にアリエッティの姿を見られてしまい…。
小人たちの世界を丁寧に描き出された『借りぐらしのアリエッティ』の見どころや魅力をネタバレありでご紹介いたします。
CONTENTS
映画『借りぐらしのアリエッティ』の作品情報
【公開】
2010年(日本映画)
【原作】
メアリー・ノートン
【監督】
米林宏昌
【脚本】
宮崎駿/丹羽圭子
【声のキャスト】
志田未来、神木隆之介、大竹しのぶ、竹下景子、藤原竜也、三浦友和、樹木希林
【作品概要】
イギリスの女流作家メアリー・ノートンの児童文学「床下の小人たち」を原作として、企画・脚本を宮崎駿、スタジオジブリが制作したアニメーション作品です。
監督は、『千と千尋の神隠し』(2001)『ハウルの動く城』(2004)『崖の上のポニョ』(2008)で原画、『ゲド戦記』(2006)で作画監督補を務めた米林宏昌。
声の出演は、アリエッティ役に初の声優に挑戦した志田未来、翔役に『千と千尋の神隠し』(2001)『ハウルの動く城』(2004)の神木隆之介、その他にも貞子役に竹下景子、ホミリー役に大竹しのぶ、ポッド役に三浦友和、ハル役に樹木希林、スピラー役に藤原竜也と豪華キャストが集結しました。
映画『借りぐらしのアリエッティ』あらすじとネタバレ
12歳になる翔は、療養のために母が育った古い屋敷で一週間だけ過ごすことになりました。伯母の貞子に連れられた屋敷の庭で翔は、葉っぱほどの大きさの少女を目撃します。
小人の少女は、14歳になったばかりのアリエッティ。屋敷の床下で父・ポッドと母・ホミリーの3人は、自分たちの暮らしに必要なものを人間の家から少しずつ借りて暮らしていました。
その夜にアリエッティは、初めての“借り”へ父と屋敷の中に出掛けます。ホミリーは、角砂糖とティッシュペーパーを取ってきてほしいと頼み、心配そうに見送りました。
床下から続く秘密の通路を辿ったアリエッティは、初めて見る人間の部屋の大きさに圧倒されます。ポッドは、棚の絶壁を身軽に降り、両手足に付けたテープで違う棚を登ると角砂糖を一つ獲ります。
アリエッティは、部屋の隅に落ちていたまち針を見つけ、それが“初めての獲物”となりました。
次にティッシュを取ろうとした時に、翔と目が合います。そこは翔の寝ているベットの近くだったのです。
逃げ去る時に角砂糖を落としてしまいます。翔は、「朝、庭で君を見かけたよ」と告げました。
翌日、軒下の通風孔の前には、落とした角砂糖と “わすれもの”と書かれたメモが置いてありました。家族の安全のため、ポッドは絶対に何もしてはいけないと釘をさしました。
翔は心臓の手術を控えていましたが、離婚している母は、海外に行っているため、手術に立ち合うことができません。
翔が使っている部屋には、母のドールハウスが置かれていました。それは、元々はお祖父さんが昔見た小人のために用意したプレゼントでした。
いつか小人にそのドールハウスをあげたいと夢見てましたが、再びお祖父さんの前に小人が姿を見せることはありませんでした。
アリエッティは、人間に姿を見られた責任を自分で取ろうと、角砂糖とメモを持ち出して、両親の隙を見て翔の部屋に向かいます。
映画『借りぐらしのアリエッティ』感想と評価
小人の世界観を暮らしぶりで描く
人間の家から少しずつ石けんやクッキーや砂糖、電気やガスなど必要なものを借りて、床下で暮らしてきた小人の家族。
妖精でもなく、魔法云々もない小人たちの暮らしは、人間の隅でひっそりと質素な暮らしぶりです。
人間の道具を工夫して使っている小人の生活がアリエッティの部屋やキッチン、ポッドの工房、屋敷へと続く通路などの背景に細密に描かれています。
壁にはボタンや切手が飾られていたり、腕時計が掛け時計に、灰皿が水受け皿になっていたりと、それらは人間と小人のスケールの違いをも鮮明に映し出します。
そして、地下にあり外の景色が見えない小人の部屋では、窓枠に景色の絵画を取り付けるという工夫も施されています。昼は青空と海、夜は夜の海が描かれたものを紐で引っ張って替えていました。
慎ましい生活の中にも豊かさが垣間見れる場面です。
また、アリエッティがはじめて人間の住む部屋に足を踏み入れた時には、時計の秒針音や水がしたたる音といった環境音を重圧に響かせ、小人と人間の世界の大きさを音で対比させる演出が印象的です。
小人を主人公にしたアンデルセン童話『親指姫』のように様々な困難に立ち向かっていく冒険の物語とは違いますが、人間の世界からものを借りて暮らすアリエッティたちにとって、日常の暮らしぶりがサバイバルなのです。
そして小人の生活様式が丁寧に描かれているからこそ、アリエッティが翔と出会い、揺らぎだす出来事に非現実的要素を越える身近さを感じるのでしょう。
“はじめての世界”というキーワード
14歳になったばかりアリエッティは、はじめての“借り”に出ます。この時を待ち焦がれていたアリエッティが身支度をする姿は、『魔女の宅急便』(1989)の主人公・キキが13歳の満月の夜にひとり立ちの旅に出る時と重なります。
キキは黒のワンピースに髪には大きな赤いリボンをつけ、アリエッティはタイトな赤いワンピースに髪に小さな洗濯バサミというふたりの出で立ちにも通じるものが。
それは、好奇心旺盛な女の子という雰囲気です。
キキのように魔法を使ってほうきで空を飛ぶことができなくても、アリエッティがせっせと探検に行って収穫してきたであろう植物が所狭しと飾られる部屋は、魔女さながらの神秘さを放っています。
そんな探究心に富むアリエッティが、はじめての借りで人間の世界を目にし、人間の少年・翔と出会うのです。
はじめて見る人間は、自分と同じ年頃の少年でした。人間に見つかってはいけないという掟がありますが、アリエッティの表情は、恐怖に怯えることもなく、恥じらうように頬を赤らめました。
そして、彼がどんな人物なのかという興味と家族を守ろうという責任感がアリエッティを突き動かしてゆきます。
アリエッティの身勝手な行動は、家族で引っ越すことを余儀なくされますが、自分の意思で、即行動に移すアリエッティの姿は、はじめて知る世界への目覚めとしてみずみずしい凛々しさに満ちています。
だからこそ、やかんの船で川を渡るアリエッティの顔はとても清々しく映し出され、これから見るであろう“はじめての世界”への希望を感じるラストとなりました。
まとめ
メアリー・ノートン著『床下の小人たち』を原作とし、宮崎駿が脚本、設定した『借りぐらしのアリエッティ』。
米林宏昌がはじめて監督という未知の領域に挑んだ作品ともあり、アリエッティのはじめて目にして感じる世界への体験は、米林宏昌監督自身とも重なるのではないでしょうか。
そのみずみずしい感性が、小人たちの世界観を温かく映し出します。
そして、ラストに流れるセシル・コルベルが歌う主題歌『Arrietty’s Song』がアリエッティそのものを物語っているようで、ケルトハープの音色とともに物語を彩ります。
翔と別れ、やかんの船でまだ見ぬ世界へ旅立つアリエッティの姿と重ねて流れる『Arrietty’s Song』。
I’m 14 years old,I’m pretty
元気な 小さい Lady
床下に ずっと 借りぐらししてたの
時にはHappy,時にはBlue
誰かに会いたい
風 髪に感じて 空を眺めたい
あなたに花 届けたい
向こうは別の世界
ほら蝶々が舞ってる 私を待っている
そう、変わることない わたしの小さな世界
嫌いじゃないの でもあなたを
もっと もっと知りたくて
喜びと悲しみは いつも 折り混ざってゆく
主題歌と相まって浮かび上がらせたのは、小人の少女・アリエッティと人間の少年・翔の間に芽生えた感情の感覚でした。
それは、まだ恋心と認識するには幼すぎるものの、思春期の切なさと喜びが揺れ動く心の狭間が垣間見れました。