太宰治を原作に大胆解釈された新しい『人間失格』がSFダークヒーロー作品に生まれ変わった、映画『HUMAN LOST 人間失格』。
豪華スタッフと声優陣が贈る、太宰治『人間失格』とアニメーションの融合。太宰治の生誕110周年を迎えた2019年に、先鋭のクリエイターによる誰もみたことのない『人間失格』は、どのように展開されるのか。
今回はアニメーション作品『HUMAN LOST 人間失格』をご紹介します。
映画『HUMAN LOST 人間失格』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督】
木崎文智
【キャスト】
宮野真守、花澤香菜、櫻井孝宏、福山潤、沢城みゆき、千菅春香
【作品概要】
日本を代表する文豪の一人、太宰治の『人間失格』が原案のSFアニメーション映画。「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズで総監督を務めた本広克行がスーパーバイザーを務め、脚本は「マルドゥック・スクランブル」シリーズ、アニメ「PSYCHO-PASS」シリーズ、『十二人の死にたい子どもたち』で直木賞候補に挙がるなど映画脚本家、アニメ脚本家、小説家とマルチに活躍する冲方丁です。
スタジオはSFアニメ「GODZILLA」シリーズ、TVアニメ「亜人」シリーズを製作しているポリゴン・ピクチュアズが製作、また原作同様、「第一の手記」「第二の手記」「第三の手記」の三部構成で物語は展開されていきます。
映画『HUMAN LOST 人間失格』のあらすじとネタバレ
昭和111、四大医療革命<GRMP>と健康保障機関・Sound Health Everlasting Long Life<S.H.E.L.L>のおかげで無病長寿大国、GDP世界1位となった日本。合格式が行われる今年、人々は健康基準合格者となることを目標に、120年以上1日19時間労働をして生きています。
首都圏は幾重にもなる環状道路によってエリアを区分されており、環の中心(インサイド)には富裕層や政府中枢が集まり、環の外側(アウトサイド)に向かうほど貧困が広がり、インサイドからアウトサイドへ大気汚染物質が放出され、許可なく外側から内側へ向かうことができません。
アウトサイド・国道16線沿いのバー「メロス」の2階で大葉葉藏(宮野真守)は薬物の多量摂取により自殺をしていました。そこに2人の男組、堀木正雄(櫻井孝弘)と竹一(福山潤)が訪れます。葉藏が死んでいるのを見た竹一は<S.H.E.L.L>に連絡し、葉藏を蘇生させます。
覚醒した葉藏は竹一にインサイドに特攻することを提案され、渋々承諾します。竹一の計画は、アウトサイドとインサイドを隔てるゲートを強行突破し、インサイドで爆薬を積んだ霊柩車を突っ込ませ、爆発させるというものでした。作戦決行の前に、竹一と葉藏は正雄から渡された薬を飲み、バイクで走り出します。
交通機動隊を躱しながら竹一と葉藏は高速道路をバイクで暴走します。正雄から渡された薬の影響で竹一の目は真っ赤に染まり、興奮状態のままアクセルを回し、ゲートへと突っ走ります。その様子を葉藏は地獄の馬の姿と錯覚します。
竹一はゲートに衝突し、ゲートの破壊を成功させます。血を流し、倒れている竹一の元に葉藏は駆け寄ります。竹一の様相が変わり、黒い竜巻に包まれ、“ロスト体”と呼ばれる化物へと変わります。葉藏はロスト体と化した竹一に攻撃され、致命傷を負います。その瞬間、葉藏も黒い竜巻に包まれ、ロスト体へと変わります。
ロスト体となった竹一と葉藏の戦闘が始まります。竹一に蹂躙される葉藏は、ロスト体になっても意識を持っていました。葉藏の意識が覚醒した瞬間、爆風が起こり、真っ赤な化物へと変化します。葉藏は竹一を倒しますが、“渋田機関”と呼ばれる<S.H.E.L.L>の内部組織に保護されます。
目が覚めた葉藏は、人間の姿に戻っていました。目の前には柊美子(花澤香菜)がいて、説明を受けます。その内容は、<GRMP>の暴走によって、ロスト現象が起こりロスト体という化け物になる、ロスト体から<GRMP>の暴走を制御できた者はアプリカントと呼ばれる、ロスト現象は堀木正雄が起こしているというものでした。
その後、葉藏は美子に送られ、メロスへと帰ります。美子とメロスの店主・マリアは二人で会話し、美子は葉藏を保護すると言います。葉藏は二人が話している間に逃げ出します。葉藏の元に正雄が現れます。正雄は「ついてこい」と言い、自身の研究室へと葉藏を案内します。
そこで、アンチGRMP薬と目的を葉藏に話します。「昔、正雄が<S.H.E.L.L>を生み出したことで、人間はネットワークに支配され死ねない生き地獄を生きている。<S.H.E.L.L>を壊すことで人間は真に人間として生きれる。」というものでした。その後、正雄は姿を消します。
葉藏がバーに戻ると、マリアはロスト体へと変わっていました。マリアの触手に体を貫かれ、葉藏はアプリカントへと変身します。そしてロスト体を蹂躙し、倒します。美子が来ると、人間に戻った葉藏は悲しみに暮れていました。そして二人は塔のデッキに向かいます。
そこで葉藏は自身の過去を美子に告げ、美子も自身の過去を葉藏に告げます。美子が自分が思い描く未来を語っているところに、堀木正雄が現れます。正雄はロスト体を従わせる能力を使い、二人を襲います。美子が致命傷を負い、倒れたことを見て、葉藏は自傷し、アプリカントへと変身します。
葉藏はロスト体を倒しますが、葉藏は正雄の能力で操られます。葉藏は自身の心臓を正雄に渡し、美子を殺せと命令されます。そこに渋田機関の隊長・厚木がやってきます。正雄に攻撃し、怯んだことで正雄の能力から葉藏は解放されます。しかし、目的を達成した正雄は逃げます。
映画『HUMAN LOST 人間失格』の感想と評価
日本文学の不朽の名作・太宰治の『人間失格』を原案とし、SFダークヒーロー作品へと改編された本作『HUMAN LOST 人間失格』は、社会問題を取り上げつつ、斬新な視点から『人間失格』にアプローチしたSF作品です。
物語の構成を簡単に言えば、ジョージ・オーウェルの小説『1984年』のような近未来ディストピアが世界観で、永井豪の漫画『デビルマン』のように倫理に揺れるダークヒーローが誕生する物語です。
本作は”格差社会”や”延命による生死の考え方”、”管理社会の弊害”、”少子高齢化”など様々な社会問題を描きつつ、とても観やすい作品となっていました。また、随所に『人間失格』のネタが使われており、原作ファンの方はニヤリとするでしょう。個人的には、親友の竹一が不良少年になっていたことに驚きました。
『アフロサムライ』の木崎文智、「PSYCHO-PASS」シリーズでタッグを組んだ本広克行と冲方丁の豪華スタッフで描く『人間失格』は、”信仰のあり方”という視点とは全く違った視点で展開されます。そのため、太宰治の『人間失格』ファンから見ると目新しい作品に見えるかもしれません。
また、声優陣も豪華です。宮野真守、花澤香菜、櫻井孝宏と実力派の方々が演じているため、キャラクターが生き生きと描かれ、魅力的なものとなっています。
そして、一番の見どころはポリゴンピクチュアズが製作する3Dアニメーションです。3Dアニメーションによりアクションがより派手に、世界観やデザインも美しいものとなっていました。
まとめ
『HUMAN LOST 人間失格』は原作・太宰治の『人間失格』ファンに限らず、ヒーロー作品好き、アニメ好きの原作を読んだことのない方が観ても、観やすい作品となっています。
ただ、専門用語が多く混乱するため、一度用語を調べてから見ることをお勧めします。
『AKIRA』や『攻殻機動隊』、アニメ映画「GODZILLA」シリーズ、『PSYCHO-PASS』のような近未来ディストピアなSF作品が好きな方は鑑賞してみてはいかがでしょう。