ベル・エポックのパリへ至福の時間旅行!
ベル・エポックのパリを舞台に、南洋植民地ニューカレドニアからやって来た少女ディリリと配達員の若者オレルが謎の犯罪組織に挑む姿を描く。
ミッシェル・オスロ監督のアニメーション映画『ディリリとパリの時間旅行』をご紹介します。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の作品情報
【公開】
2019年公開(フランス、ドイツ、ベルギー合作映画)
【原題】
Dilili a Paris
【監督】
ミッシェル・オスロ
【キャスト】
(声の出演)プリュネル・シャルル=アンブロン、エンゾ・ラツィト、ナタリー・デセイ(日本語吹き替え)新津ちせ、斎藤工
【作品概要】
『キリクと魔女』や『アズールとアスマール』などの作品で知られるフランスアニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督が、19世紀末から20世紀初頭のベル・エポック期のパリを舞台に、ニューカレドニアからやってきた少女の活躍を描いた長編アニメーション。
第44回セザール賞で最優秀アニメ作品賞を受賞。2018年アヌシー国際アニメーション映画祭ではオープニング作品に選ばれた。
映画『ディリリとパリの時間旅行』あらすじとネタバレ
ディリリは、どうしても外国に行ってみたくて、ニューカレドニアから密かに船に乗り込み伯爵夫人の助けを得てパリにやってきました。
時はベル・エポック期。開催中の博覧会に出演していたディリリは、配達人のオレルと知り合います。
その頃、街の話題は“男性支配団”と名乗る犯罪組織による連続少女誘拐事件で持ちきりでした。彼らは誘拐以外にも、窃盗や強盗も行っていましたが、野放しになっていました。
ディリリはオレルの三輪車に飛び乗り、オレルが紹介してくれるパリの有名人たちに、男性支配団について次々に質問を投げかけました。この悪の集団の正体をつきとめようと思ったからです。
洗濯船でピカソから“悪魔の風車”が怪しいと聞き、早速二人は出かけていきますが、そこでオレルは狂犬病の犬に噛まれてしまいます。
三輪車にオレルを乗せると、ディリリが運転して、モンマルトルの丘から猛スピードで坂を下っていきました。パスツール研究所になるべく早くたどりつかなくてはなりません。
手遅れにならないうちに治療を受けることができ、オレルは一命を取り留めました。
オレルはディリリをオペラ座に連れていき、稀代のオペラ歌手エマ・カルヴェに会わせました。彼女の運転手ルブフは気難しい男でディリリに失礼な発言をしますが、ディリリも負けていません。
ディリリとオレルは、ムーラン・ルージュに“男性支配団”の一味が出入りしていると聞きつけ、楽屋から潜入します。
明らかに踊り子を見に来たのではなさそうな男を発見。その男に別の男が近づいてきました。ディリリは小さい体をいかしてそばに寄り、2人の会話に耳を傾けました。
「30分後にアイリッシュ・アメリカン・バーへ」と言葉を交わすと男たちはさっと離れました。
ディリリとオレルは早速アイリッシュ・アメリカン・バーへと向かいました。バーにはロートレックがいました。一緒に並んで絵を描いていると、男たちが入ってきました。
男性支配団はロワイヤル通りの宝石店を襲う計画を立てていることが判明します。
ディリリたちはそのことを警察に届けましたが、なぜかてんで相手にされません。二人は、宝石店の前で待ち伏せし、ディリリは得意の縄跳びを使って強盗を阻止しました。
新聞は男性支配団初めての失敗と大々的に書きたてました。新聞の一面にはディリリの顔写真がでかでかと掲載されていました。
その大騒ぎぶりをオペラ座のテラスから見下ろしながら、エマ・カルヴェは「あなたを守らなくては」とディリリに言うのでした。
ディリリを守るため、カルヴェは、運転手のルブフに彼女を預けようと考えます。しかし、ルブフには、男性支配団の男が先に近づいていました。
なんで女の命令に従っているんだい? 女には君の世話をさせるべきだ、と男性支配団の男は言い、ルブフを支配団に勧誘しました。
ディリリを連れてくれば、団員になれると言うと男は去り、入れ替わりにカルヴェがディリリを連れて現れました。
ルブフはディリリを支配団に支持された場所に連れていきました。支配団の男は、また別の少女を連れてくれば、今度は鼻輪がつけられると彼に言います。
ルブフが戻らないことを心配するカルヴェのもとに、ディリリが伯爵夫人の家に戻って来ないとオレルが血相を変えて飛び込んできました。
ちょうどその時、ルブフが帰ってきました。彼はディリリを支配団に引き渡したことを告白します。しかし、彼の話にはまだ続きがありました。
彼はそこで、異様なものを目撃したのです。誘拐された女性が、四つん這いにされ、男たちの椅子の役割をさせられていたのです。
なぜ少女を誘拐したのかとルブフが尋ねると、男性支配団のボスは「女たちが力を持ってしまったからだ」と応えました。ボスは女性が開くサロンなどを激しく毛嫌いしていました。
ボスは、成人した女性も誘拐したが、あいつらは柔軟性がない、パリ中の少女を誘拐し、少女の時期から四つ足としての生き方を教育するのだと言うのです。
「話はこれでおしまいです。あまりにもひどい」とルブフは言いました。彼は、勧誘されその気になってディリリを連れて行ったものの、男性支配団が行っていることに激しい憤りを覚えたのです。
ディリリと少女たちを助けるためオレルは下水道に船を漕ぎ入れました。以前、ここに男性支配団のものらしき怪しげな船を目撃したことがあるのです。
下水には紙切れの切れ端が浮かんでいました。ディリリが自分のノートをちぎったものでした。やはりディリリはこの近くに囚われているとオレルは確信します。
下水道は途中で鉄の柵があり、前に進めません。オレルは周囲を探りながら、レンガの壁を剥がしてみました。するとなんということでしょう! 大勢の誘拐された少女たちが、四つ足歩行の練習をさせられている光景が目に入ってきました。
囚われの身となったディリリは他の少女たちとともに四つ足歩行の訓練を受けていました。ディリリが少しでも立ち上がると、支配団の仲間の中年女の怒鳴り声が響きました。
ディリリは下水に飛び込み逃げ出しました。「ほっておきなさい。どうせ出られやしないんだから」と女は冷たく言い放ち、他の少女たちは誰もディリリに追従しようとはしませんでした。
映画『ディリリとパリの時間旅行』の感想と評価
フランスのアニメーション界の巨匠ミッシェル・オスロ監督が描くベル・エポックのパリの風景にまず心が踊ります。
エッフェル塔や凱旋門、オペラ座、コンコルド広場、ノートルダム寺院、ポン=ヌフなどのパリを象徴する風景や、名もなきパリの石畳を、ニューカレドニアからやってきた黒人少女ディリリが友人となった青年オレルとともに駆け巡る様の高揚感といったらありません。
石畳の坂道を三輪車で猛スピードで下り、階段を跳ねながら降りていく、そのアクションの痛快なこと!
さらにディリリが階段をちょこまかと降り、オレルについていく動きのなんとかわいいことか。すっかり彼女のとりこになってしまいました。
少し離れた距離で少女の動きをみつめたそのショットで、そうした感情を観客にもたらすことが出来るのは、アニメならではの強みでしょう。
ディリリとオレルは、ベルエポック時代の偉人たちに次々に出会います。サラ・ベルナール、サントス・デュモン、ロートレック、ロダン、パスツール、ピカソ、エドワード皇太子、エッフェル、ドビュッシー、コレット、キュリー夫人、ポール・ポワレ等々・・・。
ムーラン・ルージュではロートレックの絵画から飛び出てきたような人々がにぎやかに踊っています。
自身の絵画とともに登場するパブロ・ピカソやマティス、ルソーらの洗濯船の場面では、北斎の浮世絵をチラっと見せ、また、オレルのアパートメントの部屋では広重の浮世絵が一瞬映ります。当時のジャポニズムの影響もさりげなく表現されています。
また、サラ・ベルナールのインテリアは、オルセー美術館やマルモッタン美術館などの協力を得て、監督自身が厳選したものだそうです。
世間を騒がせる卑劣な悪党に立ち向かう少女という物語は冒険心に溢れるものですが、ここには女性軽視を行う社会への戒告が含まれています。
ディリリが出会う偉人の中でも、夫名義で作品を発表することを余儀なくされていたコレットが「今度は自分の名前で書くわ」と語る場面や、ディリリがロダンのアトリエに行き、一番気に入ったと指さした作品が、ロダンの弟子で恋人だったカミーユ・クロデールのものであるという描写にフェミニズム的な主張が現れています。
ディリリが博覧会で有色人種として見世物にされているシーンから映画が始まるのを始め、人種差別への戒めも描かれます。
ベル・エポックという時代を拝借しながら、同じ過ちが行われている現代社会への警告であるのは明らかです。
そうした社会派の面を全面に出しつつ、最後に映画は、人と人のつながりの暖かさとかけがえのなさへと着地していきます。
独りではないのだよと“抱擁”され、愛されることを実感していく異国の地から来た少女の姿は感動的です。
まとめ
美しいパリの風景はミッシェル・オスロ監督自身が4年間に渡って撮りためた写真をもとに作られました。
パリ市の協力で、普段は撮影できない装飾なども撮影が可能になり、それらが最後のエッフェル塔での食事シーンなどに生かされているそうです。
非常に成熟した技術と文化的協力のもとに生まれたベル・エポックの街並みは、まるで本当に当時にタイムスリップしたかのような気分にさせてくれます。
また、平面的なキャラクターとリアルな街並みが合体することで、独特な魅力が生み出されています。
音楽は、1997年に『イングリッシュ・ペイシェント』で第69回アカデミー賞最優秀作曲賞を受賞するなど数々の映画音楽を担当しているガブリエル・ヤレドです。
オスロ監督とは『アズールとアスマール』(2006)に続いて2作目となります。作品の中で何度も歌われる曲「太陽と雨」に魅了された方も多いのではないでしょうか。