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Entry 2019/07/06
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韓国映画『無双の鉄拳』ネタバレ感想と評価。マ・ドンソク主演の怒れる「雄牛」と狂気の誘拐犯による追走劇|サスペンスの神様の鼓動19

  • Writer :
  • 金田まこちゃ

こんにちは、映画ライターの金田まこちゃです。

このコラムでは、毎回サスペンス映画を1本取り上げて、作品の面白さや手法について考察していきます。

今回ご紹介する作品は、妻を誘拐され、警察からも見放された男が、独自の捜索で犯人を追い詰めるアクション・サスペンス『無双の鉄拳』です。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

映画『無双の鉄拳』のあらすじ


COPYRIGHT (C) 2018 SHOWBOX, PLUSMEDIA ENTERTAINMENT AND B.A. ENTERTAINMENT ALL RIGHTS RESERVED.

市場で鮮魚を販売して暮らしているドンチョル。

彼は自分を「兄貴」と慕うチュンシクと常に一緒にいます。

お人好しで人を疑わないドンチョルは、過去に何度も騙されてきましたが、この日も知り合いの社長から「キングクラブ」の取引を持ちかけられ、運用資金を渡してしまいます。

ですが、「キングクラブ」を積んだ船が中国の領海に入ってしまい、中国側に拿捕されてしまったという情報が入ります。

また騙されたドンチョルに、流石のチュンシクも愛想を尽かした様子でした。

ドンチョルは妻のジスを迎えに行き、車で自宅に戻る最中、金貸しのギテに車を追突されます。

ギテの子分はお金で解決しようとしますが、その態度に怒ったジスは、車から降りて子分に詰め寄ります。

後部座席で一部始終を見ていたギテは、子分に暴行を加え、ドンチョル達に謝罪をさせてその場を去ります。

数日後、ジスの誕生日を祝う為、高級レストランを予約したドンチョル。

ですが、「キングクラブ」の取引の為にドンチョルが新たに多額の借金をした事を知ったジスは、怒って帰ってしまいます。

帰宅して冷静になったジスは、ドンチョルに謝罪のメールを送ります。その直後、自宅に数名の男たちが侵入してきます。

しばらくして、帰宅したドンチョルは、家にいるはずのジスの姿が無く、荒らされた自宅を目の当たりにします。

以下、赤文字・ピンク背景のエリアには『無双の鉄拳』ネタバレ・結末の記載がございます。『無双の鉄拳』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。

ドンチョルはジスの失踪を警察に相談しますが、警察は忙しい事を理由に、早急には動いてくれない様子でした。

警察署を出たドンチョルは、非通知の連絡を受けます。

ジスを連れ去った首謀者ギテは、ドンチョルにレストランへ来るように電話で命じます。

言われた通りレストランへ向かったドンチョルでしたが、そこにはジスの姿は無く、バッグに入った多額の現金が入っていました。

再びギテからの電話を受けたドンチョルは「バッグに入った現金で、ジスを買い取った」と一方的に伝えられます。

ドンチョルは、車に乗って逃げるギテを追いかけますが、逃げられてしまいます。

ギテの現金を持って、再び警察署を訪れたドンチョルですが、誘拐犯からの現金を受け取った事だけ問題扱いされ、ジスの捜査には本腰を入れてくれません。

警察を宛てにできないドンチョルは、チュンシクの紹介で、探偵で人探しの名人であるコムを紹介されます。

コムは独自の技術で、ジスが誘拐された夜に防犯カメラに映っていた、犯行に使われたと思われる車のナンバーを読み取り照会し、車の持ち主を特定します。

ですが、特定した車は、借金の返済の為に自身の情報を売った、債権者の男の物でした。

ドンチョルは、男が情報を売った場所を聞き出し、闇カジノに乗り込みます。

闇カジノで暴れ回ったドンチョルは、そこのオーナーから、頻繁に個人情報を売買してくる男の存在を聞き出します。

ドンチョルの規格外の強さに驚くコムは、チュンシクからドンチョルの過去を聞きます。

かつて闇社会で暴れまわり「雄牛」の異名で恐れられていたドンチョルは、ジスと出会い結婚した事で、穏やかな暮らしを送るようになっていました。

ですが一連の誘拐事件で、ドンチョルの目つきは「雄牛」と恐れられていた頃に戻っていました。

ドンチョルは歓楽街などで情報を集めますが、有益な情報が見つかりません。

警察から連絡を受けたドンチョルは、女性の死体写真を見せられます。

刑事は「ジスの特徴に似ている」と言いますが、ドンチョルは別人だと判断します。

死体の女性は、数年前に病気にかかり、夫から献身的な介護を受けていることで話題になった女性でした。

女性の夫に会いに行ったドンチョルは、テレビを見たギテが、夫に病気の妻を買い取る事を持ちかけていた事実を知ります。精神的に疲れていた夫は、ギテの話に乗ってしまい、妻を売っていたのでした。

ギテの居場所を聞いたドンチョルは、ギテが代表を務める金融会社に乗り込みます。

そこへ現れたのは、車を追突された夜に会ったギテの子分でした。

ドンチョルはギテの子分を痛めつけ、そのままコムの事務所に連れていきます。

ドンチョルはギテの子分を尋問しますが、何も話そうとしません。

そこへギテからビデオ通話で連絡が入り、ドンチョルが捕えたギテの子分をその場で殺害するように要求してきます。

ドンチョルがギテの子分を殺さないと、ギテがジスを殺すと宣言し、プールの中にジスの顔を突っ込んで窒息させようとします。

ドンチョルは仕方なく、ギテの子分の首を締め上げます。

ギテの子分は力なく倒れ、その様子を見て満足したギテは「渡したお金を返せば、ジスを返す」と伝え、ビデオ通話を切ります。

ドンチョルはギテの子分を殺しておらず、頸動脈を締めて一時的に気絶させただけでした。

息を吹き返したギテの子分から、ギテは綺麗な韓国人女性を買収し、整形させて金持ちに売るという闇家業で稼いでいた事を聞き出します。

モタモタしているとジスが売られてしまうという、危機的な状況。

ドンチョルは警察に行って刑事の車を爆発させ、混乱している状況に乗じてギテのお金を取り返します。

お金を持ってギテのアジトに乗り込んだドンチョルは、ギテの子分を全員叩きのめしジスを探しますが、ジスは独自にアジトから脱出していました。

アジトから逃げたジスは警察署に駆け込もうとしましたが、寸前でギテに捕えられます。

ジスを探す為にギテのアジトを立ち去ろうとしたドンチョルは、偶然ギテの車と遭遇します。

ギテもドンチョルに気付き逃亡しますが、ドンチョルはどこまでも追いかけ、ギテの車を横転させ、抵抗するギテを何度も殴りつけ気絶させます。

ギテは警察に捕まり、ドンチョルは無事にジスを取り戻します。

その後、ドンチョルが投資した「キングクラブ」を積んだ漁船が、中国から解放され韓国に入港し、ドンチョルは多額の収入を得るのでした。

サスペンスを構築する要素①「警察も頼れない独自の誘拐捜査」


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本作の物語の軸となっているのは、「突然誘拐された妻のジスを、ドンチョルがどうやって探し出すか?」という問題です。

警察もまともに取り合ってくれず、味方といえば弟分のチュンシクと探偵のコムだけですが、正直頼りになりません。

追い詰められた状況に、かつて「雄牛」と呼ばれたドンチョルの暴力性が覚醒します。

邪魔する者は蹴散らし、刑事の車でも迷うこと無く爆発させる。

強引とも言える独自捜査で、新たな事実を1つずつ探り出し、徐々に核心へと近付いていくドンチョル。

1つ1つの情報を手繰り寄せ、丁寧に繋いでいく展開のストーリー構成は、実に細かく練り上げられているという印象です。

サスペンスを構築する要素②「力だけでは勝てない、ギテの狡猾さ」


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追い詰められた状況に、裏社会で「雄牛」と呼ばれた本性を覚醒させるドンチョル。

「舐めていた相手が殺し屋」というのは、最近のアクション映画で人気のある展開とも言えますね。

ただ、本作は敵側のギテが実に狡猾で、ドンチョルを嘲笑うように逃げ回ります。

力が強いだけでは絶望的な状況を覆すことが出来ず、ギテが常に有利な状況で物語は進行します。

しかし、前述したように、本作は1つ1つの情報を手繰り寄せ、丁寧に繋いでいく展開となっています。

当初、ドンチョルには姿さえも見えなかったギテを、情報を繋ぎ合わせて追い詰めていき、徐々に形勢が逆転していく展開は、ラストに近づくにつれて、ドンチョルがギテを叩きのめす瞬間を観客に期待させ、盛り上がっていく効果を生んでいます。

サスペンスを構築する要素③「最後まで追い詰めきれないもどかしさ」


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情報を手繰り寄せながら、ギテを追い詰めていくドンチョル。

ですが、ドンチョルがギテを、なかなか追い詰めきれない展開が続きます。

警察署やレストランでは、ギテが確実に近くにいて、自分を見張っている事が分かっていても場所が特定できない。

ビデオ通話では、ジスを人質に殺人を命じられ、顔が見えているのに手が出せない、もどかしい展開となります。

後半でギテのアジトに乗り込んでも、ギテはその場におらず、クライマックスでドンチョルとギテが鉢合わせしても、しぶとく逃げ続けられます。

何度も、ギテを追い詰めきれない展開が続いた後、ドンチョルはギテが圧倒的に有利だった、誘拐ゲームをラストに覆します。

この瞬間は、まさに映画だからこそ味わえる、至福の瞬間とも言えますので、ギテにたどり着くまでの長い道のりや、ギテがドンチョルに見せる、極限とも言える土下座も合わせて、是非お楽しみ下さい。

映画『無双の鉄拳』まとめ


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本作は、主人公のドンチョルを演じた、マ・ドンソクの演技が光る作品です。

前半では、優しくてお人好しのドンチョルを愛嬌たっぷりに演じていますが、中盤以降からは、一切の感情を持たず、目的の為なら手段を選ばない、恐ろしいドンチョルを演じています。

前半と後半では、明らかにドンチョルの目つきが違い、作中で豹変する瞬間があるので、そちらも注目して下さい。

また、ドンチョルと敵対するギテは、表情豊かでユーモラスなキャラクターです。

作中で、口を半開きにして、状況を品定めするような、すこし間抜けな表情を見せるのですが、逆に何を考えているか分からず、ギテの狂気を際立てています。

作品後半で、感情を見せなくなるドンチョルに対し、ギテは過剰なまでに喜怒哀楽が激しく、正反対とも言える2人のキャラクターは、追い詰める者と追われる者の、それぞれの立場を体現しています。

キム・ミンホ監督は、5年の歳月をかけて、ドンチョルをマ・ドンソクの為のキャラクターに仕上げ、ギテを演じたキム・ソンオは、キム・ミンホ監督と何度も話し合い、台本をボロボロにしながら、ギテというキャラクターを作り上げました。

本作は、そんな両者の激しい演技合戦にも注目です。

次回のサスペンスの神様の鼓動は…

次回も魅力的な映画を取り上げ、作品の魅力と手法などについて考察していきます。

【連載コラム】『サスペンスの神様の鼓動』記事一覧はこちら

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