一昨年の2016年、名匠・加藤泰は生誕100年を迎えました。
ですが、本作『炎の城』はビデオのVHSが発売されたのみでDVD化はされていません。
そんな作品が2018年1月31日にNHKのBSプレミアムにて放映されます。この機会に是非、鑑賞しましょう!!
1.映画『炎の城』の作品情報
【公開】
1960年(日本映画)
【監督】
加藤泰
【音楽】
伊福部昭
【キャスト】
大川橋蔵、大河内伝次郎、三田佳子、高峰三枝子、黒川弥太郎、明石潮、薄田研二、伊沢一郎
【作品概要】
シェイクスピアの戯曲『ハムレット』を大胆に翻案した、東映大作時代劇映画です。
ハムレットにあたる主人公を大川橋蔵、宿敵を大河内伝次郎と、当時の大スターが総出演します。
脚本は八住利雄、音楽は『ゴジラ』(1954)の伊福部昭が務めています。
2.映画『炎の城』のあらすじとネタバレ
戦国時代、瀬戸内海を臨むある国。ここに明国から若殿・王見正人が帰還します。
しかし、城主であった父・勝正は叔父・師景によって暗殺され、母・時子は師景の妻となっていたのです……。
師景は権勢を思うままにし、勝正の側近たちを葬り、農民には圧政を強いていました。
そのため農民たちは、現状の政治に不信感を募らせています。
正人は父の死の真相の背後に師景がいると察し、復讐の機会を待とう考えます。
一方で、師景も正人を警戒。師景はあわよくば戦地に正人を送り死に追いやろうと考え始めます。
師景は表向きには正人の帰還を祝う無礼講を催します。一方、正人は自身の心を読まれないように狂人のふりを始めます。
時子や、恋人・雪野の前でも狂人として振る舞う正人。しかし、雪野の目は誤魔化せませんでした。
正人は父・勝正の霊に遭遇。導かれるように師景と時子の寝所へ……。
正人は狂人の振りのまま、時子を罵倒します。
母である事、師景の妻である事に挟まれた時子には正人の言葉が胸を突き刺す物でした。
屏風の裏に人の気配を感じた正人は、それが師景だと思い刀を刺します!! が、屏風の裏にいたのは師景ではなく、雪野の父で師景の側近・六角直之進でした。正人は追われの身となり、命からがら城から脱出します。
3.映画『炎の城』の感想と評価
加藤泰と黒澤明、二人の関係
本作はシェイクスピアの戯曲『ハムレット』を翻案した時代劇映画です。
シェイクスピアを翻案した時代劇というと、真っ先に思いつくのが黒澤明監督作品『蜘蛛巣城』(1957)、『乱』(1985)の2作品です。
前者は『マクベス』、後者は『リア王』を翻案した作品です。
本作と、黒澤作品の2作に共通する点は、時代背景を戦国時代に変更した点、4大悲劇をベースにしている2点です。
加藤泰は、実は黒澤明の代表作『羅生門』(1950)のチーフ助監督でした。
加藤が助監督時代に黒澤からシェイクスピアについて話を聞いていた……、と考えたくなりますが、両者の関係はそこまで良好ではなかったようです。
『羅生門』の現場の際、加藤は脚本で判らない事があると正面切って黒澤本人に直接質問したりしていたそうです。『羅生門』の予告編は加藤の手によるものですが、実際の作品とかなり違う手触りのものに仕上がっています。
また本作の演出も上記の黒澤作品とは異なった趣を見せます。
加藤泰と黒澤明のシェークスピア戯曲の映画化の相違
時期が近い『蜘蛛巣城』は、水墨画を思わせる端正なモノクロ画面とダイナミズムで見せますが、本作は絢爛たる色彩の中で丁寧な心理劇が展開されます。
本作の終盤の燃え盛る城はダイナミックに描かれますが、殺陣の場面は東映時代劇的なケレン味は抑えられていると感じます。
また、黒澤は『どですかでん』(1970)までモノクロで撮影することに拘りましたが、加藤は逆にカラーフィルムを主戦場とばかり、特異な色彩感覚の映像を見せます。
両者が一番違う点は色彩感覚かもしれません。
加藤泰と黒澤明。因縁浅からぬ2人がそれぞれ手掛けたシェイクスピア作品を、比較するのも良いかもしれません。
まとめ
本作『炎の城』は、会社側からの企画だったらしく、加藤は本作を「壮烈なる失敗作」と回顧しています。
脚本、特にラストシーンに不満があった事、会社側との意見の違いから思うように撮影できなかったからだそうです。
しかし、見ないでいるには勿体ない出来の作品だと筆者は思います。
最後に筆者がお薦めする他の加藤泰作品を挙げておきたいと思います。
・『沓掛時次郎 遊侠一匹』(1963)
・『真田風雲録』(1966)
・『みな殺しの霊歌』(1968)
・『江戸川乱歩の陰獣』(1977)
本作『炎の城』の視聴をきっかけに他の加藤泰作品も、是非見て頂きたいです!!