今なお歴史にその名を刻む連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサー。彼の指揮の下、命懸けの潜入作戦を決行した今は名も無き兵士たちの熱き実話を実写化。
映画『オペレーション・クロマイト』は、2017年9月23日よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開されます。
舞台は朝鮮戦争の最中。北朝鮮に対し当初劣勢だった戦局を一変させたと言われる「クロマイト作戦(仁川上陸作戦)」と、その先鞭をつけた北朝鮮への潜入作戦とは?
CONTENTS
1.映画『オペレーション・クロマイト』の作品情報
【公開】
2017年(アメリカ映画)
【原題】
Operation Chromite
【監督】
イ・ジェハン
【キャスト】
イ・ジョンジェ、イ・ボムス、リーアム・ニーソン、チン・セヨン、チョン・ジュノ、パク・チョルミン、パク・ソンウン、ジョン・グライス
【作品概要】
連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーと命懸けの潜入作戦を決行した名も無き兵士たちの実話を基に、観る者の心を熱く揺さぶる戦争アクション。
ハリウッド・トップスターであるリーアム・ニーソンは、破格のギャラでマッカーサー役を快諾、また、『ハウスメイド』のトップ俳優イ・ジョンジェ、『ビューティー・インサイド』で知られるベテラン・バイプレーヤーのイ・ボムスたち豪華キャストが集結。
監督は『私の頭の中の消しゴム』で世界中を涙させ、『戦火の中へ』でも同じく朝鮮戦争を描き高く評価された名匠イ・ジェハン。
2.イ・ジョンジェ(チャン・ハクス役)のプロフィール
1972年ソウル生まれ。東国大学演劇映画学科卒業。
モデルとして活動をはじめ、『若い男(原題)』(94)でスクリーンデビューを果たします。その演技が高く評価され、4つの映画賞にて新人賞を受賞。一躍スターダムに駆け上がります。
大ヒットドラマ「砂時計」(95)では、義理を重んじる寡黙なボディガードを演じ、さらに人気を高め、『太陽はない』(99)で青龍映画賞の主演男優賞を史上最年少で受賞しています。
爽やかな青年役やクールな二枚目役など、役作りには定評があり、韓国を代表するスター俳優として、様々な話題作に出演しています。
その他の出演作は『イルマーレ』(00)、『ラスト・プレゼント』(01)、『黒水仙』(01)、『タイフーン TYPHOON』(05)、『ハウスメイド』(10)、『10人の泥棒たち』(12)、『新しき世界』(13)、『観相師-かんそうし-』(13)、『暗殺』(15)など。
笑ったときに見せる白い歯が魅力的と言われるイ・ジョンジェですが、今作ではほとんど笑顔を見せず、ひたむきに任務を遂行するクールな諜報部隊長を演じています。
3.イ・ボムス(リム・ゲジン役)のプロフィール
1970年生まれ。中央大学演劇映画学科を卒業。大学在学中に『そう、たまに空を見よう」で映画デビューを果たします。気弱い青年からタフな刑事まで千変万化に演じ、その演技力には定評があります。
ドラマ「外科医ポン・ダルヒ」(07)のアン・シュンゲン役で人気を集め、多数ドラマにも出演しています。
『太陽はない』(99)、『オー!ブラザーズ』(04)で、イ・ジョンジェと共演しており、今回も対立する役柄ながら、息のあったところを見せています。
その他の主な映画出演作は『スーパースター★カム・サヨン』(04)、『恋の罠』(06)、『相棒 シティ・オブ・バイオレンス』(06)、『カンナさん大成功です!』(06)、『悲しみよりもっと悲しい物語』(09)など。
主なTVドラマ出演作としては『スイートガイ』(06)、『オンエアー』(08)、『ジャイアント』(10)、『サラリーマン楚漢志<チョハンジ>』(12)、『IRIS2 -アイリス2-:ラスト・ジェネレーション』(13)、『総理と私』(13)などがあります。
4.リーアム・ニーソン (ダグラス・マッカーサー役)のプロフィール
1952年、北アイルランド生まれ。『エクスカリバー』(81)で映画デビューを果たしました。
スティーヴン・スピルバーグ監督の『シンドラーのリスト』(93)でオスカー・シンドラーを演じ、アカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞、英国アカデミー賞にノミネート。
ニール・ジョーダン監督の『マイケル・コリンズ』(96)で再びゴールデン・グローブ賞にノミネートされ、ヴェネチア国際映画祭で男優賞を受賞しています。
『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』(99)では主役のクワイ=ガン・ジンを演じています。
そんな中、リュック・ベッソン制作の『96時間』(08)では、誘拐された娘を救出するために奮闘する元秘密工作員の父親を演じました。
圧倒的な強さを見せる主人公は、今やリーアム・ニーソンの代名詞とも言われています。その後、二作目、三作目が作られています。
『オペレーション・クロマイト』では、これまでにも実在した人物をしばしば演じているリーアム・ニーソンがダグラス・マッカーサーをどのように演じているかが見どころの一つとなっています。
その他の出演作に『ギャング・オブ・ニューヨーク』(02)、『ラブ・アクチュアリー』(03)、『バットマン・ビギンズ』(05)、『沈黙 -サイレンス-』(16)などがあります。
5.チン・セヨン(ハン・チェソン役)のプロフィール
1994年生まれ。2010年にドラマ『大丈夫、パパの娘だから』で俳優デビューを果たします。
2011年のドラマ『私の娘コンニム』で主役ヤン・コンニム役に抜擢され、SBS演技大賞ニュースター賞を受賞。
2012年のドラマ『カクシタル』ではKBS演技大賞の新人賞を、『オクニョ 運命の女』(16)で、MBC演技大賞優秀演技賞を受賞し、実力を兼ね備えた若手女優として活躍しています。
『オペレーション・クロマイト』では、愛情深い看護士を演じ、爽やかな印象を与えています。
その他の映画出演作に『ホワイト』(11)、『愛の言葉』(14)、『警察家族』(14)、『危険な顔合わせ2』(15) などがあります。
6.映画『オペレーション・クロマイト』のイ・ジェハン監督とは?
1971年ソウル生まれ。12歳の時に渡米し、マーティン・スコセッシやオリバー・ストーンを輩出した名門ニューヨーク大学で映画を専攻。
在学中から注目されるも、卒業後は韓国へ戻り、初監督・脚本作品『The Cut Runs Deep(原題)』(98)でデビューします。
長編2作目となる『私の頭の中の消しゴム』(04)は日本のドラマ「Pure Soul」を原作としており、韓国、日本で爆発的ヒットとなり、興行収入30億円を突破、日本国内における韓国映画興行収入の記録を作りました。
チョン・ウソンとソン・イェジンの印象的な出逢いの場面から、涙なくしては観られないラストまで、心震わせる「名作」として今でも愛され続けています。
その後、中山美穂、西島秀俊主演の『サヨナライツカ』(09)を監督。本作と同じく朝鮮戦争を描いた『戦火の中へ』(10)は、学徒兵たちの悲劇的な運命を描き、韓国の人気グループ「BIGBANG」のT.O.Pら、若い俳優たちの魅力を引き出しました。
その他の監督作品にソン・スンホン主演『第3の愛』(16)があります。
7.映画『オペレーション・クロマイト』のあらすじ
1950年6月、北朝鮮はソ連と中国の支援を受け南へと侵攻。トルーマン米大統領は朝鮮半島に米軍の投入を指示。ダグラス・マッカーサーが国連軍の全指揮権を握ることとなりました。
しかし韓国は、洛東江地区を覗く朝鮮半島の全土を一ヶ月で奪われてしまいます。
事態を重く見たマッカーサーは、戦局を打開するため周囲から「不可能だ」と猛反対を受けながらも仁川(インチョン)への上陸作戦を計画します。
マッカーサーは8人の精鋭に対してスパイ活動を指示。諜報部隊のチャン・ハスク大尉たちは、北朝鮮の最高司令部から派遣されたパク・ナムチョル一行を襲撃し、彼らに成り済まし仁川に侵入します。
仁川で彼らを出迎えたのはリム・ゲジンという抜け目のない男でした。彼らは連合軍が仁川に攻め入った時のことも想定し、念入りに計画を練っていました。
「機雷はないのか? 地図に示してあるはず。機雷敷設海図は?」というチャンの指摘に、リムは不敵に笑うと、その件に関しては私が直接上に報告すると告げ、機雷敷設海図を見せようとしません。
リムはチャンのことをスパイではないかと疑っていました。平壤最高司令官秘書室の室長に電話をかけ、パク中佐をよく知っているか?と問いただします。室長は中佐の左の首筋に傷跡があると応えました。
朝、緊急点検を実行したチャンでしたが、機雷敷設海図を発見することは出来ませんでした。
機雷の位置がわからなければ、襲撃は困難を極めます。彼は射撃練習を行っているリムのもとへ「報告書と機雷の数があわない。確かめに行くので海図を」と乗り込んでいきました。
「そのことに関しては私が直接上に報告すると言っただろ」と言うリムに「何か都合が悪いことがあって答えられないのか」とチャンが問うと、リムはいきなり銃をつきつけてきました。
銃口を少しずつ下にずらしていったリムは、チャンの胸元に傷を認め、朗らかに笑いました。「疑ってすまない。最近周りにスパイが多くてね」。
連合軍は、上陸作戦に関する嘘の情報をばら撒き、相手を撹乱させようとしていました。しかし、リムは、連合軍は必ず仁川に侵攻してくると確信しているようでした。
マッカーサーの作戦に疑問を呈する国連部上層部は「なぜ仁川にこだわる?」「本当の目的はなんだ?」と彼に詰め寄っていました。
戦争開始から2日後、状況把握のために極秘で韓国にやってきた時のことをマッカーサーは語り始めました。
塹壕で一人の少年兵に出逢ったこと。全員退却したあとも、少年は一人残っていた。命令されていないからと。彼の勇気に感動し、望むものを与えようと言うと、彼は十分な銃と実弾が欲しいと答えた。供に勝利を目指す軍人として、この少年の国を救おうと決めた。
彼の言葉に誰も言い返すものはいませんでした。
連合軍から早急に海図の確保をするよう連絡が入りました。様々な場所を探しましたが、発見できず、残るは執務室しかありません。
チャンは一軒の床屋を訪ねました。そこはリムも通っている床屋で、主人のチェは彼から寵愛を受けていましたが、実は韓国のKLO部隊のスパイでした。
チャンは本名を名乗り、海図を持ち出すので運搬役の手配を頼むと彼に依頼しました。
チャンがリムを誘い出している間に歩哨兵の注意をそらし、執務室に侵入し海図を捜すという作戦が開始されました。
部屋に侵入したイングクは、懸命に海図を探しますが、みつかりません。酒の席で連絡を待つチャンも落ち着きません。そんな中、リムの手下のリュが本部に戻ると言い出しました。酒を勧めて留まらせようとしますが、立ち去ってしまいます。
イングクとボンポが部屋に潜入しているところにリュが戻ってきました。彼らは素早くリュを捉えると、銃を突きつけ、部屋の金庫を開けさせました。
ついに海図を発見! しかし、リュが反撃したため、部屋に歩哨兵がかけつけ銃撃戦となります。
リュは海図に火のついたライターを投げ、海図は燃え上がりました。燃える海図を掴み、脱出を試みたイングクは撃たれ絶命してしまいます。海図も燃えてしまいました。
リムに電話が入りました。リュが報告してきたのです。怒りに震えて電話を切ったリムでしたが、心配そうにみつめるチャンに笑顔を見せました。
彼はソ連留学時代に耳にした事件を思いだし、目の前の男が彼らにとって裏切りもののチャン・ハクスだと気付いたのです。
二人は同時に立ち上がると互いに銃をつきつけました。部屋の全ての兵隊も銃口をチャンに向けています。絶体絶命です。
そっとドアから侵入してきたチャンの部下たちが発砲したのをきっかけに激しい銃撃戦が始まりました。混乱の中、チャンは脱出に成功しますが、数名の部下が命を落としてしまいました。
チャンたち諜報部隊は、チェに匿われ、身を隠しました。チェの姪、ハンが彼らを詰りますが、チャンは自身もかつては共産主義者であったこと、ソ連留学中に親友に父を殺された経験を語り、「理念は血よりも濃い」と唱える共産主義の思想に疑問を呈するのでした。
そのころ、リムはチェが韓国のスパイであることをつきとめ、彼を捕え、チャンたちの居場所に案内させていました。
しかし、チャンたちはチェの指示通りに身を潜めていたので、リムたちは彼らを発見することが出来ません。リムはチェを処刑しました。
チャンたちのもとにKLOの仁川地域隊長ソ・ジンチョルが現れ、上陸作戦が正式に仁川に決まったことを告げました。海図以外の方法で機雷の位置を突き止めなくてはなりません。
リュなら詳細を知っているはず。彼を誘拐するため、一行は彼が入院している病院へ。病院関係者になりすまし、彼を連れ出し車に乗せました。
北朝鮮軍がすぐさま追跡してきて、機関銃の激しい撃ち合いが続きます。バズーカ砲まで飛び交う中、犠牲者を出しながら、なんとか逃げ切りました。
ロープにしばりつけられたリュは「月尾島の秘密を全て教えるから」と懇願しますが、轟音をあげて現れた連合軍のプロペラ機にさらわれていきました。
リュが海図に関する全てを自供したとの情報が連合軍から伝えられ、いよいよ仁川への上陸作戦が開始されました。
チャンたちは艦隊を導くため、八尾島の灯台を点灯する新たな任務をこなさなければなりません。連合軍の仁川上陸を予め読んでいたリムは何を仕掛けてくるのか。朝鮮戦争の局面を大きく左右する決死の作戦が始まろうとしていました。
3.映画『オペレーション・クロマイト』の感想と評価
イ・ジェハン監督の2010年の作品『戦火の中へ』も朝鮮戦争を描いており、『オペレーション・クロマイト』同様、洛東江地区を覗く朝鮮半島の全土を北朝鮮軍に占領されていた時期を背景にしています。
韓国軍が別の地区の交戦に出払っている中、ろくな訓練も受けていない学生兵たちが、釜山への侵攻を急ぐ圧倒的な軍備力の北朝鮮軍と戦うという実話に基づいた物語です。
まだ幼さを残した少年たちの悲劇を、上質なエンターティンメントとして成立させながら、少年たちの友情、成長をみずみずしく描き、家族愛の尊さと反戦の思いを随所に盛り込んだ傑作でした。
『オペレーション・クロマイト』もまた、冒頭に「実話に基づいたフィクション」というキャプチャーが入ります。とこまでが実話でどこからがフィクションかというのは判断できませんが、実際、無謀とも言われたマッカーサーによる作戦が遂行された裏にはこのような名も無き兵士たちの命がけの尽力があったのだと観終わった今、嘆息する思いです。
スケールの大きい戦闘シーンは弩級の迫力で、臨場感溢れるカメラワーク、細かいカットのつなぎが緊張感を生み、実際、戦場に放り込まれたような気分にさせられる画作りに唸らされます。
微細な事柄にも隈なく対応している情報部の調査力と、それを見極めんとする敵の司令官との知恵比べはスパイものの面白さに富んでいます。
チャンとリムの緊迫するやり取りは、『マリアンヌ』(2016年 ロバート・ゼメキス監督)で、ブラッド・ピット扮するスパイがドイツの将校に試されるシーンを思い出させます。思いもかけぬ質問を繰り出す敵と虚をつかれたように見えて、しっかり対応するスパイとの緊張の一瞬。まさにスパイものの醍醐味といえるでしょう。
軍人としての誇りや祖国への想いも描かれますが、イ・ジェハン監督が描くのはもっと身近な人への愛です。
チャンは母を守るために(父を守れなかったという過去もあり)厳しい任務に志願します。
マッカーサーが生き残った少年兵に感動したという逸話は、史実なのか、勉強不足で判断しかねますが、いずれにしても監督の想いが溢れたエピソードになっています。
ナショナリズムでも大義名分でもなく個人の愛を押し出しており、人間ドラマとしても傑出しています。
まとめ
主役を演じるイ・ジョンジェ、憎々しいが優秀な敵役を演じるイ・ボムス、誇り高くかつ人情に厚いマッカーサーを演じるリーアム・ニーソンと、役者たちの競演も豪華です。
主役級だけでなく、情報部隊のメンバーたち、KLOの部隊員たち、ひとりひとりが丁寧に描かれているのも印象的です。良家の出身であろう若者と、彼に使える従者が同じ部隊にいるのですが、この二人の関係もぐっとくるものがあります。
イ・ジェハン監督は『私の頭の中の消しゴム』や『戦火の中へ』で、手紙を用いた巧みな演出をしています。
本作では手紙は登場しませんが、それに似たチャンの母親への独白が入ります。ここは涙なくしては観られませんので是非映画館で確かめてみてください。
戦争に翻弄され、如何に多くの人が愛する人や家族に、愛を伝える機会を失ったことでしょうか。
エンターティンメントとしても人間ドラマとしても見応え十分な一作となっています。